P r e s e n t
※設定が謎い





それはあまりにも突然で、私は己の耳を疑った。


「え……?」

「っ、だから…今日の放課後、好きな子にあげるプレゼント買いに行くの付き合ってって言ってんの!」


そう顔を赤く染め、恥ずかしいのか私から視線を外して言う夜天を見て、私がさっき聞いた言葉は、私の聞き間違いじゃなかったのだと理解した。


「(夜天、好きな子いたんだ…)」


混乱する頭の中でも、どこか冷静な自分が、頭の隅でそんな事を考えていた。

夜天と私は所謂幼馴染。家が隣同士で、親同士も仲良くて、本当に赤ちゃんの頃から今までずっと一緒だった。

自分でも何てベタなんだと思うけど、私は昔から夜天の事が好きで、今も尚、絶賛片想い中だ。


「(あ、でも夜天好きな子いるんだっけ…)」


初恋は叶わないとよく言うけれど、その噂は本当だった。たった今、16年彼を想い続けて来た私の初恋は、実るどころか、私が夜天に想いを告げるよりも先に、音もなく崩れ去ってしまった。

そんな複雑な心境で、考え事に耽っていた私に、夜天は先程の質問の答えを求めて来た。……この鬼畜野郎め…。


「…で?付き合ってくれるの?くれないの?」

「………(どうしよう……)」

「?ちょっと、名前?聞いてんの?」

「…聞いてる…」

「じゃあ、何で返事しないわけ?今日何か予定でもあった?」

「何もない…」

「じゃあ、放課後付き合ってよ。どうせ家帰ったってやる事ないんだから」

「……わかった」


そんなこんなで、私は結局夜天の買い物に付き合う事になってしまった。他の誰かの為に一生懸命になる夜天なんて見たくないなんて思ってっても、夜天の彼女でも何でもない、ただの幼馴染の私には、そんな事言う資格も勇気もなくて、夜天の頼みを受け入れるしかなかった。

それから暫く時間が経って、放課後を迎えた私達は、学校近くの商店街にある雑貨屋さんへと足を運んだ。ここならアクセサリーだったり、香水だったり、癒しグッズだったり…色んな物が揃ってるから、プレゼントを選ぶには最適の場所だと思ったからだ。

正直言えば、今日は帰って部屋に閉じこもってしまいたかった。何が悲しくて、好きな人の好きな人へのプレゼントを選ばなくちゃいけないんだろう…

しかし、そんな事を思っても来てしまったものはどうしようもないと言う事で、私は夜天にバレないように、諦めを含んだ小さな溜め息を1つ零し、隣に立つ夜天へと視線を向け問い掛けた。


「…それで?何買うの?」

「名前が選んでよ」

「はぁ!?あんたの好きな人でしょ!?だったら夜天が選びなさいよ!何で私が選ばなきゃいけないのよ!大体、その子の好みとか何も知らないのに、選べるわけないでしょ!!」


失恋のショックやら、夜天の適当さとか、色んな事にイライラしていた私は、夜天に向かって説教染みた八つ当たりの言葉を吐いた。


「……何怒ってんのさ…」

「うるさい!馬鹿!」


私は夜天にそう言い残すと、1人で店の奥へと入って行き、何かいいアイテムがないか店内を物色し始めた。


「(何で私が恋敵のプレゼント選ばなきゃいけないのよ!夜天のアホ!!)」


イライラしながらも、私はピアスやネックレスと言ったアクセサリー類を見ていた。その時、私の目にふと入って来たのは、自分で好きな石を選んで、オリジナルのアクセサリーを作れると言うものだった。


