Marauder-Fugue



イリス・リヴィアは、腹が立つほど無害な人間だった。
一番初めに会話をしたのは、僕がまだ1年生の時。
後に"必要の部屋"という名を知ることになるその大きな図書室で、彼女は何の警戒も持たずに僕に問いかけてきた。「"正しい歴史"を知りたい」と。

本当に、何も知らないのだ。何も知らないくせに、「図書室には書いてないことを知りたかった」などと言う。まずは図書館に書いてあることから学べば良いのに。少しでもその小さな頭が回るというのなら、どちらがどちらを排他し、どちらがどちらを支配して生きてきたか、その変遷くらいはわかるだろう。

僕はその瞬間から、リヴィアを脅威と見なすことをやめた。
こんな無知な女の、どこに怖いところがあるか。むしろああまで馬鹿を丸出しにされると、そんな能天気女と親交を深めている兄の方が不思議に思えてくる。
少し見ただけで苛立つような、"思考する"ことを知らない顔。場の空気に流され、"とりあえず"生きているだけの骸。
それらは、僕ら兄弟が唯一共通して嫌悪しているもののはずだった。

どこに、興味を惹かれる要素があるというのだろう。

「元々印象が悪かった奴が思ったより良い奴だった、だから友達になりたいと思った」

彼女は一応、2年生。入学当時は"マグル生まれ"ということで魔法界のなんたるかを知らなかったとしても、その1年で魔法使い達と渡り合える程度の知力、胆力を身に着けたものだと思っていた。だからこそ、「思ったより良い奴だった」というセリフが生まれてくるのだと。

それがどうだ、あの間抜け面は。
あれのどこに良い印象を覚えれば良いと言うんだ。

ここまでの虚無感を植え付けられると、むしろ差別的な見方をしているのは兄の方なんじゃないか、と思い始めてしまう。
元より、兄に"マグル生まれへの偏見"がないとは言わせない────口でどう言おうとも、その人生に純血主義が刻まれていることは間違いないのだから。
"マグル生まれは能無し"、その前提があったからこそ、あの薄っぺらい探求心と平等心がたまたま"マグルにしては勉強熱心"と映ったのではなかろうか。

何を期待していたのかは自分でもわからないが、僕はその時、ちょっとした失望を覚えた。

もしかして、隠された"必要の部屋"に辿り着いたという事実を捉えた瞬間、無意識に気持ちが高揚していたのかもしれない。これだけ入室に困難を要する部屋に当たり前のように入っているということなら、それ相応の知識や経験を積んだ人間がいるのではないか、と。ただ、期待値が大きければ大きいほど、それを少しでも下回られると、必要以上に落胆してしまうという現象はよくあることだ。

もう良い。やはりマグル生まれの無知な人間は、到底僕達とはわかりあえない人種なのだ。マグル生まれであっても、"力を持つ人間による正しい統治"を是とするのならば、仲間に引き入れる余地はあったと思っていたのに。
最悪、戦力が圧倒的に不足していた場合は、マグル生まれからもそういった思想を持っている人間を探しても良いのかもしれない。ただ、専ら純血主義に賛同している人間の方が僕の理想を説く土台が作りやすいのだということに、気づかざるを得なかった。

「セブルス、君はどうしてそこまで闇の魔術を研究するんだ?」

まず目を付けたのは、1学年上のセブルス・スネイプ。僕が入学した時から、7年生にも匹敵するほどの闇の魔術を身に着けているとか、いないとか…そんな噂を聞いていたような気がする。人を傷つける呪文を積極的に学ぶのは、我ら純血家系にありがちな現象だ(偏った思考の持ち主として何かと敵を作りやすいので、必然的に戦いに備えた呪文が必要になる…。もちろん、過激派な人間はあえてマグル生まれを攻撃するために呪文を学んでいる節もあるが)。
彼は確か、純血の家系ではなかったはず。それでもなおあえて闇の魔術を学んでいるところに、僕はちょっとした興味を持った。

「────それを聞いて、何になる?」

この慎重さ。表に出て派手に暴れるより、裏で色々な糸を引いて暗躍するタイプ。
団体の中には必要なステータスだ。

「君の存在が僕の助けになり、僕の存在が君を助ける可能性があるから」

それに、彼を仲間に引き入れる"カード"なら、既に僕は持っていた。
リリー・エバンズ
グリフィンドールにいる、リヴィアと誰よりも仲良くしている赤毛のマグル生まれだ。

セブルスがエバンズに、並々ならぬ執着を抱いていることは知っていた。その点だけを見るのであれば、セブルスの考えていることは僕の目指している未来と異なる可能性が高い。
それでも僕が彼に声をかけたのは────ひとえに彼が、魔法薬学と戦闘魔法に長けていたから。うまく引き入れることができれば、彼は優良な戦力になりうる。

