- 素直な気持ち
- あの熱愛発覚騒動から一週間とちょっと経って、6月に入った。
私もはるかも、記事に書かれていた通りなので、特に話す事もなくマスコミ陣を無視し続けて来たが、あまりにも多く、そしてしつこいと言う事で、そのマスコミ陣を一掃する為にと、風音さんの提案で、はるかと共に緊急記者会見(しかも生中継)を開く事になった。
結婚とか婚約の発表じゃないんだから、普通そこまでするかって思ったけど、これでマスコミにしつこく追われる事がなくなるのならそれでもいいかと、私とはるかは風音さんの提案を受け入れた。
そして、突然の記者会見だと言うのに、会場には信じられないくらいたくさんの記者とカメラがあって、たかだか私の恋愛事情でここまで騒ぐ必要があるのか、実は皆暇なんじゃないかって疑問を持ってしまった。
―――――
それから暫くして会見の時間になり、私は風音さんが用意してくれた衣装を来て、はるかと一緒に会場に入る為、会場への入り口を開けた。するとまだ扉を開けただけだと言うのに、カメラマンは一斉にシャッターをきり始める。
「はぁ…本当、鬱陶しい…」
「今は我慢しなさい。あと、記者の前では笑顔でね?嫌なのは顔に出さない事!」
「わかってるよ、風音さん。ね、はるか?」
「あぁ…安心して僕達を見守ってて下さい。」
「…わかったわ。2人を信じて、ここで見守ってるから…ちゃんと始末して来なさいよ?」
「あはは、わかった!それじゃ、行って来るね!」
そして私達が記者の前に姿を現すと、更に加速するフラッシュの嵐。
「Erikaさん、天王さん、2人の出会いは!?」
「2人はいつから交際をしているんですか!?」
「この先、2人に結婚のご予定は!?」
会場のあちらこちらから色んな質問が飛んで来る。私達がマイクを握ると一言一言を聞き逃さないように会場中が一旦静かになる。
結婚のご予定は?なんて、私はこの4月にまだ高校生になったばっかりなのに、気が早過ぎると頭の隅で考えながらも、とりあえず会見を始める。
「この度は緊急なのにも関わらず、お忙しい中、こんなにたくさんの方が集まって下さり、驚きと共に感謝しております。質問にはしっかりと答えさせて頂きますので、落ち着いて、お1人ずつ、順にお願い出来ますでしょうか?」
取材陣は皆それを了承する。期待する答えを本人の口から聞き出せるのなら、どんな条件でも彼等は呑むのだろう。
「では、早速よろしいですか?」
「はい、何でしょう?」
「お2人の出会いはいつですか?」
記者の質問にはるかが答える。
「そうですね…出会ったのはもう随分と昔ですが、彼女と再会したのは約1年程前です。」
「2人は元々の幼馴染のような関係だったんですか?」
「はい、そんな感じです。」
「では、お2人は元々知人で、約1年前に再会し、交際に発展したと言う事で間違いないんですか?」
「はい、間違いありません。」
はるかに続いて、私も記者の質問に答える。私の発言に、再び一斉にフラッシュが焚かれた。
「天王さんは一部のファンに、天才ヴァイオリニストで画家の海王みちるさんとの交際も噂されてていますが、それは噂にただの過ぎないと言う事ですか?」
「そうです。確かに、彼女とも随分と昔から友人関係にはありますが、彼女も僕のファンの1人で、また僕も彼女のファンの1人……彼女はただの幼馴染と言うだけで、交際の事実は一切ありません。」
「では、天王さんと恋人関係にあるのはErikaさんなんですね?」
「はい。僕の恋人は、ここにいる彼女だけです。」
そう言ってはるかは、優しい笑みを浮かべ、隣に立っている私へと視線を向けた。そんなはるかに、私も視線を向けて微笑めば、待っていたと言わんばかりのフラッシュの嵐が起こった。
それから少しして、漸くフラッシュが治まったと思った頃、次の質問が私達2人へと投げ掛けられた。
「お2人の交際が始まったのはいつですか?」
「去年の彼女の誕生日からです。」
「と言う事は、天王さんとErikaさんは、Erikaさんがアイドルとして芸能界デビューする前から、交際していたと言う事ですか?」
「はい、そうです。」
「どちらからの告白がきっかけで交際がスタートしたんですか?」
「僕からです。」
「告白の言葉はどんな感じでしたか?」
「ストレートに、好きだ、付き合って欲しいって言われました。」
「天王さん、Erikaさんの好きな所は?」
「彼女の全てを愛してます。でも、あえて言うなら、そうだな……僕の不意をついて可愛い発言をしてくれる所とか、意外と甘えん坊な所とかかな。」
はるかの言葉に赤面する私に構わず、別の記者が今度は私に質問を投げ掛けて来た。
「Erikaさんは、天王さんのどこが好きなんですか?」
