家にはお父さんが一人きり。お母さんと子供が二人いたんだけど、いなくなってしまった。
お父さんは一人で料理をしている。今まで料理をしてくれていたお母さんがいなくなってしまったから。でもお父さんは料理ができない。キッチンに入ることすら初めてなのだ。
どうしていいか全くわからない。恐らくは調理器具であろうそれらが凶器にしか見えないのだ。
ああこれは分かるぞ。お父さんが包丁を取り出した。
でもこれで野菜や肉を切ってどうすればいいのか。お母さんはどうやって料理をしていただろう。お母さんの調理風景を思い浮かべて、とりあえず鍋に入れて調味料入れておけば何かできるだろう。食べ物で作ってるんだから食べられないものなんてできるわけがない。
調味料を探すために大分キッチンが荒れた気がするが仕方ない。もう怒る人はいないのだ。ゆっくり片付ければいい。
鍋に入れた食材に調味料を振りかけるのだが、どの程度入れればいいかさっぱり分からない。いつもお母さんの料理は味が薄いと文句を言っていたし心持ち多めでいいだろう。
料理をしているだけでも家族四人で過ごした記憶が思い出されて少し泣いた。
料理をするお母さん。つまみ食いしようとする子供たち。それを微笑ましく眺めるお父さん。
どれほど悔いてもあの時間は戻って来ないのだ。お父さんは料理に集中することにした。

暫くして料理が完成して、味見をしてみたのだが少し味が濃すぎた気がする。濃い方が好きだけど、これは濃すぎた。でも食べられないこともない。話し相手もいないのでお父さんは黙々と食べ続けた。
量のことなど考えずに作ったからとても一人分には見えない量だったのだが、食べることに集中していたお父さんは鍋の中を空っぽにしてしまった。
空であることに気づいた直後、家のドアがノックされた。
こんな時間に非常識な客だ。そう思いながらもドアを開けるとそこにはもう帰ってこないと思っていた子供たちがいた。

「おかえり、遅かったじゃないか。夕飯はもうないぞ」

なるべく平静を装いつつそう言って二人を家の中に入れる。子供たちは不満そうに唇を尖らせてお腹を抱えた。

「仕方ないな、まだ肉が余っていたから、それを食べるか」

そう言うと子供たちは不満な表情は何処へやら。お肉お肉と騒ぎながらテーブルの周りを走り始めた。
さっきお父さんが作ったものと同じものをもう一度作って子供たちに食べさせた。二回目だからか最初よりはマシになった気がする。
お父さんの作った料理に文句を言いながらも笑顔で食べ続ける子供たち。母親が欠けているけどそれでもお父さんの望んだ風景に近いものだった。
料理を完食した子供たちが不意に疑問を口にした。

「ねぇ、お母さんは?」

そうか、子供たちはお母さんがどうしてるか知らないのか。でもお母さんがいないのは子供たちの帰りが遅かったせいもある。お父さんはどう答えようか悩んだけど、やはりお母さんを独り占めしたという嬉しさが勝り素直に答えた。

「お母さん? お母さんはお父さんが食べちゃいました!」


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