「…僕は闇の魔法を極めたい。ただひとつの分野でも構わないから、誰よりも秀でている存在になりたい」
「セブルス、君の野望の大きさを素直に尊敬するよ。大成した暁には、優秀な呪術者として歴史に名を残すんだろう」
「…歴史に名を刻むことには、然程興味がない」
「────認めてほしい人が、いるのか?」

エバンズの名は、直接的には出さなかった。ここでエバンズの名を軽率に出して彼の神経を逆撫でしても逆効果だ。"認めてほしい人がいるから努力する"、その程度の概念にまで薄めることができれば、誰から見てもその理由は正当なものに見えるだろう。

「…だったら、何か悪いか」
「いいや、その信念は貫くべきものだと思う。僕も実際、毒にも薬にもなる魔法を極めて、新しい世の中に貢献するつもりでいるから」

自分の目的を、細部には至らずとも明かしておく。そうやって自己開示をしているふりをすれば、相手からの信頼を得やすくなる────そんな幼い頃から教えられていたコミュニケーション術はきちんと功を奏したようだった。セブルスの顔が、ちょっとした嘲笑に変わる。

「随分とご大層な大望を掲げているようじゃないか」
「目標は高く。ただし、目的は実現可能な範囲で。いずれ新しい世の中に貢献するべく、僕は今────仲間を集めている。闇の帝王の存在は知っているだろう?」
「それがなんだ? まさか、そこまで大口を叩いておきながら自分は王の器たりえないと急に尻込みするつもりなのか?」
「そのまさかだよ。僕は王の器じゃない。しかし、王自身が真に忠実な臣下を選ぶことに多大な労力を必要とするのも事実だ。セブルス、僕は"王の右腕"になれればそれで十分なんだよ」

セブルスは「"十分"の基準が随分と高い」とでも言いたげにフンと鼻を鳴らした。
しかし、僕はそうでなければならないのだ。頂点には立てない、それでも名もなき造兵に留まるつもりはない。1年前に汚されたブラックの名を払拭し、僕の生きた証を残し、新たなる世の礎としてその朝焼けを見たいのだ。

「僕が集団の先頭に立てるタイプじゃないのは────勇敢なる兄上を見ていただければわかるだろう。ああいうカリスマ性は僕にはない。だからこそ、カリスマたる人物が最大限の力を出せるように、そちらの方に力を尽くすんだよ。僕はこの7年で、共に学びを高め合い、戦闘も治療も知識も豊富な人材を揃え、それこそ"誰が見ても認めてもらえるほど"の光の軍団を作るつもりだ」
「────他者を高めるためにわざわざ我々が馴れ合う必要はどこに?」
「それを"馴れ合い"だと思うなら、早々に認識を改めてほしい」

1学年上、おそらく知識も魔力も僕より格上。それでも僕は、彼に対して気後れした態度など取ったりはしない。
それを言ってしまえば、僕は生まれた時から兄の下位互換と思ってきた。今更こんな鬱屈とした人間に、(たとえ実力差が本当にあったとしても)へこへこする方法など僕は知らない。

「良いかセブルス、そもそもこれは馴れ合いじゃない。れっきとした生存競争だ。建設的に同じレベルの人間同士で集まり、互いのスキルを盗み取りながら自らを頂点に押し上げる。そこで最も"強い"とみなされた人間が、新たな世の礎となる──── 一度として失敗の許されない人生だ、その"歴史"を作るためなら、僕はどんな努力も厭わない」
「────"強い"、の定義は?」
「ああ、それなら君の定めた理屈で良いさ。"誰かに認められる"────その母数でも良いし、"認められたいと思っている人間"に人生を懸けるレベルで心酔した、という結果でも良い。僕はあくまで"僕の目的"のために、正しき道を敷く新しい統治者とその臣下を求めているに過ぎないんだから。現に今、闇の帝王が勢力を伸ばし始めている。次の世代の黎明期には、今という時が抜群の契機だと思わないか?」

セブルスは、僕の言葉ひとつひとつに慎重に耳を傾け、思案する顔を見せた。
────やはりセブルスは、その学び方に偏りがあるにせよ、そして学びの要因に綺麗でない理由が含まれているにせよ、頭の回し方とその力の使い方に長けているところがあるようだ。

「────"君の目的"とは?」
「"正しい統治"、それだけだよ。残念ながら、僕は誰かに認められたいという具体的な理想は持っていない。でも、今の世の中の在り方に疑問を持ち続けている。…君は疑問に思ったことがないか? どれもが等しく価値のある魔法であるはずなのに、"闇の魔術"を学んでいるというだけで嫌悪される、今の世の中が。我々スリザリンにだって他の寮と同じだけの歴史と思想があったはずなのに、"スリザリン"というだけで敬遠される、この歪んだ価値観が

