B
どうして地球には、バレンタインなんて言うイベントが存在するんだろう…。ただでさえ煩いのに、今日は更に煩くて鬱陶しい女の子達に、僕の機嫌は朝からずっと最悪。


「夜天くん!」

「チョコ受け取って下さい!!」

「私のも!」

「あ、私のも!」

「…あのさ、いい加減にしてくれる?いらないって言ってるでしょ。聞こえないの?僕には、君達からチョコ貰う義理なんてないの!もう追い掛け回すの止めてよね」


僕はそう言うと、女の子達に背を向け、自分の教室へと戻った。


「(本当ウザい…好きです、チョコ受け取って下さいって…本当の僕達の事、何にも知らない癖によく好きだなんて言えるよ…)」


騒がしい女の子達に苛付きながら教室に戻って来た僕に、1人の少女が話し掛けて来た。


「星野も、大気も、夜天も…皆朝から大変だね」

「別に…」


機嫌の悪い僕は、無愛想にそう答え、彼女の隣の自分の席へと腰を下ろした。そんな僕の返答に、彼女は少し寂しそうな顔を見せるがすぐに微笑み、再び僕に問い掛けて来た。


「…そっか…ところで、夜天は何で誰からもチョコ受け取らないの?星野と大気は、皆から貰ってるのに…」

「…好きだなんて軽々しく言う奴らの事なんて、信用出来ないから。…それに、好きな子からのチョコ以外、欲しくないから……」

「!夜天…好きな子、いたの…?」


僕の言葉に、隣に座る彼女は、大きな目を見開かせ、驚いた表情を僕に見せた。そんな彼女に、僕は再び無愛想な顔と声で、聞き返す。


「…何、いけないの?」

「あ、ううん!そんな事、ないけど……ほ、ほら!夜天さ、いつも女の子に冷たいから…その…恋愛とか、興味ないのかと、思ってた…」


彼女はそう言って、笑みを浮かべた。だけどその笑顔は、いつもの笑顔じゃなくて、今にも泣きそうな…悲しみを含んだ、そんな笑顔…


「興味なかったよ?恋愛なんて、くだらないって思ってた。…でも気付いたら、1人の女の子を、いつも目で追ってる自分に気付いたんだ。その子が星野や大気と話してるの見るだけでムカつくし、僕以外の人間に笑顔向けるだけでもムカつく…」

「…夜天、意外と独占欲強いんだね…」


僕の言葉に、彼女の笑顔は、更に悲しみの色を深くして行った。本当は今にも泣きそうなのに、一生懸命涙を堪え、僕に笑顔を向ける彼女…。そんな彼女に、僕は向き直ると、再び口を開いた。


「その子さ、いつも笑顔で、優しくて、一生懸命で……本当の僕達の事を見てくれようとする、唯一の女の子なんだ。…今も僕の隣で、本当は泣きそうなのに、一生懸命涙堪えて、僕を困らせないように、無理に笑って見せて…」

「…夜天……?」

「好きだよ…」

「え……?」

「他の子からのチョコなんていらない…君からだけ貰えたら、僕はそれでいいんだ…」

「!」


僕の言葉に、さっきまでの悲しみの表情を一変させ、顔を真っ赤に染め上げ、戸惑う彼女に、僕は優しく微笑むと問い掛けた。


「チョコ、くれないの…?」

「あ…えっと…そ、その……どうぞ…」


彼女は僕の問い掛けに、何度も吃りながらも机の中に仕舞っていたチョコを、僕に手渡した。


「ありがと」


僕はそれを受け取り、小さくお礼を言うと、クラスの人間が見ているのにも関わらず、大好きで仕方ない彼女へとそっと口付けた。これで彼女は、一生僕のものだと、知らしめる意味を込めて…
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