周知の事実
私はいつもの時間に起き、大きく伸びをする。私の隣には、まだ眠っているはるか…
何故隣にはるかがいるかと言うと、昨日私はこの間買ったベッドが届いた事を、はるかにメールで伝えた。すると、彼はベッドの寝心地確認を口実に、家に泊まりに来たのだ。

私はベッドから出ると、顔を洗いに洗面所に向かった。

洗顔後、肌の手入れを済ませ、ベースメイクだけ整えると私は着替えを取りに、一旦寝室に戻った。

はるかを起こさないようにそっと扉を開け、制服を持って寝室を出ると脱衣所で制服に着替えた。

制服に着替えた後はエプロンを着け、朝食の準備に取り掛かる。

鼻歌を歌いながら二人分の朝食を作っていると、はるかが起きてきた。


「あ、おはよ!はるか」

「おはよう、夏希…」


はるかは私を軽く抱きしめ、そっとキスを落とす。


「ん……まだ、ちょっと眠いならシャワー浴びて来たら?目覚めるよ?」

「そうするよ…」

「ご飯出来上がる前には戻って来てね?」

「あぁ、わかった…」


そしてはるかはキッチンを出て、お風呂場へと向かった。はるかを見送ると、私は朝食作りを再開した。

暫くし、朝食が出来上がるとほぼ同時にはるかは首にタオルを掛け、髪を拭きながら出て来た。


「ぴったりだな…」

「ふふ…そうね、今ちょうど出来上がったの。食べよ?」


私は朝食をテーブルに並べ、エプロンを外すと席に着いた。それに続き、はるかも私の向かいの席に座り、二人揃って食べ始めた。

朝食が終わり、私は食器を片付け、途中だったメイクを仕上げる。髪は下ろしまま、メイクはクールな印象を与えるメイクに仕上げた。


「今日は下ろしたまま行くの?」

「うん!クール系女子風のキリッとしたメイク、似合う?」

「似合ってるよ…すごくね。」


私ははるかの言葉が嬉しくて、笑顔でお礼を言った。


「(今日も静かで、いい朝だな…)」


しかし、学校に行くのにはるかと一緒に家を出ると、こんな静かで穏やかな朝はあっさりと終わりを告げた…



―――――



今日ははるかが学校まで送ってくれるらしく、私とはるかはロビーを通り、地下駐車場に向かった。

車に乗り込み、マンションの外に出ると、たくさんのマスコミ陣が、何故かマンションの入口で張り込んでいた。

私達は車でマスコミ陣の横を通り過ぎる。


「うわっ…すごい数のマスコミ陣…何でうちのマンションの前にこんな…」

「何か、マスコミが騒ぎそうな事をしたとか?」

「そんな事した覚えないんだけどなぁ…」


はるかの言葉に考えを巡らせてみるも、そんな事をした覚えは一切ない。


「……まあ、いっか。別に疚しい事があるわけじゃないし…」

「それなら、いつも通り、堂々としていればいいさ…」

「うん!」


それから暫くして、学校が見えて来た。しかし何故か、そこにも凄い数のマスコミ陣が…

それでも学校に行かないわけには行かないので、私は学校の少し前で車を停めてもらい、はるかの車から降りた。


「じゃあ、また連絡するね!行って来ます!」

「あぁ、行ってらっしゃい。」


私が車を降り、学校へと近付けば、私に気付いたマスコミ陣があっと言う間に私を取り囲んだ。


「Erikaさん、今朝発売した週刊誌に書かれている事は本当なんですか!?」

「週刊誌…?一体、何の事ですか?って言うか、申し訳ないんですけど退いて頂けます?学校遅刻しちゃうんで…」


私は、何とか取り囲むマスコミ陣を掻き分け、校舎の中まで走った。

玄関で靴を履き替え、教室に向かう。その途中で、今日もファンからお弁当を受け取った。


「Erika様、今日のお弁当です!」

「いつもありがとうね。」

「はい!あ、あのErika様!私は、これからもErika様を応援してますので!!」

「?ありがとう、それじゃ…」


彼女の言葉に疑問を抱くが、私は気にせず教室に向かった。教室に入るとすぐに美奈が私に迫る。


「ちょっと夏希ちゃん!!どういう事!?」

「えっ…あ、あの、何が…?」


美奈の勢いに若干脅えながらも、自分の席に座る。私が席に着いても美奈は机越しに迫って来る。週刊誌を片手に…

そんな美奈をまことと亜美が宥め、うさぎは「何々?何かあったの?」と皆に聞きにやって来た。

そして美奈は、私の机にバンッと勢いよくあるページで開かれた週刊誌を置いた。そこに書いてあった記事をうさぎが声に出して読む。


「何々……人気アイドルErikaに恋人…お相手は、大人気イケメン天才レーサー…?えぇええええええ!?」

「どういう事!?説明して!!」

「説明も何も……こんな記事、今初めて見たし…」

「そんな事はどうでもいいのよ!!」