別に、嘘はついていないさ。
ただ、セブルスに刺さりやすいだろうと思った僕の意見の一端を前面に出しただけで。

「……」

あながち、僕の見立ては間違っていなかったようだ。最初にスリザリンの寮生について一通りその目を光らせていたお陰で、ある程度の思考回路と行動パターンは読めている。
────こういうことに関してだけは、自分が慎重深い性格で良かったと思う。兄だって、やろうと思えば同じことをできる眼を持っているはずだ。それこそ、きっと僕のものよりもずっと性能が良いであろう、眼を。
でも兄は、そういうことをしない。直感などという何の根拠もないことを信じ、フィーリングなどという移ろいやすいものに基づいて人付き合いを選び、頻繁に同世代の奴らと喧嘩したり大人と揉め事を起こしたり、忙しない人生を送っている。

派手なこと、とにかく目立つことばかりを好む破天荒な兄のことだから、きっと自分に"慎重な人付き合い"ができることを知っていながら、あえてその道を選ばなかったのだろうとは思う。
そんな刹那的な感情で火花のように生きることに対し、不安を覚えないのだろうか。明日にはその無鉄砲さが自らの身を滅ぼすことになりかねないと、わかっているのだろうか。

人生は長い。人が生を受けたことには、必ず意味がある。
明日のことも考えずに感情だけで動く兄を快楽主義者とするなら、僕は典型的な禁欲主義なのだろう。
目の前にある快楽になど、興味はない。必要なのは、魂および世間の安寧。安定した"歴史と蓄積された魔術の継承"によって正しく世を納めることのできる支配者。その者による、魔法使いが魔法使いらしく生きられる世界。その大義のためであれば、僕は自分自身の欲を優先しようなどとは思わない。その大義のためであれば、僕は自分の人生を全て捧げる覚悟がある。

「具体的には、どうするつもりなんだ」
「ただ"チーム"を組むだけさ。君が新しい魔術を開発していることは小耳に挟んでいる。そして僕は、潜在的に魔力の高い人間かつ闇の魔術に理解のある人間を集めている。真に才能のある者達で集まり、誰もが忌避しようとしている闇の魔術の造詣を深め、"闇"の魔術を"実用的な"魔術にのし上げたい。────だから、0を1に変える力を持つ君に助けてほしい」

セブルスは少しの間考え込み、そして、小さく頷いた。
良かった。最初の勧誘だったのでどこかでしくじるのではないかとも思ったが────どうやら、僕の言葉選びは間違っていなかったようだ。

そこからは、ほぼ芋づる式に同志が増えていった。
セブルスが仲良くしていたエイブリー、マルシベール、そして僕もコネクションを築こうとしていたルシウス。この3人を取り込むことは容易かった。

それから更に、内に入れた人間が1人。
バートラム・オーブリーは主将格に据えるには多少脳みその足りない人間だったが、呪いを行使することに躊躇いのない"良い特攻隊長"だった。模擬決闘にも積極的に参加したがる血の気の多い性格だったので、セブルスが考案した呪いを実験用に使う格好の的だったのだ。

こうして2年生になる頃には、僕の周りには5人の同志がいるようになっていた。
そうは言っても、僕自身の存在感は未だに希薄なままだ。

以前から好んでいたクィディッチチームに誘われたその時は、"レギュラス。ブラック"をひとりの人間として扱い、"レギュラス・ブラック"の持っているものを認めてくれたことが嬉しかった。僕にはこういう道も選べるのか、と少し高揚したくらいだ。

でも、学期が終わり、お互いに成績表が届いた時、そんな希望はたちどころに打ち砕かれた。
全科目で満点以上の評価を修めてきた兄。
対して僕は────良くも悪くも"平凡"ということに落ち着いていた。
ホグワーツの試験は元々レベルが高いので、平均値を超えているだけでも十分優秀と言われるほどの結果を持っている。
それなのに、1歳上に化け物がいるせいで。ちゃらんぽらんなくせに全てを叶えてしまえる忌々しい才能があるから。

────やはり僕は、団体のトップにはなれないのだと思う。
勉強以外の"推測"や"計画立て"については慎重であり、かつ目的が明確に定まって言えるせいである程度の力を発揮できる、と思っている。
しかし、それを実行できるだけの勇気と頭がないのだ。だから僕の代わりに、作戦を完遂してくれる人が必要だった。

もちろんターゲットは、最もそれを叶えてくれる可能性が高そうな存在である、闇の帝王。

「オリオンから話は聞いているぞ、レギュラス」

14歳になった年の夏、父から遂に、闇の帝王を紹介された。────正確には、僕の名をこれぞとばかりに"次代の帝王の最も忠実なる下僕"として吹聴して回った結果、親戚筋を辿って既に彼の下についている臣下(死喰い人というらしい)が彼に僕の名を伝えてくれた。

