君といられて僕はとても幸せです。
そう言うと、「私も」と返された。二人で顔を見合わせて小さく笑い合う。
響かないようにしたつもりだったんだけどそれが聞こえてしまったようで、障子が勢いよく開かれて酒の臭いを纏った男が不機嫌な顔で入ってきた。こんな日中に家で何をしているのか。
二人して顔を青くしてごめんなさいと叫ぶ。しかしその声も癪に触るようで叫びを無視して床に座る僕らを蹴り付けた。
狭い部屋だし僕らは部屋の隅の方にいて、壁に思い切り背中をぶつけてしまったし隣にあった家具の角に肩を打ち付けた。足は一瞬何かおかしい方向に曲がった気がする。痛い。
悲鳴すら上げられなくなった頃に漸く静かになったとまたのしのしと自分の生活スペースに帰っていった。
少ししたらいびきが聞こえ始めたから寝たのだろうと悟って僕は起きあがった。
どうやらあの男は寝ようとしているのを邪魔されて不機嫌だったらしい。
「大丈夫……?」
起き上がっても何も言わない僕を見て不安になったのかそろそろと近づいてきた。
「僕は大丈夫。それにしても治りかけてた痣の上から殴るのは勘弁して欲しいね」
そうだね、と彼女は自分の腕をさすりながら自嘲気味に笑った。自虐ネタはウケないか。
「君といられて僕はとても幸せです」
さっきはあの人に邪魔されたからね、仕切り直しだよ。
「うん、私も幸せ。君がいなかったらとっくに壊れてる」
いてくれてありがとう、と柔らかく微笑む彼女を見て決心がついた。
一緒にいられて僕は幸せで彼女も幸せだとそう言ってくれたけど、それでも僕の幸せのために女性である彼女を辛い目にあわせるのは忍びない。
「好きだよ、好き。愛してると言っても過言じゃない」
両手を彼女に伸ばした。抱きしめられると判断したようで手を少し僕の方へ伸ばした。
「そう? ありがとう」
彼女にそういう事を言ってみても全て流されてしまう。子供だと思われているんだろうか。
伸ばした手を背中ではなく首に回した辺りで何かおかしいと思ったのか彼女が首から手を引き離そうと僕の手首を掴んだ。
「ね、もう弱くないよ。守ってもらう必要なんてない。だから姉さんは僕等家族から解放されるべきなんだ」
結局最期まで僕の想いは届かず仕舞い。一方通行は悲しいね。
腕の中で眠る彼女を見て溜息を吐いた。
僕は今まで愛していた彼女を守るために存在していたわけで、守る対象がいなくなったのなら僕が生きてる意味もないわけで。それではおやすみなさい。
おあとがよろしいようで。