- 大好きだから
- 今朝僕とみちるは、夏希と玄関前で別れると職員室に向かった。そこで担任となる教師に挨拶をすると、そいつと一緒に教室に向かった。
教室の前に着くと担任が先に教室の中に入り、僕とみちるは廊下で合図があるまで待った。
「面倒だな、クラスの奴等の前での挨拶なんて…」
「あら、仕方なくてよ?私達は転校生なのだから…」
みちるが小さく笑った。僕はみちるの答えにそうだなと短く返事をすると、担任が入室の許可を出したので一緒に教室の中に入った。
その瞬間、教室中がざわめく。たぶん、先日の会見で僕の顔を一度見ているからだろう。
「天王はるかです。よろしく。」
「海王みちるですわ。皆さん、よろしく。」
僕達がそう短く挨拶をすると、担任は空いている好きな席に座るように言った。
僕達は教室中を見渡し、窓際の席に前後で座った。僕が前で、みちるが後ろだ。僕達が座ったのを確認すると、HRは呆気なく終わる。
担任が教室を出て行くと、僕は椅子の背に腕を掛け、横向きに座るとみちるに話し掛ける。
「夏希はどうしてるかな?」
「まだHR中か、うさぎ達と一緒に騒がしく1限目の準備をしているんじゃないかしら?」
「お団子頭か…そう言えば最近顔を見てないな…」
「そうね…後で夏希の顔を見るついでに、うさぎ達にも会いに行ってみましょうか?」
「そうだな、そうするか…」
僕達は完全に2人の世界を作る。そのおかげか、興味本位で僕達に近付いてくるような輩はいなかった。
そしてそのまま1時限目の授業が始まる。つまらない授業を聞きながらも、僕の頭の中は夏希でいっぱいだった。
「(早く会いたいな…)」
今朝も会ったばかりだと言うのに、僕は同じ敷地内にいるのだと思うと、今すぐにでも会って抱きしめたいと言う衝動に駆られた。
ここは無限学園とは違い、一般の高校だ。専門の授業もなければ、内容も既に理解している内容だったので、特に覚える事もなく、本当に暇な1時間だった。
つまらない授業に耐え、漸く授業終了のチャイムを聞くと、僕はすぐに教科書とノートを机にしまった。
授業が終了し、教師が教室から出て行くと僕は立ち上がった。それに続きみちるも立ち上がると、僕達は教室を出て、夏希のクラスに向かった。
夏希の教室の前に着き、中を覗いたが教室の中には誰1人いなかった。
「誰もいないな…」
「そうね…1限目は移動教室の授業だったのかしら…?」
「たぶんそうだろう…じゃなきゃ、誰1人いないなんてのはありえない。」
「残念だったわね、はるか…」
「あぁ…せっかく夏希に会えると思って、つまらない授業にも耐えたんだけどな…」
「仕方ないわ。また次の時間に来ましょ?」
「…そうだな、そうするか…」
そして僕達が教室に戻ろうとした時、後ろからある男子生徒の話が聞こえて来て、僕達は一旦立ち止まった。
「しかしすごかったな〜、Erika様!」
「あー、男子相手にバスケの試合圧勝だろ?普通ありえないよなー。最後はダンクまで決めてたし…」
「女子がErika様、Erika様ってスリーライツ並みに騒ぐ気持ちもわかるよな〜。」
「だよなー…。今日の男顔負けのイケメンっぷりさがまたすぐに噂になって、またErika様のファン増えんじゃね?」
「Erika様親衛隊こえーんだよなぁ…」
「わかるわかる!俺達がちょっとでもErika様に近付こうものなら、Erika様に近付く害虫(男)は、我々が認めた相手以外は絶対に許しません!とか何とか言っちゃってさ……あいつらErika様の事何だと思ってんのかな?同じ女だぜ?」
「まあなー……でもま、確かに中性的な綺麗な顔だし、スタイルもいい。おまけにさっきの動き目の当たりにしたら、女子達の騒ぎたくなる気持ちもわからんでもないけどな。」
