幸せな日々と、襲い来る不安
音楽祭の日から数日が経った。あれからと言うもの、はるかやみちるの警戒心が強まり、私はほとんど1人でいる時間がなくなった。

学校にいる時はもちろん、仕事にも必ずと言っていい程、どちらかが付いて来るし、プライベートな時間も、はるかがずっと側にいる。

はるかはあの音楽祭の日からずっと、私の家に泊まり続けているのだ。そして今も、私の家のリビングにあるソファーに座ったはるかは、私を膝の上に座らせ、そのまま抱きしめながらテレビを見ている。


「…ねぇ、はるか…」

「何?」

「あのさ、一緒にいれるのはすごく嬉しいんだけど、家に帰らなくていいの?ほたるとかせつなは心配しない?」

「あぁ…それなら大丈夫。みちるが話通しておいてくれたらしいから…」

「そうなの?」

「あぁ、だから安心して夏希の側にいられる…」


そう言ってはるかは私の首筋に顔を埋め、そっと口付けた。


「ちょっと、擽ったい!」

「我慢して…」


私は擽ったさに身を捩るが、はるかは構わず私の首筋に何度も口付けた。

そして暫くして満足したのか、顔を上げたはるかは、今度は私の唇を奪い始めた。


「ん…っ…ちょ、はるか…!」

「何…?」

「何?じゃない!どうしたの?今日は朝からやたらとキスばっかり…」

「夏希に触れたい、夏希の全てを見たい、そして夏希と繋がっていたいって思いが強いから、かな…?」

「な…っ…!?」

「いつでも思ってる事だけど、今日は特別、その思いが強いんだ…何故だかはわからないけどね…」


はるかの言葉に私は顔を真っ赤に染め上げた。それを見たはるかは小さく笑い、私の耳元でそっと囁いた。


「可愛い…耳まで真っ赤だな…」

「!そ、それははるかが…!」

「僕が夏希に触れたい、全てを見たいって言ったから?」

「!!」


私は更に顔を赤くした。もう気を失いたいくらい恥ずかしい。


「本当、夏希は可愛いな…すぐに赤くなる…」

「か、からかったの!?」

「半分ね…でも、もう半分は本心だよ。」


私は更に顔を赤くした。本当は恥ずかしくて仕方ないのに、私は何故かはるかに質問を続けていた。


「…はるかはさ…そ、その…わ、私…と、キ、キス以上の事もしたい、って…思ってる…?」

「思ってるよ。でも、今はしない…絶対、無理矢理はしたくないし、夏希を大切に思ってるからこそ、例え自分が辛かったとしても、夏希の心の準備が出来るまで待ちたいと思うんだ…」

「はるか…」


私ははるかの言葉に感動した。そこまで、私の事を想っていてくれたのかと思うと、胸がはるかへの愛しさでいっぱいになった。


「ねぇ、はるか…私、はるかになら触れられてもいいって、ずっと思ってるよ…?」

「!夏希…」

「今すぐ、って言うのは無理だけど、心の準備しとくから、準備が終わったその時は…その、優しく、してね…?」

「もちろん…」


私は恥ずかしさから途切れ途切れにはるかにそう告げた。それにはるかは微笑み、私をきつく抱きしめた。そして私もはるかの首に腕を回し、それに応えた。



―――――



翌日の朝、私はいつも通りはるかの腕の中で目を覚ます。寝起き一発目に見るのは、愛しい人の可愛い寝顔。それだけで、私の中には幸せが溢れ、頬がつい緩んでしまう。

私ははるかを起こさないようにそっとベッドを抜け出すと、いつものように洗面所に向かい、身支度を済ませると制服に着替え、朝食とはるかのお弁当を作り始めた。

料理を始めて暫く経った頃、漸くはるかが起きて来た。


「おはよう、はるか。」

「おはよ…」


寝起きのはるかはまだ少し眠そうで、小さく欠伸をしながら挨拶を返してくれた。


「もうすぐご飯出来るから、顔洗って目覚まして来て?」

「ん…」


はるかは短く返事を返すと、そのまま洗面所へと向かった。まだ少し寝ぼけているはるかを見送り、私は朝食とお弁当を仕上げた。

それから2人でご飯を食べて、学校へ行く準備をして、2人で手を繋いで学校まで行く。そしてお昼はみちるも混ぜて、3人で一緒にお弁当を食べる。放課後も同じで、3人で一緒に帰ったり、一緒に仕事に行ったり…

夜ははるかと2人で一緒にご飯を作って、一緒に食べて、一緒に片付けて、一緒にお風呂に入って、そして一緒に寝る。これが最近の私の日常。
大好きな人に囲まれ、愛する人ともずっと一緒にいられて、アイドルの仕事も順調で…とても満たされた日々がここ数日続いていた。

本来ならば、幸せな事なはずなのに、今回に限っては、この満たされた日々が逆に私を不安にさせた。

そして、その不安と共に、私の中に流れ込んで来るもの…


「(…怒り、不安、焦り、そして恐怖……日に日に強くなっている気がする…何かが起こると言うの…)」


私は目を閉じ、静かに瞑想に耽る。それを共に昼を過ごしていたはるかとみちるは黙って見ていた。暫くして私が目を開けると、2人はすぐに問い掛けて来た。


「何か感じたのか?」

「怒り、不安、焦り、恐怖……ここ数日、とても強い負の感情を感じるの…」

「負の感情?」

「敵と何か関係あるの?」

「それはわからない……でも、この負の感情は日に日に強さを増している気がする…。きっと近い内に、何かが起こると思うんだけど…それが何なのかまでは……」

「そう…」


はるかとみちるは、顎に指を当て、何かを考え始めた。


「…警戒するにも、何が起こるかわからないんじゃ対策の仕様がないな…」

「そうね…それでも、私達が夏希とうさぎを…プリンセスを守らなきゃ。」

「あぁ…どんな手を使っても、必ず…!」


はるかとみちるは互いの顔を見ると一度頷いた。そして、私の方を見て声を揃えて言う。


「何があっても」

「夏希は僕達が」

「「必ず守る!」」

「…ありがとう、はるか、みちる…」


私は2人の意志の強い目に、無理だけはしないで、なんて言えなくなって、素直にお礼を言った。そして2人の手を取り、目を閉じると太陽の加護があるようにと強く願った。
to be continued...
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