「へー…パワーストーンのアクセサリーか……あ、月別じゃなくて、1日1日の誕生石の一覧だ……えーっと…」


私が誕生石の一覧を眺めながら、いくつかパワーストーンを選んでいると、いつの間に来たのか、私の後ろには夜天が立っていた。


「…何してんの?」

「え?あぁ…何かね、自分の好きなパワーストーンで、オリジナルアクセ作れるんだって!」

「…何か作るの?」

「うん。ネックレス作ってもらう」

「ふーん……」

「夜天、プレゼント決めたの?」

「まーね」

「ふーん……っよし、レジ行って来る!」


私は選んだパワーストーンと、それを付けるチェーンや飾り部分を選び終えると、それを持ってレジへと向かった。

会計を済ませ、ネックレスを作るのに少し時間が掛ると言われたので、私はその事を夜天に伝えに先程の場所まで戻った。

そして戻って少しだけ後悔した。先程まで私が誕生石の一覧を見ながら、石やらアクセ素材を選んでいた場所で、夜天は何やら真剣な表情で、でもどこか優しさを含んだような表情で、先程の私同様、石やらアクセの素材を選んでいた。


「(…本当に、その子の事が好きなんだね…夜天……)」


私は痛む胸を押さえ、涙が零れないように、必死に自分の気持ちを押し殺した。


「(夜天の隣にいるのが私じゃなくても、夜天が幸せなら、それでいいじゃない……好きな人が幸せなら、それで…)」

「名前?」

「!夜天…」

「具合でも悪いの…?」

「あ、ううん…大丈夫!それより、アクセ作るのに少し時間掛かるんだって!ちょっと待っててもらってもいい?」

「わかった。僕もレジ行って来る」

「うん、行ってらっしゃい」


私は、選んだ素材を持ってレジへと向かう夜天を今出来る限りの笑顔を浮かべ見送り、夜天の姿が見えなくなってから顔を俯かせた。


「…痛いよ…」


胸を押さえながら、そう小さく呟いた私の声は、誰の耳にも届く事もなく、店内の雑音の中へと消えて行った。

あれから暫くして、私の頼んでいたネックレスが完成し、私達は店を出て帰路へと着いた。ちなみに、夜天の頼んだ物は後日取りに行くらしい。


「今日は、ありがと…その、付き合ってくれて…」

「ありゃ…夜天がお礼なんて珍しー…」

「っ…べ、別にいいでしょ!じゃあね」

「はいはい、また明日ね!」


私が少しからかうように言うと、夜天はほんのり頬を赤く染め、口早にそう言うと、さっさと自分の家へと入って行った。それに続き、私も自分の家の中へと足を進めた。


「ただいまー」

「おかえり、名前ちゃん……あら…」

「?どうかした…?」

「それはこっちの台詞よ…名前ちゃんこそどうしたの?今にも泣きそうな顔してるわよ…?」

「……ママ……私ね、失恋…っ…しちゃった…」


私は玄関だと言う事も忘れ、出迎えに来てくれた母親に抱き付いて、静かに涙を流した。ママはそんな私を何も言わず優しく抱きしめ、私が落ち着くまで頭を撫でてくれていた。

それから数日…私の夜天への想いは、相変わらずふっ切れていない。そのせいもあってか、何となく夜天といるのが気まずくて、私は彼を避けるようにここ数日過ごして来た。

それまでは、毎日の登下校も、お昼の時間もずっと一緒だったから、クラスメイトや友達からは喧嘩でもしたのか、何かあったのかって心配、疑問視されたけど、私がその問いに答える事はなかった。

そんなある日の放課後、日直で残っていた私に、同じく日直で残っていた星野が、疑問を投げかけて来た。


「……なぁ…お前ら、本当に何があったんだ?」

「またその質問?いい加減聞き飽きたんだけど…」

「お前も夜天も何も答えないからだろ?皆気になってんだよ…あんな仲良かったのに…」


星野はそこまで言うと口を閉じた。まあ、星野の言いたい事はわかる。確かに、今までの私達は、毎日の登下校も、お昼の時間もずっと一緒だった。後輩や先輩、たまに同じ学年の子からも、付き合ってるのかと尋ねられるくらい、私達はずっと一緒にいた。だからこそ、私は離れた。夜天に、幸せになって欲しかったから…

