- 相容れぬ存在(1/2)
- 梅雨が明け、季節は夏。7月に入り、暑さも増して来たある日の放課後。久しぶりに仕事がオフな私は、はるかやみちると共にうさぎ達を探しにクラウンへ向かっていた。
「せっかくスリーライツが出るのに、チケットが取れないんじゃね〜…」
私達3人が会話を楽しみながら歩いていると、レイらしき人の声が聞こえ、私達は足を止め、その方向へと顔を向けた。
するとそこには、公衆電話の前で項垂れるうさぎ達の姿があった。どうやら、今度の行われるファンタスティック国際音楽祭のチケットを取れなかったらしい。
「チケット、取れなかったっぽいね…」
「そうらしいな…」
「彼女達には悪いけど、こちらとしては好都合ね。せっかく用意したチケットを無駄にしなくて済んだんだもの…」
「そうだね!それじゃ、チケット渡しに行こう?」
「そうね(だな)…」
私達が彼女達に近付こうと動き出したところで、美奈が駄々を捏ね始めた。
「やだやだやだやだやだやだやだやだ!」
「…子供じゃないんだから…」
駄々を捏ねる美奈を呆れ半分に見るまことに、みちるとはるかは小さく笑い、彼女達に声を掛けた。
「ごきげんよう。」
「「「「「ん?」」」」」
みちるの声に、うさぎ達が声を揃え、一斉にこちらを見る。そして私達の姿を確認するなり、驚いたような顔をした。
「はるかさん!みちるさん!夏希ちゃん!」
「よっ!」
「やっほー!」
うさぎに呼ばれ、私とはるかは軽く手を振って各々言葉を発した。それに続いて、みちるがチケットを片手にうさぎ達に疑問を投げかける。
「あなた達のお目当てのチケットって、これの事かしら?」
「「「「「ん?」」」」」
再び5人の声が重なり、皆は首を傾げた。
それから私達は全員でクラウンに移動し、一通り注文を終えると、みちるはファンタスティック国際音楽祭の招待券をうさぎ達に渡した。チケットを受け取った皆はじっとそのチケットを見つめていた。
「こ、これ…本当に頂いちゃっていいんですか!?」
「どうぞ?」
このみちるの一言に、レイと美奈はそのチケットにキスをしていた。
「でも、何でみちるさんがチケットを?」
「しかも、招待券なんて…」
まことと亜美は冷静にそうみちるに問い掛けた。それにうさぎがニヤニヤしながら更に言葉を続けた。
「さては、裏から手を回しましたね〜?実は、みちるさんもスリーライツのファンだったりして〜…」
うさぎの言葉を聞いたみちるは、最初こそきょとんとしていたが、おかしかったのかすぐに笑いを漏らした。
「何だ、騒いでるわりには何も知らないんだな…」
「これ見て?」
「ん?」
コーヒー片手にはるかは驚いたような顔でうさぎ達に言った。それに私は鞄の中から一冊の雑誌を取り出し、彼女達に見せた。それを代表して、美奈が私から受け取った雑誌を持ち、開かれたページを全員で覗き込んだ。
「「「「「えぇえええええええ!?」」」」」
そして大絶叫が響き渡った。うさぎ達は驚きを隠せないようだった。
「スリーライツ、海王みちる、ジョイントコンサート!?」
「すっごいわね〜………で、ジョイントコンサートって何?」
うさぎの言葉にその場にいた全員が苦笑、または呆れたような表情を見せた。感心してたから、しっかり意味わかってるものだと思っていたのに…
「あんた、一体何に感心してたのよ…」
「ジョイントコンサートって言うのは、ライブで一緒に演奏したりする事なのよ…?」
レイに続いて、亜美が苦笑交じりにジョイントコンサートについてうさぎに説明した。それを聞いて漸く理解したらしいうさぎが次の質問を投げ掛けて来た。
「スリーライツとみちるさんが?」
「「「「うんうん。」」」」
「一緒に演奏しちゃうの?」
「「「「そうよ!」」」」
「ノリノリで?」
「「「「もう、ノリノリよ!」」」」
「そりゃ、すごいわ…」
「「「「そりゃ、すごいわよ!」」」」
一連の流れをただ黙って見ていた私達は、うさぎ達の行動がおかしくて笑いを漏らした。
―――――
