相容れぬ存在(2/2)
音楽祭が終わって数分経った頃、漸くうさぎが会場に姿を現した。


「あ!」


私は慌てて会場に入って来るうさぎの姿を見付け、声を上げた。それを不思議に思ったのか、はるかが声を掛けて来る。


「どうした?」

「あれ!」


はるかは私が指差した方を見た。そして、うさぎの姿を自分の目で確認する。


「…どうやら、ただの迷子だったみたいだな…」

「よかった、無事で…。まあ、音楽祭には間に合わなかったけど…」


私が苦笑を漏らすと、はるかは小さく笑った。


「そうだな…。さ、早く行ってやろう。」

「うん!」


私達は急いでうさぎの所へ向かった。


「うさぎ!」

「遅いぞ。皆心配して…」


私とはるかが声を掛けると、うさぎは泣きながらこっちを見た。それに私とはるかは目を見開いて驚いた。


「はるかさん!夏希ちゃん!!……終わっちゃったのね?」

「あ、あぁ…」


はるかの肯定の言葉を聞いて、うさぎは声を上げて泣き始めた。


「うわぁあああん、やだやだやだやだ〜!!」

「う、うさぎ…」

「おいおい…」


私達は苦笑を漏らし、はるかはうさぎを宥めた。


「やだやだやだやだ〜!!」


それでも尚、泣きながら駄々を捏ねるうさぎに困り果てたはるかは、私に助けを求めて来た。


「夏希…何とかしてくれ…」

「あはは……あ、そうだ!ねぇ、うさぎ、これからみちるの楽屋に行くんだけど、うさぎも一緒に来る…?」


私の言葉を聞いたうさぎは泣くのを止め、腕に抱き付いて来た。


「…うん…」

「…じゃあ、行こっか!」


私は腕に抱き付いたままのうさぎの頭を数回優しく撫でて微笑むと、はるかの手を引き、うさぎも連れて、みちるの楽屋に向かった。



―――――



あれから暫くして、私達はみちるの楽屋の前に着いた。そしてはるかが代表して、扉をノックし、入室する事をみちるに告げる。


「入るよ、みちる。」


はるかがみちるの楽屋へ入る為に扉を開く。そして楽屋の入り口で、はるかは眉間に皺をを寄せ、そのまま動きを止めた。


「ちょっと、はるか邪魔!そこに突っ立ってないで中入ってよ!」


私ははるかを押し退け、楽屋の中に入った。その後ろからうさぎも顔を覗かせる。


「みちるさん!あら…?」

「ん?あ、星野!何してんのよ、こんな所で…」


私が視線をはるかから楽屋の中へと移動させると、そこには何故かみちるだけではなく星野がいた。


「夏希にお団子!と、あんたは夏希の……へぇー…近くで見ると、結構いい男じゃん。」

「ちょっと、はるかの事馬鹿にしてる…?近くでも遠くても、どこから見たってはるかはいい男でしょ!」

「あー、はいはい。わかったって……俺、スリーライツの1人で、夏希やお団子達と同じクラスの星野光です。よろしく。」

「ちょっ、真面目に聞きなさいよ…!」


星野は私の話を軽く流すと、勝手に自己紹介を始めた。


「…天王はるかだ。よろしく…」


星野の自己紹介に対し、はるかも簡単な自己紹介をし、星野の差し出した手を握り、握手を交わすのかと思いきや、いきなり拳を星野に向かって突き出した。しかし、星野もそれにすぐ気が付き、咄嗟にはるかの拳を素手で止める。


「っと……危ね〜…」

「!はるか…!!」

「…随分な御挨拶だな…」

「出て行け。」


星野ははるかの手を離すと、そのまま扉の方へと向かって行った。そして、扉の前で一度振り返ってこっちを見た。


「それじゃ、みちるさん、お疲れ様でした!後で顔出せよ、お団子、夏希!それじゃ!」


それだけ言い残すと、星野は自分の楽屋へと戻って行った。それを私とみちるは笑顔で、はるかは不機嫌そうな顔で見送る。うさぎに関しては困ったような、申し訳なさそうな、複雑な顔をしていた。


