愛する人よ
※最終話まで読まれている方向けです
(ネタバレ回避したい方はこの時点でブラウザバック推奨です)
↓以下ネタバレ非配慮の補足事項
※生存IF
※ざっくり設定→原作軸。5巻の時の話です。シリウス脱獄後ヒロインと合流、現在はグリモールドプレイスで同居している設定。他の番外編とは全く繋がっていないのでご了承ください。
グリモールドプレイス12番地で過ごす日々が始まり、数日が経った。その間はほぼ屋敷の掃除をしつつ、入れ替わり立ち替わりやってくる騎士団の人々から少しでも情報を得られないかと聞き耳を立てることに時間を費やしていた。
そんな折────。
「あらイリス、ようやく帰って来られたのね!」
「私ももう少しかかることを覚悟してたんだけど、思ったより早く向こうが尻尾を出してくれたんだ」
「見たところ無傷みたいで何よりだわ。もうすぐ夕食ができるけど、食べられそう?」
「わあ、モリーが作ってくれたの? ありがとう、嬉しいな。ぜひいただくよ」
ちょうどハリーが階下へ降り立った時、ウィーズリーおばさんと知らない女性の声が聞こえてきた。また誰か新しい人が立ち寄ったのだろうかと思い、それとなく玄関の方を覗き見ると、その女性はすぐハリーに気づいた。
「!」
綺麗な女性だった。年はだいたいシリウスやルーピンと同じくらいだろうか、上品な雰囲気を纏っていたが、ハリーを見た瞬間驚きに目を見開いたその表情は、むしろ同世代の友人と久々に再会した時のような溌剌とした輝きに満ちていた。
「ハリー!」
おそらく壁に飾られているシリウスの母親を刺激しないようにだろう、声を殺しながらも興奮した様子でハリーの名を叫ぶと、彼女はまっすぐ自分の元に駆け寄ってきた。
「ああ…会いたかった、本当に会いたかったよ。うわあハリーが本当にいる…! どうしよう、シリウスはどこ? ちょっと嬉しすぎて私ひとりじゃどうしたら良いかわかんない…困ったな…」
息をつく暇もなくまくしたてる彼女。先程ウィーズリーおばさんは「イリス」と呼んでいたが、まさかこの女性は────。
思い出したのは、数ヶ月前のこと。まだ自分が4年生だった時、ホグズミードでシリウスと会ったことがあった。
その時、シリウスはこう言っていた。
「実は君に会わせたい人がいるんだ。今は少し野暮用で離れたところにいるんだが、私と同様、ジェームズやリリーととても親しくしていた女性だった。名前はイリス・リヴィア。私の恋人だよ。君が赤ん坊だった頃に何度か会ったこともあってね、彼女も随分と君を恋しがっているんだ」
その時は状況が状況だったこともあり、イリスについてそれ以上詳しく聞くことはできなかった。逃亡中であるシリウスと、それでもうまく身を隠しながら共に暮らしているということだけは言葉の端から察せられたが、結局その年の間にイリスと会うことは叶っていなかったのだ。
どういう女性なのだろう、とずっと気になっていた。両親と親しくしていたとは言うが、連絡手段に強い制限がかかっていたシリウスからはもちろん、3年生の時にずっとホグワーツで一緒にいたルーピンからもその名を聞いたことがない。シリウスは後見人として自分の家族のような立場でいてくれたし、その存在は遠く離れていても常に近くに感じられていたが、会ったことのないイリスについて、ハリーはまだその人物像を図りかねているところがあった。
「あ、ごめんね、私ばっかりペラペラと喋っちゃって…戸惑ったでしょう。はじめまして、私はイリス・リヴィア。リリーの親友でした…って言ったら、あなたにとても会いたかったって思っていたのもわかってもらえるかな?」
少し気持ちが落ち着いたのか、イリスは雰囲気に似合う上品な口調でそう言った。
「ええ、シリウスから少し話は聞いていました。両親と仲が良くて、シリウスの…その、恋人だったと」
「そうそう。学生時代はずーっとリリーと一緒にいたんだ。シリウスと付き合い始めたのは5年生の時だからだいぶ後なんだけどね。それまでもジェームズ達とは仲良くしていたし、卒業後も親交は続いていたから、あなたのこともよく知っているよ…まあ、赤ん坊の頃のあなたのことを、だけど」
それからイリスは、ハリーをダイニングの方へと誘導した。「色々話したいことがあるんだ。ここで立ち話もなんだから、良かったら夕食を食べながらあなたのことを聞かせてくれない?」と言いながら、既に良い香りのする夕食が並んでいるテーブルに座らせる。
「ところで、シリウスは?」
そこで彼女は、再びシリウスの名を口にした。