闇の帝王は、ひどく美しく、そして恐ろしいほどに生気を失った、まるで彫刻のような人だった。
兄に対しても似たようなことを思ったことがある。僕はそこまで容姿に恵まれているわけではないから、尚のこと。しかし兄が彫刻のように美しいのは、"黙っている時"だけだ。ひとたび口を開けば石膏に血が流れ、周りには爆発の粉塵が飛び散り、一瞬で騒がしい俗物的なディレッタントと成り下がる。

それに対して、彼はどうだ。
仕草、言葉、雰囲気、声色、その全てが本物の芸術を形作っている。シルクのように艶のある黒髪、この世の光を全て跳ね返すような眩い紅の瞳、唇は薄く、鼻は高く、こちらに手招きをするその手指は蛇のように長く、しなやかだ。

「若くして正しき道を自ら選んだ賢い若者だと────ああ、実際に会ってみてよくわかった。おまえはきっと、私の忠実なる仲間としてこの馬鹿げた世直し騒動に早々に終止符を打ってくれることだろう」

────ようやく見つけた、と思った。

仕えるべき主。人類の頂点に立つべき神と同等の存在。
この混沌とした魔法の世に正しき秩序を敷き、魔力を持つ者が正当に生きる権利を与えてくれる指導者。

「────レギュラス・アークタルス・ブラックと申します。この命は貴方のために。そして、新たに迎えるべき世のために」
「そう堅くなるな。我々は友人だ、そうだろう? 志を共にする友人なのだ、レギュラス。ホグワーツという私には歯痒いことに手を出しづらい環境の中、然るべき芽を育ててくれる若い世代の第一人者と期待しているぞ」

────僕はきっと、兄にほとんど敵わないのだろう。
容姿、成績、魔力、行動力、言葉の説得力、存在感。

それでも、選ばれたのは、僕だった。
僕こそが正しいと証明するその一歩目に、ようやく立つことができた。

だから。

「────お任せください。貴方が同じように"友人"と呼べる、そんな人間を集めてまいります」

僕はホグワーツの3年目、自分の振舞いがそれまでと確実に変わっていることを自覚しながら、あくまで"ダンブルドアの庇護下"に置かれているふりをしながら、"闇の帝王のスパイ"としてホグワーツ城に舞い戻った。
まだ死喰い人と呼んでもらえるほどの存在にはなれていない。あくまで僕の役目は、新入りの下積み作業といったところ。早いうちに成果を出し、自らも闇の帝王の配下を堂々と名乗れる日を、確かに楽しみにしていた、

「────スリザリン寮の面白い…方ですか?」
「そう。外部のコネクションを積極的に作ろうとしてる奴とか、夜更けまで闇の魔術を勉強してる奴とか…なんなら、新しい魔法を作ろうとしてる奴でも良い。"一般的な生徒とは違う、自分の意見を確りと持った"生徒について知りたい。別にこれはスリザリン寮に限った話じゃなくても良いんだ…誰か、心当たりのある人間はいないか?」

まずはやはり、コネクション作り。情報網の、再開拓。
きっとこの方法は、誰にも予想ができなかっただろう────"屋敷しもべ妖精"を手中に収めるなんて。

屋敷しもべ妖精は基本的に、虐げられる生き物だ。そこに能動的な命の価値はない。魔法使いに使役され、その価値を受動的に認められることでようやく生きていることを許されるような哀れな生き物だ。
しかし、それは宝の持ち腐れだと思っている。
屋敷しもべ妖精は、時と場合によっては並の魔法使いを凌駕する力を持つ。
しかも彼らは、自らが下等生物であることを弁えている。自らの仕えるべき主に対してはどこまでも忠実。マグルを全て穢れていると排除することも、遍く魔法使いは全て有能だと妄信することもない。会話も成り立つし、情報通。

2年生の終わり頃、スリザリン寮と同じ階にある厨房を見つけ、その中に多くの屋敷しもべ妖精がいると知ってから、僕は意欲的に通うようにしていた。
元々実家にクリーチャーという屋敷しもべ妖精がいたからなのだろう。僕はどうやら、他の魔法使いと比べれば屋敷しもべ妖精に対する偏見が少なかったらしい。
確かに見た目が美しいとは言えないが、再三語る通り僕は表層的な美醜になど拘らない。彼らが従順で、こちらに利をもたらす存在である限り、僕達は"対等"だ(厳密にはこちらが"上"だからこそ成り立つ関係性だが、この上下関係ありきでなお僕は彼らを利害関係の一致した"同胞"と思っていた)。

「とりわけ目立つ方と言われましたら…やはりポッター様とブラック…シリウス・ブラック様でしょうか」

────思わず、溜息が出た。そんなことはわかっている。わかっているし、やはり最初から敵と見なしている人間を真っ先に挙げられると、改めて自分の最たる脅威を見せつけられているようでげんなりしてしまう。

「それ以外にはいない、ってことか…」
「レイブンクローにいらっしゃるマゴット様なども、ご自身の信念を貫かれている高貴な方として有名ですね。それから────」
「いや、もう良い」

