転 校 生
あの撮影があった日から数日経った。私は、いつものように学校へ行く準備を済ませ学校に向かった。

学校に近付くと、何故か校門前には人だかり。それも女の子ばっかり。中には、うちの学校の生徒じゃない人も何人かいた。


「…一体、何の騒ぎ…?」


人込みを前に呆然としていると、私に気付いたファンがこっちに流れて来た。……とんだとばっちりを食ってしまった。ファンは凄くありがたいけど、朝からこうギャーギャー騒がれるとすごく疲れる。


「Erikaちゃんだ!!」

「近くで見ると本当綺麗…」

「エリカ様、今日も素敵〜…」

「Erika様!今日は私がお弁当を作って来ました!!受け取ってください!!」


など、周りを囲まれ騒がれる。主に女の子に。登校して来た子や登校途中の別の学校の男子もちょっとだけ混ざってるけど、女の子の勢いに完璧に負けていた。私が言うのもなんだけどさ、もっと頑張れ、日本男子…!

私は女の子からお弁当を受け取り、笑顔でお礼を言う。最初にお弁当を受け取ったあの日から、毎日日替わりで女の子達が私にお弁当を作って来てくれていた。

一人暮らしの身としては、1食分でも食事代が浮くのはありがたい。余裕はあるから、別に構わないっちゃ構わないけど、将来の為に貯金とか、節約するのはいい事だよね…?


「ありがとう。」

「ほ、放課後、またお弁当箱取りに参ります!!」

「うん、よろしくね。」

「はい!!」


その女の子は頬を染め、嬉しそうに笑った。お弁当箱くらい洗って返したいとは思うけど、毎日違う女の子だし、みんなの教室も、名前すらもわからない状況で返しに行けないし、皆自主的にお弁当箱を取りに来るのだから仕方ない。

ファンの女の子とそんなやりとりをしていると、一台の車が学校の前に止まった。すると集まっていた女の子達は、待っていましたと言わんばかりの黄色い声を上げ始めた。


「何が始まるの…?」

「!Erika様、ご存知ないんですか?」

「?何を?」

「今日、この学校にスリーライツが転校して来たんです!!」

「へぇ〜…そうなんだ。スリーライツが…」


彼等には悪いが、特に彼等に興味があるわけではないので、ファンの女の子を掻き分け、教室に向かおうと足を進めた。


「夏希!!」


すると後ろから突然声を掛けられ振り向く。


「よっ!また会ったな!」


そう言って星野がこっちに走って来た。


「星野!あ、そっか…星野もスリーライツの一員だっけ…」

「そっかって何だよ…まさか忘れてたのか?」

「あはは……ごめん…」


苦笑をもらしながらも星野に謝った。彼の後ろにいるのは残りのメンバーだろう。この間挨拶しそびれたのもあって、私は後ろの2人に自己紹介を始めた。


「どうも、この間は挨拶出来なくてすみませんでした。わたしErikaって芸名で皆さんと同じアイドルやってる、日向夏希です。よろしくお願いします。」


何だか自己紹介してる間も、擦れ違う生徒や校舎の中からずっと見られてたけど気にしない事にした。いちいち気にしてたら気が持たない。

とりあえず自己紹介を終え、2人に向かって微笑んだ。すると2人も挨拶を返してくれた。1人は丁寧に、そしてもう1人は、機嫌が悪いのかちょっとぶっきら棒に。それでも、返事を返してくれたのが嬉しくて、私は彼等に笑顔を向けた。


