空へと飛んでいく色とりどりの風船、舞い踊る花吹雪。 煌びやかで派手な装飾に包まれた施設から、軽快な音楽が流れている。 いつの間に手に入れていたのか、セフィロスは専用パスポートを受付の改札に触れさせる。ICチップが反応し、ゲートが開いた。 セフィロスは呆然と立ち尽くしていたルカの手を引き、彼らは園内へと足を踏み入れる。 丁度パレードの時間だったのか、蝶の羽をはやした魔法使い、白馬に跨る騎士、七色に輝く汽車に乗った着ぐるみ達が人々を出迎える。 着ぐるみはチョコボやモーグリ、モンスターの中でも愛らしい容姿をしているサボテンダーなどだ。 全身を電飾で覆われた巨大な海賊船は音楽に合わせて色を変える。有名なおとぎ話に出てくる少女は水色のドレスを身にまとい、豪奢な馬車から観客達に向けて微笑みを向けた。 周囲に満ち溢れる無邪気な希望。 手を振るキャストにつられ、ルカも思わず手を振り返した。
「かわいい〜!」 「パレードは夜もやるそうだ、また見るか」 「ええ、そうね!」
ルカは頬を紅潮させ、意気込んだ。2人は受付で渡された園内マップを開き、どのアトラクションに向かうか確認する。 彼らが訪れているのは世界的に有名な娯楽施設、「ゴールドソーサー」。 主な客層は、所謂富裕層や上流階級と呼ばれる者達だ。とはいえ家族連れや団体での来園も多く、比較的どの年代でも楽しめるらしい。 ルカ達の傍で、5歳くらいの双子の兄妹が興奮した様子で園内を見渡しつつ、はしゃいでいた。その後ろで品の良い夫婦がはぐれないよう子ども達に声を掛ける。 微笑ましい家族連れにルカは小さく笑みを浮かべた。 そして平日にも関わらず来場者は多い。こういったテーマパークを自由に歩き回りたいのならば、セフィロスが変装しようと思うのも納得だった。
「セフィロスは来たことあるの?」 「開園当時、神羅関係者の警備でな。遊び目的では来たことない」 「じゃあ目一杯遊びましょ!」
彼らは一旅行者として、大いにゴールドソーサーを満喫した。 シューティングコースターやスノーゲームで最高記録を叩き出し、参加型の観劇でキャストや他の来場者と歌い踊り、施設の建造物や装飾に所々施されている「かくれサボテンダー」を写真に撮って周る。 ルカは売店で購入した、モーグリの耳と赤いポンポンが付いたカチューシャを被っていた。カチューシャの縁には造花をつけるというアレンジが効いており、大人が身に着けても子どもっぽ過ぎず、むしろ可愛らしく見える。 ちなみにセフィロスには、変装だと言いくるめて無理矢理チョコボバージョンを被らせていた。
「一日で周りきるのって大変そうね、まだ乗ってないアトラクションいっぱいあるし」
日が暮れる頃、彼らはベンチでパレードを待ちつつ売店で買ったケバブを食べる。ちなみに、容器のかわいらしさに負けて購入したポップコーンは、食べきれずにまだ残っていた。
「それなら、数日間ここで過ごそう」 「えっ、いいの!?」 「もちろん。一応それも想定していたからな」
セフィロスが車に積んでいた鞄の中には多少だが衣類が入っていた。今日は元々園内のホテルに宿泊予定だったらしく、すでに荷物は預けている。 また、ホテルの敷地内には長期滞在者向けのショッピングモールも併設しているらしい。ゴールドソーサーとコラボした限定品も数多く販売している為、わざわざそこに買い物に来る客も多いようだ。 明日にでも買い物へ行こう、とセフィロスの案にルカは頷いた。
「今回の休暇は自由気ままに過ごすつもりだったからな」 「そっか。計画立てて行くのもいいけど、こういうのもいいわね」 「…これからもこんな時間を過ごしたい」
あまりにも優しく、儚い呟き。 甘く胸を締め付けられる声音に、ルカは隣に腰掛ける恋人へと振り向いた。 徐々にライトアップされ始める園内。仄かな灯りが包み込む中で、どちらとなく口づける。 普段だったら、多くの人が行き交う場所でするなんて考えられない。 けれど今は誰も気にも留めない。自分達が何者であるか探るような人間はいないし、そういった雰囲気の恋人達の光景など、日常茶飯事なのだろう。 彼らは互いに身を寄せ、ただひたすらに無垢な夢幻を表現し続けるパレードを眺めた。
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閉園時間が迫っているのか、人々はゲートの方角やホテルへと向かう。花火が彼らの来園を感謝するよう、空を照らしていた。 ルカ達もホテルの方へゆっくり歩いていると、来園した時にも見かけた家族連れに遭遇した。 双子の兄は、まだここにいたいと駄々をこねて涙目になっている。妹の方は父の背中におぶさって眠っていた。 両親共々苦笑しつつ、またいつか来ようと約束をして息子の手を引いて歩いていく。 兄と妹。 "あの人"を兄と知った瞬間。 自分にはまだ家族がいると知った刹那、突き付けられた現実は――。
「もしもあんな家族だったら、」
ルカは無意識のうちに漏れた声に、酷く狼狽した。そのあとに続くであろう言葉にすら、激しい後悔と嫌悪を抱かずにいられなかった。 俯き、黙り込んでしまう彼女。 セフィロスはしばし考えあぐねたが、ルカの手を取って逆方向――園内の奥へと歩み始める。 ルカが制止する声も聞かず、彼が向かったのはキャストのみが残る観覧車だった。案の定客は乗っておらず、点検や忘れ物の確認をしていると思しきキャストがセフィロスの存在に気が付く。
「お客様、申し訳ありません。本日のアトラクションはすべて終了――」 「これを」
セフィロスはキャストへパスポートを差し出す。 よくよく見ると彼の持っている冊子は来園者に発行される物と異なる。表紙は黒、中を開くと神羅カンパニーのロゴと社員証の写真が掲載されているのだ。 つまりは――持ち主がどういった人物であるかと指し示す。 ゴールドソーサーを運営しているのは神羅カンパニーだ。福利厚生と表現するのも正しいか不明だが、一部の社員にはあらゆる面で優遇措置が取られていると聞く。 狼狽したキャストが何か言葉を発する前に、セフィロスはカチューシャと黒髪のウィッグを外した。 眩い銀糸が夜風に靡く。 キャストは顔色を変え、謝罪と共に慌てて準備を始める。
「セフィロス…」 「少し話そう」
程なくしてキャストから声を掛けられ、彼らは観覧車に乗り込んだ。扉が閉まり、互いに向かい合って座席に座り込む。
「お前とアンジールは血縁関係があるんだろう」 「!、どうして…」 「資料室で調査をしていた時、急にデータが送信されてきたんだ。最初は悪質な嫌がらせかと思ったが…添付されたデータにDNAの分析結果もあったからな」
送り主は不明らしいが、詳細な分析が出来る機関といえば神羅の科学部門しか思いつかない。 何故このタイミングなのかと、腹立たしいのは山々だったが、セフィロス自身もその情報を信用するほかなかったのだろう。
「あたしも…モデオヘイムで初めて知ったの。アンジールに直接言われたから本当なんだと思う」 「そうか…」
沈黙が重く垂れこめる。 それとは対照的に、閉園の音楽が遠くで流れ、無数の電飾によって輝くアトラクションや建物が光を放っていた。 ゴールドソーサーを一望出来る高さまで上昇した頃、セフィロスが口を開く。
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