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- 「ねぇ、はるか。来年もまた、2人で一緒に来ようね!」
「あぁ、そうだな…。来年もまた、2人で一緒に見に来よう…」
「うん!約束、だよ…?」
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この約束を交わしてから、もう何年が経っただろう…。
あの夏、花火大会の夜、はるかと交わした約束は、未だに果たされていない。
「花火大会楽しみだねー!」
「…そうだね…」
「…どうしたの?今日元気ないね…」
「…大丈夫!今日特別暑いから、ちょっとバテてるだけなの…」
「それじゃ、早く会場に行って冷たいものでも食べよ?」
「うん…!」
そう言ってはしゃぐ友達の背中を見つめながら、私はあの夏の夜…私の手を引く彼の大きな背中を思い出した。
―――――
「ほら、手。こんな人混みの中で逸れたら、探すのが大変だからな…」
「もう!私そんなお子様じゃない!」
「とか言って、いつも迷子になるのは誰だっけ?」
「うっ…それは……」
「……ほら、夏希。手出して?可愛いお姫様を守るのは、王子の仕事だろ?」
「……バカ…」
―――――
「(…はるか…手繋いでなきゃ、また私、迷子になっちゃうよ…)」
「夏希?何してんのー?置いてくよー!」
「あ、待って…!」
私が自分の手を見つめ、ほんの少し思い出に浸っていると、少し先から友達の呼ぶ声が聞こえ、私は急いで彼女の後を追った。
―――――
「うわっ…やっぱ凄い人だねー…。…花火見る場所あるかなー…」
花火大会の会場に辿り着いた私達の目に映ったのは、今にも溢れんばかりの人、人、人…。そんな会場内を見た友達の心配そうな声に、私が言葉を返した。
「大丈夫!私穴場知ってるから!」
「本当!?」
「うん!こっち、付いて来て!」
私はあの夏の夜、はるかと一緒に見付けた穴場スポットへと、友達を案内した。
「すっごーい!本当に誰もいない!…へぇー…こんな所あったんだ……」
「うん。…昔、大好きだった人と花火見に来た時、たまたま見付けたの。」
―――――
「へぇー……こんな所があったんだ…」
「周り静かだし、花火は見えるし、いい所見付けたな…」
「そうだね!あ、そうだ。この場所、はるかと私だけの秘密ね?」
「あぁ…僕と夏希、2人だけの秘密だ…」
―――――
「…大好きだった、って…?」
「…その人、いなくなっちゃったから…。あ、別に死んだわけじゃないんだよ?…でも、ある日突然…私にも、その人の家族にも何の言葉も無しに、忽然と姿を消したの…」
「…そうなんだ……」
「……ごめん!何か暗い話しちゃったね!」
「ううん、気にしないで?それより、夏希の大好きなその人に、またいつか会えたらいいね…」
「…うん、ありがとう…」
それから少しして花火が始まり、私達の間に会話は無くなった。
「(はるか……今年もまた、花火大会の季節が来たよ…?)花火、凄く綺麗だよ……はるか……」
私の呟きは、花火を打ち上げる大きな音に掻き消され、静かに夜の闇へと消えて行った…。
煌めく大輪を見て思い出すのは、愛しいあなたの事ばかり
((はるか…
またいつの日か、
あなたに会えるよね?))