飛べない鳥は籠の中、と相場が決まっている。そして、其れは大概万人が認める美しさを持っていて何故か手に入れることができない。ならば何故美しい鳥は籠の中なのか。
決まっている。罠に掛けた誰かがいるのだ。美しく純粋な鳥は優しそうな顔をした人間にひょいひょい付いて行ってしまう。
だから翼を手折られた美しい鳥がこうして籠の中にいるのは必然。
「ただいまです」
にへ、と微笑みながら窓の外を眺める鳥に声を掛ける。鳥は返事もしなければこちらを振り向きもしない。ほんの少し身動いだだけだ。
そこまで慣れてくれたのか、と思うと少し嬉しい。それに最近は手すがら物を食べてくれる。最初の頃なんて食べないし暴れるし睨んでくるし。お陰で僕の手は傷だらけだった。
今は一応警戒心を解いてくれたのかな、自分にこれ以上の危害は加えてこないって理解したから大人しいのかな。分かんないなやっぱり。
「今日、なに、食べたい、ですか?」
冷蔵庫を漁りながら聞くと相変わらず返事は来ない。何でもいいのだろうか。そういえば何でも食べていた気がする。じゃあある物で済ませてしまってもいいか。
「……いらない」
ぽつりとそんな声が聞こえた。この美しい声の持ち主は誰かねと喜劇風に問おうとした辺りでこの美しい声の持ち主は此方に座する美しい鳥だと云うことを思い出した。
しかし久しぶりに発した言葉がいらないとはどういうことでしょう。
「ちゃんと食べないと、体に良くない……です」
腰に手を当てて眉を寄せて正に説教する体で言うも心の中では久しぶりに聞く彼の声に喜びの喇叭が止まらないという奉られっぷりだった。表に出さないよう堪えるだけで必死になる。
「いらない……から、」
その先は余りに小さな声で言うから聞こえなかった。なんて、嘘です聞こえていました。貴方の美しい声を一言たりとも聞き逃したりするものか。
そう、彼はとても小さな声で、「抱いて」と。
あまりの嬉しさに返事をするのも忘れて彼を引っ張ってベッドにダイブした。