マチルダ・マゴットのことなら既に知っている。確かに自分の信念を貫いているという意味では僕の理想と一致するところもあるが、彼女は些か頑固すぎるきらいがあった。誰かの思想に追従するというより、自らの思想を確立しようとしている。僕らの掲げる支配体制のもとに下るつもりはないのだろう、どちらかというと学者気質で、世界を変えるだとか統治をするだとか、そういったことには関心がないのだろうと早々に声をかけることを諦めていた。

ポッター、兄、マゴット。最初に出てくる名前がそれらだけなのであれば、もう僕のリサーチの範囲を外れる名前が出てくることはないのだろう。

「今の在学生にはもう期待しない。その代わり、君達が今まで見聞きしてきた"スリザリンの思想"に関する情報があれば、都度教えてほしい」
「承知いたしました!」

若いしもべ妖精は元気良くそう言って頭を垂れると、奥の方から老齢のしもべ妖精を連れてきた。年はクリーチャーとどっこいどっこいだろうか。しもべ妖精の寿命については200年程度が平均と言われるが、実際100年を超えた頃からこのくらいの見た目にはなっているので、正確な年齢はわからない。

ただ、その老齢のしもべ妖精────エメリーンという名の女性らしい────が、"スリザリンの思想に関する情報"を僕に与えるために呼ばれたことだけは間違いないようだった。きっとホグワーツに長く勤めており、その歴史を間近に見てきたのだろう。

「スリザリンの継承者様のお話ですね?」

エメリーンはゆったりとした、時間を感じさせない声で僕に問いかける。

"スリザリンの継承者"、と彼女は言った。

僕はただ、スリザリンの思想に関する情報が欲しいと言っただけなのに。急に核心をついたような、まるで"誰か特定の人を指す"ような言い方をされる。

「…そんな人が、いたのか」
「ええ、確かに────30年前に」

両親と同世代の人間だ。そうでありながら、僕はそんなカリスマを知らずに育ってきたのか?

「とても優秀な学生様でした。道行く人が皆振り返るほどのご容姿を持ち、どちらの先生もが手放しにお褒めになるほどのご成績を修め、監督生、主席、ホグワーツ特別功労賞…学生様であれば誰もが一度は夢を見る肩書きを全て与えられた、"才色兼備"を形にしたようなお方でした」
スリザリンの継承者が?」

少しだけ驚いた、というのが正直なところだ。現代の魔法使いにおいて、純血主義者が少数派である事実自体は僕も認めている。そうでない多数の魔法使いからは、僕達の立場は煙たがられるに十分だということも。だからこそ、僕達のような人間のよく集まるスリザリンは、他の寮を敬遠し、他の寮から敬遠されやすい性質を持つ。
そんな歴史と現状がある中で、まるでそんな────"模範的なホグワーツの代表生"にスリザリンの生徒が選ばれたことがあったとは。

「彼をただの"模範生"ではなく、わざわざ"スリザリンの継承者"、と認めたのは──── 一体なぜだ?」

緊張と期待の狭間に震えながら、僕はエメリーンに彼の呼称の動機を尋ねる。ただでさえ、その肩書きの羅列は間違いなく彼がその時代最も優秀であることを示している。ただそれだけなのであれば、"大人の言うことをよく聞いた人形"とも言えるし、同時に"スリザリンの生徒にしては珍しく人望が高く、開放的で平等な目を持ったよくある模範生"だったのかもしれない。そして僕は、そういった人間にはもう関心を持っていなかった。

スリザリンの継承者。

そう呼ばれた由縁によっては、彼こそが真の指導者なのかもしれない。
そして、彼女の話を聞いていくにつれ、僕の脳内にひとつの推測が持ち上がる。

両親と同世代だった生徒。
優秀で、美しく、誰からも一目置かれる才能と技術を持っていた魔法使い。

もしかして。
だって、"あの名前"は、とても生来の名には見えないから。

もし"あの人"が、卒業後に名を変えて新たにこの地に足をつけたのだとしたら。

卓越した能力、人を惹き付けるカリスマ性。
その二物を持っている"あの時代"の人物

「"あの方"は、卒業後────誰にも成しえないであろうことを成し遂げるため、一度孤立されました。そのことの善悪については、わたくしどもの判断するところではございません。ただ、そのお姿はまるで────…ええ、そうです、我が家系において長く語り継がれてきた創設者のおひとりを思わせるような威厳と自信を備えておりました」
「誰なんだ、その継承者の名は────」

