- June bride(3/3)
- 「おはようございます!お待たせしてしまってすみません…。今日はよろしくお願いします!!」
撮影現場であるチャペルの前に到着すると、みちるは風音さんの指示でチャペルの中へと入り、私は監督とスタッフさんに、風音さんは撮影を見に来ていた会長さんと社長さんに挨拶へと向かった。するとその中に、見知った顔のカメラマンが混じっているのに気付いた。
「サキさん!」
「久しぶりね、Erikaちゃん。ドレス姿もすっごく綺麗よ。」
その人は、前にスリーライツとコラボした時にお世話になった板橋サキさんだった。撮影後、ファージにされてしまった彼女を浄化し、人に戻したのはもう1ヵ月近く前になる。
「ありがとうございます!今日は、サキさんも撮影に参加して下さるんですか?」
「ええ、必ず最高に美しい写真を撮ってあげるわ。」
「はい、お願いします!」
「撮影始めまーす!」
サキとの話が一段落した所で、ちょうど撮影を開始する合図が掛かった。
「夏希、緊張しててもいいけど、幸せそうにね?」
「わかってるよー。」
それから私は、チャペルの入り口に移動し、ヘアメイクの最終チェックを受けながら、風音さんから撮影についての指示を受けた。
「わかった?」
「OK!」
「よし、それじゃあ、頑張って来なさい!」
「それじゃあ、撮影始めまーす!3、2……!」
スタッフカウントに、風音さんは急いでカメラの四角になる所まで退けると、真剣な表情で撮影を見始めた。それと同時に、スタッフさんの合図でチャペルへの入り口が開くと、私は一歩、また一歩と、ゆっくりチャペルの中へと足を踏み入れた。
チャペルの中に入ると、みちるが言っていた通り、新郎席に座るみちるの横には、ほたるとせつなが。新婦側の席には、うさぎ達が座っていた。
そして、私の向かう先には、白いタキシードを完璧に着こなしたはるか。正直、はるかがかっこよすぎてどうにかなると思ったが、そこはプロだ。カメラの前では、そう言う感情を一切出さず、微笑みを絶やさす事なくヴァージンロードを歩き切った。
私がはるかの元に辿り着いて、監督は一旦カメラを止める。
「はい、カット!いや〜、2人ともいい感じだよ!」
「「ありがとうございます。」」
私達は揃って監督にお礼を言った。
「よし、それじゃあ、次は…今のを別のアングルから!」
「はい、お願いします。じゃあ、行って来るね?」
「あぁ…僕はここで待ってるよ。」
「うん!」
私は来た道を辿り、再びチャペルの外に出た。
「うっわぁ〜……夏希ちゃん、綺麗だったね〜…」
「ええ…本物の花嫁さんみたいだったわね。」
「あんな綺麗なドレスを完全に着こなすなんて…」
「さすがだよなぁ、夏希ちゃん…」
「いいなぁ…あたしもあんな素敵なウエディングドレス着て、素敵な人と結婚式挙げたい〜!!」
「あたしは、まもちゃんといつかあんなドレス着て結婚式挙げるもん!」
「「「うさぎ(ちゃん)は黙ってて!」」」
「ぶー!!」
「それにしてもはるかさん…」
「「「「「かっこよすぎだわ…」」」」」
一方、新郎席…
「みちるママ、せつなママ!夏希お姉ちゃん、すっごく綺麗だったね!!」
「そうね、とても似合っていたわね…」
「そうですね。ほたるもいつか、夏希みたいな綺麗なドレスを着られるといいですね。」
「うん!」
―――――
あの後も同じシーンを、何度もアングルを変え様々な角度から撮影した。そして今、漸く次のシーンに進んだ所だ。
私ははるかの横に立ち、メイクさんにメイクを直して貰いながら次のシーンの説明をはるかと一緒に聞いている。次は神父さんと私とはるかが映った画を撮ったら、誓いのキスのシーンに移るらしい。
