青き妖精へ捧げる歌を
※「星送り」イベントネタ・イベントSSRデュースパソストネタあります
"星送り"という、七夕に似たイベントがあると聞いた時、私はまず幼かった頃のことを思い出した。
『おかしのいえにすみたいです』
『ライオンとサメをかいたいです』
『サンタさんにあいたいです』
そんな子供たちの戯言が並べられた近所の公園の巨木。
当時のわたしも例に漏れず…なんだったかな、確か『えらいひとになれますように』とかそんなだった気がする…。とにかくそんな漠然とした馬鹿丸出しな願い事を真剣に祈り、そしてそれが空に届くようにと、お父さんの肩に乗って木の一番高い枝に短冊を吊るしたことがあった。
今ではもう流石にわかってる。
そんなの、全く意味がないって。
願ったところでそれを叶えてくれる神様も妖精もいるわけがない。そもそもそれを空に向けたところで、わざわざそれを読んでくれる人なんているわけない。
だって、ただ"願い事を書いて飾る"だけでその全てが叶うなら、世界にはもっと幸せな人がたくさん溢れてるはず。そしてその幸せはインフレを起こして、人間の欲が際限なく増幅し、秩序と節制を失った挙句、結果的に世を滅ぼすだけだ。
仮に神様が本当にいたとしても(妖精がいるのはこっちの世界に来てわかったので以下同じ)、不幸な末路が決まっている人間の、刹那的といって余りある幸せなんて…叶えたいと思うわけがないだろう。
だからわたしは、こんな珍妙な世界でも同じような行事が行われることそのものにまず驚いた。
良い年こいた男子達がお願い事を星に灯して木に飾るの?
それでキラキラした衣装まで着て舞うの?
叶いますように、届きますように…って?
────正直、なんて馬鹿らしいことをしてるんだろうと思った。
多分ほとんどの生徒がそう思ってるはず。願い事なんてしても無駄だと。
願い星は確かに願いを込めれば光る、なんて言われていたけど、"魔法"という"可視化された根拠のある現象"が通用しているこの世界を前に、"人の想い"という曖昧な"不可視で根拠のない概念"なんて、無価値に等しい。
どうせこれも、人間の体温あるいは魔力に反応して光ってるだけに決まってる。
だから私は、あくまで外面的には協力するフリをしながらも、早々にそんな幼い行事に対してすっかり冷めた気持ちを持っていた。
願い星を渡された時も、私達は2人で1人分しかないと言われて、ついほっとしたくらいだ。正直、こんな馬鹿げたものに願いたいような望みはない。
「グリムに譲るよ」
"私達は2人でひとつだから。せっかくなら、大志を抱いてるグリムの願いが叶うように、一緒にお願いしようよ。"
そんな体を装って願い星をグリムに渡すと、グリムは至極真剣な顔で「大魔法士になれますように」と星に灯火を宿した。
────ああ、純粋だなあ。
やっぱり「元の世界に戻りたい」なんて水を差すようなこと、言わなくて良かった。
こんなものに願うような内容じゃないと思ってたけど、案の定、大抵の生徒は当たり障りのない回答で済ませていたようだった。その様子を見て、ますます少しでも本気にならなくて本当に良かった、と思う。
本当は、私の願いは最初からたったひとつだけだった。
『元の世界に戻りたい』、ただそれだけだ。
もちろんここにいる人に恩や親しみを感じていないわけじゃない。それこそ私がこんな幼稚なイベントから逃げなかったのは、今年のスターゲイザーが仲の良いデュースだったからだし。
彼はずっと────そりゃあ迷惑をかけられたり、たかられたりしたこともあったけど…どんな時でも、私の味方でいてくれた。裏表がなくて、まっすぐで、お母さん思いの優しい子。私の大事な"友達"だ。
だからこそ、私は星送り自体には微塵も興味がないけど────デュースのために、という理由だけで、「自分も手伝います」と白々しく申し出て星集めに奔走していた。
とはいっても、それとこれとは別。
