Memory(WAジェット夢)

ファルガイアでは結構緑豊かな方の土地、ブーツヒル。その丘にある墓地に赴くと、赤と白のマフラーを靡かせながら、ジェットがヴァージニアの父ウェルナーさんの墓の前に立っていた。
ジェットは黙ったまま墓をじっと見つめていて、考え事でもしていたのか私が隣に立つとようやく気付いたようにこちらを向いた。


『もしかして、ヴァージニアの家に荷物置いてからずっとここにいたの?』

「………」

『沈黙は肯定と取るよ?』


また沈黙。喋りたくないと思っている時のジェットは本気で何も喋らない。まぁ良いかと思い、私はここへ来た目的を果たすことにした。


『そうだ、ジェットにもこれをあげよう』

「…ブレスレット…これは宝石か?」

『ジェットって名前のね』


黒い宝石を幾つか連ねたブレスレットを手渡した私の言葉にジェットは少しは驚いたみたいで、瞬きを数回繰り返した後俺と同じ名前か、とだけ呟いた。


『それの宝石言葉は忘却で喪の宝石とも言われてる。因みに夢魔とか闇の力を退けるパワーストーンでもあるんだよ』

「…今の状況におあつらえ向きってことか」

『そういうこと』


ブレスレットを見つめながら握り締めて、ジェットは自嘲気味に笑った。


「…忘却、か。俺が死んだらすぐに忘れられるんだろうな」

『…ジェット』

「こうして誰かに悼まれることなく、想い出から消えていく…なるほど、ジェットって名前は俺らしいな」

『そんなこと言わないで!』


ジェットの言葉を遮るように叫んで、空いていた右手を両手で握る。強く握り締めていないと、力を込めないと、目からじわりと溢れてきた涙が落ちてしまいそうだ。


『そんなこと言わないでよ…私は絶対忘れないのに…』

「…アイ?」

『私は忘れたりなんかしない、ジェットが死んだら墓作って悼む、むしろ死なせなんかしないんだから…』


なんでそんな自嘲するようなことばかり言うの、想い出作っていくんじゃないの。


『それは、悲しみを乗り越える、そういう意志を表す為のものなのに…』


ぽろり、堪えきれなかった涙が一粒流れ、頬を伝って地面に落ちた。一人でこんな悲しんで、傍から見たら馬鹿みたいなんだろうな。でも、やっぱり嫌だ。好きな人が、縁起でもないこと言うなんて。


「お、おい。なんで泣いてんだよ…」

『ジェットのせいだよ、馬鹿…ひっ、うぇ…』


一度流れてしまった涙はそう簡単には引っ込められない。堰を切ったように涙がポロポロ零れて嗚咽も漏れる。悲しくて、情けなくて、悔しくて。ああもう、私も馬鹿。泣いたってジェットは困るだけじゃない。

ジェットは困ったように辺りを見回して誰もいないことに気付き、頭を掻いて眉を顰めると、グローブを外した手のひらで乱暴に私の目元を拭ってきた。加減を知らない手は少し痛い。


「ったく、泣くなよ。顔ぐしゃぐしゃだぞ」

『うぇっ、だって、私はジェット大好きだから、絶対忘れたりしないのに…!!まるでジェットがまだ独りみたいなこと言うから…私達との想い出否定されたみたいで…!!』

「……ッ!」


ジェットと仲良くなれたと、ジェットの想い出の中に刻まれたと思っていたのに。旅の全てを否定されたみたいで。それが一番悔しい。おかげでまた涙が出てきた。


『ジェットは私達との想い出要らないの…?』

「ッ、要るに決まってんだろ…!!ただ…俺との想い出が欲しいのかなんて分からねぇんだよ、なんせこんな性格だからな」

『…欲しいよ。好き、大好きだもの。要らなかったらこんな風にジェットと居ようと思わない』


今までジェットと過ごしてきた想い出は全て私の大切なもの。今の私には、ジェットの存在が私が戦う理由。

拭ってもまた流れてくる涙にジェットは溜め息をついて、片手で私を抱き締めるように自分の胸元に寄せた。誰にも、ジェットにも私の涙が見えないように。


「俺が悪かったよ、だからもう泣くんじゃねぇって…俺だってお前の泣き顔記憶に残したい訳じゃねぇんだからよ」

『…もう変なこと言わないでよ』

「分かったよ…そんな熱心に言われたらな。好きとか連呼しやがって…」

『…それが私の気持ちだもの。別にジェットがどう思ってても構わないけど、私は好きだから』


なんだか勢いで言ったみたいになっちゃったけど私の本心だから。そういう気持ちを込めてにっと笑うとジェットは眉間に皺を寄せてふいと顔を逸らしてしまった。
でも、マフラーに顔を埋めても見える耳が赤いから、ちょっとは効果あるのかな?

すると、ジェットが何やらもごもごと呟いたけど、小さいしマフラー越しでよく分からなかった。


『え?なんて言ったの?』

「…別に」

『別にじゃないでしょうが!気になるじゃない』

「そんな聞くほどのもんじゃねぇよ。ただ…俺もお前と似たようなこと思ってるってだけだ」

『…へっ?それって…』


どういうこと、と訊こうとした瞬間にジェットははっとしてもういいだろ!と言うとそそくさと墓地から出ようとする。
一緒にぬくもりまで離れてしまって、私は掴まえようとしたけど足が早くて触れない。


『ちょっ…私の都合のいいように解釈しちゃうよ!?』

「勝手にしろ」


逃げるように去るジェットの背中を立ち止まって見送る。勝手にしろって…そんなこと言うと私とジェットが両想い、なんて解釈しちゃうよ。
…ジェットがどう思ってても良いとは言ったけど、両想いならこんな嬉しいことはない。

今日のことは、もしかしたら一生忘れないかもしれない。手首につけた私の大好きな人の名を冠したブレスレットをひと撫でし、そんな風に考えた。



_
ジェット(宝石)の存在を知った瞬間これだ!と思って勢いのままに書き始めたは良いけど途中で訳分からなくなってなんとなく気に入らなかったからボツ。だからある程度話を考えてから書けと…!!
どうしてもキャラ的に想い出というキーワードを絡ませたくなるから似たり寄ったりの話になるんだよね。あんな性格だし。

因みにジェットは夢主のこと好きというか、夢主との想い出欲しいと思ってたり。

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