「ええ!?キスシーンも撮るんですか!?」
「そりゃ撮るよ〜。何たって、結婚式の一番の見せ所なんだから!」
「いや、確かにそうかもしれないですけど…宣伝の為のCM撮影ですよね?キスって必要なんですか…?」
「それが必要だから撮るんじゃない!」
「ええ〜……」
「何、彼氏とキスするの嫌なの?」
監督のその言葉にすかさずはるかが訂正をいれる。
「違いますよ、監督。彼女は人前でキスするのが恥ずかしいだけなんです。照れ屋なんですよ、僕の恋人は…」
「ちょっ、はるか!!」
私は恥ずかしくなって顔を赤くする。
「はは、そっか。Erikaちゃん恥ずかしがり屋なのか。じゃあ、キスする振りでもいいや!とりあえずキスしてる風に見えるシルエットが撮れればいいからさ!」
「……いえ、ちゃんとやります!ここで監督の言葉に甘えたら、そっちの方がプロとして恥ずかしいし、絶対後で後悔すると思うから…(って言うか、自分に負けたくない…)」
「…いいのか?」
「うん。後悔したくないし、恥ずかしいからって逃げたくないの。監督に要求されれば、それに応えられるようにならなきゃ…逃げてばかりいたら、そんなの、プロって言えないでしょ?それより、はるかはいいの?」
「僕は構わないさ…仕事で君とキス出来るなんて、これ以上ないくらい最高の仕事だね…」
私が問えば、はるかはいつもの余裕のある笑みを浮かべ、そう答えた。そんな私達を見て、監督が優しく微笑み、口を開いた。
「まだ若いのに、Erikaちゃんはしっかりしてるなぁ……おじさん、Erikaちゃんみたいに、逃げないで立ち向かって行く子も、天王くんみたいに、堂々としてる子も好きだなー。この撮影が終わっても、また一緒に仕事したいな。」
「ありがとうございます、監督。嬉しいです!」
「よかったな、夏希…」
「うん!」
私は嬉しくなって笑顔で監督にお礼を言った。それに監督も微笑んで返してくれえた。この監督は、他の監督と違って、スタッフさんに怒鳴ったり、威張り散らしたりもしないし、映像を撮る際に、こう言う画を撮りたいからこうして欲しい、ここはもう少しこうした方がいいなとか、細かい指示やアドバイスをくれる優しい監督さんだ。すごく人当たりもよくて、とても気の利く監督さんだと思う。
そんな監督が、微笑みながらはるかに言った。
「天王くん、いい女捕まえたな〜。」
それに対して、はるかも口元に笑みを浮かべながら答える。
「ええ、宇宙一素敵な女性ですよ。彼女は…」
私ははるかの台詞により更に顔を赤く染めた。
「ははは、そうだな!それじゃあ、そろそろ撮影始めようか!」
「「はい」」
私は深呼吸をして心を落ち着かせた。私が大丈夫だと合図を出すと撮影が始まった。最初は神父さんと私とはるかが映っている画の撮影。
バックから、右サイドから、左サイドから、右斜め後ろから、左斜め後ろからの5パターン撮影した。
そして次はいよいよはるかとのキスシーン。本当は心臓が破裂しそうなくらいドキドキしてたけど、カメラの前では精一杯それを隠した。
このシーンも他のシーン同様、アングルを変えて何度も撮影する。つまり、人とカメラの前で何度も何度もはるかとキスをした。このときばかりは恥ずかしすぎて本当に死ぬかと思った。
「はい、カット!いやー、いいね!2人ともすごくいい!最高に幸せそうな、いい画が撮れた!」
「ありがとうございます…」
私は恥ずかしさのあまり、耳まで真っ赤になった顔をブーケで隠し、俯いた。そんな私をはるかはそっと抱きしめた。