どれだけこっちの世界で友達ができても、どれだけこっちの世界に忘れられない思い出を作っても、結局私のいるべき場所はここじゃない。
魔法も使えない、基礎的な教養もない、後ろ盾もない、そんな私が、ここで一生生きていけるはずがないんだから。
私には、帰らなければならないところがある。
「よし、結構集まったな…。監督生も手伝ってくれてありがとう。あと少しでシュラウド先輩の分まで合わせて300個集まりそうだから…すまない、もう少しだけ手を貸してくれ」
「もちろんだよ。粘り強さなら私も自信があるから、頑張るね」
「ああ、ありがとう!」
太陽のような暖かい笑顔にいくら溶かされても。
夏風のような爽やかな声にいくら流されても。
私は、自分が"異端者"であることを忘れてはいけない。
私は、いずれ"帰る者"として自分を律さなければいけない。
だからお願い、デュース。
そんな風に笑わないで。そんな風に肩を叩かないで。
あなたがそうやって私に関わるたび、私は弁えなきゃいけない"自分の立場"を見失いそうになる。
元の世界に帰りたい。
元の世界に、帰らなきゃいけない。
私は始めに"願い"を放棄しておきながら、こんな行事は幼稚だと内心で蔑んでいながら────いやだからこそ、好意(と多少の義務感と、それからかなりの意地)でみんなの願いを集め、心からその願いが叶うようにと願っているデュースを見ているのが、どうしようもなく辛かった。
純粋な人。素直な人。努力家で、負けず嫌いで、とにかくまっすぐな人。
わかっていたけど、この数日でデュースのそんな側面をずっと見続けているのが、私にはあまりにも眩しすぎて────それがどうしても苦しかった。
だって、そんな人と一緒にいる時間が不快だなんてこと、ある?
私は彼と一緒にいる時間が長くなればなるほど、彼への尊敬の念がどんどん膨らんでいる自分の本音に気づいてしまった。
このままこんな風に彼と共に過ごして、いざ"帰る時"に「離れたくない」と思ってしまうのが怖い。
だから一刻も早く帰りたいのだ────これ以上、彼に執着してしまう前に。
この人の太陽に眩んでしまう前に。
この人の風に乗せられてしまう前に。
────そんな一心からだった。
私はある日、願い星を集める過程で────「そんなことやってられっかよ」とあまり好意的でなかった生徒に一蹴され、投げ返された真っ黒の願い星を拾ってしまった。
「────…」
こんなものに願いを託すなんて、ほんと馬鹿げてる。これを捨てた人、正しいよ。
叶うわけないのに。だいたいこんなの、ただの気休めじゃん。だって七夕の短冊、みんななんて書いてた?
『おかねもちになりたい』、『おうじさまにむかえにきてほしい』────そんな非現実的なことが、叶うもんか。
なのに。
「……今すぐ元の世界に、帰りたい」
つい、濁った願い星に囁いてしまった。
自分が何をしたのか自覚した時にはもう遅かった。黒かった星は白色の明かりを灯し、わたしの掌の上で煌々と光っている。
「…………」
私は、一体何をしたいんだろう。
こんなことして、本当に叶うと思ってたのかな。
でも光ってしまったものは仕方ない。デュースのプライドをかけた勝負もあることだし、誰のものかは伏せた上で、私は自分の願い星をそっと、他の星も入っている箱の中に混ぜ込んだ。
そして、数日後。
「集まった…! 意外と頼めば聞いてくれるもんだな、みんな!」
「頼めば」の方法については聞かないことにしておいた。だって実際300個のうち、280個くらいはデュースが集めてきたもの、方法がどうであれ圧倒的に実績を上げているのはデュースの方なのだ。私はまず「魔力も使えない雑魚のくせに」「寮長に贔屓されてるオンボロ寮のやつ」「得体の知れない異邦人」と突っぱねられるばかりで、かといってデュースのようにドスをきかせた脅しができるほど鍛えられてもいなかったので、全く役に立てていなかった。
