穏やかな朝
あれから、はるかの腕の中で眠ってしまった私が次に目を覚ますと、目の前には愛しい人の可愛い寝顔。どうやら私は、彼に抱きしめられながら眠っていたようだ。最初は寝ぼけ眼だったが、それを見て一気に覚醒した。


「!」

「ん…っ…」

「!!」


飛び起きようとしたが、彼を起こしては悪いと思い、私はそっと彼の腕の中から抜け出し、ベッドの外に出た。

抜け出して最初にした事、それは現状確認。部屋の中を一通り見渡し、ここがどこなのか、どうして自分はここにいるのかを考えた。


「(確か昨日敵に襲われて、はるかが助けてくれて…それで記憶が戻って、敵を倒して、安心したら力が抜けて、地面に座り込んだ私をはるかが抱きしめて、そのまま意識が飛んで…)」


昨日あった事を一つ一つ思い出していく。そして辿り着いた答えが、ここははるかの家で、私ははるかの服を着て、はるかに抱きしめられながら、はるかのベッドで一緒に眠っていた、だった。


「(……どうやって着替えたんだろ…はるか?それともみちる…?…まあ、どっちでもいいか…)」


そして私は考えるのを止めて、時間を確認する。時刻は朝の6時ちょっと過ぎ。いつも起きる時間帯だ。

私は立ち上がり、腕を天井に向けて体を伸ばす。一旦家に帰らなければ、学校に行けないと冷静に考える。


「(あ…でも、今から帰ったってどの道間に合わないか…ここから家までの道わかんないし…。……まあ、どうせ仕事で早退する予定だったし、学校は休むとして……後は…お風呂どうしよう…シャワー借りたいけど、着替えないし…)」


そんな事を考えていると、突然後ろから抱きしめられた。今、このタイミングで私の後ろを取れるのは1人しかいない。


「おはよ、僕の子猫ちゃん…」

「おはよ、はるか…よく眠れた?」

「あぁ、久しぶりにぐっすりとね…」


そう言って私の頬に小さなキスを落とす。そして再び肩に頭を乗せ、首筋に顔を埋めた。


「ちょっ、はるか…擽ったい!」

「ごめん。でも、久しぶりに君の体温を感じられて嬉しいんだ…。だからもう少しだけ、このままでいさせてくれ……」

「……もう、仕方ないなぁ…」


私は、はるかにはとことん弱い。そうでなくても、滅多に人に甘えないはるかが、私に甘えてくれてると思うと、どうしても甘やかしてしまう。惚れた弱み、ってやつかもしれない。前世から今でもずっと、ずっと…私の愛しい人…

それから暫くして、はるかは漸く私を解放してくれた。


「そうだ…昨日あのまま寝ちゃって、お風呂入れなかっただろ?シャワーでも浴びて来たらどうだ?案内するよ。」

「そうしたいけど…着替えが…」

「大丈夫。ちゃんと用意してあるよ…おいで、お姫様。」

「…ありがとう、はるか。」

「どういたしまして。」


はるかはそう言って微笑むと、私の手を引いてお風呂場まで案内してくれた。今気付いたけど、マンションにしては随分と大きな家だ。


「(まさか、マンションじゃなくて一軒家…?)」


はるかに手を引かれ、歩きながらそんな事を考えた。


「さあ、着いた。着替えは後で持って来るから、ゆっくり入っておいで。」

「うん、ありがとう。」


そう言い残し、はるかは戻って行った。私は、はるかを見送ってから脱衣所に入る。


「(うわ…脱衣所だけでも無駄に広い…)」


流石お金持ち。そう心の中で呟き、私は服を脱ぎ始めた。私だってアイドルやってる分、一般の高校生に比べたら収入は倍以上あるけど、何分新人でまだ売れ始めたばかり。ギリギリの生活を送っていた。


