憧れを秘めて



※最終話まで読まれている方向けです(ネタバレあり)
もうひとりの家族と同じ世界線






シリウスに恋人がいたという話を、初めて聞いた。
改めて、自分は親のことを何も知らなかったのだと思った。シリウスの恋人以前に、母親にも父親と同じように親友と呼べる存在がいたことすら知らなかったのだから。

クリスマス休暇の残りの時間を過ごしながら、ハリーは事あるごとに両親の学生時代に想いを馳せていた。彼らはどんな風にクリスマスを過ごしたんだろう。親友達とホグワーツに残ってお祝いしたんだろうか。それとも、父さんの家にみんなで帰って過ごしていたんだろうか。

夕食後にのろのろとホグワーツへの帰り支度をしつつ、ハリーは置き去りにしていた教科書類を回収すべくダイニングへと向かった。

「────ハリーを見送った時には誰にも見つからなかったじゃないか」

まだどこか人の気配が残る階下から、ふと自分の名前が聞こえてくる。
シリウスの声だ。

まだそう遅くない時間なので、ウィーズリーおばさんをはじめとする何人かはそこにいるだろうと思っていた。シリウスは最近、ハリー達が帰ることに対して不満そうな態度を見せてきていたが、その時の声音はやけに楽観的でのんびりとしたものだった。

「そう何度も欺けると思わない方が良い。1年以上我慢して身を隠してきたのに、その努力をふいにするつもりか」

しかし、彼の声に被せるようにして発せられたルーピンの声が予想以上に強いものだったので、ついハリーはそちらに関心を惹かれてしまう。
階段を降りきったところからそっとダイニングを覗くと、そこに残っていたのはシリウスとルーピンだけだった。少し離れたところからカチャカチャとおそらく皿を洗っているのであろう物音は聞こえるものの、2人の会話に混ざる者はいない。

「逆だよムーニー。1年以上我慢して身を隠してきたからこそ、そろそろ外に出る術を模索するんじゃないか」
「良いかパッドフット。決死の思いでアズカバンを出てきたのに、もはや今生で彼女に会うことが叶わないと知った君の気持ちは察する。少しでも彼女を感じられる"あそこ"に行きたいと思うことだって当然なんだろう。でも、もう少し自分の境遇を客観的に捉えてくれ。君は依然として指名手配されていて、世間は────」
わかってる、わかってるよ。私がどういう立場にあって、世間がどういう状況にあるかなんてことは」

苛立ったようなシリウスの声と共に、ガタンと椅子の引かれる音がした。「シリウス────」とまだ何か言いたげなルーピンを遮り、シリウスが大きな溜息をつく。

「それでもだ。…私にとってイリスがどういう存在なのか知らないわけじゃないだろう、リーマス」

そして、いつもよりどこか大きく鳴り響く足音が近づいて来る。ハリーは慌てて階段を数段上ってから再び降り直し、あたかもその時ちょうどその場にやってきたかのような顔を繕ってみせた。

「ああ、ハリー」

案の定、ハリーが地上階に足をつけたところで、ダイニングから出てくるシリウスとかち合った。シリウスはハリーがずっと聞き耳を立てていたことには気づかなかった様子で疲れたような笑みを浮かべると、短く挨拶だけしてすぐに階段を上っていく。

ハリーは逡巡した後、そっとダイニングへと足を踏み入れた。

「やあ、何か忘れ物?」
「あー、うん。教科書を…」

もごもごと口の中で言い訳をしながら、ハリーは暖炉の上に置かれていた自分の教科書をさっと手に取った。

────私にとってイリスがどういう存在なのか知らないわけじゃないだろう、リーマス。

シリウスの口から出てきたその女性の名は、奇しくも数日前に初めて話を聞かされて以来、ずっとハリーの頭の片隅に置かれていた人のものだった。
今はもうこの世にいない、シリウスの恋人。母さんの一番の親友で、共に自分を守ってくれた人。