言いながら、エメリーンの言葉の流れと同時に構築されていく脳内のイメージ。それは、ある"ひとりの男"の形をしていた。

「…お名前は、申し上げられません。ただわたくしの口からは────」
「………"名前を言ってはいけないあの人"
「────ええ、そうとしか」

そこで初めて、朧げだったイメージが色をつける。

名前を言ってはいけないあの人、またの呼び名を、闇の帝王。

世に蔓延る"悪の権化"も、元はただの学生だった。
数々の権威に対抗する大魔法使いも、元は無力な子供だった。

そんな当たり前のことを、忘れてしまうほどの力を持った人だ。それを僕は、確かにひとつ前の夏、ちょうど実感してきたところだった。

「学生様でいらっしゃった時には、"トム・リドル"というお名前をお持ちでいらっしゃいました。当時あの道を選ばれるとは想像だにしておりませんでしたが、今にして思えばあのお方はある種世直しのために生まれたお方なのやもしれません」
「エメリーン、そのようなことを簡単に言ってしまっては────!」
「そうですね、語るお人は選ばなければならないのでしょう。ですが、それはひとつの事実です。そうはお思いになりませんか? ブラック様

エメリーンは、ガラス玉のように丸く、老いを感じさせる濁りを混ぜた琥珀の瞳で僕を見据えた。"人を選んで"その話をしたのは間違いないということなのだろう。
────やはり、しもべ妖精は侮ってはならない。気にかけられるということがないからこそ、彼らは何の躊躇もなく僕達を観察してくる。人を見て、思考を読み、行動を察する。その先に待っているものが善であろうと悪であろうと、そんなもの彼らには関係がない。────だって善も悪も、"ヒト"の定めた後発的な意義に過ぎないのだから。

やはり、早々と忠誠を誓っていて良かった。闇の帝王は、僕が想像していたより遥か前から、きっと同じ未来を描いていたのだろう。優等生、模範生、そんな輝かしい称号を惜しみなく掲げ、あの見る者全てを惹き付けるような存在感で────それこそ学生時代から臣下を作っていたのかもしれない。力をつけて間もない頃からああまで純血家系の人間を従えているのは、それに足るだけの水面下における準備期間があったからだ。────そう、それこそ、今僕がそうしているように。

自分が彼に及ぶと思っているわけではない。それでも同じように長い時間をかけて念入りに準備をし、勝算を得てから満を持して多大なる衝撃と共にこの世に名を轟かせた、そのやり口には共感するところばかりだった。

「あっ」

────しかし、そんな暗い喜びを、小さな声が妨げる。
息を呑むその緊張に溢れた声は、どこかで覚えのある音だった。

「!」

視線を遣った先にいたのは、2年前とは少し顔つきの変わった、それでもどこか腹立たしいことには変わりのない佇まいの────。

「レギュラス…」
「リヴィア…」

彼女だった。

────咄嗟に思った。

「何かが違う」と。

何が違う? 目つき? 姿勢? それとも────目に見えない部分のどこか?

「ちょっと、あなたに訊きたいことがあって」

あの時は、僕のことを見る眼にどこか自信がなさそうだった。おそらくそれは、まだ僕より彼女の方が思想形成において"下等"だったから。

「あなたの話を聞きたい。どうしてマグルは支配されるべきなのか、どうして純血こそが正義だと思っているのか、教えてほしい」

あの時は、僕の前で手をこねている仕草がやけに目立っていた。おそらくそれは、彼女自身が自分に迷いを持っていたから。

「私は、スリザリンを蔑視されるべきところとは思ってない」

あの時は、まだ。

まだ、こんなにしっかりとした"意見"はなかった。
まだ、こんなに堂々とした口調で僕に立ち向かう雰囲気は持っていなかった。

「スリザリンだからって悪だ敵だって決めつけるのは、グリフィンドールが正義を盾に振りかざしてるのと同じくらい古臭くて傲慢な考えだと思う。私はその考え方がどっちも嫌い」

どうして。

「どの人のどんな思想にも、善良なところと害悪なところが等しくあると思う」

どうして、そんなに。

「私は純血主義を抱えてマグルいじめをする一方的な魔法使いが嫌い。でも、あなたの言葉は少し違ってた」

どうしてそんなに、お前は────。

「ただ単にマグルを軽視しているんじゃなくて、マグルこそが魔法使いを排他した"悪"なのだと言った。そうしたら…そのマグルへの恨みにも、正当性があるのかもしれないと思えたの」

どうしてそんなにも当然のように、"思想"を語るのか。
以前会った時には、思想の"し"の字もなかった。誰かの骸を借り、誰かの声を借り、誰かに言われたことを言われたままに演じるだけの、"動かしやすい人形"に過ぎなかった。

"イリス・リヴィア"は、その名を与えられたブランド。
リヴィアは、大人の褒める時に使う言葉。
リヴィアは、下級生が慕う時に使う言葉。
リヴィアは、同級生の憧れの対象として使われる言葉。