「監督生、スターゲイザーでもないのに手伝ってくれて、本当にありがとうな」
デュースがまるで幼い子のように目尻を垂らして笑った。その笑顔に、また胸が苦しくなる。
「私、ほとんど集められなかったよ。ごめんね」
「いや、手伝ってくれたその心意気が嬉しいんだ。実際走り回ってみてわかった。ここのやつらは"頑張ることがだせえ"って勘違いしてるやつが多い。…まあ僕も似たようなことを考えてたことがあったから、わからないでもないんだが…でも、どんなことにでも全力で向き合って、自分にとって最高の結果を出せたら…いや、出せないことがあっても、自分はいつだって最高にやった! って誇ってみせた方が、断然格好良くないか!?」
その言葉は、まっすぐわたしの胸に刺さった。
うん、そうだね。格好良いよ。眩しいよ。
望む結果を出すためにどう頑張ったら良いのかもわからない、いつだって何もかも諦めて、現実を軽んじてしまうような最低なわたしには、絶対わからないよ。
「デュースはいつも格好良いよ」
「ありがとう、改めて言われると照れるな。…とはいえ、そういう僕もまだ本当の目標にはまだまだ程遠いからな、こんなひとつの行事に本気で取り組む、なんて当たり前のことをしただけじゃ、全然自分を誇れない。もっと頑張らなきゃ」
デュースの願い事は、警察官になる、だっけ。それでお母さんを安心させてあげたいんだよね。
格好良いね。夢があって、ひたむきで、どれだけ失敗しても決してめげない人。
────なんだか泣いてしまいそうだった。
きっと彼は本当に、願い星がみんなの願いを叶えてくれると信じてる────あるいはそうなるように願ってるんだろう。
浅ましい自分の考えが嫌になる。
ああ、それならせめて当日は晴れてくれますように。クジラなんて、来ませんように。
"願うだけ無駄"だと散々馬鹿にしたことが祟ったのだろうか。
あれだけ祈っていたのに、結局当日は、予報通りのクジラ雲が空を覆ってしまった。
せめて願いが叶わずとも、デュースが集めた星々が輝いてくれさえすれば、と思っていたのに。これじゃあみんなの"願いを叶える"以前に、"願うことすら許されない"と言われてるみたいだ、と落胆した。
雷でさえ鳴り出し、誰もが諦めたかと思ったその時────。
私と同じように、誰よりもこのイベントに乗り気でなかったはずのイデア先輩が────その窮地を、救ってくれた。
何が彼の心を動かしたのかは知らない。もしかしたら彼の弟であるオルトくんの発言に、重い腰を上げるだけの理由を見出したのかもしれない。
彼は、オルトくんを"宇宙"へと飛ばした。
"空"なんて、目に見えるところじゃなくて。雨に打たれた瞬間落ちてしまうような、そんな脆い場所じゃなくて。
雲も雨も雷も、どんな自然さえも凌駕する"天"から、彼は願い星を降らせた。
デュースとトレイ先輩の舞が、イデア先輩の太鼓の音に合わせて星にリズムを与える。
────するとどうだろう。
「わぁ!」
「すげぇ!」
あちこちから歓声が上がって来た。
────たくさんの願いが、降ってくる。
あれが欲しいな、これを実現させたいな。
そんな"自分のほしいもの"を願った人の星が。
あの人がああなってくれたらな、あの人の願いが叶ったらな。
そんな"誰かのための"願いをかけた星が。
軽やかで煌びやかな地上の舞を彩るのは、雲の上から降り注ぐ流星群。
────"想い"なんて、ただの"概念"だと思ってた。
でもわたしはその時、「概念であるはずの想いが物質化した」と思ってしまった。
どういう原理で輝いているにしろ、あの星は紛れもなくみんなの"願い"がこめられた光だ。
────同時に、幼い頃に読んだ"星に願いを"の童話を思い出す。
木彫りの人形を作ったおじいさんの、心からの"願い"。それは魔力も何も持たない、ただの人間の傲慢な"欲望"だった。人形が命を持つことなんてありえないのに、この子が本当の息子になってくれたら、なんて空想の過ぎることを祈った。