会話の詳細までは、わからない。ただ、シリウスがまた無茶を犯して屋敷を出て、何らかの方法でイリスに"会う"方法を模索していることならなんとなく察せられた。それにあの会話の終わり方では、窘めるルーピンの言葉に納得したとも思えない。
シリウスが誰に会おうとしていようが、ハリーにそれを止めることはできない。しかし、夏休みの終わりに自分を見送ってくれたあの大きな黒い犬の姿を何人もの魔法使いに見られ────あまつさえ、それがマルフォイ一家の目に留まってしまったのだと気づかされたあの瞬間の焦りが、蘇る。

ハリーがどこか落ち着かない気持ちでいると、ルーピンが鋭くそれを見咎めた。

「何か話したいことがあるみたいだね、ハリー?」
「えー、いえ、その…」
「────もしかして、さっきの話を聞いていたのかな?」

狼狽えてルーピンの顔色を窺うと、彼はシリウスとどこか似通った微笑みでハリーを見返す。盗み聞きのような真似をしていたことを認めて良いものか迷ったが、結局ハリーはおそるおそる頷いた。

「シリウスが、また屋敷を出ようとしているって…」
「昔からあいつは一つどころに縛られるのが大嫌いでね。気持ちはわからないでもないんだが…」
「イリスに会うつもりって…でも、イリスはもう亡くなったって聞いたけど…」
「おや、イリスのことを知っていたのかい?」

イリスの名を出すと、僅かにルーピンの顔色が変わった。ハリーが「シリウスから、少しだけ」と言いながらもうひとつ頷いてみせると、表情を抑えるように強張っていた筋肉が弛緩し、安らいだ色が覗く。

「シリウスが行こうとしてるのは、ゴドリックの谷だよ。イリスはそこで、君のご両親の隣に眠っているんだ」
「父さんと母さんの…」
「あいつから話を聞いたなら、イリスがリリーの一番の親友だったということも教えられているだろうね?」
「うん。母さんの親友で、シリウスの恋人だったって────。それに、学生時代にはあなたのことも助けたって」

数日前にシリウスから聞いた話を思い出しながらルーピンとの接点を挙げると、ルーピンは心から嬉しそうに笑った。

「彼女には何度も助けられてきたよ。3年生の時に私が狼人間であることを見抜いて以来、共に動物もどきになることこそなかったものの、シリウス達にはできないような方法で私のことを支え続けてくれた」
「シリウス達にはできない方法って?」
「そりゃあ、繊細さや思慮深さが求められるあらゆる方法さ」

悪戯っぽく笑うルーピンに、思わずハリーも小さく吹き出す。

「イリスはとても公平な人だった。偏見や差別が決して少なくない環境の中でも、彼女は絶対にひとつの要素で何かを決めつけたりすることはなくてね。いつだって慎重で、良い意味で疑い深かった。だから私達はいつも彼女の意見を尊重していたし、互いに心から信頼し合っていた」

そう言うルーピンの声には、不思議な温かみがあった。優しいのに、どこか寂しげな音。彼女のことを褒めている…それ自体は数日前のシリウスと同じことなのに、こうも雰囲気が違って見えるのはなぜだろう、とハリーは首を傾げる。

「もちろん、ただの"良い人"には収まらなかったけどね。シリウスとジェームズに真っ向から文句を言えたのは、イリスとリリーくらいのものだったよ。特にイリスは1年生の時から彼らと仲が良かったにも関わらず、監督生でもあったから────」
「イリスも監督生だったの? リーマスと同じ?」
「おや、その話はシリウスから聞いていなかったのかい? …まあ監督生とは言っても、傍にいたのがシリウス達だったからとても何かを監督するどころじゃなかったけどね」
「全く聞いてなかった…。それにマルフォイに呪いをかけたとか、ポリジュース薬を作ったとか、そういう話ばっかり聞いていたから…」
「まあ、それがバレていたらイリスのところにバッジは届かなかっただろうな。でも結果として彼女があのバッジをつけたのは大正解だったよ。普段の"ちょっとした悪戯"に対しては恐ろしいほど麻痺していたけど、有事の時には誰よりも前に出て活躍していたから」
「有事って?」
ホグワーツの校内から死喰い人を出そうとするヴォルデモートの企みを阻害したりとかね。彼女は身を以て"本当に立ち向かうべきもの"を他の生徒に、そして先生にも教えてくれたんだ」