「それじゃ、俺達職員室行かなきゃいけねぇから…同じクラスになれるといいな!」

「うん、またね!」


星野達と別れた後、私も自分の教室に向かった。



―――――



暫くして教室に入ると、スターライツのファン……と言うか、追っかけをしている美奈に早速捕まった。


「ちょっと、夏希ちゃん!!スリーライツの3人と何話してたの!?」

「え?挨拶してただけだけど…」

「それにしては、星野くんと随分と仲良さそうに見えたけど〜…?」

「あぁ…星野とは、この間の撮影の時に仲良くなって。あとの2人は、この間挨拶し損ねたっちゃったから…」

「そう〜…」


美奈は何を企んでるのか、何となく嫌な笑みを私に向ける。


「あのさ、夏希ちゃん…」

「な、何…?」

「お願い!!スリーライツの3人紹介して!!」

「えぇ!?そんな事言われても……流石にそれは無理だよ。いくら友達でも、ファンを紹介するって言うのはちょっと、ね…。これから活動していく中で、彼等との信頼関係壊れても困るし……ごめんね?」

「そっか〜…やっぱりそうよねぇ〜…」

「…ごめん…」


あからさまに肩を落とす美奈に、私は苦笑を漏らしながらも謝った。出来る事なら紹介してあげたいけど、さっきも言った通り、軽はずみな行動をして信頼関係を壊したくない。

落ち込んだ美奈は自分の席に戻り、そのまま机に伏せた。私も鞄を机に置き、自分の席に座った。

それから少しして、HRが始まった。どういう縁か、スリーライツはうちのクラスに転校してきた。一般の学校にこんなクラスって滅多にないと思う。一応人気のアイドルが4人も在籍してるクラスなんて…

先生の一言で彼等は空いてる好きな席に座る事になり、教室の中を見回す。すると元気を取り戻した美奈が自分の隣の席をバシバシ叩き、夜天くんに猛アピールしていた。

だが、当の夜天くんは何故かこっちにやって来て、私の隣に立ち「ここ空いてる?」と尋ねて来た。


「え?あ、うん…空いてるよ?」


私が彼にそう告げると、彼は私の隣の席に腰を下ろした。他の2人も、それぞれ席に着いた。星野はうさぎの後ろ、大気さんは、まことの後ろだ。それを見て、美奈はまたも落ち込んでいた…

暫くしてHRが終わると、美奈がこっちにやって来た。それを見たうさぎやまこと、亜美、それから星野と大気さんも一緒になって来た。つまりは、全員が私と夜天くんの周りに集まった。