「はは、お疲れ様。ちょっと休憩しよっか?ちょうどお昼だし…」
監督がスタッフの1人に30分の昼休憩を取るように言うと、スタッフはすぐにエキストラ全員にこの事を伝える。
「ここで30分の昼休憩に入りまーす!お手洗い、昼食等はこの30分以内に済ませ、またここに戻って来るようお願いします!次の開始時間は30分後の午後1時から行います!皆さん、遅れないようにお願いします!」
スタッフが伝え終えると解散になり、エキストラの人達はチャペルから出て行き、中には耳まで真っ赤にしている私、そんな私を抱きしめるはるか、そしてみちる、せつな、ほたる、うさぎ、亜美、レイ、まこと、美奈、そして風音さんの11人だけが残った。
―――――
それから暫くの間、私は我慢に我慢を重ねたせいもあってか、顔の赤みが消える事はなく、顔を隠したまま動かなかった。
さっきのキスと、今の私の状況見た美奈が私をからかおうとするが、これ以上刺激したら仕事にならないからと風音さんに止められていた。
「夏希お姉ちゃん!」
「……ほたる…」
私は真っ赤になった顔を少しだけ上げ、声を掛けて来たほたるを見た。
「一緒にせつなママが作ってくれたお弁当食べよう!ほたるお腹空いちゃった!」
ほたるのお弁当発言に、私よりもうさぎがいち早く反応する。
「お弁当!?いいなぁ…」
物欲しげに見るうさぎを見て、せつなは微笑みながらうさぎ達にも声を掛けた。
「たくさん作って来たので、よろしければ皆さんもご一緒にどうですか?」
「いいんですか!?」
うさぎは目を輝かせてせつなを見た。するとせつなも笑顔でどうぞと答える。
「わーい!!お弁当だー!!」
「「「「うさぎ(ちゃん)…」」」」
手を上げて喜ぶうさぎを見て内部戦士の4人は呆れていた。そんな内部戦士と自分達のもう1人のプリンセスの姿を見て、みちるとはるかは笑っていた。
「夏希、行きましょう?余り時間がないのだから、早く食べないと…」
「行こう。昼食を抜いて、夏希が倒れても困る…」
「ん…」
私は小さく、そして短い返事をした。それを聞いたはるかは安心したのか小さく笑い、私の手を取り、チャペルの外へと向かった。それに続き、風音さんとうさぎ達もチャペルの外に出た。
そしてチャペルの前の芝生に大きなレジャーシートを2枚並べて敷き、そこに全員で座り、せつなの作ったお弁当とまことが作って来ていたお弁当を広げ食べ始めた。
「うわっ、せつなさんのお弁当美味しい〜!!」
「あら、まこちゃんのお弁当もとても美味しくてよ?夏希、これ好きでしょ?食べる?」
「夏希、これも食べるか?」
はるかとみちるは私の両サイドに座り、赤い顔で俯いたままの私にお弁当を食べさせる。私はされるがまま彼等の手によって口元に運ばれてくるお弁当を食べた。
「あー!はるかパパとみちるママ狡い!ほたるも夏希お姉ちゃんにお弁当あーんってする!!」
「ほたる、お行儀が悪いですよ。大人しく座って食べなさい。」
「…だって〜!!」
「だってではありません。夏希はあの2人に任せておきなさい。」
「はーい…」
ほたるはしょぼんとしながらお弁当を食べ始めた。そんな私達を見ていた内部戦士は皆驚いた顔をし、風音さんは1人笑っていた。
そして暫くし、気が付けばあれだけたくさんあったお弁当もほぼ空に。そのお弁当の殆んどはうさぎのお腹の中へと消えて行ったのだった…
「ふぁ〜、食った食った〜!!」
「バカうさぎ!!あんたが殆んど食べてどうすんのよ!!」
「そうよ、これはまこちゃんが夏希ちゃんとはるかさんに撮影を頑張って欲しくて作って来たお弁当だったのに!」
