自分にいらいらして、思いもしないことを言ってしまった。言った直後に後悔したけど出た言葉は戻せない。傷ついた表情が目の前にあった。
 悪いとは思ったが謝るなど考えつかず無言で背中を向けて部屋の扉へ足を進めた。

「もう来てくれないの」

 ドアノブに手をかけると声をかけられた。悲壮感のあるような、それでいて無機質なような。思わず足を止めた。

「一人で寝るのは寂しいよ」

 一度も一緒に寝たことなどないだろう。
 さっきの八つ当たりなど忘れて振り返ると彼は寂しげな表情をしていた。それでも瞳はとても無機質で演技でもしているか人形みたいだった。

「なに、帰らないで欲しいの」

 彼に向き直って訊ねた。意地悪をするつもりはなく、他人の操り人形である彼がどう返すのか気になったのだ。

「おれの主人はこう言うと喜ぶよ」

 検討違いの答えが返ってきた。

「なんかあんた、怖い顔してたから」

 つながらない。寧ろ彼の主人は嫌いな部類の人間なのでこんな場面で名前を出されると余計に不快になる。

「お前、いつもソイツと寝てるの」

 いらいらしていてさっきも八つ当たりしてしまって。それでなおもいらいらが募りそうな質問をするのだから大概バカだ。

「主人がお部屋に来たとき、たまに」

 ほらいらいらした。躊躇もせずに答える。恥ずかしいことでも何でもないのだろう。

「一人で寝るのは寂しいって。男にそんな事言う意味分かってるの」

 話の転換が早すぎてついていけないのかぽかんとして、それから質問の意味を理解したようで目を泳がせながら首を縦に振った。

「それも……まあいいや」

 それも主人に習ったのかと聞こうとして飲み込む。聞いたところでいらいらするだけだ。

「えっと……」

 手を緩く掴まれてベッドまで連れて行かれた。何をするのかと思っているといきなり手を引っ張られてベッドに倒れ込む。位置的に押し倒すような構図になってしまった。

「こういう、こと?」

 言って首を傾げてみせる。自分で自分の魅せ方を知っているような仕草だ。

「何それ。誘ってるの」

「うん」

 何の躊躇いもなく返される。今までの問答で一番はっきりしていた気がする。

「意味分かってる?」

「うん」

 再度の確認。まさか本気で寝るだけだと思っていないかと。
 段々焦れてきたのか首に手が回されて唇にキスをされた。それは軽いものですぐに離された。

「知ってるよ」

 目を真っ直ぐ見てそう言った。普段のぼんやりした話し方とは比べ物にならないくらいしっかりと発言している。こういうギャップが良いのだろうか、と考えながら彼と二人ベッドに沈んだ。


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