「腰痛い」
最近立ってても座ってても痛くて『腰痛い』が口癖みたいになっている。
それを偶然聞いてたらしい後ろの席の男子がいきなり話しかけてきた。
「あ、昨日頑張らせ過ぎた?」
けらけら笑いながら軽い調子で言ってくるものだから苛立って叩いてしまっても許されると思う。本気で悩んでるのに。
溜息を吐いて前に向き直る。
「うぐぅ…」
よく分からない呻き声を上げて前に向かって伸びをする。伸びをした瞬間また腰に痛みを感じて背筋を伸ばす。
「さっきから何やってんの」
馬鹿にしたみたいな声が後ろからしたので何でもねーよと返して机に伏せた。
「だからー猫背にしてると腰痛くなんだって」とか聞こえた気がするが気にしなーい。

暫くしたら授業が始まるチャイムが鳴った。どうせ先生はいつも通り遅刻してくるし、みんなそれを分かってるから席に着かずお喋りに興じている。
一部がちらほら席に着いているけどチャイムが鳴ったからなんて真面目な理由じゃなくて会話が途切れたからとかそんな理由なんだろう。
目の前の空席をぼんやりと見るでもなく視界に入れていたらいきなり黒に変わった。黒と言うより黒に少し青を混ぜたみたいな。前の席の女子が戻ってきたらしい。
絡みやすいから話すけどたまにセクハラ紛いの発言をしてくる。なんなんだ。
「ただいま」
いきなりくるりとこっちを向いて頭を叩いてくる。軽く叩いているだけだから痛くはないけど。話しかけられたら伏せてるわけにも行かないので頭を上げる。
寝てたわけじゃないけど頭がぼやけている。とりあえず笑っておくべきか。いー、と口を歪ませる。
「…おかえり」
目の前の女子が無言で鞄を漁り始める。関係ないと切り捨ててまた伏せようとしたら顔を掴まれた。
「はいもー一回、お願いします」
女子は携帯を構えていた。ランプが光っている。メール?違うか、撮影機能だ。…で?
「あーんもーうノリ悪いなぁ、だからぁ、」
もう一回、おかえり、って言って!と頬を引っ張られた。っていうか何。カメラじゃないの、録音なの?
「………おかえり」
さっさと終わらせてやろうとそう言うと女子はつまんなぁい、と携帯を閉じた。いやそんな単語に面白味を求められても。
用事は終わったと判断してまた伏せる。頭に手が置かれて何回かぱたぱた跳ねるように動いたけど俺が何の反応もしないので飽きたらしい。すぐに止めた。
うん。こういう人には無反応が一番。

「……ひっ、」
突然背中がぞわっとした。背中に指を立てられたらしい。鳥肌が立ったぞ。誰だ。後ろか。いや落ち着け俺。無反応だ無反応!反応したって相手を喜ばせるだけ!
「………っ、」
いやいや止まれよ止まろうぜなぁ。俺何も反応してない筈だろ。俺って自分で思ってたより敏感肌だったのかなぁ背中凄いぞわぞわする。鳥肌が止まらない。
どうせ教室は騒がしいし多少声出したって誰も気付いたりしないんだろうけどでも前の席には多分聞こえるな。そんな事になったらまたセクハラされそう。や、される。
ぎりと唇を噛みしめていたら頭を叩かれた。多分違う人。っていうか前の人。
「ねぇ、人の後ろでエロい声するのやめない?」
「っ!?」
思わず飛び起きた。声漏れた?や、そんなばかな!
「え、何、ホントに?」
起きたら苦笑いされた。聞こえてはいなかったらしい。つまりいつものセクハラかこの野郎。思わず叩いてやろうとして、相手は女だ、と拳を収めた。しかしやり場がない。そうか、原因の後ろの奴がいたな。
ゆっくりと後ろを向く。後ろの奴は笑いながら人差し指を立てていた。
「お前背中に指やるといつも丸まってんのに伸びるのな! え、何? 何か黒いオーラ出てるぞ? 猫背がそんなの出したってただの根暗野郎にしか」
へらへら笑いながらぽんぽんと言葉を出す奴に呆れを通り越して尊敬の念すら抱きそうになる。
いいか。
「歯食いしばれ?」
にっこりと普段は動くことのない表情筋を動かして、腕を振り上げる。
拳を握りしめてそいつの頭に向かって、勢いよく振り下ろした。

先生、至急席替えを要求します。



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お龍さんへ!

猫背要素が行方不明になりました
性格が安定してくれません
オチもありません

なんか、ごめんなさい…


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