「夏希ちゃん!!!!狡い狡い狡い〜!!美奈子も夜天くんの隣に座りたい〜!!!」

「そんな事私に言われても…」

「そうだよ美奈子ちゃん、ちょっと落ち着きなよ…」

「夏希ちゃんに罪はないんだから…」

「狡い狡い狡い〜!!!!!」

「あちゃー…こーりゃ、美奈子ちゃん完全に拗ねちゃったわ。」


駄々を捏ねる美奈を亜美とまことが宥め、うさぎまでもがちょっと呆れ気味に美奈を見る。スリーライツの3人に関しては、若干引いている。


「(美奈…第一印象最悪だよ…)」


私は苦笑を浮かべ美奈を見つめた。

それからと言うもの、休み時間になる度、皆は私の席の周りに集まる。


「なぁ、夏希。今日放課後付き合えよ!一緒に部活見学行こうぜ!もちろん、お団子も一緒にな?」

「はあ〜!?何であたしがあんたと一緒に部活見がんんっ!?」


拒否しようとするうさぎの口を慌てて美奈が塞ぐ。


「はいはいはいは〜い!!美奈子もお供しま〜す!夏希ちゃん、いいよね!?」

「え…?何で私に聞くの?って言うか、私は部活見学に付き合うの決定済みなの?」

「当ったり前でしょ〜!」

「夏希ちゃん、今日仕事は夜からなんだろ?」

「うん…まぁ、7時からの生放送の収録に間に合えばいいけど……」

「おや、あなたも今日7時から生放送の収録があるんですか?」

「ええ、そうですけど……って言うか、あなたもって事は、大気さん達も…?」

「そ、僕達も7時から歌番組の収録があるんだ。生放送のね。」

「そうなんですか〜!じゃあ、今日はよろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

「よろしく。」


夜天くんと大気さんは微笑んで返事を返してくれた。


「で、結局夏希は付き合ってくれんのか?くれないのか?」

「…仕方ないから付き合うよ。行かなきゃ怒られそうだし…」


苦笑しつつも星野にそう返事を返す。すると隣で夜天くんが「じゃあ、僕も行こう」と言い、それを聞いた大気さんも「私も行きます」と続けて言った。

一通り話が着いた頃、ちょうど授業を開始する鐘が鳴った。それを聞いて、皆は自分達の席へと帰って行った。


「(はぁ…漸く嵐が去った…)」

「……ねぇ…」

「ん?何…?」

「いつもあんなのといて疲れない?」

「ん〜…そりゃ、今みたいに大変な時もあるけど、皆優しくていい子だし、私の大切な友達だから…一緒にいて楽しいよ?」

「ふ〜ん、そっか…」

「うん!」


夜天くんが何を聞きたかったのかよくわからないけど、私は思った事を素直に彼に伝えた。



―――――



時刻はもうすぐ午後4時になろうとしていた。ついさっき、今朝私にお弁当をくれた子がお弁当箱を回収しに来た。

私が女の子にお弁当箱を返すと、その子は不安気に私を見つめて来た。私が「美味しかったよ、ありがとう」と伝えると嬉しそうな顔をし、小さく頭を下げ帰って行った。

そして毎回の事だが、美奈はそんな私を見て「夏希ちゃんが女の子じゃなかったらなぁ〜…」と残念そうに呟く。

美奈ったら、どんだけ男に餓えてんの…

今は昼間約束した通り、うさぎ達と一緒に、スリーライツの3人を引き連れ、部活見学に体育館に来ていた。

周りはさっきから黄色い声が飛び交っている。理由は、星野が下でバスケ部相手にバスケの簡易試合を行ってるから。


「(皆元気だなぁ〜…何であんな元気なんだろ…)」

「遊んでますね…」

「ガキっぽいんだよ、星野は…」

「あーあ…早く終わんないかなぁ…」


そんな事をボソッと呟くと、大気さんが私に声を掛けて来た。


「日向さん、でしたよね…?」

「あ、はい。日向夏希です。何ですか大気さん?」

「大気で構いませんよ。それと敬語もいりません。」

「それじゃあ、私の事も夏希って呼んで?夜天くんもね!」


そう2人に微笑み掛けると、2人とも了承してくれた。


「もし部活見学が嫌なら、無理に星野に付き合わなくても構いまわないんですよ?」

「あー…部活見学は別に嫌じゃないんだ。ただこう、人がバスケとかしてるの見てたらやりたくなっちゃって…」

「なら、星野と一緒に参加して来たらいいじゃん。」

「そうなんだけど…ここの男子バスケ部じゃ、相手になんないから…」

「まあ、女性が男性に混じってやるのはちょっと厳しいですよね…」

「あ、いや、そうじゃなくて……ここのバスケ部じゃ、相手として物足りなくて…」

「は?どう言う事?」