「確かになー……」
僕とみちるは、彼等から死角になる所に隠れ、静かにそんな話を聞いていた。
「ふふ……どうやら夏希はモテモテのようね。特に女の子に…」
「…夏希は僕のものだと、ついこの間日本中に知らしめたばかりなのに…。全く、仕方のないお姫様だ…」
「あら、ファンが増えるのは、夏希にとってはいい事じゃない。」
「確かにそうだけど…また一緒にいる時間が減るかもしれないんだ。素直には喜べないな…」
「…そうね。彼等の話だと、Erika様親衛隊に認められた男以外の害虫は、夏希に近付く事さえ許されないみたいだしね…」
「本当、モテる彼女を持つと大変だな…」
僕達は小さく笑って、その場を後にした。
それから少しして教室に戻って僕達は、他に特にやる事もなかった為、次の授業の準備を始めた。
授業の準備が終わり、授業が始まる直前に、僕は夏希へとメールを送った。いつメールの返信が返って来るかなと、何気なく窓の外を眺めながら考えていると、早速彼女からの返信が来た。僕は急いで内容を確認した。
「………全く、可愛いな…」
「ふふ……はるかったら…頬がかなり緩んでいてよ?」
「仕方ないさ…夏希が可愛過ぎるんだから…」
自分でもわかるくらい、僕の頬は、夏希からのメールで緩んでいた。
「(次の休み時間が待ち遠しいな…)」
メールの内容を確認し、次の休み時間は絶対に彼女に会える、そう確信すると、暇で退屈な授業だって何だって耐えられる気がした。
―――――
更衣室から教室に戻って来た私は、体操着の入った袋を机の横に引っ掛け、自分の席に着いて次の授業の準備をした。
教科書、ノート、参考書、筆記用具を机の上に出した時、ポケットの中で携帯が震えたのがわかった。
私はすぐに携帯を取り出して、メールが届いているのを確認した。そのメールを開くと、差出人ははるかで、内容を読むと自分もすぐに返信した。その後、次の休み時間が楽しみ過ぎて、自分でも嫌って程頬が緩むのがわかった。
From 天王はるか
To 日向夏希
Sub (non title)
--------------------
夏希に会いたい。
今すぐに会って、
君を抱きしめたい。
次の休み時間、必ず
夏希に会いに行くから、
待っててくれるかな?
To はるか
Sub Re:
-------------------
りょーかい。
待ってるね?
私もはるかに会いたい。
夏希
―――――
あれから私は、次の休み時間が待ち遠しくて授業になんか集中出来なかった。授業中に考えるのは、早く休み時間が来ないかな、早くはるかに会いたいな、そんな事ばかりだった。
そして今、待ち遠しくてうずうずしていた休み時間が遂に訪れた。落ち着かない私を不思議に思った皆が私の元にやって来る。
「どうしたの夏希ちゃん?」
「いつもの夏希ちゃんらしくないね…」
「そわそわしてる夏希ちゃん、何だかお弁当待ってるうさぎちゃんみたい…」
「美奈子ちゃん?それどう言う事!?」
「早く来ないかなー…」
4人の言葉は私の耳には届かず、私はまだかまだかとはるかが会いに来るのを待った。
それから少しして、いつもとは違った騒がしさが、教室前の廊下を包んだ。
「!来た!!」
私は立ち上がると、急いで廊下に出る。それに続いてうさぎ達も、誰が来たのかと私の後を追った。
「夏希!」
「はるか!」
私ははるかとみちるの姿を見付けると、皆が見ているのも気にせずはるかに抱き付いた。
「会いたかったよ、僕のお姫様…」
「私も…」
私ははるかの胸に顔を埋め、ギューッと彼に抱き付くと、彼もまた私をギュッと、強く抱きしめてくれた。
私を追って、廊下に出たうさぎ達は、無限学園とは別の制服に身を包んだはるかとみちるを見て、すごく驚いた顔をしていた。