「(まあ、記憶が戻った今、お父様達が残した遺産だとか、私の個人財産が残ってるの思い出したから、もうお金の心配はしなくていいんだけど…)」


服を脱ぎ終えた私は、勝手に使うのもどうかと思ったが、脱いだ服を洗濯機に入れ、洗濯機を回してから浴室へと入った。


「(脱衣所見た時から予想はしてたけど、やっぱり浴室もかなり広い…)」


白を基調とした浴室は、観葉植物が飾ってあったり、ガラスの小物が置いてあったりと、爽やかな上に、凄くオシャレな雰囲気が漂っていた。

そんな浴室に感心しながら、シャワーの蛇口をひねり、温度を調節すると私は頭からお湯を被った。どうせ学校は休む事にしたんだし、とはるかが言った通りゆっくりシャワーを浴びさせてもらった。

浴室から出ると、さっきはるかが言った通り、そこにはタオルと着替えが置いてあった。


「すごい、ぴったり…」


大きめのバスタオルで髪と全身をよく拭いた後、用意してあった下着や服に袖を通した。すると、下着も服も全部ちょうどいいサイズで、私は驚きを通り越し、感心した。


「(流石…私の事、本当によくわかってる…)」


それから暫くし、着替えを終えた私は、服の上からタオルを肩に掛け、脱衣所を出た。そしてさっき来た道を辿り、はるかの部屋を目指す。

その途中、どこからか話し声が聞こえて、私はその声の聞こえる方へと向きを変えた。

暫く歩いて、ある部屋の前で止まった。するとそこには…


「来た来た…シャワー浴びてすっきりした?」

「着替えのサイズもちょうどいいようね、よかった…」

「おはようございます夏希。」

「おはよう!夏希お姉ちゃん!」

「………え…?」


そこには、外部太陽系戦士全員の変身前の姿があった。って言うか…


「え…?ほたる、ちゃん…?え?ちっちゃくなってない…?」


「私が最期に見た時より、随分と小さくなっている気がする…。」私がそう言って驚いて固まっていると、みちるがはるかに問い掛ける。


「あら、はるかったら…夏希に説明してなかったの?」

「…そう言えば、まだしてないな…」

「あのねあのね!ほたると、はるかパパと、みちるママと、せつなママはね、この家で一緒に暮らしてるの!」


ちっちゃいほたるちゃんは、笑顔でそう教えてくれると、私に抱き付いて来た。


「(可愛い…)」


私は、ちっちゃいほたるちゃんをぎゅーっと抱きしめた。


「何かよくわかんないけど、ほたるちゃん可愛いからどうでもいい〜」

「えへへ、夏希お姉ちゃんも可愛いよ!」

「ありがとう、ほたるちゃん。」

「むぅ〜…ほたるの事は、ほたるって呼んで!」

「はいはい。よろしくね、ほたる。」

「うん!」


私がほたると呼べば、ほたるは嬉しそうに笑い、元気のいい返事を返してくれた。そんなほたるが可愛くて、私はほたるの柔らかそうな頬に、小さくキスを1つ落とした。


「まあ…」

「妬けるな…」

「よかったですね、ほたる。」


反応は三種三様。それでも、3人とも私達を見て微笑んでいた。

それから私は、みちるに髪を乾かしてもらい、せつなが用意してくれた朝ごはんをテーブルを囲って座り皆で一緒に食べた。ちなみに私はほたるの隣に座っている。

最初ははるかが私を隣に座らせようとしたんだけど、ほたるが「夏希お姉ちゃんはほたるの横!」って言って、はるかから私を奪ったのだ。ほたるに私を盗られたはるかは不満そうな顔をしていたが、みちるに宥められて渋々私の向かい側の席に座った。

まあ、私としては珍しいはるかが見れたから、それはそれでラッキーだった。ミニほたる可愛いしね。

皆で朝食を済ませると、私はみちると一緒に食器の片付けをし、はるかはソファーに座って優雅にコーヒーを飲み、ほたるとせつなは一緒に家を出た。

どうやらせつなは、ちびうさちゃんや希望が通っていた、十番小学校の養護教諭として働いているらしい。ちなみに、ちびうさちゃんこと、スモール・レディーと希望は、2人とも、時期は違えど未来に帰ったそうで、今はほたるがそこに通っているらしい。


「そういえば、夏希はうさぎ達と同じ高校に通っているのよね?」

「うん、同じクラスなんだー。」

「学校には行かなくていいの?」

「うん、今日は休むからいいの。どうせ今から行っても間に合わないし、午後から仕事で早退する予定だったから、遅刻するくらいなら、行かなくてもいいかなって。それに……ちょっとでも長く、はるかと一緒にいたいし……」