「ああ…多分シリウスなら自分の部屋にいると思うわ。悪いけど、呼んで来てくれる? あなたが行った方が喜ぶと思うの」
「オーケー」
ウィーズリーおばさんの提案を受け、イリスは軽やかに階段を上って行った。それから暫くして、おそらくイリスがシリウスの部屋に辿り着いたと思われる頃────大きな花火が爆発したような轟音が、鳴り響く。
「穢らわしいクズども!────」
当然、その爆音のせいでブラック夫人の怒鳴り声が響き渡る。ウィーズリーおばさんは半ばこうなる展開を予想していたのか、溜息をつきながら玄関ホールの方へと向かっていった。
一体シリウスの部屋で何があったのだろう。気にならないわけではなかったが、大人しくダイニングの席に座って待っていると、程なくして顔に擦り傷を作ったシリウスとクスクス笑いながらやってくるイリスの姿が見えた。
「…どうしたの、その傷?」
堪らずにハリーがそう尋ねると、シリウスは気まずそうに顔を背けた。
「あのね、私が突然帰ってきたことにびっくりして手元の爆弾を暴発させちゃったみたいなの」
しれっと"爆弾"という言葉が出てきたことに驚くべきか迷ったが、イリスは平然とした様子でいた。シリウスもたいした怪我はしていなかったようで、「ノックもなしに君が入って来たんだぞ、なりすました誰かの悪戯かと思ったじゃないか」と悪態をついていた。
「だって思った以上に仕事が早く片付いたんだもん。サプライズ、好きでしょ?」
「いつもは連絡をくれていたじゃないか。君みたいな優等生がらしくないサプライズを仕掛けてくるより、別人が私を揶揄いに来たんだと思う方が道理に適っていると思うがね」
「あれ、ちょっと離れている間に随分と慎重になったみだいだね? シリウスならたとえ偽物の私が現れたとしても即座に見抜けると思ったんだけどなあ」
────正直、シリウスがここまで言いくるめられているのは初めて見た。ルーピンとは対等に接してきているし、ウィーズリーおばさんとは生活習慣においてよく言い争いになっているところも見ている。しかし、こんな風に完全に上手に出られて言葉を失うシリウスの姿を見るのは新鮮と言う外ない。その様子を半ば感心しながら見ていると、どこか恥ずかしそうにはにかんだシリウスが頭を掻きながらハリーに向かって言った。
「もう挨拶は済ませただろうね? 彼女がイリス・リヴィアだよ」
「改めてよろしくね。あなたがあまりにも両親にそっくりだから驚いちゃった。…あ、でもごめんね、あんまりこういうこと言われるの、好きじゃないかな?」
「いえ…そんなことは」
自分としても、両親のことは尊敬している。それに物心がつく前に死別してしまった両親の面影が自分に残っていると言われるのは、どこか誇らしい気持ちもあった。
「それなら良かった。あのね、あなたさえ嫌でなければ、あなたの両親がどれだけ素晴らしい人だったのか、ぜひ聞いてほしかったんだ。今までシリウスやリーマスとはなかなかそういう機会を持てなかったって聞いていたし…私、とにかくあの2人が大好きなの。今はもう思い出としてしか語れないけど、それでも昔の話をたくさん聞いてもらって、あなたにもリリーとジェームズのことをもっと好きになってもらえたら嬉しいなって。どうかな?」
そう言うイリスの瞳は、まるで少女のようにキラキラ輝いていた。それだけでも、彼女が自分のことを親友の子供として大切に扱おうとしてくれていることが伝わってくる。それに、素直に彼女の言い方には好感が持てた。両親を愛し、子供にそれを伝えたいと願い、それでいて決して押し付けようとはしない。自分の意思を尊重してくれている。
断る理由は、なかった。
「ぜひ、お願いします」
「良かった。じゃあ夕食の後、紅茶でも淹れてゆっくり話そうね。シリウスも加わる?」
「君に任せるとリリーの話しかしなさそうだからな。公平な意見を挟ませてもらうとしよう」
「そんなこと言って、シリウスだって絶対ジェームズの話しかしないじゃん」
「バランスが取れてちょうど良いだろう」
子供のじゃれ合いのように言い争う2人を見て、再び新鮮な気持ちにさせられる。
これが恋人としてのシリウスの顔だったのか、と初めて見る後見人の愛に溢れた表情を見て、ハリーはまだまだ自分の家族について何も知らなかったんだな、と思い知らされた。
そして、その日の夕食後。
おそらく気を利かせてくれたのであろうウィーズリーおばさんがロン達を早めに自室に追いやった後、ダイニングに残ったのはハリーとシリウス、ルーピン、そしてイリスだけとなった。
