サプライズ
朝、私はいつもの時間帯に目を覚ます。今日は私の16回目の誕生日。しかし、せっかくの誕生日だと言うのに、私の機嫌は最高潮に悪かった。

その理由は、最近のうさぎ達の素気ない態度と、ずっと前から約束していた今日のデートを一昨日突然キャンセルしたいとはるかが言い出したからだ。理由がそれなりの理由なら、そりゃ残念には思うけど私だって諦めが付く。しかし、はるかにいくらキャンセルの理由を聞いても秘密だと言って、彼は一切教えてくれなかった。

そして私はキレた。私に言えないような用事で、今日のデートをキャンセルしたのだ。悪い考えしか私の頭の中には浮かんで来なかった。

それ以来、私ははるかと口を利いていない。学校内で会っても、電話が掛かって来ても、メールが届いてもずっと無視し続けた。

皆の素気ない態度なんかよりも、はるかに理由も告げられず、デートをキャンセルされた方がずっと腹が立ち、そしてずっと悲しかった。


「ずっと、楽しみにしてたのに…私、何か嫌われるような事したかな…」


私は目に涙を溜め、ベッドの上で膝を抱え布団ベッドに潜り込むと静かに涙を流した。



―――――



朝、僕は自分の部屋で目を覚ます。今日は最愛の彼女の誕生日だ。本当なら、今朝は夏希の部屋で目を覚まし、僕が一番最初に彼女におめでとうと伝え、学校が終わればデートをして、今日一日は彼女と共に過ごすはずだったのに、それもお団子頭達が考えたある計画の為に夢に終わった。

その計画とは、彼女のマネージャーである風音さんの協力の元、夏希の誕生日を祝うサプライズパーティーを開こうと言うものだった。

僕は夏希と2人で過ごしたいと言う思いから、あまりこの計画には乗り気ではなかったが、夏希がお世話になっている風音さんが絡んでるとなると無碍に断る事も出来なかった。

そして僕は一昨日夏希を呼び出し、計画の事がバレるのとまずいので、特に理由も告げずにデートをキャンセルしたいと彼女に言ったのだ。すると当然だが彼女は怒って帰ってしまった。

それから夏希とは口を利いていない。いや、口を利いてもらえないの間違いか…
休み時間の度に夏希に会いに行っても上手く避けられ、いくら電話やメールをしてもずっと無視され続けた。

正直言うと、かなり凹んでいる。夏希に会って謝りたくとも、彼女は会う事はおろか、電話にすら出てくれないのだ。

彼女に愛想を尽かされていないか、変な誤解をして泣いていないかと言う不安が僕を襲う。


「夏希…今すぐ君に会って、抱きしめたて、君の体温を感じたい…」


僕は部屋に飾ってある、夏希と一緒に写った写真を見ながらそう呟いた。



―――――



あれから少し泣いてスッキリした私は、学校に行く為に準備を始めた。

鏡を見た時に、少しだけ腫れている目が気になったが、メイクで何とか誤魔化す事が出来た。

メイクを終え制服に着替えると、私は目元を隠すのに、今日は髪を下ろしたまま行こうと思い、髪にアイロンを掛け、伸ばし始めた。

その後暫くして髪を真っ直ぐに伸ばし終えた私は、普段じゃ考えられないがあまり食欲がなかった為、鞄を持つとそのままご飯を食べずに学校に向かった。

学校に着き、靴を履き替えようと下駄箱を開けると大量のプレゼントやメッセージカードが雪崩れて来た。

私はすごい数に苦笑を漏らしつつも、ファンの子達の気持ちが今の私には嬉しくて堪らなかった。

私はいつものように持って来ていた袋に、雪崩れて来たプレゼントやメッセージカードを1つ1つ詰めていった。

全て詰め終え、漸く靴を履き替えると私は自分の教室に向かった。その途中でもたくさんの子におめでとうの言葉と共にプレゼントを貰った。私はファンの子1人1人にお礼を言い、教室へと向かう。

教室に付く頃には、持っていた袋の数が倍になっていたにも関わらず、私の机の上や中にはまだたくさんのプレゼントが置いてあった。

その様子を私は教室の入り口で呆然と見ていた。それに気付いた亜美とまことが私に挨拶をして来たので、私も2人に挨拶を返した。しかし、やはりどこか2人の態度は素気なく、私は寂しさを感じずにはいられなかった。

