- June bride(1/3)
- はるかとみちるが転校して来て数日。私は学校を終え、風音さんに呼び出され事務所に来ていた。
そして私の専属マネージャー兼事務所の社長である風音さんに、今度の仕事についての説明を受け、驚きの声を上げ立ち上がった。
「えぇ!?はるかと一緒に、ウエディングドレス来て、結婚式場で撮影!?」
「そう!ほら、今梅雨の時期だけど、結婚のシーズンでもあるじゃん?」
「…ジューンブライドの事言ってます…?」
私は一旦落ち着きを取り戻し、社長室のソファーに座り直した。
「そうそう。それでね、この間の記者会見を観てたらしいあるブライダル会社の会長さんから、Erikaさんと天王さんに是非、うちの式場の宣伝CMと広告の仕事をお願い出来ないかってオファーが来たのよ〜。」
「はぁ…」
「それで会長が直々に依頼しに来たもんだから、私も断れなくてさ〜…」
あはは…と風音さんは申し訳なさそうに笑った。しかし、どこか楽しげな表情も伺えた。
「……わかりました。その撮影はいつなんですか?」
「ん?明日!」
「はぁ!?明日!?」
またとんでもなく急な話だ。私に用事があったらどうするつもりだったのか……まあ、予定なんてなかったからいいんだけど。
「そんな急に言われて、私はよくても、はるかの都合が悪かったらどうするんですか?」
「あぁ、それなら大丈夫!既にはるかくんには話し付けて、了承もらってるから!」
「えぇ!?」
またも驚きの余り立ち上がる。いつの間にはるかに了承を得たのか…さすが風音さんだ。
「だから、明日朝7時、はるかくんと一緒に現場に来て!後でFAXで地図送るから。遅れないようにね?」
「は〜い……」
私は事務所を出ると、すぐにはるかに電話を掛けた。何コールか呼び出し音が聞こえた後、はるかが電話に出る。
『もしもし?』
「ちょっと、はるか!いつの間に仕事オファーOKしてたの!?」
『あぁ、あの記者会見の翌日に風音さんから電話もらってね…夏希の大切な恩人の頼みを断るわけにもいかないと思って。』
「そんなの聞いてない!!」
『ごめんごめん…風音さんに口止めされてたんだ。』
「…風音さんに?」
『あぁ。ギリギリまで夏希に隠してた方がおもしろいから、ってね…』
「はぁ…風音さんらしいと言うか何と言うか…」
『いいじゃないか、本番の為の予行練習だと思って楽しめば。』
「本番?何の?」
『僕達の結婚式に決まってるだろう?』
「なっ…バカ!」
『ははっ……とにかく、明日の朝そっちに迎えに行くから、ちゃんと起きて待ってるんだよ?』
「あ、待って!どうせ迎えに来てくれるなら、朝早いんだし…その…今晩から、一緒にいたいなー…なんて……ダメかな?」
『!まさか…ダメなわけないだろ?夏希から誘ってもらえるなんて嬉しいよ。それじゃあ、すぐに支度して、夏希の家に向かうよ。』
「うん…!じゃあ、私も今からスーパーに寄ってから帰るから…もしかしたら、ちょっと遅くなるかもしれないけど、待っててくれる?」
『それなら、先に夏希を迎えに行くよ。それで一緒にスーパーに行って、一緒に帰ろう…』
「いいの…?」
『もちろん。今どこにいる?』
「今は事務所の前だけど…はるかは家?」
『あぁ。今さっき、電話に代わってくれってうるさいほたるから、自分の部屋に逃げて来たところ。』
「ふふ……そっか、じゃあ事務所近くの喫茶店で、暫く時間潰してるね?近くに来たら、また連絡してくれる?」
『あぁ、わかった。』
「それじゃあ、頑張ってほたるから逃げてね?」
「あぁ…頑張るよ。」
私達は電話越しに2人で笑い合い、電話を切った。その後、私ははるかに伝えた通り、事務所から1,2分歩いた所にある喫茶店に入って彼が来るのを待った。
―――――
私は喫茶店に入って、アイスティーを飲みながら、今度主演を任された映画の台本を読みながら、はるかからの連絡を待っていた。
「ふぅ……切ないけど、すごくいい話…」
昨日台本が手元に届き、既に途中まで読んでいたので、意外と早く読み終わってしまった。
この映画の撮影は夏休みに入ってからだが、近々監督や共演するキャストの方々との顔合わせ兼打ち合わせがある。監督からどんな演出をし、どんな作品にしたいかをより理解する為には、台本を読んで、内容を理解しておく必要があったのだ。
「はるかまだかなー…」
喫茶店に入って、既に30分以上経っている。確かにはるかの家からはちょっと遠いが、車で15〜20分あれば余裕で着くはずの距離だ。
「何やってんだろう…ほたるから逃げるのに手間取ってるのかな…?」
その時、テーブルの上に置いておいた携帯が着信を知らせる。着信相手ははるか。私はすぐに電話に出た。