────でも、偶然か、はたまた必然か────そこに、ちょっとの魔力が加わった。青いドレスを着た美しい妖精が現れて、ちょうど今目の前に降り注いでいるものと同じ…星のような輝きを、そっと人形に添えた。
そうしたら、"彼"に命が吹き込まれた。
今のこの光景は、童話でしか見られなかったそんな現実離れした景色とよく似ていた。
心からの祈りに、ひとさじ加えられた魔法。
それは、誰も想像しえなかった奇跡を起こす、ちょっとした星の光────。
そしてあの中には、私の隠れた願いも潜んでいる。
元の世界に戻れますようにと。
ああ、でも────。
初日にはロボットにしか見えなかったのに、今ではまるで天の使いのように流麗に舞っているデュースが、目の前にいる。
誰もが嘲った"願い"を誰よりも尊重した人。
誰もが諦めた"奇跡"を誰よりも信じた人。
もちろんイデア先輩がいなかったら、そしてオルトくんの勇気がなかったら、こんな幻想的な世界はここには生まれなかっただろう。
でも────私は思うのだ。
今日ここまでの人を動かして、オルトくんという最後の武器によってイデア先輩の腰まで上げさせたのは、紛れもなくデュースの功績が大きいと。イデア先輩の分まで自分が星を集めるなんて言い出さなかったら。オルトくんを味方につけて、彼の願い事を聞いていなかったら。────デュースが、ここまで本気でこの行事に向き合っていなかったら。
彼がいなければ────きっと、願いがこうして天へ届くことはなかったことだろう。
私はそれを、永遠に見ていたいと思ってしまった。
でも、こんなこと、絶対に思いたくなかったから…いつか思ってしまうかもしれないと思ったから、あの時あれだけ元の世界に帰りたいと切に願ったというのに。
こんなものを見たら絶対に"願い"が反転してしまうとわかっていたから、一刻も早く叶えてほしいと縋ったはずなのに。
もう、だめだ。止められない。気持ちを、抑えつけていられない。
私は遂に────「私以外のみんなの願いが叶って欲しい」と、「そしてみんなの願いが叶うその様をそばで見ていたい」と、思ってしまった。
ずっと本能を閉じ込めていた理性が、雷なんかよりもずっと鮮烈に降り注ぐ流星群に、あっさりと流されてしまった。
この輝く願いに満ちた空の前に、わたしの意地なんて────それこそ吹けば飛ぶほどの小さな雨雲でしかなかったのだ。
数日後。
「来年こそは"願い星"を自分のために使ってみたらどうだ?」
────根拠のない"来年"。
「既に願いはあるみたいだな。よし、来年は僕が"スターゲイザー"を手伝おう」
────私の願いなんて知らずに、差し出される手。
「お前の願い…叶うといいな」
────きっと彼は、本心でそう言ってくれているんだろう。
「バシッと決まった制服姿を見せに行くからな」
────最後には、何年かかっても夢を諦めないと宣言して、彼は私に「警察官になってまた会いに行く」と言った。
あまりにも続く"未来"の話に、私は「もうやめて」と言いたいのを必死に堪えていた。
そんなこと、言わないで。
私を、元の世界に帰らせて。
イデア先輩とオルトくんの願いが叶ったなら、私の願いも、早く叶えてよ。
デュース、あなたの願いは『警察官になりたい』だって言ってたけど、その根底にあるのは『お母さんを安心させたい』っていう願いだよね。あの夜の電話、聞いてたよ。お母さんはあなたのこと、誇りに思ってた。あなたの願いですらそんなにフライングして叶ったというなら、私の願いも一刻も早く叶えてよ。
ねえ、あの日降り注いだ願いの結晶は、確かに天に届いたんじゃないの?
ねえ、あの日打ち上げられた祈りの星は、確かにほんの少しの魔法を与えられたんじゃないの?
どうして、どうして私の願いは叶わないの?
