- 3つの流れ星
- はるか達の家で暫く過ごした後、新しい連絡先を2人に教え、私は仕事に向かう為はるかに車で家まで送ってもらった。
車から降りる前に、はるかは別れを惜しむかのようにそっと私に口付けた。
「寂しいな…。久しぶりに会えたのに、もう夏希と離れなきゃいけないなんて…」
「そりゃ、私だって寂しいけど…仕事は休めないし…」
「…そうだな、君が僕以外の男の目に留まるのは嫌だけど、応援するよ。」
「ありがと、はるか…じゃあ、もう行くね?仕事終わったらメールするから!」
「あぁ、待ってる。」
私ははるかの車から降り、はるかの車を見送ると家に入り、荷物を置くとすぐに仕事に行く準備を始めた。
それから30分くらい経った頃、風音さんが家まで迎えに来てくれた。今日はドラマの撮影だから、化粧はベースだけにしておいた。
風音さんと家を出て車に乗ると、昨日あった事を風音さんに正直に話した。彼女には、隠し事をしたくなかったから。
風音さんは私の話を聞いて驚いていたけど、それでも私を受け入れ、探してた恋人が見付かってよかったね、応援するって言ってくれた。
私は目に薄く涙の幕を張りながらも、彼女に笑顔でお礼を言った。風音さんは本当にいい人だ。彼女ははるかやみちると同じくらい、私にとって大切な人になっていた。
暫く車を走らせた所で、撮影現場の公園に着いた。私はすぐに着替えとメイクを済ませると、今回のドラマに関わってる人達に挨拶に行った。
「おはようございます!今日はよろしくお願いします!!」
今撮影中でいない人を除いて、私は一人一人、丁寧に挨拶をして回った。
「よし、あとは彼らだけね。」
「はい!」
少し離れた所から撮影風景を見る。やっぱ今人気のスリーライツ主演だけあって、撮影の見物客の人数が凄い。
「うわぁ…凄い人の数…」
「そりゃ、こんな所で今話題のアイドルが撮影してたら見にくんだろ。」
「え…?」
返って来るとは思ってなかった呟きに、返事が返って来て驚いた。辺りを見回して、漸くベンチに横になってる、返事を返したであろう人を見付けた。
「よ!あんたアイドルのErikaだろ?」
「え?あ…は、はい!Erikaです!スリーライツの方ですよね?今日はよろしくお願いします!!」
「おう!俺は星野光、よろしくな!」
「はい、お願いします!」
私は彼に笑顔で挨拶を返す。さすが、女の子達に絶大な人気を誇るアイドルグループの1人だ。すごくかっこいい。
「(まぁ、はるかのが良い男だけど…)」
私の中の一番は、いつだってはるか。確かにスリーライツの3人はかっこいい。綺麗な顔立ちに、素敵な歌声は女の子達が夢中になる要素の1つだろう。だけど私は、どんなにかっこいい人が目の前に現れたって、絶対に靡かない。私にとって、はるかがこの世界で、ううん…この宇宙で一番素敵な、私だけの王子様なのだから…
それから暫くの間、星野は私の話相手になってくれた。その会話の中で、彼はさん付けや敬語はいらないと言ってくれたので、私も本名である夏希と呼ぶように彼に言った。
「そっか、お前十番高校の1年なのか!」
「うん!星野は?」
「俺?俺も歳は夏希と一緒なんだけど、今は学校行ってないんだ。まだ転校の手続き中でさ。」
「そうなんだ、どこの…」
星野にどこの学校に行くのかと聞こうとした瞬間、ちょうど監督が休憩の声を掛けると共に私を呼んだ。
「あ…呼ばれちゃった…ごめん、行って来るね?」
「おう!行って来い!」
「うん、じゃあまたね!」
「あぁ、またな!」
星野に別れを告げると、転ばないように気を付けながら監督の所まで走った。
「おはようございます、監督!今日は、よろしくお願いします!!」
「あぁ、よろしくね。じゃあ、早速で悪いんだけど、そこ立ってもらえるかな?」
「はい!」
他の人に挨拶しそびれちゃったけど、仕方ない。今は監督の指示に従わないとね…!
監督に指定された所に立つ。監督はモニターを見ながら照明の確認をしていた。その間、風音さんが私に演技のアドバイスをしたり、メイクさんが髪とメイクの最終チェックをしたりしていた。
「じゃあ、撮影再開しまーす!!」
スタッフさんの声を合図に共演者が各々の立ち位置に着いた。そして監督の合図で撮影が始まる。
今撮ってるのは、ホームズ少年のZファイルって言う、平均視聴率が35%にまで達する最近人気のドラマ。私は今回、このドラマのゲスト出演として撮影に参加していた。
こうしてたくさんの人に見られながらの演技はまだ慣れなくて緊張する。けど、風音さんが夏希ちゃんなら大丈夫、そう言って笑顔で背中を押してくれるから、私も頑張ろうって思える。
同じシーンを色んな角度から撮影して行く。台詞はそんなに長くないし、完璧に覚えてるから失敗する事はなかった。
そして漸く撮影が終わり、邪魔にならない所まで移動すると、撮影を見に来ていたらしい亜美、レイ、まこと、美奈が近寄って来た。
「夏希ちゃ〜ん!!」
「!皆、来てたんだ!人が多過ぎて、全然気が付かなかった…」
私も皆に近寄る。そしてふと思った事を口にした。
「あ、そう言えばうさぎは…?今日は一緒じゃないの?」
「あれ?そう言えば…」
「おかしいわね…さっきまで一緒だったんだけれど…」
「どうせドジうさぎの事だから、この人込みに紛れてはぐれちゃったんでしょ。」
「うさぎちゃんだって、もう子供じゃないんだから放っておいても大丈夫よ!」
「そうね、その内ひょっこり現れるわよ!」
「それよりも夏希ちゃん!!スリーライツと共演するなんて聞いてないわよ!!」
「え?そりゃまあ、言ってないし…」
「スリーライツと共演するなら言ってくれなきゃ!!」
「あ、ごめん…でも聞かれなかったし、皆がスリーライツ好きだなんて知らなかったから……今度からは、わかったら言うね?」
美奈のあまりの勢いの良さに、私は苦笑混じりで答えた。
「ねぇねぇ、間近で見たスリーライツはどうだった?」
「え?うん、まぁ…皆綺麗な顔立ちしててかっこよかったよ?」
「羨ましいわ〜…」
皆が亜美の一言を聞いて、一斉に彼女を見る。すると急に恥ずかしくなったのか、亜美は顔を赤くして俯いた。
「(意外…亜美もアイドルとか興味あったんだ……)」
暫くその場で皆と話し込んでいたら、何だか浮かない顔のうさぎがこっちに向かって歩いて来た。それにしても、何で関係者以外立ち入り禁止の所から出て来たんだろう…
「あ、ちょっとうさぎ!あんたどこ行ってたのよ!?」
「いや、ちょっと…」
「どうかしたの…?」
「あれ…?夏希ちゃん?何で?」
「私もこのドラマにゲストで出てるの。それで、今日ここで撮影してて…」
「そうなんだ!そっかぁ〜…撮影見たかったなぁ…」
この時、すごく残念そうにしてるうさぎを見て、私は単純に撮影を見れなくて落ち込んでいるのだと思った。けど、これはそんな単純な事じゃなくて、もっと…とても恐ろしい事の始まりを告げるものだった……
to be continued...