今日はとても楽しかった。
 高校時代の友達に再会したり、豪華な食事もした。やたらみんな着飾ってたな。かくいう俺が一番、いや、二番目に着飾ってた。一番華美な格好をしていたのは俺の隣で人形のようにただにこにこ笑って座っていた別嬪さんだ。
 やたらごてごてと飾っていてその人本来のシンプルな美しさ?のようなものを潰しているようにしか見えない。
 それでもちゃんと綺麗に映るんだから余程美人さんなんだろうなとは思う。いや美人。こんなのが街中彷徨いてたら間違いなくナンパするな。ってくらい美人。
 ただしそれは、女性であれば、の話で、誰が好き好んで同性をナンパなんてするのか。そう、結婚然り。

「お前やっと一人の相手に落ち着くと思ったら男かよ」

「やだ酷い、私は遊びだったの? なんて、一回言ってみたかったのよねー」

「そっちの人なら言ってくれれば良かったのにぃ」

「安心しろよ俺らいつまでも友達だろ、でもこれからは半径3m以内には近付かないでくれよ?」

 エトセトラエトセトラ。とにかくまぁみんなふざけているにしてもなかなか辛辣だなぁ、と。隣の新婦が泣いちゃうだろと思いながら目を向ければ

「私は大丈夫です、けど、あの、だ、旦那、様、は……」

 と。俺のことを気にするならまず旦那様呼びはやめてくれ。またみんな盛り上がっちゃうから。本当。寧ろ盛り上がってるから。


 散々食って飲んで囃し立てて奴等は帰っていった。
 正直疲れた。そう母さんに今日の感想を聞かれたときに答えたらホテル取ってあるからそこに泊まりなさい、と言われた。珍しく気が利いてるじゃねぇのと意気揚々と向かったらいやここホテルじゃない。
 何か、和風、じゃなくて、此処今日みんなで飲み食いした所じゃん、おい。
 そっか。ここ一応宿泊施設なのか。しかし高そうだよな、何かいい事でもあったのかな母さん。
 部屋に入ると中は暗くて、まあどうせ寝るのだからと、暗い視界の中を進んで行った。というより、筋のような光が見えたからそこを目指した。案の定その光の筋は襖の向こうに明かりが付いていてそれが漏れていたようだった。
 ならばここは寝室で然るべき。と襖を開け部屋に入る。部屋には既に布団が敷かれていたので、安心して眠りに付こうとして枕を見る。

「……? 何故、二つ……?」

 枕が二つ揃って並べられていたのだ。ホテルなら分かる。ベッドだしな。しかしここは旅館ではないのか。和室だし布団だし、枕が二つなければいけない理由も二つある理由も分からない。
 不思議に思いながら二つの枕を見ていると畳を踏みしめる音がしたので振り返った。

「あ、旦那、様、」

 風呂にでも入っていたのか襦袢だけを身に付けた姿の今日の主役だった男が顔を出した。

「あれ、え? どういう状況コレ」

 何かに酷似している気がする。そうだあのドラマとかでよく見る感じの。

「ぇっと、その、初夜、です」

 もじもじしながら布団の脇に歩いてくる。男がそんなもじもじくねくねしてたら気持ち悪いだろうと思うのだが、何故かコイツがやるとハマりすぎてて、生まれてくる性別間違えたんじゃないかと思う。
 布団の脇まで来るとゆっくりとした動作で正座をする。
 ああもういいやめてくれ頼む。どっきりならばもう十分驚いたさ。
 そいつは正座をしたまま少し前に体を動かして、畳に三つ指を付いた。

「……旦那様、お情けを頂戴に上がりました」

 さっきまでの狼狽はどこへやら。はっきりとした声音で頭を下げる。いやだから、何なの朝から。何ドッキリ?もうやめてくれ。やってる本人がドッキリと縁のない顔してるだけにマジに思っちゃうから。

「不束者ですが、よろしくお願い致します……」

 正に止めと言っても過言ではないな。お前は嫁入りでもする気か。誰にだ。俺になのか嘘だろ。
 頭を下げた時と同様にゆっくりと綺麗な動作で頭を上げた。

「いやいやいや、ダンナサマって何よ? 冗談? 冗談になってないからさ、もう騙されたし、」

「旦那様はご不満ですか」

「いや、不満って言うかさぁ、」

 不満も何もこの状況がおかしいだろ、と続けようとしたところで考えるような仕草をしていたそいつがいきなり笑顔になった。

「では、アナタ、と呼ばせて貰います」

 名案だ、とでも言わんばかりの爽やかな笑顔でそう訴えるこの鈍感にどう対処すべきなのか。
 そんな苦い顔をしている俺を見て今度は何を思ったのかまた口を開いた。

「アナタもご不満ですか……。ん、えと、だぁッ、……り、ん?」

 呼びたくないなら呼ばなきゃ良いだろうと思うのだが、ダーリンはやめろダーリンは。何だか浮気したらエラい事になりそうな呼び方はやめてくれ。
 いつまでも納得しない俺に焦れたのかいきなり立ち上がった。

「いいです。呼び方は追々。今夜の目的はそれではありませんいいですか旦那様、これは、初夜です」

 そう早口にまくし立てると、俺に向かって倒れ込んでくる。ああなるほど、初夜ね。倒れたときに襦袢が肌蹴たのか隙間から見える太股が艶めかしいです。

「いい加減にしろよ」

 流されそうになりながらも人の上に跨るそいつを押し返す。

「嫁だと? ふざけるな此処は日本だ男性同士は結婚できないし何より俺はノンケだ。可愛い女の子と適当に付き合う、それでじゅーぶん。嫁とか要らないの。分かった?」

 さっきそいつがやったようにぺらぺらと早口で訴えると驚いたようで押し返されたときのまま停止していた。
 これで分かったならいいだろう。固まってる男を後目に俺は部屋から出て行った。また何か言われるんじゃないかと危惧したがそんな事もなく、無事家への帰路へと着いたのだが、現在深夜2時。
 わーお。

電車、ないじゃん……。


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -