お題「名前」、ぬるい作品を創作しましょう。補助要素、「旅」
その人は旅の人らしい。言葉は違うし何を持ってるか分からないから関わらないようにしなさいって母さんに言われた。
それでも気になってしまう年頃なのだ。
「ねぇ」
夜中にこっそり抜け出して、村の外れで芋虫みたいに寝転がっているその人に話しかけた。
まだ起きていたようで私の声に気付くとごろんと寝返りを打って私の方を向いて目を合わせた。
「あなたの、おなまえ、なぁに?」
ゆっくり発音してみたけど分からないんだろうなと思う。
だって曖昧に笑って首を傾げているだけなんだもの。でも、笑顔はとっても綺麗。
「 」
「え?」
小さい声。私にだけ聞こえるような、そんな声。で、一言。
「それがあなたの名前?」
思わず普通に話してしまった。でも旅の人は私の予想に反してゆっくりと首を縦に動かした。何だ、言葉分かってたの。
何故かそれを勝手に残念に思って、ありがとうと伝えてその日はそのまま帰ってしまった。こっそり抜け出したのがバレたら大変。
次の日にまた行ってみたらその人はいなくなっていた。村の人はほっとした顔をしていたけど、私はひたすら、前の夜の会話を思い出しながらその人の名前を呟いていた。
お題「時計」、さっぱりした作品を創作しましょう。補助要素、「和室」
「何、それ」
び、と畳の上に佇むそれを指さす。そう、それはまさに、大きなのっぽの古時計、というような体だった。
「時計、見て分からない?」
どうして分からないの、という目で私を見てきた。いや時計は分かる。でも何で私を呼ぶ必要があったのか。
「こーいうの、直すの得意でしょ?」
直して、と彼女は私を時計の前に押し出した。別に、得意な訳じゃないし、結構古いから私に直せるかなんて分からない。
「それ、私のおばあちゃんが大切にしてたものだから、大事に扱ってね」
何か言い出したと思ったらこれだ。とどめか。とどめを刺しに来たのか。それだけ言うと彼女は部屋から出て行ってしまった。
一人見知らぬ部屋に残されどうしていいか分からない私に許されたことはただ時計とにらめっこをすることだけだった。
お題「仕事」、冷ややかな作品を創作しましょう。補助要素、「ベッドor布団」
まだあの人が帰ってこない。もう12時を過ぎているというのに。
本当に仕事をしているのかと疑問に思っても聞くことなんてできやしない。何日か前にお夕飯いりますかと電話をかけたらいらないという返事と女性の軽そうな笑い声が聞こえてそれから何だか後込みしてしまう。
寝てしまえばいいのだろうけどそれでも、布団に入ったときに帰ってきたらどうしようと思うと寝られないからこうして起きている。
うつらうつらと船を漕ぎ始めた一時過ぎ、玄関の扉が開く音がして飛び起きた。
小走りで玄関へ急ぐ。玄関と廊下を遮るドアを開けた瞬間香った香水の匂いには蓋をして笑顔笑顔。いーっと口を歪ませて「おかえりなさい」。