「はるかさん、みちるさん!」
「本当に転校して来たんだ…」
「やあ、子猫ちゃん達。」
「ごきげんよう。」
「「「「こんにちわ!」」」」
はるか達とうさぎ達が簡単な挨拶を交わすと、私達は休み時間いっぱい、廊下の端っこで話をした。と言っても、殆んど美奈が質問してくる事に私とはるか、そしてたまにみちるが答えるだけなんだけど…
記者会見観たとしても、直接色々と聞きたかったらしい。単なる興味本位で。
「え……じゃあ、夏希ちゃんとはるかさんって、うさぎちゃんと衛さんと同じで、まだキス止まりなの?」
「そうだけど?」
「はるかにしては、よく我慢してると思わね…」
「自分でもそう思うよ…」
そしてはるかとみちるはクスクスと小さく笑った。そこで私はポツリと一言漏らす。
「あ、でも…」
「でも何!?」
美奈とうさぎは興味深々で、すごい勢いで迫って来た。それを亜美とまことは呆れたように見つめていた。私は若干引いていて、はるかとみちるはおかしそうに見ていた。
「え…?あぁ…キス止まりなのは確かだけど、一緒にお風呂には入ったな〜って…」
「「「「一緒にお風呂!?」」」」
私のこの言葉には、美奈やうさぎだけでなく、亜美とまことも顔を赤くしながら食い付いて来た。
「はるかさんとお風呂だなんて…」
「はぁー……夏希ちゃんやるー…」
「いけないわ夏希ちゃん…!私達、まだ高校生になったばかりなのよ。そんなのまだ早いわ…」
「いいないいな〜!あたしもまもちゃんと……きゃっ!」
各々顔を赤くし、驚きながらも反応を返す。うさぎに至っては衛さんと一緒にお風呂に入る姿を想像したのか、1人で騒ぎ始めた。
「はるか…?どう言う事か説明してくれるかしら…?私、はるかが夏希と一緒にお風呂に入ったなんて、聞いていなくってよ?」
「いやっ…これはその、わざわざみちるに言う事もないかと…」
みちるが黒いオーラを出しながら笑顔ではるかに尋ねる。はるかは焦りながらも、どう切り抜けようか考えているみたいだった。
「「「「(みちるさん、怖い…)」」」」
4人はみちるを見て同じ事を思っていた。皆ははるかが狼狽える姿より、普段穏やかに気品良く笑っているみちるの般若のような姿に驚いていた。
「(みちる……口元は笑ってるけど、目が全然笑ってないよ…)」
「さあ、はるか……説明して頂こうかしら…?」
はるかは窓際に追いやられた。後ろは窓、正面はみちる、はるかの左手には私、そして右手にはうさぎ達がいて完全に逃げ場はない。
はるかはどうにかこの場を乗り切ろうと、迫ってくるみちるに焦りながらも打開策を考える。
「だから、これは…っ…」
「これは…何かしら?」
「その…っ…あ、あれだよ、あれ…」
「あれって何の事かしら?」
「それは……」
「それは…?」
はるかは焦り過ぎて何も浮かばなくなってしまっている。それも仕方ない、般若モードのみちるは本当に怖い。
私は見ていられなくなり、原因を作ったのは自分だと言う事もあり助け舟を出す。
「みちる!」
「なーに、夏希?」
一瞬で黒いオーラを消し、こっちに顔を向ける。その隙に私ははるかの手を引いてみちるから逃げた。みちるは呆気に取られている。
「皆お願い、先生には適当に言っといて!」
「わかったわ!任せて!」
私は走り去る前に皆に一言そう言うと、美奈は何だかとても楽しそうにこっちを見ながら任せて言ってくれた。
美奈に任せるのは何だか不安だったけど、とりあえず今は逃げる事に専念した。
―――――
あれから私達は、屋上まで一気に走った。この時間下に行くと、先生に見付かって面倒な事になると思った私は、屋上なら先生に見付かる事はないだろうと思い、ここまで来た。
