僕の友達は、愛とか信じるとか、普通の人が聞いたらイタイと笑うような事を普通に口にする。かく言う僕もその一人で、イタイと馬鹿にしている。それを言うと彼は笑って流すのだ。
「口では幾らでも言えるのさ」
そう。いくらでも言えるのだ。彼は人を信用していない。
彼が僕の家に遊びにくると鞄は下ろさないし下ろしても近くにキープしている。
遊びに行った時だって鞄をつけたまま上着を着ようとしているから「鞄持とうか?」と手を出すと「いや大丈夫」とその手を跳ね退けもぞもぞと袖に手を通すのだ。
僕が考え過ぎなだけなのだろうか。でも人を愛して信じているのならば好意に甘えるべきではないのか。

その、口では何とでも言える彼が、僕の手に携帯を置いている。
彼はごろごろと僕の部屋を寝転んだまま移動して回り携帯を構えひたすら謎の撮影会に興じていた。
転がっていく内段々と鞄から離れていく。以前の彼ならば転がっていたとしても鞄も一緒に転がしていただろうに。
そして一通りの撮影を終えた彼が、彼の鞄の傍に鎮座していた僕に向かって携帯を差し出してきたのだ。
彼は気怠げな声で「鞄に入れといて」と言う。僕はゆっくり首を縦に振った。あまりの驚きと喜びで「うん」とそのたった一言口に出すことすらできなかった。
そう、人に信用してもらうのがこんなに嬉しくて幸せなものだと僕は知らなかったのだ。だから彼の言う愛や信頼という言葉を否定した。


「僕はね、ヒトを信じたいし、とっても愛しているんだ!」


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