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朝、教室に入るなり、僕は彼女からこんな質問を投げ掛けられた。


「夜天、ホワイトデーって、何か予定ある?」

「は?ホワイトデーの予定?」

「うん!何か、予定入ってる…?」


僕にそう問い掛けながらも、どこか不安気な表情を浮かべる彼女に、僕は軽く首を傾げながら、彼女の問い掛けに答えた。


「?仕事の予定はあるけど…それが何?」

「あ、ううん…!特に何でもないんだけど……そっか…じゃあ、いいや!ごめんね、急に…私、自分の席戻るね?」


僕の答えに、夏希は一瞬悲しそうな表情を見せるも、すぐに笑顔を浮かべ、僕にそう言い残すと、窓際の一番後ろにある、自分の席へと戻って行った。ちなみに、僕の席は廊下側の一番前…

ついこの間まで、僕達2人の席は隣同士だったと言うのに、一昨日行った席替えで、僕達の席は極端に離れてしまった。


「何だったんだろ…」


僕は席に戻って行った彼女の後姿を見つめながら、小さくそう呟いた。

それから数日が経って、ホワイトデーがやって来た。今日は、普段応援してくれてるファンの子達に、感謝を伝えるだか何だかの握手会がある。

イベント会場の楽屋に着いた僕達は、いつもの衣装へと着替え、スタッフからイベントの流れを聞くと、楽屋を出て、ステージへと向かった。

僕達がファンの子達の前に姿を見せると、会場は女の子達のうるさいくらいの黄色い声で埋め尽くされ、僕は小さく溜め息を吐いた。


「(…うっざ…)」


そう思いつつも、これも仕事だと僕は必死にイライラを我慢して、作り物の笑顔を張り付けると、抽選で選ばれた100人の女の子と握手を交わした。

そしてイベント終了後、楽屋に戻った僕は、今まで溜め込んでいたイライラを、盛大な溜め息と共に吐き出した。


「はぁ……誰だよ、こんな仕事引き受けたの…」

「まあまあ…いいじゃねぇか!もう、終わったんだし…な?」


そう言って僕を宥める星野に、大気は苦笑を漏らしていた。そして次の瞬間、何かを思い出したような表情を見せた大気は、僕に問い掛けて来た。


「そう言えば夜天、夏希に渡すプレゼントは用意したんですか?」

「は?プレゼント?バレンタインのお返しじゃなくて…?」
「いや、それもあっけど、今日あいつの誕生日だろ?誕生日プレゼント、用意してないのか?」

「……は?」

「だから、今日は…」


僕の疑問の声に、星野は再び同じ言葉を繰り返した。


“夏希の誕生日”


星野のこの言葉を聞いて、僕は先日の、ちょっと様子がおかしかった彼女の姿を思い出した。


「誕生日って……今日…?」

「だから、さっきからそう言ってんだろ?」

「まさか、夜天…あなた知らなかったんですか?」


大気のこの言葉に、星野は驚いた表情を見せ、僕に真意を尋ねるべく問い掛けて来た。そんな彼に、僕は数秒の間を空け、不機嫌を露わにした顔を向けると、彼らに逆に尋ねた。


「……何で、星野達は夏希の誕生日知ってんのさ…」

「え?いや…この間あいつと話してた時に、そんな話になって…偶々知ったって言うか……な、大気!」

「えっ……え、ええ…」


僕の質問に、若干引き攣った笑みを浮かべそう答える2人を暫く睨むように見た後、携帯を取り出し、彼女へと電話を掛けた。


『もしm…』

「今どこ?」

『は…?』

「だから、今どこにいんの?」

『……家にいるけど…』

「わかった」


僕はそれだけ彼女に聞くと、すぐに電話を切り、急いで私服に着替えると、携帯と財布だけを持つと、楽屋を出て、すぐに夏希の家へと向かった。

運動なんて大嫌いなのに、ウザい女の子達の相手して疲れてたはずなのに、僕は気が付けば全力疾走で、彼女の自宅へと向かっていた。

それから暫くして、漸く夏希の家の前に着いた僕は、呼吸を整えるよりも先に、インターホンを押した。

そして数秒後、彼女の家の玄関の扉が開かれ、中から夏希が顔を出した。


「!夜天…!?どうしてここに…仕事は?」

「はぁ…っ…はぁっ……終わった…」

「とにかく入って?ここじゃ目立つし…」


僕は夏希に家の中へと招き入れてもらい、呼吸が整った所で、少し不機嫌さを見せながら口を開いた。


「何で今日が誕生日だって言わなかったの…?」

「……夜天今日仕事だって言ってたから、こんな事言ったって、困らせるだけかと思って…」

「何でそう思ったの?」

「…だって、誕生日だから、夜天に側にいて欲しいなんて…私の我儘だもん……夜天の邪魔、したくないの…!」

「誰がいつ邪魔だなんて言った?」

「え……?」

「誰よりも大切な夏希が、邪魔なはずないじゃん……バカ…」


そう言って僕は、彼女を抱きしめ、耳元に口を寄せると、そっと囁いた。


「誕生日おめでとう……これからもずっと、夏希が好きだよ…」

「!……ありがとう、夜天…っ」


目に涙を溜めながらも、嬉しそうな顔で笑う彼女に、僕の愛が彼女へと伝わるように、僕はありったけの愛情を込めて、愛しい彼女へとそっと口付けた…
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