「あれ、先輩?」

 朝に、特別急ぐ理由があったわけではなくただ速く歩いていたら目の前に平日の朝から外で煙草ふかしてる若者がいたから避けて通り抜けようとした。そしたら、その若者は自分が中学の時の後輩で、ああ時間の流れってこういうことなんだなぁと実感した。
 時間が開けばお酒も飲むし車も乗るし煙草も吸うのかもしれない。

「おはようございます」

 煙草を片手に持ちながらそんな丁寧に挨拶をされると妙な気分になる。そりゃあ真面目ですし、長生きしたいですから、煙草に手を出したことなんて一度もないから違和感があるのかもしれない。とりあえずおはようと返した。

「先輩はお急ぎですか?」

 日本語に不慣れな外国人みたいな不思議な敬語を使われて微妙に顔を歪めたら「何で笑うんですかー」と言われた。後輩の言葉がおかしかったから笑っていたのか歪んだ顔が笑顔に見えたのか。

「んん……別に急いではいないけど」

 一応余裕を持って家を出ているし電車だって一本くらい逃しても十分も待てば次が来るような場所だし。朝なら間隔はもっと短いだろう。
 急いではいないと告げると少し表情が柔らかくなったように見えた。気のせいだろうか。

「じゃあまだ先輩と話してて平気なんですね!」

 気のせいじゃなかったようだ。素直で大変可愛らしい。平気というわけではないけど、可愛いから少しくらいならいいかなと思ってしまった。

「そういう訳でもないんだけどね」

 ちらと時計を見る素振りをしたら目に見えてテンションが下がっていった。とても素直に、態度で表してくれるから楽しくなってしまうのだと思う。

「まあ、その内、暇ができたら会おうか」

 そう提案すると再び表情が明るくなる。
 そのまま、明るい表情の後輩に見送られて駅に向かった。久しぶりに朝から気分が良い。

 駅に向かう途中で気付いたのだけど、後輩は少なくとも年下な訳で、しかし自分は先日漸く飲酒できるようになった訳で。
 あれ。


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