どこか誇らしげに語るルーピンの姿が、その時一瞬だけ年よりもずっと若く見えたような気がした。きっと学生時代のことを思い返すと共に、その心が体に現れたのだろうと思う。
────シリウスから話を聞いた時もそうだった。彼もまた、顔を輝かせながらまるで昨日のことのように遠い昔の話を聞かせてくれていたものだ。
そのことを思い出すと同時に、ハリーの脳裏には先程のシリウスの様子も蘇る。今も色褪せないイリスとの思い出を懐古するためなら、なんだってしてしまいそうだ。ルーピンの話を聞いた後だと尚更そんな風に思わざるを得なかった。

「…シリウスは、ゴドリックの谷に行くのかな」

不安をそっと口にすると、シリウスからイリスの話を聞いた時の、あのなんとも言い難い切なさが胸に去来する。
生涯を通して愛した人。死によって引き裂かれても尚、一途に想い続けた人。
ハリーにはまだ、本当に大切な人を奪われることがどういうことなのか、よくわかっていなかった。両親がいないことを寂しく思うことはもちろんあるが、ハリーが2人を失ったのはまだ物心がつく前のこと。何かの魔法や奇跡で会えるというのならその機会を逃すことはないだろうが、数々の危険を冒してまで墓参りに行こうとまで思ったことはなかった。
ただ、昨年自分のせいで死なせてしまったセドリックのことを想う────。もし、セドリックのお墓に行って、もう一度ちゃんと謝ることができたら。その上で、自分が戦うことをしっかりと約束できたら。そういう風に考えたことなら、何度かあった。

シリウスの気持ちを真に理解することは、今のハリーにはできない。だからこそなのか、ハリーはシリウスが今にも自分の想像を超えた行動を起こすのではないかという気がしてならなかった。

「────どうだろうね。今のあいつは少し自棄になりすぎているから…。まあ、一晩経って冷静になれば、イリスがシリウスの墓参りを望んでいないことくらいわかるだろうさ」
「望んでないの?」
「もはやこの世にいない彼女の言葉を勝手に捏造するのは気が引けるけどね…でも、イリスなら確実にこう言うはずなんだ。"私の墓に来たところで私本人と会えるわけじゃないでしょ。そんなに死にたいの?"って」

ルーピンはどこか棘のある声を装ってそう言うと、ふっと力を抜いて笑った。

「────そうでもなきゃ、アズカバンに連行されるシリウスを目の前にしてなお、ワームテールを追うという自分の使命を優先させるはずがないんだ」

その言葉に、ハリーは思わず衝撃を受ける。シリウスの口ぶりでは、まるで────まさにそう、ワームテールが自爆したあの後すぐに2人は別れ、そしてイリスがその場を離れている間にシリウスが連行されたようにしか聞こえなかったからだ。

「イリスは…シリウスが逮捕された時、そこにいたの?」

もしハリーが同じ立場だったとしたら、無実の罪で恋人が取り押さえられた時に黙ってそれを見過ごせるだろうか。きっとできないだろう、と答えが出るのは早かった。
ハリーの静かな問いに、ルーピンは力なく頷く。

