予知夢
深夜、私は1人、時たま見る予知夢により目を覚ました。隣には静かに寝息を立てているはるか。それを見て、私は夢見の悪さから荒れた呼吸を整えながら、少しだけ落ち着きを取り戻した。

それから私は、はるかを起こさないようにそっとベッドを抜け出すと、静かにベランダへと出た。そして、夜風に当たりながら冷静さを取り戻した。


「…太陽が傾く時、星に、銀河に災いをもたらす災厄を秘めし者、真の星の輝き、4つ集まりし時、その者達の前に現れり…」


私は夢の中で聞いた言葉を、空を見上げながら小さく呟いた。そして1つ1つ、言葉の意味を考えていく。


「(太陽の傾く時…これは単純に考えれば、夕方。そして真の星の輝き…これはたぶん、今この地球(ほし)にいる戦士達の事で……星と銀河に災いをもたらす、災厄を秘めし者…これは多分、あの伝説の……やっぱり、封じ切れなかったか…)」

「……もう夏とはいえ、こんな時間にそんな薄着で外にいたら風邪引くぞ…」

「ひゃっ!」


私が考え込んでいると、突然後ろから声を掛けられ、私は驚き後ろを振り返った。


「はるか…!もう、驚ろかせないでよ……こんな時間にどうしたの?」

「どうした、は、こっちの台詞だよ。こんな時間に、ベランダになんか出てどうしたんだ?」


はるかは私に近付くと私を後ろから抱きしめ、優しくそう問い掛けて来た。私もそれに素直に答える。


「…ちょっと夢見悪くて、目が覚めちゃったの…だからちょっと外の空気を吸いに、ね…」

「どんな夢?」

「…いつもの予知夢、なんだけど…今日のは、悪夢も一緒だったの。いつもは声だけで、大して映像…って言えばいいのかな?とにかく、背景はないの…。でも、今日のは…いつもの声が聞こえる後ろで、皆のスターシードが敵に奪われて、皆消えちゃった…。残ったのは私1人で…それで…私は一生懸命戦うんだけど、1人じゃ守りきれなくて……結局、私のスターシードも奪われて、地球は滅びちゃったの……」

「!」


私の言葉に、私を抱きしめるはるかの腕の力が少し強くなった。私はそれに気付きながらも、少し間を空けて言葉を続けた。


「……太陽が傾く時、星に、銀河に災いをもたらす災厄を秘めし者、真の星の輝き、4つ集まりし時、その者達の前に現れり…」

「…それは?」

「悪夢の後ろで、聞こえて来た声…。…ほら、私、前に何かが起こるって言ってたでしょ?たぶん今日、その何かが起こる…だから、こんな夢見たんだと思うの…」

「じゃあ、今の言葉は…!」


はるかは、一度私を放すと、自分の方へと向かせた。それに対し、私もじっとはるかを見つめる。


「…たぶんだけど、今日起こる何かを表してるんだと思う…。だからね、今言葉の意味を1つ1つ考えてたんだ…」

「!何が起こるのかわかったのか!?」


はるかは肩に手を置いたまま、じっと私を見つめて来た。


「絶対、とは言えないけど…今日の夕方、4人の戦士が集まった時、その4人の戦士の前に、星や銀河に災いをもたらす災厄を秘めた者…多分、敵の親玉が姿を現す、って事だと思う…。場所とか、誰の前かって事までは、わからない…」

「4人の戦士か……一体、誰の前に…」

「わからない……だから、怖いんだよ…っ…私は、誰も失いたくない…!」


私ははるかに抱き付いた。それにはるかも私を強く抱きしめ返してくれた。


「大丈夫、夏希は何があっても僕が守る。1人じゃないんだ、皆もきっと無事さ…皆の力を信じよう…」

「うん…」


場所も、誰の前に現れるのかもわからない今の私には、全員の無事を、ただ祈る事しか出来なかった。



―――――



あれから再びベッドに戻った私達は、そのまま眠りに就き、いつもと変わらない朝を迎えた。いつもと違う事があるとしたら、それは私の心境くらい…

朝目を覚ました私は、体を起こし、ベッドから抜け出すとカーテンを開け、太陽の光を浴び、空を見上げた。


「(こんな事初めて…今日が来なければいいなんて…こんな弱気な私なんて、私らしくない…)」


今日、この街のどこかで、必ず私達の運命に関わる何かが起こる。夢の中の言葉を信じるのなら、今日の夕方、街のどこかにいる4人の戦士の前に、奴が姿を現す…。そこであいつが何をするのか、私達の運命の歯車がどう回り始めるのか全くわからない。


「(…お願い、クリアトパーズ…皆を、私の大切な、愛する人達を守って…!)」


ブレスレットに付いている太陽国の守護石、クリアトパーズが太陽の光を受け美しく輝いた。

このクリアトパーズは、銀水晶と並ぶ大きな力を持った、太陽王国、シャイン・モナルに伝わる秘宝。太陽国王家の血を引く者なら誰でも扱う事は出来るが、太陽系を統べる、真の選ばれし者のみにしか、その真の力は発揮出来ない、特別な石だ。私はその選ばれし者として、この石を手に握って生まれて来たそうだ。


