家に着く。ドアノブを捻ればすぐに開く。いつもちゃんと鍵掛けておけって言ってるのにあの弟は聞きゃしない。
ドアを開ければ待ってましたと言わんばかりに待機している弟。すごくいい笑顔してて可愛いんだけど、奴がこの笑顔の時は大体何か悪戯する時で、その被害者は大体俺。どうしよう嫌な予感しかしない。
「…ただい、ま?」
そう言ってさっさと逃げようと弟の脇を抜けようとする。
「おかえりー!」
抜けた瞬間に制服の裾を掴まれて、前に向かって顔面からすっ転んだ。鼻頭がとても痛い。いや全身痛い。
しかし弟は無視して人の上に乗ってくる。なんだこれは、馬になれとかそういうあれなのか。もうそんな年じゃないだろ。
「おにーちゃん」
上から楽しげな声が降ってくる。俺はどうなるんでしょう怖い。
馬はもうできないにしてもまだまだ軽いから横に転がれば弟は落ちるだろうからその間にうまく逃げられないか。
何にしても弟の要求に寄りけりな訳だが。
「なぐって、いいですかぁー?」
ああうん駄目だ。逃げよう。うつ伏せになってるから分からないけど弟は既に手を上げているとみた。
弟が可愛くて可愛くてそれこそ目に入れても痛くないくらいには可愛がってきたというのにそのお返しがこれだというのか。


「そんな訳で俺は絶望してるんだ慰めてお兄ちゃん」
「ふざけるな、そもそも俺はお前のお兄ちゃんじゃない」
両手広げて慰めろというそいつの眉間に軽くチョップを食らわせる。軽くやっただけなのに痛いと言って叩いた所を押さえる。
「大体お前が甘やかしすぎたんだ、因果応報って知ってるか」
眉間を押さえる手を人差し指だけにしてうんうん唸り出す。どうせ大して考えている訳でもないだろうから無視をした。
「うちの弟を見習え、ちゃんと育てたから常識ある素敵な弟に育ったぞ」
そう言うとうんざりした顔をされる。弟自慢は聞き飽きたようで人を置いてさっさと帰ろうとする。呼び止めてきたのはお前だろうが。
まっすぐ帰るのかと見ていたら一回振り返った。
「…あー、なんだ、お兄ちゃんも飼い犬に手ぇ噛まれないようにね!」
人の弟を犬扱い。明日覚えてろ。
また前を向いて走り出した背中に向かって中指を立てる。


家に着いて、鍵を開ける。何故か玄関に入っていきなり弟がいた。いつもより身長が低いと思ったら椅子に座っているようだ。それから、何かすごい良い笑顔。
「…どうした」
聞くと更に笑みを深くする。こんなに笑ってる弟を見るのはいつ以来か。いやこんな笑顔は見たことない。少なくとも子供が浮かべていい笑顔じゃない。
「おにぃちゃん」
わざとらしいくらいに可愛い声でお兄ちゃん、と。この状況では逆に怖い。さっさと抜けたいのだが椅子のせいで先に進めないしだからって外に逃げたらそれはそれで不自然だし。
結果動けずに膠着状態に陥っていると、弟が首をかくん、と傾げた。
「縛っていーぃ?」
甘えた声と言っていることが一致していないぞ。にっこり笑った状態で両手を差し出す。手に握られているのは細めのロープ。
弟は本気だ。目が本気だ。っていうか目が笑ってない。怖い。
ああ彼奴が言ってた事ってこういう事だったのかって今更理解した。
後悔は先に立たないってことだな。後に立つから後悔なんだ、多分。
凄く癪だが明日彼奴に相談してみようか。彼奴の家より危ない気がするぞ我が家。
明日、笑われるんだろうな。そう思いながらそろそろ言い訳も立つだろうとUターンして家から逃げた。



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お龍さんへ!


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