苦労性攻め×俺様受け
むしゃむしゃ。むしゃむしゃ。
ひたすら何かを食べる音が絶えず彼の方から聞こえたのに呆れてしまう。
「あんまりがっつくと詰まるよ」
後ろから近付いて彼の手を押さえると煩わしそうに払われた。
それからまた何かを食べ始めるのだ。食道楽、とか言うんだっけ。違うか。
自分に彼の健康まで管理する義務も責任もないのだが、彼の食べっぷりをみていると気になって仕方ない。
でも彼は最初から変わらず細くて折れそうな体をしている。食べたものはどこに消えているのか。まじまじと彼の体を見ていると、「ごちそうさま!」と明るい声が聞こえた。
漸く満足したらしい彼は此方を向いて楽しげに笑っている。
「あーもう、がっつくから口の周りべたべたじゃん」
机の上のタオルを取って彼の顔を拭いてやる。肝心の彼は皮膚を引っ張られながら「うにぃー」と謎の声を上げていた。
お題「抱擁」、友情以上の作品を創作しましょう。補助要素、「家族」
ぽろりと涙がこぼれた。俺でなく目の前のその人から。
でも何故か本人は気付いていないようでさっきと変わらず笑っている。余計痛々しく見える。
思わず名前を呟いて抱き寄せた。
「えっ、わ、何……?」
擽ったいよー、と笑いながら背中を弱く叩いてくる。
「泣きたいならご自由にドーゾ」
胸なら幾らでも貸してあげるから、なんて男らしいことも言えずに腕の中に閉じこめた。
最初は黙っていたけど、少ししたら嗚咽が漏れ始めた。
嗚咽に混じって言葉が聞こえたので耳を澄ましてみると、両親の離婚が決まったのだ、というようなことを言っていた。
存在しない俺の両親は離婚なんてしようもなく、両親が離婚するという彼女の気持ちも分からないので、言葉をかけるなんてできそうもなかったからあやすように背中を叩いた。