「太陽とクリアトパーズの加護を…」


私は胸も前で手を組み、太陽に向かって祈りを捧げた。

それから時間が経ち、時刻は午後5時半を回ろうとしていた。


「夏希の聞いた言葉通りだとするとそろそろか…」

「そうね…一体、誰の事なのかしら…4人の戦士、って…」


私ははるかとみちると共に、仕事がオフの日にはいつも来ている海岸で海を眺めていた。私の言葉を思い出し、はるかが言葉を放ち、それにみちるも言葉を続けた。


「わからない…太陽が沈んでしまう前に、出来るだけ探ってみる!」


私は目を閉じると、夏希の姿から、プリンセスの姿へと姿を変えた。そして手にしていたロッドの先に付いたクリアトパーズに意識を集中させると、それを太陽に掲げ、4つの輝きが集まる場所を探した。最初からこの力を使えばよかったんだろうけど、この力は消耗が激しくてあまり長くは持たない。だから、出来るだけ、時間ギリギリまで待つしかなかったのだ。


「(4つの星の輝きが集まる場所……あった…!っ…この輝きは…!)」


私は驚き、目を開けた。それと同時に、力を消耗したせいか、どっと疲労感に襲われ、夏希の姿に戻ると、膝から地面に崩れ落ちそうなところをはるかが抱き留めてくれた。


「夏希!」

「夏希、無理をしないで…!」

「はぁ…はぁ…っ…私なら、大丈夫…それより、うさぎが…!」

「お団子…?」

「うさぎがどうか…!まさか…!」

「災厄を秘めし者は…うさぎの前に…!」

「「!!」」

「はるか!」

「あぁ…!今から行って間に合うかはわからないが…夏希、場所はどこだ!」


私がはるかに大体の場所を伝えると、はるかは私を抱きかかえ車に乗せ、私が彼に告げた場所まで車を飛ばした。


「(お願い、無事でいて…!うさぎ、星野、大気、夜天…!!)」


私が感じた4つの星の輝きは、セーラームーンとスリーライツ……いや、スターライツの3人のものだった。

あの音楽祭の日、セーラームーンを助けた彼女達から感じたのは、私のよく知る、スリーライツの3人と同じ輝きだった。ファイターからは星野、メイカーからは大気、そしてヒーラーからは夜天……彼女達と彼らは同じ人物なんだと、私は確信した。だから私は、ウラヌスの攻撃から彼女達を庇った。太陽系を守るプリンセスとして、外部からの侵入者は許すべきではない。それはわかってる。…だけど、彼らと私は友達なのだ。彼女達だって、私にとっては、大切な人な事に、変わりはない…



―――――



「くそ…っ!こんな時に限って…!」


時間はちょうど帰宅ラッシュの時間帯、はるかの車はその帰宅ラッシュの渋滞に巻き込まれさっきから動かない。


「もうすぐそこなのに…!」


はるかはハンドルを悔しそうに叩く。それをみたみちるがある行動に出る。


「はるか、私が先に走ってうさぎの所に向かうわ!」

「…わかった!お団子を…僕達のもう1人のプリンセスを頼む!」

「ええ…はるかも、夏希の事お願いね!」

「あぁ、任せてくれ…!」


はるかがそう言うと、みちるは一度私に微笑んでから車から降り、走ってうさぎの所へと向かった。


「みちる、私も…っ…!」

「夏希はダメだ。さっき探索するのに力を消耗し過ぎたせいで、まだまともに動けないんだろ…?」


後部座席で横になっていた体を無理矢理起こし、みちるの後を追おうとしたところ、はるかの制止の声が掛った。私はそれに反抗を示した。


「…でも…!」

「ダメだ!ここで無理をして、君に何かあったらどうする…!」

「はるか…」


はるかの悲痛な叫びに、私は言葉を失った。もう二度と、彼の前からいなくならないと彼と約束した。確かに、ここで彼の制止を聞かず、また無茶をすれば、力を消耗し過ぎて命を落としてしまう危険もある。それだけは、何としても避けなければいけない。彼の悲痛な心の叫びを聞いてしまった私は、その場から動けなくなってしまった。

その時、私の中に強い負の波動が流れ込んで来た。私はこの波動がすぐに誰のものなのかわかった。こんな強い負の波動を持つ者は、ただ1人…!


「!!はるか…!」

「!くそ…っ…現れたか!」


はるかの車は、一向に進む気配がない。進んだとしても、ほんの少し…このままでは間に合わない、そう思った私は、すぐに通信機でみちるに連絡を取った。


「みちる!今私の中に強い負の波動が…!」

「うさぎ達の前に敵が現れたの!?」

「たぶん…!」

「そんな…私の方も、人が多過ぎて進めないのよ…!このままじゃ間に合わないわ!プリンセスの身に何かあったら…っ…!」


みちるの焦ったような声に、はるかも珍しく不安と焦りの表情を浮かべたのが見えた。そんな2人に、私はもう1人のプリンセスとして、太陽系を統べる者として、やらなければいけない事がある。

私は自分の中の不安と焦りを必死に押し殺し、落ち着いた声で2人に向かって言った。


「……うさぎなら大丈夫…うさぎは1人じゃない。彼女には強い味方が付いてる!彼女達を、信じよう…!」

「「!プリンセス…」」


2人は私の言葉で、落ち着きを取り戻した。きっと長い付き合いの2人には、落ち着いて話していても、私が一番不安と焦りを感じている事に気付かれてる。それでも、私は冷静な振りをして、話を続けた。プリンセスとして、次期クイーンとして、2人にこれ以上焦りと不安を感じさせないように行動した。


「(我が守護、太陽とクリアトパーズの加護を彼女達に…!)」


私は胸の前で手を組むと、あいつから彼女達を守ってくれるようにと祈り始めた。
to be continued...
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