- I LOVE YOU!
- “好き”
このたった二文字の言葉が出て来ない。
どんなに伝えたくても、どれだけ伝えようと思っていても、結局いつも言えず仕舞い。
彼を想うと、胸がキュンって切なくて、凄く幸せな気分になる。
彼を見ると、彼が愛おしくて仕方なくて、これまた胸がキュンってなる。
彼が他の女の子と話したり、一緒に居るのを見ると、凄く悲しくなって、胸が苦しい。
こんなにも彼が好きなのに、“好き”って言葉は、私の中から出て来てはくれない。
はっきりとした音になって、彼の耳へと、心へと届いた事は、未だに一度だってない…。
―――――
ある昼下がり、今日は天気がいいからって、私は夜天と一緒に屋上でお弁当を食べた。
それから私達は、特に何をするでもなく、何かを話し合うでもなく、ただ静かに、屋上の壁に背を預け、眩しい太陽の光を浴びながら、まったりと2人の時間を過ごしていた。
そんな中、夜天から突然掛けられた言葉に、私は酷く空しい気持ちになった。
「名前ってさ…」
「…?」
「本当に僕の事好きなの?」
「は…?何当たり前な事言ってんの?そうじゃなきゃ、付き合ってないし」
「…でも、もうすぐ付き合って1年経つのに、名前の口から、まだ一回も僕の事が“好き”って聞いた事ないんだけど…」
「!た、確かに、そう…だけど………わ、わざわざ言わなくても、私の気持ちは伝わってるでしょ?」
「…まぁ、何となくは…」
「何となくって……」
「だってさ、名前いつも肝心な事は言わないじゃん。こうして欲しいとか、ああして欲しいとか…それに全然甘えて来ないし。普通疑いたくもなるでしょ?」
そう言った夜天の顔は、疑い一色で、いつもの優しく、私を好きだと言ってくれる夜天はどこにもいなかった。
「っ……何、それ……それじゃあ何…この1年、夜天はずっと私の気持ち疑ってたのの…?私が何も言葉にしないから…私が何も行動しないから………?」
「……仕方ないじゃん…名前がいつも、そう言う態度しか取らないんだから…」
夜天のこの言葉に、私の中の何かが少しずつ崩れ落ちていく。
「そ、う……」
悔しかった。
これだけ言われて、夜天に何も言い返せないでいる自分が。
空しかった。
大好きな、誰よりも大切に思っている夜天に気持ちを疑われた事が。
悲しかった。
“好き”と言う、たった2文字の言葉を伝えられずにいる自分が。
腹が立った。
言葉がなくても、想いは通じ合ってるなんて…馬鹿みたいに甘い考えだった自分に。
言葉にしなきゃ、自分の気持ちが相手に伝わらないのは、当たり前の事なのに…。
「…………ねぇ、何とか言ったらどうなの?」
先程の台詞のショックが余りにも大きく、俯いたまま放心状態で、一言も話せないで居る私に痺れを切らした夜天が言葉を漏らす。
しかし、一向に口を開こうとも、顔も上げようともしない私を見限ったのか、夜天は溜め息を一つ漏らすと、静かに立ち上がった。
「………………はぁ…もういいよ…。バイバイ……」
「!っ、待って…!!」
私に背を向け、屋上の入口へと向かって歩き出した夜天の制服の裾を私は咄嗟に掴む。
「何?もう君と話す事はない。離せよ」
咄嗟に彼を引き止めた私に向けられるのは、酷く冷たい、悲しみと怒りを含んだような視線…
そんな夜天を見て、私の心は苦しいと悲鳴を上げる。
先程の夜天の台詞なんかよりも、大切な人にこんな顔をさせてしまった事の後悔、申し訳なさ、そして止めどなく溢れ出る愛おしさに、私の瞳からは涙が零れ落ちた。
「っ………好き……」
「!」
「大好き、なの…!他の誰よりも、ずっと…ずっと……夜天の事が……っ、夜天だけが…好きなの…!夜天の事考えると、胸が苦しくて…っでも、凄く愛おしくて……幸せで……。夜天の顔見ると…凄くドキドキして……上手く話せないし、恥ずかしくて…今までずっと言えなくて…」
後半に行くに連れ、言葉の勢いは失われ、声は震え、夜天の制服の裾を掴む力は徐々に弱々しくなっていった。
「それでも…私の気持ちは、ちゃんと伝わってるなんて思い込んで……夜天傷付けて………最低、だね……」
涙を流しながら苦笑と共にそう告げ、私は掴んでいた手をゆっくりと離した。
「傷付けてごめん……今まで、いっぱい不安にさせてごめんね………」
「名前……」
「………っ…引き止めてごめんね…!最後に…話聞いてくれて、ありがとう……」
震える手で自身のスカートを握り締め、精一杯の、だけど不器用な笑みを浮かべる私を見て、夜天は今にも泣きそうな表情を見せた。
「……どうか…お幸せに……」
笑顔が限界を迎える直前に顔を俯かせ、勢いよく立ち上がった私は、夜天の横を通り抜け、校舎へと続く扉へと足を向ける。
しかし次の瞬間、今度は夜天が私の手首を掴み、校舎へと向かおうとする私を引き止めた。
「自分だけ言いたい事言って、言い逃げするつもり?」
「……お願い……離して……」
「離さない」
「お願い……っ…じゃなきゃ、私……夜天から…離れられなくなっちゃうよぉ……!」
「だったら尚更。絶対に離さない…」
「!」
その言葉と共に、夜天は私の腕を引き、自身の腕の中に私を閉じ込めた。
「夜て……」
「僕から離れるって?名前の癖に生意気だ…ふざけんな。やっと好きな奴の口から僕が好きだって聞けたのに、離れようなんて絶対に許さない…」
「!…だって……夜天が…っ…」
夜天の言葉に、私の瞳からは止めどなく涙が溢れ、何かを言おうにも、今まで以上に声は震え、言葉の代わりに漏れるのは嗚咽ばかり…
夜天はそんな私の両頬に手を添え、顔を上げさせると、先程とは違って、困ったような、だけど何処か嬉しそうな、幸せそうな笑みを零し私に告げた。
「さっきの言葉は撤回するよ…。僕の幸せは、素直じゃない名前が側に居て、初めて成り立つんだ…。名前ナシの幸せなんて、僕には考えられないよ…」
「ふ、ぇ……っ…」
嬉しさの余り子供のように声を上げて泣く私を、夜天は幸せそうに笑いながら、ギュッと抱きしめた。
あなたの言葉一つで
(こんなにも一喜一憂するのは、
それだけあなたの事を
愛してるって証拠だから…)