「だってー…お腹空いてたんだもん…」
「あんたはしっかり朝ご飯食べて来てるでしょ!!」
「ははっ…構わないよ。僕達も充分に頂いたから。」
「でも…」
「はるかがいいと言ってるんだから、あなた達は気にする事ないのよ?」
みちるは微笑みながら内部戦士達にそう告げた。すると今までずっと俯いていた夏希が急に顔を上げた。
「!!」
「夏希?どうした?」
「敵が現れた…今また、小さな星の輝きが消えた…!」
「何ですって…!?」
その時、どこからかたくさんの人の悲鳴が私達の耳に届いた。
悲鳴を聞いた私達は急いで立ち上がった。そして私達はアイコンタクトを取ると各々が頷く。
「風音さんはどこかに隠れてて!皆、変身よ!」
風音さんは私の言葉に頷くと、チャペルの中へと非難し、扉の隙間から私達の様子を窺っていた。私達は風音さん以外の人がいない事を確認すると、それぞれ変身スペルを口にした。
「マーキュリー・クリスタルパワー!」
「マーズ・クリスタルパワー!」
「ジュピター・クリスタルパワー!」
「ヴィーナス・クリスタルパワー!」
「ウラヌス・クリスタルパワー!」
「ネプチューン・クリスタルパワー!」
「プルート・クリスタルパワー!」
「サターン・クリスタルパワー!」
「ブライトイノセンスパワー!」
「ムーン・エターナル!」
「「「「「「「「「「メイクアップ!」」」」」」」」」」
そして変身を終えた私達は、悲鳴が聞こえた方へと走った。するとそこにはやっぱりファージがいて、エキストラや撮影スタッフを襲っていた。
「神様に見守られて、永遠の愛を誓う結婚式場!そんな神聖な場所を荒らしまわる悪い子は、この愛と正義の、セーラー服美少女戦士、セーラームーンと!」
「「「「私達、セーラー戦士が!」」」」
「月に代わって」
「「「「「お仕置きよ!」」」」」
セーラームーン達の登場が決まった所で、外部戦士も颯爽と現れる。
「子猫ちゃん達、僕達の事も忘れてもらっちゃ困るな。天空の星、天王星を守護に持つ飛翔の戦士!セーラーウラヌス!」
「深海の星、海王星を守護に持つ、抱擁の戦士!セーラーネプチューン!」
「時空の星、冥王星を守護に持つ、変革の戦士!セーラープルート!」
「沈黙の星、土星を守護に持つ、破滅と誕生の戦士!セーラーサターン!」
「光の星、太陽を守護に持つ、業火と光の戦士!セーラーシャイン!」
「我ら、太陽系を守護する外部太陽系戦士!」
「新たな時代の危険に誘われて…」
「「「「「ここに参上!」」」」」
「お前等も全員、俺の作品の登場人物になるがいい!行くぞ!よーい、アクション!」
アクションの声に合わせて、ファージの持ってるメガホンから攻撃が発射される。私と外部戦士は軽々とそれを避けるが、セーラームーン達はメガホンから出て来たフィルムに捕まり、身動きが取れなくなっていた。
「「皆(さん)!」」
サターンとプルートが捕まってしまった彼女達を見て叫ぶ。
「やれやれ…彼女達には、あまり成長が見られないな…」
「そうね、もう少し頼りになればいいのだけど…」
「ねぇ、そんな事言ってないで助けてあげた方がいいんじゃない?」
「仕方ないな……ワールド・シェイキング!」
「ディープ・サブマージ!」
2人の攻撃に続き、私もロッドを取り出すと、すぐに技を放った。
「シャインフレイム・レイザー!」
私の放った技が、セーラームーン達を拘束していたフィルムを焼き払い、ウラヌスとネプチューンの技は、一寸の狂いもなくファージに命中し、ファージは地面に膝を着いた。
「シャイン、セーラームーン!今だ!!」
「「OK!」」