「でもハリー、イリスは決して薄情だったわけでも、臆病だったわけでもないんだよ。ワームテールを野放しにして2人ともアズカバンに連れて行かれるより、彼女ひとりでもそれを追って真の罪人を引き渡した方が、長い目では自分のためにも、シリウスのためにも、そしてジェームズやリリーのためにもなると判断したんだ」
「…でも、イリスはその途中で死んだ」
「結果としてはね。うまくいかなかったかもしれない。それでも彼女がそこで感情に任せてシリウスを追っていたら、"ワームテールを捕らえられたかもしれない"という希望すらその時点で潰えていたことになる。だから私は、彼女のその判断が間違っていたとは思わない。いや、正しく言えば、私は彼女の判断を一度として疑ったことはなかった」

自信に満ちた信頼の言葉を聞いても、ハリーはまだ納得できなかった。考える時間を与えられてもなお、連行される恋人を見過ごせる心理を理解するのは難しかった。冷たい性格だったわけでもなく、臆病風に吹かれたわけでもないとなると、それはもう────。

「イリスは、本当にシリウスを愛していたの?」

本当は、シリウスのことをそこまで愛していなかったからなのではないか。
そう思って尋ねると、ルーピンはそこで初めて眉を吊り上げた。まるでハリーの質問が信じられないとでも言うように。

誰よりも愛していたよ。他の人が入り込む隙なんてどこにもなかった。彼女はシリウスの一番の理解者であり、戦友であり、そしてかけがえのない家族だったんだ」
「それなら────」
「君にはまだわからないかもしれないね。私だって、実際愛した人が目の前で魔法省の役人に取り押さえられているところを見たら黙っていられる自信はないよ。それができたのはひとえに────イリスが、イリスだったからだ。彼女はいつもそうだった。どれだけの大事件が起きようとも、決して大局を見失わない。どれだけ奇想天外な現象を目の当たりにしても、決してその中に埋もれている簡単な真理を見失ったりはしない。感情がどれだけ乱れていても、それを上回る強さの理性が必ず働くんだよ。だからこそ思うんだ、あの時────シリウスが連行された時、彼女はどれだけ悔しかっただろうと。きっと泣き叫んであいつに縋りたかったに違いないんだ。それを抑えるために、どれだけの覚悟が必要だっただろう…そう考えるだけで、私の方がやりきれなくなるくらいさ。だってどれだけ大人になったって、どれだけ出来た人間に成長したって、彼女の根幹は────」

そこまで言ったところで、ルーピンはハッと口を噤んだ。完全に言葉を返せなくなっているハリーを見て、少し後ろめたそうに「…ごめん、少し喋りすぎたね」とばつが悪そうに笑顔を取り繕う。

ルーピンがこんなに熱を込めて何かを語るところを見たのは、ハリーが知る限り初めてのことだった。彼女の根幹が何だったのかハリーにはわからず終いとなってしまったが、我に返ったルーピンがこれ以上それについて話を続けることはないだろうと直感的に察する。

「とにかく、イリスとシリウスの愛を疑うなら、私は君のご両親の愛まで疑わなきゃいけなくなってしまう。知らない人間の愛を察しろというのも無茶な話だが、どうかイリスのためにも────そしてシリウスのためにも、2人の過ごしてきた時間と育ててきた絆が本物だったことを信じてほしいんだ。そしてついでに、シリウスが自棄になって外出しようとしていたら止めてくれないかな」

最後の方に冗談めかしてそう付け足す頃には、ルーピンの表情もいつも通りの柔和なものに戻っていた。
まだ納得したわけではない。しかしルーピンはもちろんのこと、当のシリウスですらイリスの愛を疑っている様子はなかった。
それなら、きっと世の中にはまだ僕の知らない愛の形があるんだろう。そう言い聞かせて、ハリーは会話の終わりの雰囲気を汲み上げることにした。