私はとりあえず席に近付き、荷物を床に置くとプレゼントをどうやって持ち帰るか思案していた。するとそこへスリーライツの3人が登校して来た。


「お、夏希!おはよ!」

「おはようございます。」

「おはよう。」


星野に続いて大気、そして夜天が挨拶をしてくれた。それに私も笑って挨拶を返す。スリーライツの3人だけは、皆が素気なくなってからも、いつもと変わらず接してくれていた。今の私には、唯一私に残された居場所のように感じた。


「おはよう、星野、大気、夜天。」

「ねぇ、そのプレゼントの山、何…?」


不思議に思った夜天が私にそう尋ねて来た。


「あぁ、これ?ファンの子達がくれたの。今日、私の誕生日だから。」

「ふーん…」

「へー…そっか、お前今日誕生日なのか!」

「誕生日おめでとうございます、夏希。」

「ありがとう、大気!」


私は大気の言葉に笑顔でお礼を言う。そこへ星野が私に疑問をぶつけて来た。


「ところで、これどうやって全部持ち帰んだ?」

「そうなんだよね〜…もう用意して来てた袋も鞄もいっぱいでさ、どうしようか困ってて…」

「私が持っている紙袋でもいいなら、差し上げますよ?」

「え?いいの・・・?」

「はい、今日は紙袋が必要な程、手紙もプレゼントも入ってませんでしたし…」

「ありがとう、大気!助かった〜…」


大気は鞄の中から紙袋を取り出すと、私に渡してくれた。私は大気から紙袋を受け取ると、プレゼントを袋に詰めていった。

私が大気から貰った袋にプレゼントを詰めていると、遅刻ギリギリの所でうさぎと美奈が教室に走って入って来た。


「「セーフ!!」」


毎度の事ながら、この2人は騒がしい。私が2人におはようと声を掛けるが、2人はおはようとだけ私に返すと、慌てて私から視線を逸らし、自分の席に向かった。

2人の態度を見て、私はまた泣きそうになったが、何とか持ち応えHRの時間をやり過ごした。

HRが終わると、私はすぐに教室を出て屋上に向かった。今は、1人になりたかった。

私が泣きそうな顔で教室を出て行くのを見て、スリーライツの3人は、うさぎ達にある疑問を問い掛けた。


「なぁ、お団子…お前ら、夏希と喧嘩でもしたのか?」

「はぁ?あたし達が夏希喧嘩するわけないじゃない!」

「その割には、最近夏希に対して態度がちょっと冷た過ぎなんじゃない?」


うさぎの言葉に、眉間に皺を寄せた夜天がうさぎ達に向かって少し怒ったように言った。それに続いて大気も言葉を発する。


「そうですね……彼女、笑って平気そうな顔をしてはいますが、とても傷付いていましたよ。」

「化粧と髪で上手く誤魔化してたけど…夏希の目、腫れてたよ…」


夜天のこの言葉にうさぎ達は目を見開いて驚た。


「彼氏とも喧嘩して、暫く口利いてないって言ってたしなー……あいつ相当辛いはずなのに、お前らと来たら素気ない態度ばっかとりやがって…」


星野が追い討ちを掛けるように責める。うさぎ達は眉を下げ、心配そうな表情でお互いの顔を見た。


「あなた方は一体何を、彼女に隠しているのですか…?」

「…実はね、今日…」


そしてうさぎ達はサプライズパーティーの事、それをうっかり夏希に話してしまわないように気にしていたら素気ない態度になってしまった事をスリーライツの3人に話し始めた。


「ってわけなのよ…」


うさぎの話を聞き終わった夜天が、再びうさぎ達に向かって怒った風な口調で言った。


「喜ばそうとして、逆に夏希傷付けてどうすんのさ。バカじゃないの?もうちょっと考えて行動しなよ。」

「うぅ…ごめんなさい…」

「あのねぇ、僕に謝ったって…!」


夜天が文句を言おうと口を開いた所で始業時間を知らせるチャイムが鳴った。言葉を遮られた夜天は不機嫌そうに自分の席へと戻って行った。それに続き、他のメンバーも自分の席へと戻るが、夏希の席だけは授業が始まっても空席のままだった。



―――――



一方、あの後屋上へとやって来た私は、入り口横にある梯子を上った先で、給水タンクに寄り掛かり、膝を抱え1人声を殺して泣いていた。


「(っ…何で…あの頃より……1人だった頃より、ずっとマシなはずなのに……素っ気なくたって、話し掛ければ返してくれるし、星野達だって、みちるだって、風音さんだって側にいてくれるのに……どうして、こんなに胸が痛いの……?)」