ウラヌスの言葉に、セーラームーンはすぐにティアルを取り出し、それを敵に向けた。それと同時に、私もファージへとロッドの先を向ける。
「スターライト・ハネムーン・セラピー・キッス!」
「シャイン・ハート・キュア・エイド!」
私達の浄化技により、黒ずんで光を失ったはずのスターシードに光が戻り、スターシードは持ち主の中に戻って行った。
「!?あのファージ、監督だったの…!?」
「…どうやらそうみたいだな…。まあ、無事だったんだからいいじゃないか。それより、急いで戻ろう。もうすぐ撮影が再開する時間だ…」
「監督は心配だけど……私達が遅れると、皆に迷惑掛かるもんね…仕方ない、急いで戻ろう!」
私とウラヌスは、この場をセーラームーン達に任せて、すぐにチャペルへと戻った。
そして、予定より10分程遅れて撮影が再開した。その後は、撮影も順調に終わり。ついに本日最後のカットになった。まあ、この後まだ広告用の写真撮影が残ってるけど…
「それじゃ、最後のカット行くよ〜!よーい、アクション!」
監督の合図で撮影が始まる。今日最後の動画撮影ははるかと腕を組んで、チャペルの入り口の階段を降りて、芝生の所まで移動するのだ。エキストラ陣は、フラワーシャワーと称して私たち2人に、いろんな花の花弁の雨を降らせる。最初はライスシャワーの予定だったんだけど、映像にするとあまりにもわかりにくいと言う事で、フラワーシャワーに変更になったのだ。
そのおかげか、当初の予定よりもすごく華やかな映像に仕上がったと監督はとても満足そうだった。
「お疲れ様でした!これでCM撮影の方は全て終わりです!」
「お疲れ様でした!」
「それでは、これから広告用の写真撮影に入ります!それから、一般エキストラの皆さんはここで終了となります。お疲れ様でした!」
スタッフの一言で一般の抽選で選ばれたエキストラの皆は解散した。ずっと座りっぱなしで疲れたのだろう、皆とても疲れた顔をしているように見えた。
「皆、お疲れさん!今日は協力してくれて、本当にありがとう。」
そう言って風音さんは皆に向かって頭を下げた。それに慌てて亜美やレイが頭を上げるように言う。
「大したお礼は出来ないんだけど、その代わりに今日みんなが着ている衣装はそのままあなた達にプレゼントするわ。」
「ええ!?お、お礼なんて結構です!こんなに素敵なドレスも…」
慌てて亜美が断りを入れる。しかし、風音さんが折れるわけなんてなくて、最後には亜美が根気負けして、お礼の代わりとして着ているドレスを貰う事で話は纏まった。
「あぁ、そうそう…。今日の撮影の最後に、あの子にブーケトスさせるから、参加したい子は最後まで残っててね?」
ブーケトスと言う言葉を聞いて、レイ、まこと、美奈の3人はとんでもないやる気を見せていた。
そしてその間にも、私とはるかは広告用の写真を撮っていく。見つめ合ってるの、腕を組んで立ってるの、はるかが私をお姫様抱っこしてるのとか、色んなパターンの写真をたくさん撮った。
―――――
それから2時間程掛けて、私達は漸く全ての撮影を終えた。撮影が終わる頃には、さすがの私もクタクタで、撮影終了の声を聞くと私はその場に座り込んだ。
「夏希、大丈夫か?」
はるかがちょっと心配そうに尋ねて来た。
「うん、大丈夫。さすがにちょっと疲れちゃったけど…」
私ははるかに微笑みながらそう答えた。私の答えを聞いて安心したのか、はるかも微笑んで私の隣に座った。
「僕との擬似結婚式、どうだった?」
「ドキドキしっぱなしで、死ぬかと思った…」