「────わかった。僕の言うことを聞くかはわからないけど、言ってみるよ」
「ありがとう」

ルーピンの笑顔に笑顔で返し、ハリーは踵を返す。しかしダイニングを出ようとしたところでどうしても引っかかっていた疑問を抑えきれなくなり、そっと振り返る。

「…最後にひとつ訊いても良い?」
「なんだい?」

ルーピンは穏やかに微笑んでいた。その顔に勇気を得て、心の隅に湧いていた"違和感"を口にする。
いつになく熱のこもった言葉。彼女のことを思い出す時に差し込む、輝きと併存する陰り。その複雑な言動の意図するところを────勘繰らずには、いられなかった。

「リーマスにとって、イリスってどんな人だったの?」

ハリーがそう尋ねると、ルーピンは眩しそうに目を細めてみせた。

「一生手の届かない、憧れの人さ」

「シリウスには内緒だよ」と言って悪戯っぽく人差し指を唇に当てるルーピンは、またしてもハリーの知らない顔をしていた。彼の言葉の意味を追及する勇気までは出ないまま、ハリーは「そうなんだ」と曖昧に返し、そのまま自室へと戻る外なかった。







「リーマスがイリスの話をする」という原案は椎名さんからいただいたものです。ありがとうございました。
こんな風に何度も原作軸で既存キャラクターがヒロインについて語る機会をいただけるとは思っていなかったので、なんだかとても深く考えさせられました…。とはいっても、私の中では本当に生きているというつもりで(断固! 強い意志で!)ヒロイン像を作っていたので、台詞回しに迷うところはあれど話の流れは非常にスムーズに進んでいきました。何よりキャラクターの心情をより細かく掘っていく作業はやっぱり幸せを感じてしまいますね。

リーマスの想いについては、
「(ヒロインはシリウスを)誰よりも愛していたよ。他の人が入り込む隙なんてどこにもなかった」
この辺りの台詞がよく表しているかなと思っています。

リーマスはヒロインに密かに憧れていましたが、その想いが叶うとは一度も思ったことがありませんでした。彼が彼女への想いを自覚した時には、もうヒロインとシリウスは2人でひとつになってしまっていたので。
だからこそ、その2人の愛を疑うものは許さないスタンスになってしまっています。書きながら「過激派だな〜」なんて呑気なことを考えていました(笑)

ちなみにこの後の長台詞がびっくりするほど長いのはわざとです。いつもはあまりにも長い文章だと読みにくいので途中で切って地の文を入れるのですが、今回は彼の勢いや熱をそのまま放出したかったのであえて一気に喋ってもらいました。

その台詞の最後にある「彼女の根幹は」にあえて言葉を続けるとするなら、「愛を失うことを誰よりも恐れ、信じたもののためならどれだけの自己犠牲も厭わない」、そんな感じでしょうか。
なお、ここで言う「恐れ」はその前の台詞に出てきた「臆病」とは少し意味が異なります(リーマス自身も否定していますが)。「自分が害されることを恐れる」のではなく、「自分の愛したものが害されることを忌避する」という方が近いです。

この辺りは監督生として、そして良き友人として「理性的な」ヒロインの姿を「理性的に」見てきたリーマスだからこそ言えたことでした。シリウスと別れさせられた時のヒロインの心の痛みと覚悟を誰よりも理解してあげられたのは、きっと彼だったと思うのです。
…そんな理由で、今回はその当時の話にスポットを当てた次第でした。

文章に書いた通り、ハリーはヒロインの終盤における行動原理を理解していません。リーマスの手前納得したような素振りは見せていますが、多分心の隅ではモヤモヤとしたものを抱え続けていると思います。
ただ、残酷な話にはなるのですが、この直後ハリーはシリウスを救うために仲間と魔法省へ乗り込み、それが結果としてシリウス本人を誘き寄せた挙句死なせてしまうことになりますよね。愛した人のためと思って行動することが裏目に出ることもある、その辺りを経験することでまた少し考えが変わるのではないかと思います。

(ついでに屋敷を飛び出そうとしているシリウスですが、彼についてはリーマスの言葉通り一晩明けたらちょっと冷静になってまた頑張って引きこもり生活を続けることになるはずです。たぶん。きっと。ヒロインからの手紙とか都合良く発見して思いとどまってくれ…)

