ぼくのあいしたひとはてんしになりました。

比喩でも何でもなく事実なのです。
ある日彼女はみんなから「空飛んでるところ見たいなぁ」と言われ、見た目だけでなく中身も天使だったらしい彼女はそんなふざけた要望を受け入れ屋上へみんなを連れていきました。
僕らのクラスは一番上で階段がすぐ傍にあるので誰にも見られたりはしなかったようです。
みんなが彼女に次々言葉を掛けていき、彼女はそれを聞く度ありがとうと律儀に返していました。
挨拶も一通り済ませたところで天使は柵を越えます。女子であればのろのろと見苦しく乗り越えるはずのその柵を彼女は軽々と飛び越えたのです。スカートがひらりと舞い、中が見えそうだったので少し首を動かしてみたのですが見えませんでした。残念。

「いままでありがとうみんな、ばいばい」

空を飛ぶ前に柵の此方側を向いてまさに天使の微笑と言った感じに微笑んで手を振ってくれました。みんなもばいばい、と天使に手を伸ばします。
しかし下賤な雌豚方の手は天使に触れることはなく。気付いたときには天使は空に浮いていました。
浮いている。否、実際には重力に従い地面に叩きつけられようとしているのだろうけど、その様子は落ちているというより地面に向かって降りているように見えた。
それくらいに自然な光景だったのだ。
いつの間にか女子が天使に伸ばしていた手はゆるゆると降りていて、視線は天使の方に向いていた。
みんなが天使に釘付けになっている。
天使の表情はといえばそれはそれは穏やかで、慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。皆がそれに心を奪われた。
緩やかに地面に降りていく。それこそそのまま地面に着地しそうな位の速度で。

数秒後に、女子の悲鳴で我に帰った。女子の指差す先を見てみるとそこには天使が咲かせたと思われる真っ赤な花が咲いていた。
それは夢の時間の終了と天使が舞台を降りた事を告げる花だった。
眼下に広がるのは醜い飛び降り死体。眼前に広がるのは喚き立てる女子。おまえがとべっつったんだろとか何とか喚いている。

人災に荒れる屋上で僕は天使のことを思い出していた。
もしかしたら天使はこんな醜い人間に嫌気が差して帰ったのかもしれない。
醜い人間は地面に叩き付けられ、麗しい天使は楽園へ帰った。
だから終幕を示す赤い花は彼女が地面に叩き付けられた瞬間に現れた。

そう舞台は終わった。
これで終幕、カーテンコール。
役者たちは僕が天使を愛していたことなど知る由もないのだ。


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