1人で強がって来たあの頃に比べたら、今はずっとずっと幸せな筈なのに、私の胸は、押し潰されそうに痛かった。



―――――



それから暫く時間が経ち、先程午前中の授業が全てが終了し、昼休みに入った。

僕は憂鬱な気分を隠す事無く、ぼーっと窓の外を眺めていた。するとお団子達が、慌てた様子で僕達のいるクラスへとやって来た。


「はるかさん!みちるさん!夏希ちゃん、見てませんか?」

「いや、今日はまだ一度も見ていないな…」

「夏希がどうかしたの?」

「それが…」


お団子達から事情を聞いた僕達は、すぐに席を立ち、手分けして夏希を探し始めた。

僕は後悔した。計画を聞いたあの時、自分がちゃんと断っていれば、夏希を傷付ける事はなかったと…

お団子達はすまなかったと謝って来たが、彼女達が悪いんじゃない。彼女達は夏希が好きだからこそ、夏希を想って誕生日を祝うサプライズパーティーを計画してくれたのだ。

しかし、彼女達は皆嘘が吐けない、素直な性格の持ち主だと言う事をすっかり忘れていた。そのせいで今、夏希がどこかで1人泣いているかもしれないと思うと、胸が締め付けられ、居ても立ってもいられなかった。


「夏希……っ!」


それから暫くして、僕は夏希を探して屋上へとやって来た。入り口の扉を開け、屋上に出ると、夏希の姿を探して回ったが、彼女の姿は見当たらず、ここにはいない、そう思って屋上を出ようとした所で、僕は足を止めた。


「はる、か…」


今微かだが、上の方から自分を呼ぶ夏希の声が聞こえたのだ。僕は校内に戻ろうとしていた足を屋上へと戻すと、入り口横にある梯子を上った。その少し先、貯水タンクの裏側に、漸く愛しい彼女の姿を見付ける事が出来た。

僕は音もなく静かに彼女に近付くと、彼女は貯水タンクに寄り掛かり、静かに眠っていた。そして、彼女の寝顔を見て僕は、あの時断らなかった事を酷く後悔した。

いつも笑顔で、幸せが溢れていたはずの彼女の頬には、いくつもの涙の跡があり、目は泣き腫らしたのか赤く腫れ、彼女の孤独や、寂しさと言った感情が、その表情にも滲み出ていた。

僕は堪らず、眠っている彼女を起こさないようにそっと抱きしめた。


「ごめん、夏希…君の過去を知っていたのに…寂しい思いを、悲しい思いをさせてごめん…っ……」


彼女を抱きしめ、僕は何度も何度も謝った。たかがサプライズパーティーの事を隠す為だとは言え、僕達の嘘の吐き方が悪かったせいで、こんなにも彼女を追い詰めてしまったのだ。後悔と言う言葉が、僕の胸に重く圧し掛かった。

その時、夏希が僕の腕の中で目を覚ました。


「っ…んぅ…」

「目が覚めた…?」


僕は優しく微笑んで、腕の中の彼女を見た。すると彼女は、僕を視界に捕らえるなり、大きく目を見開き、僕の腕の中から逃げようともがき始めた。


「っ…離して…!」

「嫌だ。絶対に離さない…!」


そう言って僕は、抱きしめる腕の力を強めた。暫くし、諦めたのか彼女はもがくのを止め、大人しくなった。


「離せ、バカ……!私の事なんか、好きでも何でも…ない、くせに…っ……」


弱々しく僕にそう言う彼女の目に、再び涙が溜まり始める。やっぱり、彼女は変な勘違いをしているようだった。


「そんな事ない…。僕は夏希が好きだ。この星に存在する誰よりも、夏希を愛してる…」

「嘘…!…私なんかより、もっと…もっと好きな人が出来たから……だから…今日のデートだって…」


そう言いながら、彼女は静かに涙を流した。不謹慎にも、悲しみの涙を流す彼女は、それすらも美しく、そして愛おしいと、僕が守らなければ、そう思った。


「違う!!夏希以外に好きな人なんていない!!」

「じゃあ、何で!!…何、で…?今日…私、誕生日なのに…はるか…一番に祝ってくれるって、ずっと一緒にいてくれるって…言ったのに…!」

「それは…っ…」

「……やっぱり、言えないんだ…っ」


このままの流れで話が続けば、以前夏希を怒らせてしまった時のように、最愛の彼女から、別れる、もうおしまいだと言われかねないと思った僕は、彼女を失うくらいなら、観念してサプライズパーティーの事を夏希に話し始めた。