「いやね、私も学校通い始めてから色んな部活回ったんだけど、どこの部に行っても、皆私に勝てなくてさ。何か、道場破りならぬ、部の看板破りみたいになっちゃって……」

「!?そうなんですか…」

「あのね、夏希ちゃんただ綺麗なだけじゃなくて、勉強も運動も、何でも出来る子なんだよ!」

「そ、そんな!何でもなんて…!」


急にうさぎが話しに入って来たと思ったら、私を何でも出来る超人のように言った。そんな事ないのに…


「へぇー…じゃあ、大気とどっちが頭良いのか、今度のテストで勝負してみたら?」

「面白そうですね…是非、そうしましょうか。」

「えぇ!?そんな…!私、そんな言う程頭良くないのに!!」

「大丈夫だよ、夏希ちゃんなら!」

「その根拠のない自信はどこから来るの…?」

「え?」

「何でもない…(はぁ…どうしてこんな事に…。今度はるかに勉強教えてもらおう…)」


私がそんな事を考えてる間に、星野がポイントを入れたのか、体育館中に黄色い歓声が響き渡る。


「あーもう嫌だ、こんな所!煩いし、汗臭いし…」

「そうですね、私もこう言うのよりも文化部の方が…」

「文化部もごめんだね。僕は一旦帰るよ…夏希はどうする?」

「んー…私も帰ろっかな。今日は朝から囲まれて疲れたし、仕事前にちょっと休みたいから…」

「じゃあ、こんな所早く出ようよ。」

「うん、そうだね…じゃあ、先に帰るね?大気は文化部見に行くの?」

「はい。」

「じゃあ、途中まで一緒に行こっか?」

「そうですね。」


そして私達3人は、うさぎ達と星野を残し、体育館を後にした。途中で大気とも別れ、私と夜天くんは玄関に向かった。

玄関で靴を履き替える為に下駄箱を開けると、これまたいつもの手紙の雪崩が起こった。


「うわ〜…今日もこんなにたくさん…」


私の靴箱に入ってた手紙が、足元で小さな山を作る。いつも思うが、どうやったらこんなに手紙を詰め込められるのか…

私は鞄から小さな紙袋を取り出すと、その中に拾った手紙を入れていく。


「…そんなの持ち帰ってどうすんの?」

「そりゃ読むに決まってるじゃない。さすがに返事までは書けないけど…」

「読んでどうするの?所詮僕達の上辺しか見てない、本当の僕等を知ろうともしない奴等の手紙なんて…」

「そんな事ないよ…。夜天くん達はさ、そりゃあ異性のファンが多いからラブレターとかもらったりして大変かもしれないけど、私のファンの子達は同じ女の子が多いから、Erikaちゃん見てたら元気がもらえましたとか、Erikaちゃんの歌で勇気付けられましたとか、そう言うのが多いんだ。」


夜天くんは静かに私の話に耳を傾ける。


「確かに本当の私なんて、彼女達は知らないよ?でもね、それって別にファンの子達だけじゃないと思うの。いつも一緒にいて、仲の良いうさぎ達にだって言ってない事とかいっぱいあるし……。私自身、どの自分が本当の、一番自然でいられる姿かわかんないもの。だからね、上手くは言えないんだけど…その人達にとっての本当の私は、その人達の目に映ったままの私だと思う事にしるんだ。言ってる事わかる…?」

「…まあ、何となく…」

「画面越しに私を見て、写真越しに私を見て、ファンがどう思ったかなんて私にはわかんないけど、私が伝えたい事は、ファンにも、伝えたい人にもちゃんと伝わってるよって、この手紙を読むと感じられるの。」

「!」

「それだけで、私は充分…本当の私なんか見てくれなくたって辛くないよ?だって、伝えたい事はちゃんと伝わってるもの…」

「伝えたい想い…僕達のファンにも、そう言う子いるのかな…?」

「いるよ、絶対!夜天くん達の伝えたい事をわかってくれる人が…」

「そっか……今度気が向いたら、ファンからの手紙、ちゃんと読んでみようかな…」


夜天くんが小さく笑いながらそう呟いた。だから私も微笑んで思った事を口にする。


「読んであげて?確かにあんまり知らないのに、上辺だけで好きだって子もいるよ?でも、皆が皆、そうじゃないからさ。」

「……ありがと、夏希。」

「どういたしまして!じゃあ、そろそろ帰ろっか?」

「そうだね。……あ、そうだ。そう言えば、僕の事いつまで夜天“くん”なんて呼ぶつもり?星野も大気も呼び捨てなんだから、僕の事も夜天でいいよ。僕も夏希って呼んでるんだからさ。」

「わかった、じゃあこれからは夜天って呼ぶね?」


こうして、私の嵐の一日は幕を閉じた。
to be continued...
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