- 2人の時間
- あの後、私とはるかは夕食の材料を買いにスーパーに向かった。
スーパーに着くと、はるかは私と手を繋いでる反対の手で、自ら進んで買い物カゴを持ってくれた。
「はるか、カートもあるよ?」
「カートだと、こうして君と手を繋いでいられないだろ?僕はそんなのは嫌だな…」
「!」
はるかの台詞に、私の顔は一気に赤くなる。そんな私を見て、はるかは小さく笑い、耳元で囁く。
「夏希の顔、真っ赤だな…」
「だ、誰のせいよ!!」
「僕、かな…?」
はるかは悪びれる事もなく、再びそう耳元で囁く。
「わかってるんじゃない…ってか、耳元で囁かないで!ここがどこだかわかってるの?」
私は更に顔を赤くし、はるかに言う。するとはるかは平然と、もちろんと答えた。
わかってるなら、是非止めて頂きたい…
「はるかはただでさえ目立つし、人の視線集めるんだから、こう言う所でこう言う事するのは止めて!こんなの、恥ずかし過ぎる…」
「ふっ…耳まで真っ赤にして、可愛いな。僕のお姫様は…」
「(ダメだ、止める気なんて更々ないっぽい…)」
きっとはるかは私が恥ずかしがる事、そしてどんな反応をするかわかってて、こんな羞恥プレイを楽しんでる。このドSめ…
「さて…そろそろ行こうか、夏希。」
「ん……(もうこのスーパー来れない…)」
はるかは私の手を引き歩き始めた。スーパー内のどこを歩いていても、スーパーに買い物に来ている奥様方や、パートのおばさん達ははるかがそこを通れば必ず振り返る。
「ちょっと、複雑な気分…」
「?何で?」
食材を選んでいたはるかが顔を上げ、不思議そうに私を見る。
「皆、はるかの事見てうっとりしてるんだもん…はるかは、私のなのに…」
私は小さくむくれる。そんな私を見て、はるかは繋いだ手の力を少しだけ強めた。
「全く、あまり可愛い事ばかり言わないでくれ…僕の理性が持たない…」
「な…!?何言ってんのよ!はるかのエッチ!」
「それだけ僕が夏希を愛し、求めてるって事さ。」
「……バカ…」
「夏希が側にいてくれるなら、バカでも何でもいいさ。」
「もう…(大好き…)」
私ははるかの手を少しだけ強く握り返した。
それからスーパーの中を一通り見て、買う者を揃えると2人でレジに向かった。休日と言う事もあって、なかなかの人の多さだ。
暫く待って、会計を済ませるとスーパーを出てはるかの車に戻ろうとしたその時、小さな女の子に声を掛けられた。
「あ、あの…!お姉ちゃん、アイドルのErikaちゃん、ですか…?」
私は、人違いだったらどうしようと、不安そうに私を見上げて来る女の子に視線を合わせようとその場にしゃがみ微笑んだ。
「そうだよ。私の事知ってるの?」
そう言うと、女の子は花の咲いたような可愛らしい笑顔を私に向けた。
「うん!大好きで、いっつもテレビで見てるんだよ!」
「そっか、ありがとね。いつも応援してくれて。」
私がその子の頭を優しく撫でると、その子は嬉しそうに笑った。
「えへへ…あのね、私ね、Erikaちゃんみたいに可愛くて、かっこよくて、お歌も、お芝居も上手なアイドルになりたいの!」
「私みたいになりたいの?」
「うん!」
「そっか…頑張ってね!」
「うん!頑張る!だからErikaちゃんもお仕事頑張ってね?」
「うん!ありがとう。」
「じゃあね!バイバイ!」
「うん、バイバイ!」
女の子は私に手を振り、去って行った。私は立ち上がって、女の子が去って行った方を眺めると小さく呟いた。
「私みたいになりたい、か…そんな事、初めて言われたよ…」
「よかったじゃないか…夏希は、あの子に立派な夢を与えたんだ。」
「うん…あの子の夢を崩さない為にも、もっともっと頑張らなきゃ!」
「頑張るのはいいけど、くれぐれも無理はしないでくれよ?もう、君を失いたくはないからね…」
「うん、わかってるよ。」
私ははるかに向かって微笑んだ。
それから車で、私の住んでるマンションまで行き、二人で買った物を持って車から降り、部屋に向かった。
部屋に着き、中に入ると一気にリビングまで行った。そしてリビングに着くと、買い物袋を机の上に置いた。
「ふぅ…結構いっぱい買ったね…」
「そうだな…でも、これでいつでも夏希の部屋に来て、好きな時に泊まれる…」
「うん、そうだね!」
私ははるかと一緒にいられると思うと嬉しくて、口元が緩んで仕方なかった。
それから2人で手分けして、家事と買った物の整理をした。はるかは整理とお風呂掃除、私は2人分の夕飯作りと後片付け。
今日の夕飯は、はるかのリクエストしたクリームシチュー。それと卵もいっぱいあるし、オムライスでも作ろうかとエプロンを着けながら考えていたら、はるかがやって来た。
「そのエプロン、すごく夏希に似合ってるよ。」
「ありがと。それで、どうしたの?」
「料理してる夏希なんて、滅多に見れないから、目に焼き付けておこうかと…」