「あんな奴、楽屋に入れない方がいい…」

「あら、どうして?」


はるかが何かを言おうと口を開いたところで、うさぎがはるかに言った。


「はるかさん、ごめんね…あいつ、失礼な所もあるけど、根はいい奴なんだ。許してあげて…?」

「…うさぎ、気にしなくていいよ?はるかね、実はすっごい人見知りするの…」

「そうよ、あなたが謝る事じゃないわ…それよりいいの?行ってあげなくて…」

「…うん!それじゃあ、また来るね!」


私の誤魔化しに、みちるも協力してくれた。そのおかげか、うさぎは安心したような顔を見せると、みちるの楽屋を後にし、星野を追った。


「夏希、みちる、僕は…!」


私ははるかの唇に人差し指を置き、はるかの言葉を遮った。


「だーめ!せっかく誤魔化してあげたんだから、そう言う事にしといて?」

「そうよ、はるか。人見知りだなんて言われたくないのなら、いきなり拳はいけないわ。いくら相手の事が、気に入らない“存在”だとしてもね…」

「…確かに、私達の立場は、彼らの“存在”は許すべき“存在”じゃない…。だけど、彼らも一応、私の大切な友達なの…。…目的がわからない今、彼らが敵か味方かなんてわからないけど、それを今調べてるんだから……下手な事はしちゃダメ。わかった…?」

「……わかった…」


私は微笑み、はるかの頬にキスを1つ落とした。


「それじゃ、私もスリーライツの楽屋行って来るね?何かあったら連絡して!」


そう言い残すと、私はみちるの楽屋を出てスリーライツの楽屋へと向かった。



―――――



みちるの楽屋を出た私は、スリーライツの楽屋を探して、会場となった建物の廊下を彷徨っていた。


「うーん…確かみちるはこっちだって言ってたんだけどなぁ…」


私はスリーライツの楽屋を探す為、キョロキョロしながら歩いていた。その時、誰かの悲鳴が聞こえ、私はその声の方へと走った。

悲鳴を追って辿り着いたのはステージだった。物陰に隠れて様子を伺うと、セーラームーンが1人で敵と対峙していた。


「(変身してすぐに加勢しなきゃ…!)」


私は回りに人がいない事を確認すると、左手を掲げ、変身スペルを唱えた。


「ブライトイノセンスパワー!メイクアップ!」


変身を終えた私は、すぐにセーラームーンに加勢しにステージへと向かった。


「うわぁああっ!」

「シャイン・シールド!」


私は敵の攻撃をギリギリの所で避けていたセーラームーンの前にシールドを張り、彼女を守った。


「!シャインちゃん!!」

「お待たせ、セーラームーン!」


私がそうセーラームーンに微笑めば、セーラームーンも安堵からか、小さく笑みを漏らした。


「本日は、当劇場へようこそ。まずは第一楽章から…ピ・アノー!」

「おっと。」

「どわぁああ!」


私とセーラームーンは敵の攻撃を避ける。すると、敵もどんどん攻撃を仕掛けて来た。


「第二楽章、チェロー!第三楽章、ヴァイオ…リン!」


私はそれを軽々と避けるが、セーラームーンは壁に貼り付けにされてしまった。


「!セーラームーン…!!」

「そして遂に、感動の最終楽章…」


敵が攻撃を繰り出そうとしたところで、指を鳴らす音が響いて敵は視線をセーラームーンから外した。


「誰だ!?」

「夜の暗闇貫いて」

「自由の大気、駆け抜ける」

「三つの聖なる流れ星!セーラースターファイター!」

「セーラースターメイカー!」

「セーラースターヒーラー!」

「「「セーラースターライツ!ステージ・オン!」」」

「スターライツ!!」

「(…間違いない、あの子達の正体は……)」


彼女達に会うのは2回目。だけど、彼女達の持つ光は、私もよく知っている人達のものと、全く同じものだった。その瞬間、前々から疑っていた彼女達の正体について、私は確信を持つ事が出来た。


