弟と花見に来た。弟は桜が好きだからきっと喜ぶだろう。弟に見られないように一人で小さく笑いながら木の近くにあった石に腰掛けた。

「凄い雪、だな」

 花見に来たとは言ってもまだ冬で雪が降っている。これでは花見じゃなくて雪見じゃないか。弟が言う声が聞こえた気がする。

「風情だよ」

 弟は木を見上げるように横になっていた。少ししか横になってないはずなのに心なしか雪に埋まっているように見えた。弟を雪から掬いあげて、今度は雪に埋まらないように木に寄り掛からせた。

 休憩は終わりだ。立ち上がって、桜の木の周りを探索し始めた。雪が降っているから消耗が激しい。弟が身体を冷やしてしまうじゃないか。
 木の根のあたりを探索していたら良さげな窪みがあったのでその辺りを掘っていった。スコップなんてものはなく防寒具と言えば薄い手袋くらいなもので何の足しにもならないしむしろ手袋がないほうがいいのでは、と思ったので手袋を外した。
 掘り始めてすぐ。ぼこん、と雪が落ちていった。下に空洞があったらしい。桜の木に誘われているようで、そのまま迷わず弟を連れていった。

「ほら、桜の木もお前といたいって」

 桜の木を指差しながら言った。

「ここで、一旦お別れだ」

 ぐったりした弟を担ぎ上げて、桜の木の下の空洞に入れた。丁寧に入れたつもりなのだが穴がどの程度深いのかは雪に視界を阻まれて見えなかった。
 手を放すとごろんと転がっていったようだったからそこまで深くはないのだろう。

「仇を討ったら、また来る、からね」

 雪の下の土を掘り返して空洞を埋めていく。
 弟とは、お別れ。弟は善い子だったからきっと天国に行けるのだろうと思う。一旦お別れではなく永遠にお別れだったかもしれないなと埋めながら考えていた。


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テーマ「人外ファンタジー」
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