―――――



はるかが話始めた内容に、私は自分の耳を疑った。


「……は…?」

「だから、お団子達が夏希の誕生日を祝う為に、風音さんと一緒にサプライズパーティーを計画してくれたんだ。その計画に僕とみちるも協力するよう言われてて…」


開いた口が塞がらないとはこの事か、はるかの話を聞いて、私のこの数日間の悩みはなんだったのかと思った。


「え……じゃあ何、はるかがデートキャンセルしたのは、浮気とかそんなのじゃなくて…」

「今日のサプライズパーティーの為だよ…。夏希がいるのに、僕が浮気なんてするはずないだろう?」

「…ちょっと前までは、浮気性だったくせに……(何これ…。何なのこの落ち…)」

「さ、さあ、何の事かな…?僕は昔から、夏希一筋だよ。」

「へぇ〜…そう……1年前の事、もう忘れたんだ…」


今までの事もあって、ちょっとした憂さ晴らしにと、1年前のあの日の事を掘り返せば、少し間はあったけど、はるかは素直にごめんと謝って来た。あれはかなり効いたらしい。


「…で、今日の事に関しての言い訳は…?」

「…僕だって本当は、今日は夏希と2人っきりで過ごす予定だったんだ。って言うか、2人っきりで過ごしたかったんだ…。だけど、いつも夏希が世話になってる風音さんが絡んでるとなったら、誘いを断り切れなくて…」

「はぁ……私のこの数日間は何だったの…」


私はため息を吐いて項垂れた。その瞬間、みちるとうさぎ達が、揃って屋上にやって来た。


「夏希!!」

「「「「夏希ちゃん!!」」」」


その声に私は少しだけ上から顔を覗かせる。皆に今の顔は見せられない。本来ならはるかに一番見せたくない顔だったが、目が覚めたらはるかに抱きしめられていたし……はるかに関しては諦めた。

そして、私を見付けた瞬間、うさぎ達4人は頭を下げて謝って来た。


「「「「ごめんなさい!!」」」」

「え?何が…?」

「私達がよかれと思って、サプライズパーティーなんて計画したせいで、夏希ちゃんを傷付けちゃったから…」


私の問い掛けに、うさぎが代表して答えた。それにすかさず、みちるがフォローをいれた。


「この子達は皆嘘が下手だから…つい冷たい、素っ気ない態度を取ってしまったけれど、全ては夏希を想ってくれてるからこその行動なのよ?」

「うん、知ってるよ…。もう、大丈夫!誤解は全部解けたから!はるかとも仲直り…は、まだちゃんとしてないか…」


なんて私が冗談交じりに笑顔で答えると、皆は安心したのか笑みを漏らす。私も作り物の笑顔じゃなくて、久しぶりに自然に笑えた気がした。


「夏希」

「ん?何?」


私ははるかに呼ばれ、はるかの方へと振り向いた。


「僕が断らなかったせいで、君を傷付けて泣かせてしまったけど…夏希を愛してる気持ちは、これからもずっと…永遠に変わらない。こんな僕だけど、許してくれるかい…?」

「…うん。私も、浮気疑ったりしてごめんね?仲直り、しよ…?」

「あぁ…」


私がそう言えば、はるかは私を再び強く抱きしめた。


「愛してる、夏希……生まれて来てくれて…僕と出逢ってくれて、ありがとう…」

「ん…私も、ありがとう、はるか…」


私ははるかに抱きしめられながら、胸にぽっかりと空いてしまってした、穴が閉じていくのを感じた。


「…口利かなかったのは私だけど、その間寂しくて、悲しくて、すごく辛かった…」

「僕も、他の誰でもない、君に口利いてもらえないのは、さすがに応えたよ…。こんなのは、二度とごめんだな…」

「じゃあ、これからは2人の間で秘密はなしね?」

「あぁ…次からは、サプライズパーティーの計画に協力してくれって言われても、絶対に断るよ。もう二度と、夏希に悲しみの涙は流させたくない…」

「約束だからね…?」

「あぁ、約束する。これからは秘密はなしだ…」


そう言って、はるかは誓いのキスみたいに、私にそっと口付けた。
to be continued...

※番外編18.5話または、本編19話へ続く。
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