「スター・シリアス・レイザー!」

「何!?うわぁあああああ!」


ファイターの技がファージに当たり、ファージは目を回して膝を着いた。その隙に、メイカーとヒーラーがセーラームーンを助ける。


「全く、世話が焼けるわね…」

「ありがとう…」


セーラームーンは彼女達にお礼を言った。そこにファイターが声を掛ける。どうやら敵がまた立ち上がろうとしてるみたいだった。


「セーラームーン!」

「はい!シャインちゃん!」

「はいはい…!」


私とセーラームーンはそれぞれロッドとティアルを取り出すと、敵に向かって浄化技を放つ。


「スターライト・ハネムーン・セラピー・キッス!」

「シャイン・ハート・キュア・エイド!」

「ビューティフォー!!」


技が当たり、スターシードが浄化される事で、敵はファージから元の姿へと戻った。

その後、浄化を見届けたスターライツは立ち去ろうとするが、セーラームーンがそれを止めた。


「待って!今日は、ちゃんとお礼を言わせて?助けてくれてありがとう。これからも、一緒に戦ってくれるよね…?」


スターライツの3人は振り返り、セーラームーンの言葉を聞いていた。私はその様子を少し離れた所から見ていた。


「どうする?」

「どうやら、敵は同じようだし…」

「足引っ張らないならいいんじゃない?」

「…そう言う事ね。」


スターライツの3人は微笑み、セーラームーンにそう告げた。その返答を聞いて、セーラームーンは嬉しそうな顔で彼女達に近付く。そしてセーラームーンは、彼女達に向かって手を差し出した。


「よろしく。」


ファイターが代表して、握手を交わそうとしたところで、彼女に向かってウラヌスの技が飛んで来た。それをいち早く察知した私は、スターライツを庇うように、彼女達の前に立ち、シールドを張る事で彼女達を守った。


「うわぁっ!」

「っ…ウラヌス!これは一体どういう事!?」


私が技の飛んで来た方へそう叫べば、闇の中からウラヌスとネプチューンが姿を現した。


「すまない、シャイン……だが、太陽系の外から来た侵入者から君達プリンセスを守る、それが僕達の使命なんだ。」

「あなたの言いたい事はわかってるわ…。でも、目的もわからない…敵か味方かもさえ知れない侵入者の事なんて、私達は信用出来ないのよ…」

「ネプチューンまで……」

「頼むシャイン、退いてくれ…!」


その言葉と共に、ウラヌスとネプチューンが険しい表情でステージ上、私の後ろに立つスターライツの3人を見つめた。


「お願い止めて、ウラヌス!ネプチューン…!」


2人の鋭い視線に気付いたセーラームーンは、すぐにウラヌスとネプチューンに向かって叫んだ。しかし、ウラヌスやネプチューンが、セーラームーンの言葉を大人しく聞きいれるはずなんてなくて…


「言っただろう!!そいつらは太陽系の外から来た侵入者だ!!そんな奴らは、信用出来ない…!」


そう言ってウラヌスは構えを取った。それに続いて、ネプチューンも同じく戦闘態勢へと入った。


「止めて!!この人達、悪い人じゃないよ!!」


セーラームーンは、私と同じく、スターライツを庇うように、両手を広げて彼女達の前に立った。


「お退きなさい!!」


ネプチューンが珍しく声を上げる。それに続いてファイターも声を上げた。


「もういいわ!!」


彼女の言葉に、私とセーラームーンは彼女達の方へと振り返った。


「無理に協力してもらわなくて結構!」

「自分達の力だけで、十分やっていけるわ!」

「…あたし達、結局相容れないらしいわね…」

「そんな事ない!待って…!!」

「…セーラーシャイン、さっきは、助けてくれてありがとう…」


ファイターがそう言い残すと、セーラームーンの静止の声も聞かず、スターライツの3人は去って行った。


「そんな事ない…きっと、解かり合える…。あたし達、同じセーラー戦士だもん…」


セーラームーンは、彼女達が立ち去った方を見つめ、小さく声を漏らした。


「セーラームーン……っ…ウラヌス、ネプチューン…!どうしてあんな事…!!」


彼女達が去った後、警戒の色を解いたウラヌスとネプチューンが、ゆっくりとステージ上に立つ私達へと近付いて来た。私はそんな彼女達の方に視線を向けると、彼女達を問い質した。


「私達の油断が原因で、太陽系の外から侵入した敵によって、私達は、誰よりも大切なあなたを2度も失った…」

「そんなのはもう嫌なんだ…!君を失いたくない…今度こそ、君を守りたいんだ……」

「だからって…!」

「すまない、シャイン……だが、わかって欲しい…」

「これが、私達太陽の眷属に与えられた使命なのよ……あなただって、本当はわかっているんでしょ?」

「!…っ……」

「どうして…?どうして、同じセーラー戦士同士で、争わなきゃいけないの…?そんなの、おかしいよ…っ……」

「セーラームーン……」


そう言って静かに涙を流すセーラームーンに、私はズキンと心が痛んだ気がした。


「(…ごめんね、うさぎ……)」


私は、静かに涙を流す大切な友達に、何も言葉を掛けてあげられない自分に、プリンセスとして、戦士としての自分の無力に、己の拳を強く握り締め、悔しさを噛み締めた。
to be continued...
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