「……私も、彼の全てが好きです。優しい所も、キザな所も、たまに呆れる事もあるけど、凄く心配性で過保護な所も、嫉妬深くて子供っぽい所も…彼の全部が大好きです。」
本人を目の前にして、こう言う事を言うのは凄く恥ずかしかったけど、自分の思いを素直に、これを見ているファンの皆へ、はるかへ届いて欲しい…。そう思ったら、いつの間にか恥ずかしさなんか消えていて、最後は、胸を張って、真っ直ぐに自分の気持ちを伝える事が出来た。
「お2人は普段、どう言う風にお互いを呼び合っているんですか?」
「お互い、名前を呼び捨てで呼び合ってます。」
「天王さん、この先Erikaさんにプロポーズする予定なんかはありますか?」
「もちろん。僕は一生、彼女を手放すつもりはありませんから…」
はるかのこの回答に、再びフラッシュの嵐が起こった。
「天王さんはこう言っておられますが、Erikaさんはどうなんでしょうか?」
「現代(いま)も、前世(昔)も、そして未来(これから)も……私は彼以外を愛する事は絶対にないですし、ずっと側にいると、彼と…はるかと約束したので、この命が続く限り、私はずっと、はるかの側にいます。」
真っ直ぐ、真剣な目を向け、私が記者の質問にそう答えれば、驚く程会場は静かになった。そんな中、はるかが記者に対して質問を投げ掛けた。
「まだ他に、僕達に聞きたい事は?」
はるかのこの質問に、返答はない。つまり、もう充分満足のいく答えが聞けたと言う事だ。それを見て、私がマスコミ陣に向かって言う。
「質問がないようでしたら、これにて会見を終了させて頂きます。」
「最後に、皆様に1つお願いが御座います。この会見を機に、私や彼を追い掛けまわし、周囲に迷惑が掛かるような取材は止めて下さい。取材をするのなら、事務所を通し、良識の範囲内でお願い致します。」
「僕も彼女も、自分の成すべき事を、常にファンにベストの結果を伝える事が出来るよう、2人で支え、励まし合い、今まで以上に尽力して行きます。」
「応援して下さってるファンの皆様の期待を裏切るような事は、一切するつもりはありません。なのでこれからは、どうか私達2人を、温かく見守って下さい。本日はお忙しい中ご足労頂き、誠にありがとうございました。」
そして私達2人は記者に向かって一度お辞儀をすると、揃って会場を後にした。
―――――
あの会見をしてから、驚く程あっさりマスコミ陣は引き上げ、静かな日々が戻って来た。
けどその代わり、あの会見を見た私やはるかのファンからの応援の電話やら手紙やらで、事務所内はすごい騒ぎになっていた。
たまたま用があって、仕事帰りに事務所に寄ったら、ただでさえ私の誕生日が近くて、ファンからのプレゼント仕分けに忙しいと言うのに…とうちの事務所の古株の女性プロデューサーにぼやかれてしまった。
そして今は駅から自宅に向かって歩いてる所だった。
「(そんな事私に言われても困るっての!大体、会見提案したの風音さんなのに…あのクソババア……風音さんの前とそうじゃない時とで全然態度違うんだから…!あんなんだから、いつまで経っても結婚どころか彼氏すら出来ないのよ!絶対私に彼氏がいるの妬んでるだけじゃん…あー、ムカつく!!)」
などと、相当苛付いていた私は、心の中で女性プロデューサーを罵倒しながら帰宅する。すると、玄関の鍵が開いており、中を確認するとはるかが家に来ていた。
「はるか!」
「あぁ…おかえり、夏希。待ってたんだ。」
「どうしたの?」
私は急いでリビングに行くと、はるかはソファーで足を組んで優雅に読書していた。はるかは視線を私に向けると笑っておかえりって言ってくれた。それだけで、ムカついていた心が穏やかになって行く。
「前に十番高校に転校するって話してたの覚えてる?」
「うん、覚えてるよ。」
「今日出来上がった制服取りに行って来たんだ。手続きも準備も終わってる…」
「じゃあ…」
「明日から僕とみちるも、十番高校の生徒だ。」
「本当!?やったー!」
私は嬉しくなり、はるかに飛び付く。それをはるかはしっかりと抱き留めた。
「はるか、みちると同じクラスになれるといいね!」
「その辺はちゃんと交渉済みだから問題ないさ…」
「もう、ちゃっかりしてるんだから…」
私達は二人で笑い合った。
「……なぁ、夏希。今日これから家に泊まりに来ないか?みちるがどうしても、明日は夏希と一緒に行きたいって言うんだ…」
「みちるが?はるかの間違いじゃないの?」
「おいおい…まぁ、僕も一緒に登校したいのは確かだが、今回は本当にみちるが珍しく我が儘を言ったんだよ…」
「そうなんだ…本当に珍しい…」
「それで、どうかな…お姫様?」
「もちろん、行くに決まってるでしょ!」
