プロの世界(2/2)
あれから1時間程撮影は続き、撮影は無事全て終了した。私は美奈と一緒に控え室に戻り、衣装から制服へと着替えを始めた。美奈は、私が着替えている間にうさぎを探してくると言い残し、数分前に控え室から出て行ってしまった。

それから少しして着替え終わり、美奈が戻ってくるのを暫く待ってみるが、なかなか来ない。一体どこまで行ってるのかと、様子を見に行こうと、控え室の扉を開けた瞬間、スタジオの外から女の人の悲鳴が聞こえた。


「キャー!!」

「!何!?」


私は声が聞こえた方へと走った。そして物陰に隠れて、そっと外の様子を伺う。


「(!サキさん……!…あれは、スターシード…!?どうして、スターシードなんか……!まさか…っ!)」


悲鳴の主は、さっきまでスタジオで一緒に撮影していたサキさんで、サキさんは敵に襲われ、スターシードを抜かれてしまっていた。


「!(不味い…!!星の加護を受けた輝きを秘めていない者が、スターシードが抜かれれば…!)」


サキさんから抜き出されたスターシードは、瞬く間に光を失い、黒ずんで行ってしまった。


「あらー、またハズレなの〜?」

「(早くスターシードを浄化して、サキさんの中に戻さなきゃ…!)」


瞬時にそう思った私は、変身の為に人目のないフォトスタジオの中へと戻った。


「ブライトイノセンスパワー!メイクアップ!」


誰もいない室内でセーラー戦士の姿へと変身すると、私はすぐにサキさんの元へと向かった。



―――――



「ヴィーナス・ラブ・アンド・ビューティ・ショック!」

「おっと!」


私がサキさん達のいた場所に戻ると、いつの間に現れたのか、セーラーヴィーナスが敵、セーラーアイアンマウスと1人で戦っていた。


「!(ヴィーナスの攻撃を、あんなに簡単に…!)」

「うっそ…!」

「あらあら、どこ狙ってるの?おばーかさーん!」

「おばかさんはあんたでしょう!!」

「ん?」

「!(セーラームーン…!!)」

「もう、どこ行ってたのよ〜!」

「あはは〜…ごめんごめん!」


セーラームーンの姿を確認したヴィーナスは、セーラームーンに一言文句を言うと、再びアイアンマウスへと向き直った。


「プロの世界の厳しさを教えてくれたサキさんを襲うだなんて、許せない!!愛と美貌のセーラー服美少女戦士、セーラーヴィーナス!」

「おにぎり食べてパワー全開の美少女戦士、セーラームーン!月に代わって、お仕置きよ!」

「それじゃ、もっともーっと、厳しさを教えてもらうといいわ。セーラーゲキシャ!この子達を片付けておしまい!」


アイアンマウスの一言に、スターシードを取り出されてしまったサキは、ファージへと姿を変えた。


「うふふ、本日の業務終了〜、バイビー」


そう言い残すと、アイアンマウスは移動用電話ボックスの中へと入り、あっと言う間に姿を消した。


「セーラーゲキシャー!」

「(しまった…!)」

「…サキさん…!」

「いいわいいわ〜!そのポーズ!シャッター、チャーンス!!」


ファージがシャッターを切りると、ファージの腕に付いたカメラから放たれた光線が、セーラームーン達を襲った。


「ぅわぁああっ!」


何とかギリギリのところでセーラームーンは攻撃を避けるも、見ている限り、避けるので精一杯と言った感じだった。


「(…全く、こっちも相変わらずみたいね……仕方ない!)」

「サキさん…!!」

「あー、ダメよ逃げちゃ!あーん、このアングル最高〜!シャッター、チャーンス!!」


ファージのその声と同時に、今度はヴィーナスに向かって光線が放たれた。その瞬間、私はヴィーナスの前へと飛び出し、防御技を放つ事で跳ね返した。


「シャイン・シールド!!」

「「!!」」

「え……?」

「う、そ……」

「光の星、太陽を守護する業火と光の戦士、セーラーシャイン!優美に活躍!」

「「セーラーシャイン!!」」

「ただいま、2人とも!」


私は驚く2人に微笑むと、すぐにファージへと向き直った。


「何、で…?だって…記憶がなかったんじゃ…!」

「詳しい話は後!前にも言ったでしょ?戦闘中は油断しない!!」

「は、はい!!」


私の声に、セーラームーンとヴィーナスは、すぐに戦闘態勢を立て直した。その瞬間、どこからか指を鳴らす音が聞こえた。


「!何…?」

「ん?ん?んー!?」

ファージはキョロキョロあたりを見回し、音の発信源を探し、見付けた。


「夜の暗闇貫いて」

「自由の大気、駆け抜ける」

「聖なる三つの流れ星!」

「セーラースターファイター!」

「セーラースターメイカー!」

「セーラースターヒーラー!」

「「「セーラースターライツ!ステージ・オン!!」」」

「!(セーラー戦士…!?)」

「まあ〜!あなたも、彼女達も、何て絵になる人達!シャッター、チャーンス!!」


ファージはスターライツの姿を確認すると、私とスターライツに向かって光線を放ッて来た。しかし、私を含めた4人は、これをいとも簡単に避け、それぞれ別の場所へと着地した。そしてすかさず、セーラースターヒーラーがファージへと向かって技を放った。