そういう"称号"にしか見えていなかった。

中身のない、つまらないもの。
────"ブラック"と、同じもの。

そういう風にしか、見ていなかった。

その称号が今、イリス・リヴィアという"人格"をもって、この僕に向かって臆する様子も見せずに語り掛けてきている。
自分の意思を。自分の、考えを。

それがどうにも…僕には居心地が悪かった。
当然のことだろう、だって今まで「どうして、スリザリンはそんな排他的な考えを?」、「どういう意味?」────そんな苛立ちばかりを募らせるような、考える気のない疑問ばかりを連ねていたのに。そんな人間が突然、地に足をつけて、イリス・リヴィアにしか出せない言葉を吐いているのだ。

意思のない人形が、命を与えられて急に自力で動き、喋り始めたようなショック。
最も価値がないものと蔑んでいた下等生物が、突然権利を主張してきたようなインパクト。

初めて、"イリス・リヴィア"という人間を見たような気がした。
そしてその中身に詰まっていたものは────皮肉なことに、多くの学びを経た上でしか出せないであろう、汁の詰まった果実だった。

言いたいことはわかった。

"スリザリンの者が全て邪悪なわけではない、マグルと魔法使いの壁を作っている人間は、その身に流れている血に魔力があるかどうか関係なく存在する。────だからこそ、純血思想に固執する必要などないはずだ。マグルと魔法使いが手を取り合う未来のためには、もっと柔軟な考えを持った上で対話をした方が建設的だ"。

大方そんなところなのだろう。

確かに、その意見にはひとつの軸を据えた思想と呼べる力があった。
彼女が彼女なりに必要なことを調べ、感じ、彼女自身の努力で掴んだ結論がそこにあるということなら、ありありと窺える。

もちろん僕の思想とは結論を異にするものだが────少なくとも、2年前のように鼻で笑って一蹴することは、今の僕にはできなかった。
そこに明確な未来が見えているのなら。そこに揺らがない自身の地盤があるのなら。それがどう向いていようが、賛成・反対の如何を置いておくにしろ、僕にはそれを尊重する義務がある。尊重し、理解を示し、その上で否定する義務がある。

だからこそ、彼女の言っていることには頭を悩まされた。
それらしい反発で論破することは可能なのだろう。しかし、考えもなく刹那的な否定を示しただけでは、彼女の考えは根本的には何も変わらない。この2年で急速に育った芽が花を開いてしまえば、その度に否定の難易度が上がっていってしまう。

しかし一体────彼女の経てきたこの2年に、何があったのだろう。
僕が元々持っていた地盤を整え、仲間を集め、地道に思想を固め、遂に目指すべき目的地を見つけたこの短期間。目標が定まっていたからこそ動けたと思っているが、2年という時間は学生にとっては本来矢のように過ぎていくもの。授業を受け、宿題をこなし、クィディッチのようなスポーツにも打ち込み、最期にテストを片付ける。その"日常"を送るのがやっとのはずだ。

────余程賢くない限り、こんなに別人を疑うほどの変化は見せないのが普通…だと思っていた。

「元々印象が悪かった奴が思ったより良い奴だった、だから友達になりたいと思った」

再び、兄の言葉が脳裏に蘇る。
こういうことだったのか? 僕が関わっていなかったあの隙間の時間に、彼女は"僕からではわからない"変化を積み重ねていたとでも?

「────魔法の"ま"の字も知らない家系の人間より、代々受け継がれてきた魔法使いの方が優れているのは、当然のことだろう」

とはいっても、相手の変化に驚いて自分の語りが変わるなどという愚かなことは、決してありえない。

「どうして? 私の友達はマグル生まれだけど、他のどの生徒より優秀だよ」

そして彼女の表情が変わることも、なかった。

「それに、歴史と伝統があればあるほど、"家"そのものにも魔力が宿る。"家の名"は権威の象徴であり、そしてそんな権威ある者こそが世を統治するに相応しいと、僕は考えている」

どうしてだろう。
彼女の言葉を聞けば聞くほど、僕の言葉が強くなっていく気がする。まるで反論の最中に自らの言葉の根拠を得ていくかのような感覚だ

「じゃあ、こう言えばわかるか? "雑種の猫より、血統書付きの猫の方が高値で売れる"ことと同じだと」

単なる喩えとして出した思い付きの言葉があまりに言いえて妙だと思ったことも、意外だったと言わざるを得ない。僕の考えは、やはり一般的な人間社会において普遍的な理屈だったのだと新たな納得を得てしまったほどなのだ。

絶対に、この女とは相容れない。
まるで兄のようじゃないか。魔法使いと非魔法使いが共存できる世界を夢見て、正義と悪に決着をつけることもなく、自分の引いたラインで自分勝手に生きていくだけ。
そこには、秩序も統治もない。たとえばプレスクールで、まだ年端も行かない子供達が「僕は、私はこれをやりたいから」とそれぞれ違う玩具を持って遊んでいるに過ぎないのだ。確かに選んだ玩具が違っていれば、その世界は平和に保たれるのだろう。
しかし、ひとたび誰かが誰かの持っている玩具に目を付けたらどうだ。「自分が使いたいから」という理由で独り占めしていたその玩具の取り合いが始まった瞬間────大人の世で言う、"戦争"が始まる。