既に授業開始のチャイムは鳴っている。その事から、みちるが今ここにいないと言う事は、彼女は追うのを諦め授業を受けに教室に戻ったのだろう。
私とはるかは、戦士として戦っているせいか、それとも元からなのかはわからないが、人よりも体力がある方なので、3階の端の方にある私達の教室付近から、屋上まで一気に階段を駆け上っても、息が乱れる事は無かった。
「はぁ〜…一時はどうなる事かと思った…」
「すまない…助かったよ、夏希。」
「いや、元々は私が悪いんだし……ごめんね?」
「謝らなくていいよ。夏希と一緒にお風呂に入ったのは事実だしね…」
そして私達は壁に寄り掛かり、並んで座った。梅雨の時期だと言うのに、今日は珍しく晴天。私の守護する太陽の光が温かくて、今日は私の機嫌はよくなるばかりだ。
そんな私を見て、はるかは微笑みながら私に尋ねて来る。
「今日は機嫌がいいな…何かいい事でもあったのか?」
「うん!いっぱいあったよ?」
「そうか…僕にも教えてくれるかな、お姫様?」
「うん!えっとね…起きた時にはるかが抱きしめててくれた事でしょ、それからほたるやせつなも一緒に、皆で美味しいご飯食べられた事でしょ、あとはるかやみちると一緒に学校に来れた事でしょ、それからそれから…」
私は今日、今まであった嬉しかった事を笑顔で全部はるかに話した。お弁当の事、クラス対抗のバスケ試合で全勝した事、はるかから会いたいってメールが来た事、はるかが抱きしめてくれた事、太陽の光が温かい事、そして今はるかと2人きりでいられる事も全て。
はるかはそれを聞き終わると私を引き寄せ、強く抱きしめた。
「僕も今、夏希と2人でいられて嬉しいよ…。つまらない授業なんか聞いてるよりも、こっちの方がずっといい…」
「うん…そうだね…」
そして私達は授業が終わるまで、屋上でずっといちゃいちゃしていた。たぶん、人が見れば鬱陶しがられるくらいのバカップルっぷりだったと思う。
授業時間が終わり、休み時間も残り僅かになった所で私達はそれぞれの教室に向かう為、屋上を出た。
私の教室の前に着き、別れる前にしっかりお昼の約束をする。
「じゃあ、後でまた教室まで迎えに行くよ。」
「うん、待ってるね!」
「あぁ…それじゃ、また後で。」
はるかは私を教室まで送ると、自分のクラスへと帰って行った。そして教室の私は、教室の中に入った瞬間美奈に捕まり、既視感に襲われる。確かスリーライツが転校して来た時にもこんな事があった気がする…
「夏希ちゃん、今まではるかさんとどこで何してきたのよ〜?」
「え?特にこれと言ってした事はないけど…?」
「またまた〜。キスの1つくらいはしたんでしょ〜?」
「あぁ…キスならいっぱいして来た。」
「ほぉ〜…ちなみにどんなキス??」
何で美奈はそこまで知りたがるのか…とりあえず、そのニヤニヤした顔で、楽しそうに聞いてくるのを止めてもらいたい。恥ずかしいし、何かからかわれてるみたいでちょっとだけ腹が立つ。
「そりゃ、いろいろ……って言うか、何で美奈はそんなに聞きたがるの?」
「え?おもしろいから!」
「おもしろい?こんな話聞いて…?」
「うん!」
「ふーん……そう…」
「それで?いろいろって、どんなキスして来たの?」
美奈はまだニヤニヤしながら聞いて来た。
「…もういいでしょ!秘密!」
「えー…もっと聞きたい〜…」
強制的に私が話を終わらせると、美奈は駄々を捏ね始める。しかし、ちょうどいいタイミングで授業開始の合図が響き渡り、美奈はしょうがないと呟きながら自分の席に戻って行き、私も漸く席に着く事が出来た。
この時間を乗り切れば昼休みだ。私はお弁当とはるかに会えるのを楽しみにしながら、4限目の授業を受けたのだった。
to be continued...