「さて…どこから話したら良いかな、出会いの場面から?」
「君は一体何日かけて話すつもりなんだ?」
「ここはハリーに聞きたいことを尋ねるのはどうだい?」
旧友3人があれこれと議論を交わしている姿を見て、ハリーはふと彼らが学生時代だった時の面影を見たような気がした。
「聞きたいことって言っても、ハリーはリリー達のことをほとんど知らないんでしょう? ぼんやりと"聞きたいことある?"って言われて、何か思いつく?」
「えーと…じゃあ、学生時代の母さんってどんな人だったんですか?」
ぼんやりとした問いにぼんやりとした答えを返すと、途端にイリスの顔がぱっと輝いた。
「リリーはね、すっごく賢くて、すっごく聡明で、すっごく頭の良い子だったんだよ」
「…なんだかその台詞、ずっと前にも聞いたような気がするな」
「聞いた聞いた。7年生になる直前のことだろ。いかにも頭の悪そうな評価だったからよく覚えてるよ」
ルーピンとシリウスが茶化すと、イリスはじろりと2人を睨みつけてからこほんとひとつ咳ばらいをする。
「頭の回転が速いのに決して努力は怠らないし、驕ったところもない。正義感があっていつも堂々としていて、誰からも好かれる女神様みたいな子だったんだ。私は元々あんまり自分の意見をはっきり言うのが得意じゃなくてね、そんな自分のことが嫌いだったんだけど、リリーはそんな私のことも"優しい"って言ってくれるような子だったの」
「まあ、頑固すぎるのが玉に瑕だったけどな」
「私はリリーの芯の強いところ、好きだったよ」
「そうは言うけど、君もリリーの頑ななところには困らされてたじゃないか」
「それはジェームズのせいでしょ。あの人ほんとに人の言うこと聞かないんだから…ジェームズさえもう少し大人になってくれてたら、リリーはもっと早くジェームズと会話する気になってたと思うよ」
両親について"生きた会話"を聞いたのは、これが初めてだった。3人とも顔が生き生きとしており、まるで昨日の思い出を語るかのように楽しげな様子で会話をしている。
「母さんは父さんと仲が悪かったの?」
「あー…うーん…まあ…最初はね」
「シリウスを見ていればわかると思うけど、ジェームズって無法地帯の具現化みたいな存在でしょ。ちゃんと規則を守る優等生だったリリーからすると、ちょこっと目に余るところがあったんだよね」
「今そこで私を例に出す必要はあったか?」
今度はシリウスがイリスを睨みつける番だった。鋭い目を向けられても全く意に介すことなく、イリスはクスクスと笑っている。
「リリーはいつも私の味方でいてくれたんだ。私が自分の性格のことで悩んでいても、"それがイリスだから"って笑って言ってくれたの。私がひとりでシリウス達の動物もどきの実験に協力していた時も、決して深くは訊かずに"危険が及ぶようならそれだけでも教えてね"って傍に居続けてくれた。どれだけ辛い戦いの中でもいつだって私はあの子に背中を預けていたし、あの子も私に命を預けてくれた。どれだけ遠いところにいたって、私達はいつも一番に想い合ってたんだ。ハリー、リリーはね、私の知る限り世界で一番素敵な人だったよ。本当に、誰よりも大好きだったの」
そう言うイリスの目尻に、その時初めてきらりと光るものが映った。隣でシリウスが小さく「妬けるな」と言っていたが、その口調はとても優しく、嫉妬より懐古の情を強く感じさせられるものだった。きっとイリスとリリーの友情はそれだけ強い本物の絆によって結ばれていたのだろうと、容易に想像させられるほどに。
「リリーが私にしてくれたことや言ってくれたことは、全部覚えてる。リリーがいつだって私の隣にいてくれたことにも、ずっとずっと感謝してる。リリーのためならなんだってできるって本気で思ってたし、リリーに害なすものがいるならあの子に代わってなんだって排除してやるとすら思ってたんだ」
「まあつまり、自分の意見を言うのが苦手なんです〜ってメソメソしてたイリスにここまで言わせる女性だった、ってことだ」
「うっかりリリーの悪口がイリスの耳に入らないように、君も気を付けた方が良いだろうね、ハリー」
「リリーの悪口を言う人なんている!?」
「ほら出た」
イリスはあくまで本気のようだったが、シリウスとルーピンは楽しそうな笑い声を上げていた。その様子がなんだか誰も立ち入れない固有の輪の中で繰り広げられているようで、ハリーは少しの羨ましさを覚える。