だから僕は主張し続けるのだ。

「統治は"遊び"じゃない。統治とは、正当な力の下で行われるべき"支配"だ。自分より強い者に従い、弱い者を従える。完璧な上下関係があってこそ、初めて政治とは、支配とは────成り立つものだ。人望や優しさのような脆い精神のつながりだけで生まれた集団に、一体何ができる?」

世の中には、感情を抜いた支配体制が必要だと。
そしてそこに魔法使いの社会がある限り、魔法使いに正当なる権利を与えられる"力"も必要だと。
それを示すことのできる、絶対的支配者を立てなければならない。魔法使いが繋いだ歴史と血を守る、それを肯定する風潮を作らなければならない。

リヴィアはそこまで言われて、ようやく黙り込んだ。
いくら自分の考えが固まってきたとはいえ、それは所詮2年弱の合間に構築された軟弱な思想だ。僕がこの人生を懸けて信じてきたものに、敵うはずがない。

「闇の帝王は寛大な方だ。あの方の"正しい統治"に心から賛同する者であれば、たとえ聖28族の────紛れもない純血のみの家系に生まれた者でなくとも────そこに"魔法の歴史"がある限り、あの方は配下に迎え入れてくださる」

"彼"が、僕を肯定してくれた。僕の思想は、"僕達の"思想に成り上がった。
誰しもが納得する共通の正義があるなんて、そんな子供じみたことは思っていない。しかし僕の考えに賛同する人間が覇権を取れるレベルの力を持っていることは、それが"大多数にとっての正義"になりえるだけの可能性を持っていると同義。

何が平等な社会だ。
なぜ、自身も魔法の血を流しているくせに、魔法使いが光を浴びることに反対する。
単発で誕生した子供がたまたま優秀だった。そんなギャンブルのようなものに頼ってどうする。魔法を学ぶ環境も、権力を持った魔法使いとのコネクションも作れないような"奇跡的に生まれた有能な魔法使い"に頼る未来が、本当に繁栄するとでも思っているのか?

冷静に考えて、バカバカしいと思うだろう。それくらい、わかるだろう。
それなのに、どうして彼女はこんなにも────平然とした顔で立っている?

「私はある1人の思想が"是"とされて、それ以外の思想を持った者を理由なく排除することが正しいとは思わない」

繰り返し、彼女の思想が続く。

「最初に言ったよね、私はあらゆる人のあらゆる思想に善と悪が両生してると考えてるって。だったら、その思想は全て等しく受け入れられるべきだよ。そしてその多様性を調整されるために法があり、その法を正しく運用する肩書きを持った人が必要っていうだけ。世界に"支配"はいらない」

────その先にあったのは、僕の思想の"完全否定"だった。

と思いきや、次に来たのはこんな言葉。

「あなたがもし何か"行動"を起こす時がきたら敵対することもあるかもしれないけど────あなたの意見にも正当な部分はあって、認められるべき部分が確実にあると思う。雰囲気に流されて、あるいは恐怖に囚われて残酷なことをする人よりずっとしっかりした"あなたの意見"を、私は否定しない」

正当な部分があり、認められるべき部分がある?
僕の意見を、否定しない?

一体何が言いたいんだ。

そう苛立ちながらも、僕は彼女の意見に対する"一貫性"を見出さずにはいられなかった。

彼女はきっと、魔法使いが統治する世を是とはしない。
それでも、"そういう主張をする人間がいる"ことは、許容する。

相手の意見に正当性を見出した上で、それでも自分の意見を主張し続ける。
それがぶつかった時には、きっと彼女は自分の理論を貫いてみせるのだろう。
でも、そうでない限り。
この思想が、言葉の域を出ない限り。

彼女は僕の全てを否定することはない。

そしてそれは────奇しくも、僕自身の信条と重なる部分があるのだった。

どうしてそんな思想に至ったかは知らない。そんな思想に賛同するつもりもない。
ただ一方で、僕は自分の思想がこの世界における絶対的な善であると思ったこともなかった。
善としていくのは、これからだ。僕が善悪を決めるのではなく、この道の終着点まで辿り着いた後、歴史が正しさを証明していくだけなのだから。

だから────僕も彼女と同様、「彼女の望む世界が実現するのであれば、それは歴史にとって正しい思想だったのだろう」と思っていた。

相容れない。
わかりあえない。

でも────そこにある思想を、僕は蔑ろにできない。

結局その後、カチコチに純血主義者を憎む兄が乱入してきたお陰でそれ以上の会話をリヴィアと交わすことはできなかったのだが────。
少しだけ、彼女が周りから一目置かれている理由がわかるような気がした。









×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -