不意に約束をしたくなる。
もう逢えないんじゃないかって不安になって。実際、予想じゃなくて確定事項な訳だけど。
はいはい天皇様、我が命は貴方の為に。
「そういえばさ」
玄関であれ持ったとかこれ持ったとかいい妻をしてくれる彼女の話を切って話しかける。
「……なぁに?」
一瞬目を伏せてから顔を上げる。上げた顔は笑顔に包まれていた。
こんな時だというのに笑顔を保っていられるって凄いなぁと思う。最期に思い出すのが別れ際の顔だというのなら笑顔を思い出したいものだ。彼女に合わせて自分も笑顔を作る。
「靴、擦り切れてるって言ってたじゃん」
微笑む彼女の足元に視線を落とす。今は靴は履いていないけど、歩く度にぱかぱかするとぼやいていた。
「そうね」
「帰ってきたらさ、新しいの買ってやる」
本当に? 嬉しい、と彼女は顔を綻ばせる。
「本当、な、約束」
小指を突き出すと彼女も小指を出して、互いの指を絡ませる。
げーんまーん。と子供みたいに明るい声で言って指を離した。
「嘘吐いたら、針千本なんだからね」
無邪気に笑って、直後、彼女の目が潤んだ。気付いて欲しくなかっただろうし、何て声を掛けていいか分からなかったから見なかった事にした。
「分かった。針千本」
そう言って、彼女に背を向ける。
嗚呼天皇陛下。我が命は御国の為に。我が心は妻の為に。