母さんは、こんなにも愛されていたんだ。自分にとってのロンやハーマイオニーのような存在なのだろうか。シリウスやルーピンも親しげに母親のことを話してはいたが、イリスの熱量には到底敵わない様子が見て取れた。
「じゃあ…父さんはどんな人だったの?」
「歩く爆弾」
「…イリス、せめてもう少し名誉のある言い方をしてやってくれ。いくらなんでもそれじゃあいつが浮かばれないだろう」
身を乗り出すように今度は父親のことを尋ねると、それまでの熱が嘘のようにあっさりとしたイリスの答えが返って来た。シリウスが窘めているが、否定の言葉はない。事実だと認めた上で、単純に呆れているようだった。
「ジェームズの話はシリウスやリーマスからしてあげた方が良いんじゃない?」
「そうだなあ…あいつと過ごした日々では、飽きるということを知らなかったな」
「常にトラブルを抱えていたからな。何もないところから問題を生み出す天才だった」
ルーピンとシリウスの言いぶりも、噛み砕いて考えればイリスの発言とそう変わらないものだった。3年生の時、父親とシリウスがまるでフレッドとジョージのようだったと言われていたことを思い出し、ハリーの脳内には双子の数々の悪戯が蘇る。
「ただあいつは、誰よりも仲間想いだったよ。なんだってひとりでできるだけの才能があるのに、絶対に手柄を独り占めしたりはしないんだ。どんな時でも、私達友人とその"楽しみ"を共有することが嬉しいんだって、そう言ってたな。覚えてるかい? 7年生の時、わざわざ6人で秘密の抜け穴を作った時のこと」
「もうあれは本当にびっくりしたよ…リリーなんて事前情報を何も知らされてなくて、余計に怖がってたんだからね」
「でも、結果的には全員揃ってて良かっただろ」
「まあね。ジェームズのお誘いって、大抵その時は狂ってる! って思うんだけど、後から思い出すとなぜかみんな良い記憶になっちゃうんだよなあ」
ハリーの知らない思い出を語りながら、楽しそうに笑う3人。その時ハリーは改めて、この3人(イリスのことはこれまで知らなかったので正確にはシリウスとルーピンに対してそう思ったのだが)が昔からの親友であったという事実を強く感じさせられた。
「それに何よりあいつは底抜けのお人好しでもあったよ。一度信じた人間には簡単に命を預けてしまう。昔は驕ったところも多分にあったけど、」
「それは君もだろ、シリウス」
「否定はしないさ。まあ…お互いにそういうところがあったからこそ、私達は簡単に危険な遊びにも手を出していたようなものだった。本当にスリリングな毎日だったよ。プロングズと一緒にいれば、それこそできないことなんて何もないって思ってた。人生が心から楽しくて、誰かと一緒にいる日常が至上のものに思えるなんて、入学前には絶対に考えられなかっただろうな」
「ああ、私もそうだった」
「ジェームズ、破天荒だったけど肝心なところではすごく落ち着いた大人だったしね」
「それ、歩く爆弾って真っ先に言った奴の台詞か?」
「だからフォローしてるんじゃん」
放っておくと、すぐに3人の言い争いが始まってしまう。それがなんだかおかしくて、ついハリーは自分の頬が緩んでしまっていることに気づいた。
母親だけじゃない。父親も、たくさんたくさん愛されていた。死んでしまってもなお、こうして色鮮やかに語られるほど克明に、この3人の中に思い出が残されていた。
両親の思い出が何もないハリーにとって、それは思っている以上に嬉しいことなのだと、初めて気が付いた。
自分が知らなくとも、自分の中にそれがなくとも、2人が生きていた証はここに在る。この3人がいつまでもこうして語り継いでいてくれているお陰で、両親の軌跡は失われることなく在り続ける。
「────ハリー」
すると、何も言えなくなっていたハリーに気づいたイリスが優しく声をかけた。
「私達はね、リリーもジェームズも含めて、いっつも一緒にいたんだ。楽しいことも苦しいことも、なんだって一緒に経験してきた。結果として少しだけ生きていられる時間に差が生まれちゃったけど、それでも同じ時間を共有してきたことに変わりはないの。だからね、私達みーんな、そんなリリーとジェームズの間に生まれてきたあなたのことを、きっとリリーとジェームズと同じくらい大切に思ってるよ」
まるでこの瞳に母親の影を見るように。まるでこの顔に父親の顔を見るように。
イリスは声と同じくらい優しい顔でハリーのことを見つめていた。