ちなみにリーマスの中で、ヒロインへの気持ちは「自覚したくなかった恋心」→「何も望まない淡い憧れ」→「人生で最も大切な眩しい宝物」とだんだん美しく変化していっている、というつもりでいます。
なので、トンクスと付き合うことになった時もきっと良い意味でヒロインとの会話(※)が背中を押してくれているんじゃないかなと期待しています。
※133話より↓
「どう足掻いても、自分が人狼であることは変えられない。今まではただ幸運だっただけで、満月の晩になったらいつ誰かを噛んでしまうとも知れないんだよ」
「20年近く噛まずに生きてるのに、これから噛むかもしれないなんてそんな可能性の低いことを心配してるの?」
「それは、だって…両親や、君達がいたお陰じゃないか」
「だから今度はそれが、彼女や奥さんや…新しい家族になるんじゃないの?」

個人的にリーマスにはどこまでも誠実でいてほしいと願っているので、トンクスからの好意を察知した時点で彼はヒロインの存在を明かしているんじゃなかろうかと妄想したりもしていました。今回は場面の都合上カットしておりますが。
トンクスがリーマスにどう求愛していたのか、その過程の部分を詳しくは知らないので(情報を追えていないだけだったら申し訳ないです)、あまりに朧な妄想なのですが、

「今までこの話をしたことはなかったけど…実は私には、忘れられない人がいるんだ」
「────そんな気はしてた。どんな人なの?」
「今はもう亡くなっているし、そもそも彼女はシリウスと深く愛し合っていたから私の出る幕なんてなかったんだが…。でも、当時の私が知る限りでは誰よりも平等で優しく、慎重さと大胆さを兼ね備えた女性だった。憧れだったんだ、その生き様が」
「…そんな素敵な人が亡くなってしまったのが心から残念だわ。私も会ってみたかったなあ」
「…何も言わないのかい?」
「え、だからその女性に会えないのが残念だって言ってるじゃない」
「いや、そうじゃなくて…」
「あのねリーマス、彼女が忘れられないから新しい恋はしないって言うならそれはあなたの勝手だわ。でも、だから私にこの気持ちを諦めてって言うのは無理な話。そんなに素晴らしい人が相手じゃとても敵わないかもしれないけど、私にだって"私らしさ"はあるんだから、それをあなたに受け入れてもらう努力をするだけなの」

なーんて前向きな話をしていたら嬉しいな…という…。トンクス大好きなので…。
いや、でもでも、原作でトンクスの髪がくすんでしまっていた時期もありましたよね? 無理に当てはめるならそうやって口では強気なことを言いつつもヒロインの影に苦しんだトンクス…とか…いても良いかもしれな…い…うーん…それはどうなんでしょう…(迷子)。

とにかく(外見の変化はどうあれ)言葉から滲み出るその明るさに触れ、彼女の純真さに胸を打たれ、最終的にヒロインの「また誰か素敵だと思える人に出会えると良いね」という言葉に心から頷いたあの瞬間を思い出し…なんていう過程があったら良いのにな…とこのままいくと地平線の果てまで暴走してしまいそうなのでやめておきます。途中で完全に迷走してしまいましたし。

ということで…あとがきの方が長いのではなかろうかと思われるほどだらだらと書き綴ってしまい大変失礼いたしました。この長編の設定についてはどこまでも深い思い入れがあるので、こうして掘り下げる機会をいただいてしまうとどうしても喋りすぎてしまいますね…すみません。

そして、ここまでお読みくださりありがとうございました。
何度も書いたことにはなりますが、この物語が本編の終わった後も読者様のお力を借りて生き永らえさせていただけていることが本当に幸せです。
これからも「こんな話が読みたい〜」というご意見があればぜひ聞かせてください。またどこかでお会いできることを心よりお祈りしております。









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