最後は恥ずかしいから小声で、みちるにしか聞こえないように言った。するとそれを聞いたみちるが「あら、はるかったら愛されてるのね…少し妬けるわ。」と綺麗に笑った。

そんなみちるに、「みちるも大好きだよ?」と言えば、みちるはまた綺麗に笑って、ありがとうと言ってくれた。

片付けが終わり、私はみちると一緒にはるかの元へ向かう。はるかの座るソファーに近付くと、はるかは私の手を引き、私を腕の中に閉じ込めた。


「まあ、はるかったら…夏希を独り占めなんて狡くってよ?」

「いいじゃないか、みちるは今まで夏希と一緒にいたんだから。少しくらい、僕に譲ってくれたって構わないだろ?」

「全く…仕方ないわね…」


クスクスと笑うみちるに、私を優しく抱きしめ微笑むはるか…この光景がすごく懐かしくて、私もつられて笑った。

するとはるかがいきなり尋ねて来た。


「夏希、どうしてアイドルなんてやってるんだ?」

「はるかと再会した公園でね、私倒れてたんだって。それで、倒れてた私を助けてくれたのが、事務所の社長さん…風音さんだったの。」

「倒れてた…?」

「うん…デス・バスターズ戦の最後で、私は確かに死んだはずだった…。暗く、静寂の闇に包まれた死の世界で、次の転生に備えて静かに眠ってたはずなんだけど……目の前に突然光が現れて、“あなたのいるべき場所はここじゃない。目覚めなさい”って、女の人の声が聞こえて…声の言う通り、目の前に現れた光に触れた瞬間、意識を失ったの。それで次に目が覚めたら…」

「その風音さん、って言う社長さんに助けてもらっていたのね?」

「うん……風音さんに助けられた時、私には記憶がなかった。それも、セーラー戦士に関係した…ここ2,3年の記憶だけ…。でも、はるかの優しい声だけは覚えてた。まだ私がエリカだった頃、宮殿のすぐ側にあった花畑で、私を抱きしめながら、好きだよって囁いてくれた声だけ…」


私の話を、はるかとみちるは静かに聴いていた。


「一部とは言え、記憶もなくて、住む所も、助けてくれる人もいない…。高校生になってバイトしたって、一人暮らししていく程の金額は稼げないし…って困ってたら、風音さんが内の事務所でアイドルやらないかって言ってくれたの。」

「それじゃあ、生活の為にアイドルに?」

「それもあるけど、好きだよって囁いてくれた声の主を探したくて……アイドルになって売れれば、いつか私を見付けてくれるかなって思ったの。」

「その作戦は見事成功して、無事記憶も取り戻したわけね?」

「うん!記憶が戻った今、アイドルやらなくても生活は出来るけど…助けてくれた風音さんの為に、これからは仕事頑張ろうかなって思ってる。風音さん、会って間もないのに、私にすごく優しくしてくれたの。それこそ、本当のお姉ちゃんみたいに…。まあ、最近は娘を心配するお母さんみたいになってるけど…」


そう言って苦笑する私に、はるかとみちるが続けて言葉を放った。


「こんな可愛い娘なら、例え本当の親子じゃなくても心配するさ…」

「そうね、それにその風音さんの世話を焼きたくなる気持ちもよくわかるわ。だって、私達の夏希は世界一可愛いんですもの…。更に記憶がなくて、1人ってなったら尚の事放っておけないわ。」

「もう、2人とも…そんなに可愛い可愛いって言わないでよ…。恥ずかしいでしょ…。それから、私別に可愛くないよ?」

「そんな事はないさ、僕の中では夏希が世界で…いや、宇宙一可愛くて、綺麗な女の子だよ。」

「私もよ。ほたるや希望も確かに可愛かったけれど、あなたは私達にとって特別な子だもの……目に入れたって痛くないわ。」

「はるか、みちる……2人とも大好きっ!」


私は腕を伸ばし、はるかとみちるに抱き付くと、2人もそっと抱きしめ返してくれた。
to be continued...
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