「後輩! 丁度いい所に! 今日一緒に帰ろうね! 愛してる!」
「無茶言わないの、補習でしょアンタ」
意味不明な言葉を吐いて友人に引きずられてどこかへ行ってしまった。なぜ引きずられていたのか。
そして騒いでいた彼女たちに集まっていた視線は対象が去った今、話しかけられていた相手に向けられていた。つまり私なんだけど。目立つの嫌いっていうの知ってるはずなんだけどな。後輩いじめか情けない。
私を見ていた女生徒と目が合った。私の視線に気付くや否やふいと元の方向を向いて歩いていった。それを皮切りに他の人たちも各々自分たちのいく場所に向かい始める。
何だったんだ。泣きたい。そもそも補習って何だ。日頃からあの先輩の頭は弱いと思っていたけど本当に弱かったのか。
これは帰りも遅くなるに違いない。補習が終わるまで待っていたら日が暮れるどころか昇ってしまう。
だというのに、私の足は図書館へ向かっている。いや、返す本があっただけで、返すついでに面白そうな本があったからここで読んでいこうって思っただけで、外を視界に入れておきたかったから窓際に座ったら偶然昇降口が目の前にくる場所に座っちゃっただけで、先輩を待っているわけではない。
誰に言うともなく心の中でぶつぶつと言い訳を並べていたら、意識してるみたいで余計恥ずかしくなった。
暫くしたら昇降口に人影が現れた。心なしかぐったりしていたが図書館の窓越しに目が合うといきなり背筋が伸びて、図書館を目指して走り出した。
時計を見たら本を読み始めてから大分経っていた。というかクライマックスだ。
もう最後まで読んでしまおう。と再び本に向き合ったらばたばたと図書館の入り口が騒がしくなった。こんな時間だし私以外に利用者はいないけど司書さんもいるんだしせめてもっと静かにして欲しい。
「わっ、待っててくれたの? 嬉しいな!」
私の前に来るといきなりそう言った。ぶんぶん振り回される尻尾が見えた気がするぞ。先輩の筈なのに年上の威厳みたいなものが微塵もない。
「……別に、本読んでただけです」
「そんなー照れないでよー本当は待ってたんでしょー一緒に帰ろ!」
昼休みの話は忘れてなかったのか。
思ったことをぽんぽん口に出して出した傍から忘れるタイプの人だと思っていたのに。
「……」
「ん? どしたの」
先輩のような単純な脳味噌であればこのまま「はい」と答えて帰宅コースにまっしぐらなのだろうけど山より高いプライドが邪魔をする。難しい年頃なのだ。
考えている間にも先輩は目の前でぴょこぴょこ跳ねている。
「……っ、待て!」
思考の邪魔だと思っていたらそんなことを口走っていた。すぐに気付いて手で口を塞ぐも時既に遅し。しかし単純な先輩はなぜかびしっと姿勢を正していた。
驚いて先輩を見ていると「え、なに?」と逆に驚かれた。
「……じゃあ、本借りてくるんで、待っててください」
そう言って返事も聞かずに司書さんの元へ持っていった。