「スター・センシティブ・インフェルノ!」

「きゃあぁああああ!」

ヒーラーが放った技がファージに命中し、ファージは膝からその場に崩れ落ちた。


「!今よ!!セーラームーン!セーラーシャイン!」

「行くよ、セーラームーン!」

「うん!」


私の言葉に、セーラームーンはエターナルティアルを、私はロッドを取り出し、それぞれファージへと向けた。


「スターライト・ハネムーン・セラピー・キッス!」

「シャイン・ハート・キュア・エイド!!」

「ビューティフォー!!」


私達の放った技によりスターシードは浄化され、スターシードはサキさんの中へと戻って行った。


「よかった…」


無事、スターシードがサキさんの中へと戻って行くのを確認したヴィーナスが、安堵の息と共に呟いた。一方で、私とセーラームーンがスターライツへと目を向けると、彼女達は音もなく、静かに飛び去った。


「(…太陽系外から来た、セーラー戦士、か…。彼女達の目的は一体…)」


それから少しして、人目がない事を確認し、私は変身を解いた。それに続き、セーラームーンやヴィーナスも変身を解いた。


「…ふぅ……2人とも、全然成長が見られないんだけど?特にうさぎ!動きが鈍い!」

「「う゛っ……」」

「全く……」

「…そ、それより夏希ちゃん!記憶なかったんじゃなかったの!?」

「いつ記憶が戻ったのよ!!」

「うーん……1ヶ月くらい前、かな…?」

「どうして言ってくれなかったの…?」

「…ごめん…。なかなか切り出すタイミングが掴めなくて……それに皆、私に記憶がなくても、友達になってくれたから…。…前と多少関係は違うけど、それでも、友達なのには変わりないからさ……あ、別に隠してたわけじゃないんだよ?」

「そんなの、どうだっていい…!おかえり、夏希ちゃん…」

「…ただいま、うさぎ!」


そう言ったうさぎは、ちょっとだけ目に涙を浮かべ、笑顔で私を迎えてくれた。美奈はただ静かに、私の体を強く抱きしめた。



―――――



「……と、言うわけで、記憶は無事戻りました。今まで黙っててごめんなさい…」


翌日の放課後、私はうさぎ達と一緒にクラウンに行き、全てを話した。誰か1人くらい…まあ、主にレイが怒るかと思ってたけど、そんな事は全然なくて、皆私の帰還を温かく迎えてくれた。

私の話が一通り終わった所で、亜美が突然こんな事を言い出した。


「そう言えば、美奈子ちゃんのアイドルデビュー計画って、上手く行ってるのかしら?」

「あー、無理無理!だってご飯食べらんないんだもん!」

「ご飯?」


レイが疑問に思うのはごもっともで、普通この話の流れで、ご飯の話が出てくるはずがない。それに、レイが最初から理解したとしても、そんなのあんただけよって言われるのが落ちだと思う。

私がそんな事を考えながら、コーヒーを啜り、ケーキを食べていると、元気良く美奈がクラウンへとやって来た。


「おーっす!皆さんお揃いで!じゃーん!これ見て!」


そう言うと美奈は、手に持ってた物をテーブルの上に広げ、うさぎを押し退け座り、うさぎの注文したジュースを勝手に飲み始めた。

美奈が広げたものをまことが一つ手に取り、声に出して読む。


「君こそスターだ!スターオーディション…?」

「美奈子ちゃん、これって…!」

「考えてみたら、スリーライツの付き人じゃ所詮添え物で終わっちゃうもの。だから正々堂々と、オーディションで勝負する事に決めたの!」


私は美奈の言葉に口元が緩むのがわかった。だって、美奈はちゃんと気付いたから。今回の一件で、プロの世界がどんなものか、そしてベストを尽くす為に、諦めない強さを…。


「それじゃあ、アイドル諦めたわけじゃないんだ?」

「当ったり前じゃなーい!それじゃ!美奈子、行ってきまーす!!」

「(美奈の顔、本当、いい顔になったな…)…それじゃ、私もそろそろ仕事行くね。また明日!」


自分が頼んだ分のお金を置き、私は軽い足取りで今日の仕事へと向かった。
to be continued...
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