それから数日経って、今日はいよいよファンタスティック国際音楽祭の当日。私は、はるかと一緒にみちるの楽屋に来ていた。
はるかは時間を確認して、ボソッと呟いた。
「もうすぐ始まるな…」
「みちる、今緊張してる?」
「少しね…たくさんの人の前で弾くのなんて、久しぶりなんですもの…」
私の質問にみちるは、少し緊張してるって答えてたけど、私にはとてもみちるが緊張してるようには見えなかった。
「客席から応援してるから、頑張ってね?」
「ええ、ありがとう夏希。」
「行こう夏希。そろそろ行かないと、最初の演奏に間に合わない。」
「わかった!それじゃあ、終わったらまた来るね?」
「ええ、待ってるわ。」
「後でね!」
私ははるかと手を繋ぎ、みちるの楽屋を後にした。私達は人込みの中でも逸れないように、しっかりと互いの手を握り、客席の指定された場所へと向かった。
指定された場所に着くと、既にレイ、亜美、まこと、美奈のうさぎを除いた4人が揃っていた。
「あれ?」
「お団子はどうしたんだ?」
「それが、待ち合わせ時間になっても会場に来なくて…」
「暫く待ってはみたんだけど…」
「開演時間ギリギリになったし、こっちに来たのよ…」
「そう…」
「夏希?」
はるかが私の顔を覗き込んで、様子を伺って来た。
「ちょっと心配だなって…本当にただの迷子ならいいんだけどさ。」
「そうだな…でも今の僕達には何も出来ないし、無事を祈ろう…」
「うん…」
私ははるかに寄り添い、はるかは私の肩を抱き、演奏が始まったステージを見つめた。
―――――
音楽祭が始まって暫く経った。次はいよいよみちるとスリーライツの演奏だ。
「いよいよ次だね、みちるとスリーライツの演奏!」
「あぁ、楽しみだな…」
「うん!」
はるかとそんな会話をしていると、会場中が黄色い歓声に包まれ、みちるとスリーライツがステージ上に現れた。
「キャー!星野くーん!!」
「夜天くーん、こっち向いてー!」
「大気さーん!」
私達の隣でも、亜美以外のメンバーがそれぞれ歓声を上げていた。亜美も声は上げてないけど、目をキラキラさせてステージを見ていた。
「やっぱりすごい人気だね、スリーライツ…」
「そうだな……でも、人気があったとしても、みちるの演奏に付いて来れる程の腕があるとは到底思えないな…」
「もう、はるかったら…」
私がクスクスと笑っていると、演奏が始まり、さっきまで大歓声に包まれていた会場中が静かになった。私とはるかも静かにスリーライツとみちるの演奏に耳を傾けた。
一方、ステージ上では、みちるとスリーライツが互いの演奏を聞きながら、演奏から伝わって来る不思議な力を感じていた。
「(何なの、この感じ…とても強い波動…愛する人へ伝えるメッセージ…)」
「(この感じ…力強い星の輝きか?海王みちる…)」
「「(何者?)」」
みちるとスリーライツの演奏が終わり、会場は再び大歓声に包まれた。そしてみちるとスリーライツがステージを後にすると、今日最後の演奏が始まった。
全ての演奏が終わり、私達は揃って会場の外に出た。
「結局うさぎちゃん現れなかったわね…」
「本当、一体どうしたのかしら…」
「後でうさぎちゃん家に電話してみようか?もしかしたら、何か急用が出来て来れなかったのかもしれないし…」
「そうね…さすがにちょっと心配よね…」
「とりあえず、この近くを帰りながら探してみようよ。」
「そうね…もうこんな時間だし、そうしましょうか。」
「夏希ちゃんはどうするんだい?」
「私はみちるに会いに行く約束してるし、はるかともう暫くここでうさぎ待ってみるよ。」
「それじゃ、ここは夏希ちゃんとはるかさんに任せて、私達は帰りながらうさぎ探してみましょ?」
レイの一言に亜美、まこと、美奈が頷き、私達を残して皆は帰って行った。
「うさぎ、本当にどうしたのかな…」
「何の連絡も来てないんだろ?」
私ははるかの言葉に、鞄から携帯を取り出し、連絡が来てないか確認する。
「うん、何の連絡も来てない…」
「心配だな…」
そしてはるかと私は会場の入口から、うさぎが来た時に目に付きやすいようにと、場所を移動した。