「もう…これから先も、家に泊まりに来るならいくらでも見られるでしょ?」
「それはそうだけど、今日はずっと君を見ていたいんだ…」
「もう…仕方ないなぁ…」
やっぱり、私ははるかに弱い。はるかにお願いされたりすると、よっぽど恥ずかしい事じゃない限り、大体のお願いは聞いてしまう。
まぁ、それははるかも同じなんだけど…。はるかは、私がお願いするとどんな願いであっても叶えてしまう。今日のベッドの衝動買いだって、私がぼっそと「私のベッドって、大人2人寝るスペースあったかな…」って呟いたら彼が買ってくれたのだ。私が今のベッドまだ全然使えるし、新しいのはいらないって言っても、はるかは買うって聞かなかった。そう考えると、私よりも彼の方が私に甘いのかもしれない。
「……はるか…」
「何?」
「やりにくい…」
「僕は全然平気だけど?」
私は料理する手を一旦休め、彼に言った。
「あのねぇ、はるかは抱きしめてるだけだからいいかもしれないけど、私刃物使って料理してるんだよ?私が怪我してもいいの?」
「…わかった、今は我慢するよ…」
「ありがと、はるか。後で何でもお願い聞いてあげるから、今は我慢してね?あ、お願いは1個だけだよ?」
「あぁ、わかった…それじゃ、僕はお風呂掃除でもしながらお願いを考えて来るよ。」
「うん、よろしくね!」
はるかはキッチンから出て行き、私は料理を再開した。
暫くして夕飯を作り終え、お皿に盛り付けるとダイニングに運んだ。片付けも、お風呂の掃除も終わって、リビングで本を読んで待っていたはるかも匂いに釣られてかダイニングにやって来た。
「座って?冷めないうちに食べよ?」
「オムライスも作ったんだ。」
「うん、卵いっぱいあったからね。」
「何だか食べるのが勿体ないな…」
はるかはオムライスを見てそう呟いた。彼のオムライスにはケチャップで“大好き”と書いてやった。ちなみに、私のオムライスは普通にケチャップを掛けた。
「そんな事言わないで、ちゃんと食べてよ?」
「もちろん。夏希の愛が篭ったオムライスなんだ…残さず食べるよ。」
「よかった…」
私達は席に着き、手を合わせる。2人で頂きますって言って、冷めない内に食べ始めた。
―――――
夕飯も片付けも終わり、私は着けていたエプロンを外し、はるかの待つリビングへ向かった。
「片付けは終わった?」
「うん、終わったよ。」
そう言ってはるかの隣に腰を下ろした。するとはるかは私を抱きしめ、自分の膝の上に座らせ直した。
「もう…ほんの数分離れただけなのに寂しかったの?」
「あぁ、寂しかったよ…君のいない時間はつまらない上に、たとえ数分でもやたら長く感じる…」
「はるかはいつからこんなに甘えん坊になったの…?」
私は大人しくはるかの腕の中に納まったまま、はるかに尋ねた。
「……そうだな…君が死んでから、かな…。前世のも含むと、君は二度も僕の前で死んでる…もう二度と、失いたくないんだよ……」
「……ごめんね、辛い思いさせて…。もう二度と、勝手にはるかの前からいなくならないから…」
「絶対に…?」
「ん、絶対、いなくならない…」
そう言って私ははるかを抱きしめ返した。絶対に離れない、もうはるかを1人にしないって思いを伝える為に…
暫くしてから、私とはるかは一緒にお風呂に入った。どうしてそうなったかと言うと、さっき私が言った一言が原因…
「どんなお願いも一つだけ聞いてくれるんだろう?」
そう、とても爽やかな顔で聞かれ、自分から言い出した手前私は頷くしかなかったのだ。
一緒に脱衣所まで行き、私が後ろを向いている間にはるかが先に入る。私はその後、服を脱いでしっかりタオルを巻いて浴室に入った。
中に入ると、至極楽しそうな顔をしたはるかがいて、私は内心ビクビクしながらもシャワーで軽く汚れや汗を流し、湯船に向かった。
「おいで、子猫ちゃん。」
「…何にもしないでね…?」
「さあ、それは約束出来ないな…」
「!?」
「ふっ…冗談だよ…今は何もしないさ…」
「(今は…?)」
何だか引っ掛かる言い方だったけど、何もしないと一応は約束してくれたので、私ははるかの待つ湯船の中へと入って行った。
「ふぁ〜…温か〜い……」
「ちょうどいい湯加減だろ?」
「うん…ほんと、はるかって何やらせても天才的…」
「光栄だな、夏希にそう言ってもらえるのは…」
そう言ってちょっと嬉しそうな顔をするはるかが可愛くて、私はそっとはるかに寄り添った。
「いつかさ…」
「ん?」
「いつか、私とはるかが結婚して、希望が生まれてたら……そしたら、またこうやって、今度は3人で一緒にお風呂入ろうね?」
「あぁ……」
それから私とはるかはゆっくりお風呂に入って、湯冷めする前にまだ少し小さい私のベッドで一緒に眠った。
いい夢が見れますように…。そう、願って…
to be continued...