「あのね、」
隣で退屈そうに欠伸をする彼に話しかける。
欠伸がおさまって、溢れた涙を袖で拭ってから「なに、」と返された。
「俺を飼って下さい」
「犬は苦手だ」
犬なんですか。犬って決まっちゃったんですか、俺は犬ですか。
「何で駄目なんですかぁ」
泣きそうな声で懇願するように聞いてみる。
「騒がしいしすぐ穴開けるし」
「俺は静かですしあの壁の穴はあなたが酔って帰ってきたときに暴れて開けたものですよ」
不満そうに言うとバツが悪そうに目を逸らした。そういえばあの時の修理代まだ返して貰ってないからそういう意味もあるのかもしれない。
「大体何でいきなり俺を飼えって」
「むぅ、分からないんですか」
眉をしかめて怒ったように頬を膨らませる。
彼はそれを無視して分かる訳ないだろう、と答えた。ご機嫌取りくらいしてくれたっていいと思います。
「だって、そしたらずっと一緒にいられるでしょう?」
ぎゅう、と背後から自分より少し小さい身体を抱きしめる。はぁ、と息を吐く音が聞こえた。呆れられたかもしれない、今更かな。
「じゃあ、今度の日曜首輪買いに行くか」
カレンダーを見つめながら呟いた。何を言っても無駄だと判断したんだろう。