「それに、私はまだあなたのことをよく知らないけど…でも、その優しそうな表情や礼儀正しい口調を見ていたらなーんとなくわかる。リリー達の子でなくたって、私、きっとあなたのこと大好きになってたと思うな。あなたさえ良かったら、これから私ともぜひ仲良くしてほしいなって思うんだけど…良いかな?」
イリスの隣では、シリウスとルーピンも静かに微笑んでいた。まるで一心同体であるかのように佇む彼らを見ていたら、不意に両親の面影を感じてしまったと…そう言ったら、笑われてしまうだろうか。ハリーは所在なくそんなことを考えながらも、力強く頷く。
「今あなたがどれだけ大変な状況に置かれているかは、私達全員が理解しているつもりだよ。でも、大丈夫。私達は────もちろん私達だけじゃなく、ここにいるみんながあなたの味方だからね」
「そんなこと言って、どうせ"リリーの代わりになってハリーを守れるのは自分しかいない"とか考えてないか?」
「えっ、そこまでは考えてないよ…多分」
「多分って言ったね、今」
「だって! リリーとジェームズのことを一番理解してるのは誰?」
「私達だな」
「リリーとジェームズの代わりを務めるのに一番相応しいのは誰?」
「まあ…私達なんじゃないか?」
「ほら。せっかくこんなに可愛い子が元気にここまで育ってくれてるんだもん。少しくらい親ぶったって罰は当たらないんじゃない? …って、思うんだけど…」
「そこまで勢いの良いことを言うなら、まずは必ず言葉尻が萎む癖をなんとかした方が良さそうだな」
最後まで、シリウスの口調からは冗談が抜けなかった。きっと彼らは学生の頃から、こうやってどんな事態の中でも笑いながら日々を過ごしていたのだろう。
「が…頑張る…」
あれだけ大人びて見えていたイリスの姿も、今はなんだか親しみやすい姉のような姿に見えていた。
「と、とにかくね、ハリー。これだけは言っておきたかったんだ。──── 一緒に戦おうね、って」
ロンやハーマイオニーのような友人とは、少し違うかもしれない。彼らは自分より遥かに大人で、世界を知っており、力を持っている魔法使いだ。きっとハリーの気持ちをトレースするように理解することはできないし、いつどこにだって駆けつけるということもできないのだろう。
それでも。
それでも、思った。
こんなにも心強い"家族"がいてくれるのなら、辛いことは何もないと。
もちろん両親に会いたいと思う気持ちや、会えないことに対する寂しさはある。自分の知らない2人のことを楽しげに語る3人を見て羨ましさを覚えたのも事実だった。
それでも、彼らのハリーを見る眼差しは紛れもなく理想に描いた親そのものだった。
「少しずつで構わないから、また母さんや父さんのこと、教えて」
そう言うと、イリスの表情がいの一番に明るくなる。
「もちろん! リリーのことなら私、いつまででも喋るからね」
「ハリー、これは洒落にならないやつだからやめておいた方が良い」
少しだけ────ほんの少しだけ、暗闇に満ちていた足元が明るく照らされたような気がした。
ハリーとシリウスと共に原作軸を生きるヒロインの話でした。はゆさんからいただいた案です。いつもありがとうございます!
ハリーとシリウス、と言いながらリーマスも結構出張ってしまっていますね…と書いてから気づきました。
今回主軸に置いていたのは、"学生時代の悪友達が現代に蘇る"という部分だったので、個人的に彼を仲間外れにはできなかったのです…。
大人になってしまいましたが、この3人が揃うと一気に学生時代のあのノリが返ってくるよ! というイメージを伝えたかったのですが、うまく表現できているかどうか…。ちょっとシリウスの口調が原作よりぶっきらぼうになっているのも、青年時代に気持ちが戻っているからというアピールをしたかったがためです。
はゆさんにはいつも楽しい考察を聞かせていただいていたので、その中のアイデアをちょこちょこと拾わせていただいていたりもします。リリー過激派なヒロインとか、ジェームズに淡白なヒロインとか、ヒロインを止められないシリウスとリーマスの図とか…。
こうして考えるとちょこちょこどころかたくさんインスピレーションをいただいてしまっていますね。ただ乗りですみません。
今回は特に重たい話でもなく、ただ本当にわちゃわちゃと楽しく過ごす「もしも」の話を書きたかっただけなので、読者の方にも楽しんでいただけたら嬉しいなと思っています。
素敵な機会をいただき、ありがとうございました!
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