「もしもーし?」
『もしもし夏希?連絡が遅れてしまってすまない…あと5分もしないでそっちに着く。』「うん、わかった。じゃあ、店の外に出て待ってるね?」
『あぁ、それじゃあ、また後で。』
「うん、気を付けてね。」
私は電話を切ると伝票を持ってレジに行き、お金を払い店を出た。店を出るとさっきまで明るかった空が、ちょっとだけ暗くなり始めていた。
店を出た私は、店の前のガードレールに軽く腰を掛けはるかを待った。暫くしてはるかの車が近付いて来る。
「あ、来た来た…って…あれ…?」
はるかの車が目の前で停まる。しかしそこに乗っていたのははるかだけじゃなかった。
「こんばんわ、夏希。」
「みちる!?え?何で?」
「話は後にしましょう?さ、乗って?」
「う、うん…」
私が乗り込むとはるかは車を発進させる。走り出してすぐにはるかが声を掛けて来た。
「遅くなってしまってすまない、夏希…」
「ううん、いいの。気にしないで?それより、何でみちるも一緒に…?」
「はるか1人だけだと、夏希に何をするかわからないもの。そんなの危険だわ。」
「あはは…まだお風呂の事気にしてたの?」
私はみちるの言葉に苦笑する。一応、私とはるかは恋人同士なのだから、みちるの言っているような関係があってもおかしくはない。だけど、はるかは本当に私を大切にしてくれている。確かに一緒にお風呂には入ったが、何もしないと約束してくれたし、実際何もなかったのだ。まあ、キスくらいはしたけど…
「だって、夏希は私の大切な妹も同然なんだもの。姉が妹の心配をするのは当然でしょう?」
「みちる……ありがとう。」
「どういたしまして。」
みちるが私に向かって微笑む。それにつられて私も微笑んだ。するとはるかが私に問い掛けて来る。
「確か、スーパーに寄るんだったよな?」
「あ、うん!ご飯の材料買わないと、今冷蔵庫の中調味料と牛乳とかしかないから…」
「わかった。夏希の家の近くのスーパーでいいのかな?」
「うん、そこでいいよ。」
それから私達は3人で、家の近所のスーパーで買い物を済ませ、我が家へと向かった。
買い物を終え、家に着いた私ははるかとみちるに好きに寛ぐように言い、私服に着替えに部屋に入った。
着替えを終え、リビングに入るとはるかとみちるはソファーに座りコーヒーを飲んでいた。何度も泊まりに来ていて勝手を知っているはるかが淹れたのだろう。
私はすぐにエプロンを着けると、夕食を作る為にキッチンに入った。
「夏希、手伝うわ。」
「あ、ありがとうみちる!」
コーヒーを飲み終えたのか、空になったカップを持ったみちるが後ろからやって来て、夕食作りの手伝いを買って出てくれた。
私はみちるにもエプロンを渡すと、手を洗い料理を始める。みちるもエプロンをすると同じく手を洗い、料理を始めた。
はるかもカップを片付けに一度キッチンに入ったが、カップを片付けるといつもの如く、お風呂掃除に向かった。
はるかのお風呂掃除は、彼が家に泊まりに来た時のお約束になっている。私が夕食を作っている間に、はるかがお風呂掃除と準備をするのだ。
そして夕食後の片付けを一緒にやるのも、お約束。こう言うのを見ていると、きっと彼は結婚したらとてもいい旦那さんになってくれるだろうなと思う。進んで家事を手伝ってくれて、子供が出来れば子育てにも協力的で子煩悩なパパになりそうだと思う。
「明日、はるかと一緒にウエディングドレス着て撮影するんですって?」
「うん、今日風音さんに聞かされてびっくりしちゃった。」
「明日の撮影、私も見に行っていいかしら?」
「うん、いいよ!それじゃ、後で風音さんに連絡入れとくね?」
みちるの問いに私は笑顔で答える。何だかんだ言っていても、ウエディングドレスを着て、はるかの隣に立てるのが嬉しいのだ。
タキシード姿のはるかを想像しただけで、自然と口元が緩む。
「楽しみだわ、夏希のウエディングドレス姿…」
「私も!仕事でも、ウエディングドレス着られるのすごく楽しみなの!やっぱさ、女の子なら1回は着てみたいって思うでしょ?」
「ふふ…そうね…」
みちるはとても綺麗に笑った。それから私達は2人で、理想の結婚式について話しながら夕食を作った。
暫くして夕食が出来上がり、テーブルに並べ終えた所でお風呂のお湯を止めに行っていたはるかがちょうど戻って来た。
「あ、はるかナイスタイミング!ご飯出来たから食べよ?」
「あぁ…」
私達はいつもの席に座り、はるかは私の向かい側、みちるは私の隣の席に座った。
「それじゃあ、冷めない内にご飯食べよっか!いただきます!」
「「いただきます。」」
3人揃って手を合わせた後は、楽しく談笑しながら、私達はみちると私が一緒に作った夕食を食べた。