私は冗談交じりに答えた。でも、すごくドキドキしてたのは事実だから、私が心臓の弱い人間だったら死んでたかもしれないなんて頭の隅で考えてすぐに止めた。
「はるかは?私との擬似結婚式、どう思ったの?」
「想像以上に夏希が綺麗だったから最初は戸惑ったけど、それでも嬉しかったよ。改めて、いつか夏希と本物の結婚式をあげたいと思った…」
「……私も…」
私はボソッとそう呟き、はるかに寄り掛かった。するとそこに風音さんがやって来た。
「お疲れ様、2人とも。頑張ったわね、特に夏希…」
風音さんは優しくそう微笑んでくれた。その後に、今日最後の仕上げとして、ブーケトスをするように言われた。
私はそれを了承し、立ち上がると階段を上まで上った。するとそれに気付いたレイ、まこと、美奈がすごい勢いでいがみ合いながら走って来た。
「ちょっとレイちゃん、邪魔よ!」
「美奈子ちゃんこそ…!」
「2人とも邪魔だよ!ブーケは絶対あたしが貰う!」
「「そうはさせるかぁあああ!!!」」
そういがみ合ってる3人の後ろから、残りのメンバーが歩いてくるのが見えた。今日最後の記念に参加しておこうと言う事らしい。「それじゃあ、皆行くよ〜?」
「「「来い!!!」」」
私は2人の気合いに苦笑しながらも後ろを向いて、思いっきり高くブーケを投げた。
「「「貰ったぁああああ!!!」」」
3人揃ってそう口にすると、ブーケは3人の下へと落ちて行った。だが、ブーケを取ろうと必死な3人の手の上を転がり、3人の後ろにいたほたるの手の中へと落ちた。
「わぁ〜…みちるママ!せつなママ!ブーケ取ったよ!!」
「よかったですね、ほたる…」
「次に結婚式を挙げるのは、もしかしたらほたるかも知れないわね。」
「本当!?わーい!!」
ほたるは飛び跳ねて喜んだ。それに対し、レイ、まこと、美奈の沈みようは半端なかった。そんなに欲しかったのか…と私は若干呆れも含め、苦笑しながら凹んでる3人を見たていた。
その場の全員が凹んでる3人に向いている隙に、はるかは私の名前を呼ぶ。そして、それに振り向いた瞬間、私ははるかにキスされてしまった。それはそっと触れるだけの優しいキスで、すぐに離れてしまったけど、私の心臓は物凄い速さで脈打っていた。
「ごちそうさま。」
「あー!!はるかパパと夏希お姉ちゃんがちゅーしてるー!!!!」
「「なぬ!?」」
ほたるの台詞に美奈とレイが反応し、こっちを振り向く。その一言で、私もほたるに一連の流れを見られてしまった事に気付く。
「…っ…もう、はるか!」
「はは、ごめん。…でも、夏希が僕を見ないで、ずっと向こうを向いてるのがいけない。僕はどうしても、君の視線を僕に取り戻したかったんだ…」
「それなら、こっち向いてって言えば済む話じゃない…また人にキス見られちゃうなんて…もう、恥ずかしすぎて死にそう…」
「ごめんって…」
はるかはそう言って小さく笑いながら私を抱きしめ、謝った。口では謝罪しているが、実際にはるかは悪いと思っていない。それでも、はるかから伝わってくる感情は嬉しい、幸せ、愛おしい…そういった類のものだったのでこれ以上怒る気にはなれなかった。
「はるか…」
「ん?何だい、お姫様?」
私がはるかを呼ぶと、はるかは腕の中の私を優しく見つめる。私は背伸びして、はるかの耳元に唇を寄せるとそっと囁いた。
「大好き。」
「!!」
私がこんな事を言うと思っていなかったのか、はるかはとても驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔になり、私をきつく抱きしめ愛してると囁いてくれた。
to be continued...