穏やかな風が吹き抜ける。ああ良い風だな。
 今日もこの街にはいい風が吹く……。なんてな恥ずかしい!
 一人で空を眺めて百面相をしているみたいな気分だ。気分じゃない現実だ。
 今この場には四人いる。男女二人ずつだがダブルデートとかそんな愉快なものではない。しかも俺の隣で楽しそうに笑っているのは俺の母親だ。
 向かいに俺と同じ状況と思しき母子二名。母親二人は談笑しているので完全に子供は無視である。どうしろっていうんだ。

「本当可愛く育ったわよねぇ」

 母さんが向こうの子どもに向かって一言。可愛いって失礼じゃないか。いや確かに可愛いと思えなくもないけども直接言うことじゃないだろう。
 言われた方も何とか言ってやればいいのに曖昧に首を傾げて笑うだけだった。言われなれてるんだろうか。

「ね、どう、アンタの将来の嫁さん」

 今度は俺に話を振られた。ん?まだ決まった伴侶はいない、というか母さん、何故向かいの男性を示しているんです?
 やっぱり指された方は何も言わず困ったように笑っているだけ。どうにもならねぇ。

「よかったわねぇこんな可愛いお嫁さんができて」

 うん?過去形?いやだから母さんさっきから何言ってるの。向こうの母親を見ると特に気にしているようでもなく、息子同様にっこりと笑っているだけだ。
 くそ何故誰も突っ込まないんだこの状況に。どう見ても異常だろこれが正常ならおかしいのは俺ってことになるのかいや、おかしいのは俺じゃない!
 また百面相に勤しんでいると、向こうの母親が何か思い出したような顔をした。そうだよ思い出せこの状況はおかしい。

「あのね、和式と洋式、どっちがいいかしら」

 どうしよう何言ってるんだろう便所の話か女は大変だないやでも和式だと痔になりやすいっていうから普通に考えて洋式が良いと思うんだよな。

「ああ、そうねぇ、それも決めなきゃ、全く、うちの子はこういうの手伝えないのよね、ねぇ、どっちが良いと思う?」

 そう言うと鞄からばさばさと大量の紙を取り出す。……白いな。まぁ便所だし。ウェディングってなんだろう。新しいシステムか何かか?

「そうだ、ねぇ、あなたは何が良い?」

 ずいと身を乗り出して笑っていただけだった子どもに話しかける。一瞬驚いたように目を開いたが、すぐにさっきの笑顔に戻った。

「ぇと、旦那様にお任せします……」

 はにかんだように笑うと顔を赤くして俯いてしまった。
 初めてそいつ喋ったな、少し声高いんだな。いや待て待て待て。旦那様って誰だおい。疑問に思う間もなく隣から母親の甲高い声がした。

「まぁまぁまぁ! よくできたお嫁様だこと! ほらアンタ見習いなさいよ」

 ばしっ、と腕を叩かれる。ああ?母親が良い嫁ってことですよね?でもそしたらさっきの旦那様発言が理解できないな。ああそうか。息子じゃなくて娘だったんだな!なら全てに納得がいく。つまりそうだ。彼女は俺を指して旦那様と言っていた。つまりあの可愛い子は俺の嫁ってわけだな!素晴らしい!薔薇色ライフ!

「あぁ、えっと、すみません。お嬢さん、お名前は?」

 無駄に紳士的に聞いてみる。向こうが大和撫子風美少女ならば合わせるべきですよね!

「え……、いや、あの、……私、男、です」

 恥ずかしげに俯く。うんその仕草も実に可愛いな。で、何だって?


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テーマ「人外ファンタジー」
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