家族でショッピングモールに来た。特に意味はない。いつも来ているから、ってだけで。
着いたらまず別々に行動する。相手のいくところにいちいち付いて行ってたら日が沈んじゃうもんね。
今日もいつもの場所でね、と行って散会する。
私には目的があった。ほしいゲームがあった。ゲーム売場を目指して歩く。
果たしてゲームはそこにあった。幸せに打ち震えながらレジに持って行った。
「622ドルです」
私は財布からお金を出して店員に渡した。増える小銭。なぜだ。端数なんて無かったはずなのに。
ゲームが手に入ったしまあいいか、と店を出てから、何故単位がドルだったのかとようやく疑問に思った。財布からあふれる小銭。これでは換金が出来ない。
そもそも一般的なゲームの値段が五千円だとしたら622ドルはぼったくり過ぎやしないか。膨らんでいくあの店への不信感。狙ったかのように傍にいたアラビア風の女性が笑い声をあげた。
不愉快になりその場から少し早めに歩いて逃げ出した。家族との待ち合わせ場所に向かう。早めに済んだからきっと誰もいないんだろうな。

待ち合わせ場所にある椅子で座ってゲームを始めた。案の定家族の誰もそこにいなかった。
ゲームを始めてどれくらい経ったか分からないけど、突然女性の悲鳴が聞こえてきた。みんな驚いて悲鳴の聞こえた方を見た。
女性は襲われていた。男性に。それからあちこちであがる女性の悲鳴。女性を襲っていた男性が顔を上げるとみんな逃げるに思考をシフトしたようで、男がいるのとは反対方向に走り出した。私もそれに倣って走り出す。
女性専用らしいスペースに逃げ込む女性。しかしこの事態で男性がそんなルールを守る訳もなく、餌が勝手に集まる素晴らしい餌場と化していた。
すぐさまそこから脱出したが、出るときにまさに中に入ろうという二人の女子高生がいた。私は何も言わず二人を見送った。こんな状況で他人に構っている余裕などないのだ。
私は隠れられなさそうなスペースを発見しそこに座り込んだ。男性に捕まることを覚悟したのではない。ゲームをセーブするのを忘れていたのだ。
画面に浮かぶ「セーブしますか」の文字。「はい」を選ぼうとしたところで私に気付いたらしい男がものすごい形相で近付いてきた。男が私に向かって拳を振り上げる。私はどうすることもできず、「はい」を選択した。
セーブって大事だよね。

静止する世界。動いている私。男が拳を振り上げた状態で固まっている。かなり間抜けだ。
そうよ全てはゲームなの。生きるか死ぬかという。重いわね。
私はゲームをロードした。死ぬと分かっていて挑まなければならないゲームって辛いな。

しかし動き出した世界に男はいなかった。開けた視界。
代わりに髪の短い研究員風の女性が立っていた。なぜ研究員のようだと感じたのかは分からない。服装も研究員というより動き易さ重視な格好だし。
ロードしたときに私の頭では彼女と私はパーティを組んでいることになっていたようで、私が気が付いたことを確認するとすぐに走って行ってしまった。私も起きあがって彼女を追いかける。
目の前にエスカレーターがあった。屋上の駐車場に上れるらしい。
屋上に行こうとエスカレーターの方に微妙に向きを変えたら、いきなり視界に飛び込んできた黒色。黒の正体はスーツを着た男だった。一瞬驚いたが、よく見れば男は白目を向いていた。
どういうことなのか、と男がとんできた方に目を向けると、淡いオレンジ色のドレスを着た快活そうな女性が別の黒服の首根っこを掴んでいた。私の視線に気付くとにっこりと明るく笑って見せた。

「ごめんね! あ、私のことは気にしないで、あとね、上に逃げるより出口のある下の方がいいと思うよ!」

なるほど、出口。助言を受けて出口に向かう。出口の方を向く直前、黒服の顔面にエルボーが叩き込まれたのを見た気がする。南無三。

階段を降りて、私と女性で走っていると、目の前から女性たちが走って来た。彼女たちの方が数が多いから私たちが逆走してるみたい。どうしたのだろうと思っていると今度は二階から男たちが飛び降りてきた。黒服のようにきっちりとしておらず、ギャグマンガに出てきそうな泥棒の格好をした男が二人。
泥棒は私たちには目もくれず逃げていった女たちを追いかけて行った。
彼らにも基準があるのだろうか。容姿のレベルの高さとかいわれたら私はすぐさま狩る側に回るでしょうね。
しばらく走ると出口が見えてきた。ショッピングモールを出るのがこんなに幸せだなんて思わなかった。
出たらすぐのところに駅があったので行き先も見ずに飛び込んだ。回送とかではないし他に客もいるし、問題はないだろう。
空いていた席に座って家族にメールを送った。よく考えたら家族のことおいて出て来ちゃったもんなぁ。薄情な娘。
今日は予想外に運動をさせられたので疲れた。明日はきっと湿布のミイラみたいになってることでしょうね。
今寝たらきっと目を覚まさない。だから起きてなきゃいけないのに、瞼はどんどん重くなって、ああ…寝た、


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