それから私は急いで支度を始めた。明日の学校の準備、お泊りの準備、スケジュールの確認を終えると、荷物と制服を持ってはるかの所に戻る。
「お待たせ、はるか!」
「忘れ物はない?」
「うん、大丈夫!」
「それじゃ、行こうか。」
はるかはさり気なく私から荷物を奪い、私の手を握るとゆっくり駐車場まで向かった。
そして私達は車に乗り込むと、はるか達の家に向かって走り出した。
「はるか達の家久しぶりだな〜…」
「そうだな……ほたるが、はるかパパ、いつになったら夏希お姉ちゃん連れて来るの?独り占めなんて狡い!っていつも煩いんだ。」
「ほたるが?」
「夏希の事それだけ気に入ってるのさ。ちょっと複雑な気分だけどね…」
はるかの話を聴きながらクスクスと笑った。
「笑い事じゃないよ…この車が家に着いた瞬間から、僕は君を独り占め出来なくなるんだ。」
「はるかには合鍵渡してあるんだし、またいつでも独り占め出来るじゃない…たまには、ほたるも構ってあげなきゃね?」
「妬けるな…」
「もう、はるかったら…」
同じ女の子、ましてや自分の娘のように育てて来たほたるにさえも嫉妬するはるかが可愛くて、私は再び笑った。
暫くし、私達ははるか達の家に着いた。車が入って来たのが見えたのか、ほたるが走って家から出て来たと思ったら、車を降りた私に抱き付いて来た。
「夏希お姉ちゃん!!」
「わっ…ほたる!久しぶりだね!」
「うん!夏希お姉ちゃん、今日はずっとほたると一緒にいてね?」
「はいはい…」
私はそう言って微笑んで、ほたるの頭を優しく撫でた。はるかはちょっと不満そうだけど…まあ、我慢してもらうしかない。
それから私はほたると手を繋いで家の中に入った。荷物ははるかが全部持ってくれた。何だかんだ言ってても、結局はほたるが可愛いのか、私に会えてご機嫌なほたるを見て微笑んでいた。
私がほたるに手を引かれ、リビングに入るとみちるとせつなが出迎えてくれた。
「いらっしゃい、夏希。」
「お邪魔します!」
「ようこそ、夏希。今夕食を作っている所なので、出来上がったら皆と一緒に食べましょう。」
「うん!ありがとう、せつな。」
「夏希お姉ちゃん!夏希お姉ちゃんはほたるの横ね?」
「はいはい、わかったわよ。」
「夏希、荷物は僕の部屋に運んでおくから。」
「あ、うん!ありがとう!」
「どういたしまして。」
そしてはるかは私の荷物と制服を持って、自室に向かった。私はと言うと、ほたるとみちるに挟まれてソファーに座り、みちるが淹れてくれたお茶を飲んだ。
「夏希、今日は私と一緒にお風呂に入らない?」
「うん、いいよ。」
「あー!!みちるママ狡い!!ほたるも一緒に入るー!!」
「仕方ないわね…それじゃ、3人で一緒に入りましょうか?」
「うん!」
ほたるは満面の笑みを浮かべて、みちるの言葉に頷いた。こう言うのを見てると、平和ボケしそうになる。もしもあいつが動き出したのなら、そんな事を言っている暇なんてないのに…
「夏希?どうしたの?」
「……この間、スリーライツと雑誌の撮影があった日なんだけど、撮影を担当してくれてたカメラマンの、板橋サキさんって人が、敵に襲われたの…。サキさんは無事だったからいいんだけど、敵が狙っていた物と、セーラースターライツって言う、謎の3人のセーラー戦士の事が気になって…」
「…セーラースターライツ…?」
「うん……太陽系外…どこの星系かまではわからないけど、別の星系に存在するセーラー戦士…(戦闘に気を取られて、彼女達が飛び去る前の一瞬しか感じ取れなかったけど、あの星の輝きは……)」
「それは敵なのですか?味方なのですか?」
料理をしながら聞いていたのだろう、その会話にせつなが入って来る。ほたるに関しては黙って何かを考えている。
「この間は助けてくれたけど……彼女達の目的がわからない以上、敵か味方かはわからない。」
「そう……少し、調べてみる必要があるわね…」
「それで害をなすようならば…」
「侵入者は、僕達の手で排除する。」
「!はるか…」
いつの間に戻って来ていたのか、扉に寄り掛かりせつなの言葉を続けた。
「待って……セーラースターライツの事もだけど、今回の敵は、もしかしたらデス・バスターズ以上に厄介かもしれない…。私が思ってる通りの敵だと、完全に覚醒した私でも、対抗出来るかどうか怪しいくらいの強敵……侵入者の事ばかりに気を取られ過ぎて、油断しないでね?」
「わかってる。……大丈夫。どんな敵が来ても、僕達が必ず、夏希も、そしてこの星も、守ってみせるさ…。だから、そんな不安そうな顔をしないでくれ…」
「…うん……」
私は、そう言って側に寄って来たはるかの手をギュッと握り、静かに目を閉じた。
to be continued...