でも、私がそんな事を考えてるなんて、誰も知らない。だから皆、喧嘩しただの、何かあっただの、心配半分、興味本位で聞いて来るのだ。


「……ねぇ、星野…そんなに知りたい?」

「え…?教えてくれんの?」

「んー……まあ、星野がここだけの話にしてくれるなら、話してもいいかな…?」

「!約束する!絶対誰にも言わない!!」

「……誰かに漏らしたら殺すわよ?」

「わ、わかった…」


日誌を書く手を止め、私が少しドスを利かせて、脅すように言えば、星野は何度も首を縦に振り、私の言葉に同意した。そんな彼を見て、私は若干呆れながらも、ゆっくりとその口を開いた。


「…あのね、別に私達の間に何も起こってないの。ただ、私の心境って言うか…状況が変わったってだけ……このままじゃいけないって思った。だから離れたの…」

「?どう言う事だ…?」

「…私ね、ずっと夜天の事好きだったんだ。でも、その夜天にも好きな人がいて……私は気持ちを伝える前に失恋。けど夜天は、あの容姿だし、頑張り次第では上手く行くと思う。だけど、私が近くにいたら、上手く行くものも、上手く行かなくなっちゃうでしょ…?だから離れたの。ただの幼馴染って言っても、相手の子からしたら嫌だろうしさ…夜天には、幸せになって欲しいから…」

「お前…」

「そりゃ、誰かに夜天取られるのは悲しいし、悔しいけどさ……いつまでも、幼馴染のままでなんていられないのも、いつかこうなるって事もわかってたし…。だから私は、滅多に笑わない夜天が、誰かの側で笑ってくれるなら…その誰かが私じゃなくても、夜天が幸せでいてくれるなら、私はそれでいいの……」

「名前……」


そう言って苦笑を漏らした私を見て、星野は複雑そうな、でもどこか悲しそうな面持ちで、夜天とはまた違った綺麗なその顔を歪めた。

そして、一瞬の静寂の後、教室の扉が開く音共に現れた夜天に、私は驚き、目を見開いた。


「夜天!?」

「ちょっと来て」

「え?ちょっ、夜天…!?」


夜天が教室内に入って来たと思ったら、彼はすぐに私の手を掴み、そのまま教室を後にした。

それから少しして、私達が辿り着いたのは、夕焼けに染まった学校の屋上。そして屋上に着くなり、夜天はガシャンと言う音共に、私をフェンスと自分との僅かな間に閉じ込めた。


「っ、ちょっと!急に何、を……」


私は背中に衝撃を受けた後、文句を言おうと目の前の夜天を見上げた。しかし、彼を見上げた瞬間、私は何も言えなくなってしまった。

何故なら、私が見上げた夜天の表情は、今までにないくらい、悲しみに歪んでいたから。


「夜…天……?」

「………んで……」

「え……?」

「…何で……名前がいなきゃ、幸せになんてなれないのに……っ…僕の幸せ祈るくらいなら、ずっと側にいてよ!!」


そう言って夜天は、凭れかかるように私の肩に頭を乗せ、私を抱き締めた。


「好きなんだ…名前の事が……」

「!」

「ずっと昔から、名前が好きだった……だから、僕に幸せになって欲しいなら…僕から離れるな…」

「夜天……」

「離さない…っ…名前は、絶対に誰にも渡さない」


そう言って抱き締める腕の力を少しだけ強めた夜天の背に、私はそっと腕を回し、彼を抱き締めた。


「…夜天……私、夜天の側にいていいの…?」

「当たり前でしょ…僕の隣は、いつまでも名前じゃなきゃ…」

「夜天…っ…」

「好きだよ、名前…」

「私、も…っ……夜天が、好き…」

「これからは、“幼馴染”じゃなくて“恋人”として、僕の側にいてくる…?」


私は夜天のその問いに、涙を流しながらも、何度も何度も頷いた。



君の幸せは、僕の幸せ



(あ、そうだ…はい、これ。誕生日おめでとう)
(え…?誕生、日…?)
(今日でしょ、名前の誕生日)
(…………あ、本当だ)
(…まさか、自分の誕生日忘れてた?)
(あはは………って事は、この間のは、私の誕生日プレゼントを買いに…?)
(そうだけど?)
((悩んでた自分が馬鹿みたい…))
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