ルカとセフィロスは思う存分ゴールドソーサーを満喫し、その後はコスタ・デル・ソルにて優雅なバカンスを洒落込んでいた。
こちらもまた観光地として有名であるが、2人が主に過ごしたのはコテージが1つだけ建てられた離島だった。
正確にはセフィロスが所有する島らしい。彼曰くモンスター討伐か何かの報酬として与えられた、と言っていた。だが今まで行く機会がなかったため、この休暇中に過ごしてみようと思い立ったらしい。
2人はまさしく「勝手気まま」に過ごしていた。
ある日はマリンスポーツに勤しみ、ある日は電子書籍を黙々と読み、手間暇かけて作った料理に舌鼓を打ち、時折コスタへ向かってショッピングや観光を楽しんだ。
一方で、今まで互いに触れていなかった過去――主に、セフィロスの思い出話をするようになっていた。
ソルジャーになるための過酷な訓練、科学部門で経験した内容など苦い記憶も打ち明けてくれた。
彼が受けた仕打ちにを聞きながらルカは自らのことのように憤慨し、悲しみ、そして彼にそっと擦り寄って抱き締める他なかった。
だが悪い話ばかりではない。
以前聞き及んでいた「ガスト博士」という親代わりの科学者との思い出は、愉快な話が盛り沢山だった。
内緒で神羅ビルを抜け出して街で遊んだこと。セフィロスに冷たく当たり、嫌味ばかりいう科学者に対して一緒に悪戯をしたこと。外の世界の話、星の歴史等を一晩中語ってくれたこと。


――きみは特別な力を持って生まれたんだよ。


そう言って自分を慈しんでくれたと、セフィロスは静かに微笑む。
満天の星空の下、彼らは海が一望できるウッドデッキで軽く酒を飲みながら、昔話をするのが常となっていた。

「ガスト博士は育ての親って言ってたけれど、セフィロスの本当のご両親は?」
「あまり詳しくは知らないな。母はジェノバという名前だったらしいが、俺を産んですぐ亡くなったらしい」
「あ…、ごめん…」
「気にするな」

母親の名にルカは微かな違和感を感じた。だが既に逝去していた事実の方がよほど衝撃が大きく、あっという間に違和感は霧散する。
心地良い夜風にセフィロスの銀糸が揺らめいた。グラスを置いてルカの肩を抱き、青い髪に唇を落とす。

「俺もルカの母親に会ってみたい」
「まだ…どこにいるか分からないのよ?」
「ああ。でも必ず見つけよう」

仄かに熱っぽい魔晄の瞳が悪戯っぽく、そして深い愛を湛えながら細められる。



「結婚の許可をもらいたいからな」










There is always light behind the clouds.19










2人は長い休暇を終えてミッドガルに戻った。
ルカは久々の出勤に、制服代わりの黒いコートに腕を通す。
ちなみに数日前からセフィロスは遠方の任務が入り、留守にしていた。
そのため甘い時間の余韻に浸る間もなく、そして休暇中に投げかけられた爆弾発言…要は「今後の自分達の未来に」ついて詳しく話すことも出来ていない。

(そんな素振り見せたことなかったのに…)

現実的に考えれば、母の事や自分自身の出生について多くを知ってしまった以上、何が正解か分からない。お互いに時間をかけて話し合わねばならないだろう。
――一方で、年相応の女性として単純に浮かれる自分もいた。
長い人生をセフィロスと共に過ごす。
もしかしたら子宝に恵まれるかもしれない。自分に似るのも嬉しいが、セフィロスに似ればさぞかし賢く美しい子になるだろう。
そして、この間ゴールドソーサーで見かけた家族のように、皆で遊びに行ったりするかもしれない…。
ルカは幸せいっぱいの妄想に膨らませつつ、熱くなる頬を押さえながら、神羅ビルに出社する。

「…ん?」

自分のパソコンを起動させるとある点に気が付いた。
同僚であるザックスのスケジュール欄が「休み」の文字で埋め尽くされている。ルカ達と入れ違いで待機命令、及び長期休暇を与えられたらしい。
案の定ザックスとルカは、反逆の意思を抱きかねないと認識されているようだ。
それ故、ルカはタークスや神羅上層部からの通達――主にホランダーに関する事情聴取の要請が来るのではないかと身構える。
本来指示を仰ぐべきラザード統括の姿も無く、スケジュールも空欄のままだ。他のソルジャー達も出かけているのか空調の音しか響いてこない。
ルカは不安に駆られつつ、独り悶々と悩みながらパソコンに向かう。
昼近くまで処理を行っていると、フロア内に誰かが足を踏み入れた。

「よう、ソルジャークラス1ST殿」

赤い髪、微かに漂う煙草の匂い。
男が――レノがわざわざソルジャーフロアに足を運ぶとは思いもしなかったので、ルカは目を丸くした。

「休みは存分に楽しめたか?、って言っても感想は別に聞くつもりもないぞ、と」
「…本当嫌な男」
「ま、それはさておき。お前に会わせたい人がいるから来てくれ。業務命令だから無視すんなよ、と」

業務命令という言葉に一瞬身を固くするが、懸念していた尋問では無さそうだ。彼の立ち振る舞いに緊張感や違和感は伝わってこない。
ひとまずレノの後についていくと、今まで足の踏み入れた事のないフロアへ辿り着く。
床に敷き詰められた絨毯の質、壁紙や生けられた花瓶は豪奢であり、警備はやけに厳重だ。タークスや上層部でも限られた人間しか立ち入れない場所なのだろう。
レノはある扉の前に止まり、カードキーを翳した後に暗証番号の入力を行った。解除を意図する機械音が鳴り、ドアが横へと滑る。
「失礼します」とレノが声を掛け、部屋の中では純白のスーツを纏う男がルカを待ち構えていた。

「久方振りだな、ルカ」

威厳に満ちながらも艶っぽい声音、英雄に勝るとも劣らぬ美貌。
そして何よりも――。


「……ルーファウス、様」


若輩ながらも人を支配し、王として君臨するに値する風格を兼ね備えている男だった。
彼は多くの人を魅了する「社交辞令用の笑み」を浮かべ、ルカをソファーに座らせるよう促す。
ルカは眉を顰めてレノに視線を向けるが、彼は「従っておけよ」と言わんばかりに顎でしゃくった。渋々腰を掛けると、ルーファウスが口を開く。

「君の噂は聞いている。ウータイでの戦闘、各地のモンスター討伐など神羅に尽力してくれているようで何よりだ」
「はあ、」
「――故郷のこと、幼馴染のことは残念だったな」

残念だって?
すべての絶望は神羅がもたらしたというのに?
事も無げに放られた言葉に、ルカの視界はぐにゃりと歪んだ。
激しい憤怒の余り眩暈がする。携えた剣を振るうのを堪える代わりに、己の感情を隠すことなく、ルカは瞋恚の目でルーファウスを睨みつけた。
ルカとて、この場で暴れることが善策とは思っていない。
妙な素振りを見せれば、ルーファウスは躊躇いなく銃を撃つだろう。いつの間にかルカの背後に回ったレノも、瞬時に電磁ロッドを振り下ろせるよう構えているはずだ。
張り詰めた空気の中、ルカは強張る身体を緩めるようゆっくりと息を吐いた。


[*prev] [next#]
- ナノ -