バンッと再び私の机を叩き、私に迫る。


「じゃあ、美奈は何が知りたいの…?」

「だから、恋人についてよ!!夏希ちゃんには、はるかさんがいるじゃない!!なのに、他にイケメンな恋人がいたなんて聞いてないわよ!?」

「は…?」

「あんな素敵な恋人がいるのに、他のイケメンに浮気だなんて……そりゃ、イケメンに目が眩むのはわかるけど…!」

「いや、あの……」

「だけど!!あんなイケメンで、スタイル良くて、優しくて、お金持ちで……もう、これ以上ないくらい完璧な彼氏がいるのに!」

「いや、だから……」

「なのに他のイケメンとも付き合ってるだなんて…!!夏希ちゃんばっかりイケメンに好かれて狡い〜!!」

「………ねぇ、美奈…私の話聞く気あるの?」

「もちろん!!」

「(本当かな……)」


興奮し切った美奈に、私は溜め息を漏らし、それを見た亜美とまことは苦笑を漏らし、うさぎは話に付いて来れなかったのか、亜美やまことにどう言う事?と疑問を投げ掛けていた。


「…あのね、美奈。私は、今も、昔も、そしてこれからも、はるか以外の人とは付き合わないし、他の人を好きになる事はない。これ絶対。わかった?」

「でもでも!ここにお相手は、大人気イケメン、天才レーサー………」

「…頭は冷えた?」

「……すみません…」

「…ここに書いてあるのは、私とはるかの事よ。多分、この間の休みにデート行った時に写真撮られたんだと思う。人がいても、いつもみたいに気にせず堂々と手とか繋いでたし…」

「今更だけど、人目気にしなくてよかったの?」

「うん、いいの。社長の風音さん公認だし、風音さんには事情も全部話してあるしね。そりゃ、さっきみたいに報道陣に取り囲まれるのは、困るけどさ…」


私がそう言って苦笑を漏らせば、亜美とまことは窓の外、校門付近にわらわらと集まったたくさんのマスコミを見て、私と同じく苦笑を漏らした。



―――――



あれから時が経ち、今は放課後。教室に残っているのは、私1人だけ…。

校門付近に集まっていたマスコミ陣は学校にも、近所にも迷惑だからと、先生達が警察を呼んで追い払ったらしい。それを聞いて、私はたくさんの人に迷惑を掛けてしまった事に、何だか申し訳ない気持ちになった。


「はぁ……何で何も悪い事してないのに、こんな申し訳ない気持ちにならなきゃいけないのよ…。人の恋愛事情なんて、放っておいてくれたらいいのに…」

「全くだな…」

「彼等はあれが仕事なんだから、仕方なくてよ。」

「え…?」


ポツリと漏らした独り言に、まさか返事が返って来るとは思わず、私は驚いた顔をして、声が聞こえて来た教室の入口へと目を向けた。するとそこには、声を聞いて予想していた通りの人物達が立っていた。


「!はるか!それにみちるまで……どうしてここに?」


私がそう2人に問い掛ければ、2人は一度顔を見合わせ、私に向かって小さく微笑むと、ゆっくりと口を開いた。


「実は僕達…」

「この学校に転校して来ようと思っているの。」


みちるの発言に、私は目を見開いて驚く。そんな私を見て、2人は私に近付くと、みちるは私の1つ前の席に座り、はるかは後ろから私を抱きしめた。


「夏希がアイドルを始めた今、前みたいにいつでも好きな時に会えないでしょ?仕事が無くたって、夏希は学校があるし…。今のままじゃ、夏希に全然会えないんだもの……そんなの嫌だわ。」

「だから、少しでも夏希と長くいられるように、僕達も学校に通わないかって僕がみちるに提案したんだ…」

「はるかが…?」

「そう、あの面倒臭がり屋のはるかがよ?」

「夏希に毎日会えて、夏希を守れて、ついでに団子頭も守れて、暇潰しにもなる……一石二鳥どころか、一石四鳥だ…悪い話じゃないだろ?」

「…そっか。はるか達がここに通えば、例え少しの時間でも、毎日会えるんだ…」


はるかの言葉に自然と頬が緩む。私だって、はるかやみちるに毎日会えるなら会いたい。


「どうかしら、私達がこの学校に転校して来るのは反対?」

「それとも、賛成してくれるの?」


みちるは笑顔で私を見ながら、はるかは私の耳元で優しく囁き尋ねて来た。そんなの決まってる。私の答えは…


「もちろん!大賛成!!」


私の答えを聞いた二人は、満足気な顔をして言葉を発した。


「じゃあ…」

「決まりだな。」


学年は違うけど、2人が転校して来たら、ほぼ毎日学校で会えるんだと思うと、私は楽しみで仕方なくて、早くその日が来ればいいのにと、願わずにはいられたかった。
to be continued...
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