早く帰してよ。
これ以上あなたに惹かれてしまう前に、早く、早く帰して。
そうじゃないと────わたしはきっと、もうすぐにでも「帰りたくない」と口にしてしまう。
あの夜、つい思ってしまった「ここに残りたい」という願いを、わたしは再度封印したつもりになっていた。
でもふと気を抜くと────本当にちょっとしたことで、「ここで生きたい」と、「あなたの笑顔を見ていたい」と、筋違いな願いにすりかえてしまいそうになっていたのだ。
ああ────世界って、私って、どれだけ捻れているんだろう。
帰りたいよ。
でも、帰りたくないよ。
「監督生? どうかしたか?」
「…ううん。"来年"はわたしもお願いごとをして────それが叶ったら良いなって、考えてた」
「そっか」
私の願いは一体、どこへ行ってしまったんだろう。ちゃんと妖精のところに届いたんだろうか。そしてその妖精は、私の迷いと矛盾に満ちた願いを────どう叶えてくれるんだろうか。
早く帰してくれるんだろうか。それとも、そんな半端な願いなんて知らないと無視されてしまうんだろうか。
あるいは────もし奇跡というものが本当にあるのだとしたら────私を"この世界の住人"にすることも、できるんだろうか────?
「スターゲイザーって、"星に願いを"でいうと"人形に命を与えた青い妖精"をモチーフにしてるんだってさ」
無理に"来年"という言葉に合わせて無難な返事をした私。そこで会話が止まってしまったからだろうか、デュースがちょっとした裏話を打ち明けるような軽い口調でそんなことを言い出した。
「うん?」
「スターゲイザーに童話の妖精みたいな力はないけど、僕達はあの日、みんなが願った祈りを空に届けて、叶いますようにって気持ちを込めて舞っただろ? 直接的な魔力効果はないし、ちょっと形式的にはなるけど、"スターゲイザーがみんなの願いを叶えるんだ"、なんて地方では言われてたりもするんだ」
「へえ…じゃあ今年の"青い妖精"はデュースだったんだね」
「おう。だから監督生の願いもちゃんと預かってるぞ」
…え?
「あ、もちろん内容は知らない。でも願い自体はあるんだろうなっていうのはなんとなく察してた。だからあの日、ちゃんとお前の願いも天に届くように心を込めて舞ったよ。来年は形にした方がわかりやすいと思うけど…安心してくれ、いつになっても、僕がお前の願いをきっと叶えるから」
私の願い。
あなたと離れるのがこれ以上辛くなる前に、早く元の世界に戻りたい。
それを、他でもないあなたが叶えるの?
────グラグラと揺れていた心が、荒い波風を立てた。その潮の流れに押されて、目から涙がこぼれる。本当は離れたくないあなたの前から断腸の思いで消えようとする私のこの手を、あなたの方から切ってくるの?
「!?」
途端、デュースが驚いた顔をして、わたしに触れて良いのかもわからず肩の近くで手をそわそわさせながらあからさまに焦り出した。
「ど、どうした、何か嫌だったか!? 願い事の中身も知らないのに叶えるなんて軽率に言ったから、悲しくなったのか!?」
「ううん…私のことまでそんなに考えてくれてありがとうって、感動して泣けちゃって…」
こんなに簡単なウソなのに、デュースはすっかりほっとした顔をしていた。
ああ、なんて残酷な人。
勝手に「来年」だとか「何年かけてでも夢を叶えて会いに行く」だとか言ってきたりして。そのくせ、「いつか離れるなら早く離れてしまいたい」という私の願いを何も知らないまま、「叶える」なんて安請負いしたりして。
本当にどこまでも馬鹿正直で、素直な人。
こうなったら、ここで本音を全部ぶちまけてちょっとくらい困らせてやりたい…けど、"あなたといつか離れる日のことを考えるのが怖いから、いっそ一日でも早く離れて傷を浅く済ませたいです"なんて言ったら、この優しい人は本当に困ってしまうんだろうね。
だから、言えないよ。
私はいつ叶うんだかわからないそんな怖い願いを抱えながら、早く帰りたいという願いと1日でも長く一緒にいたいという願いをグラグラ天秤にかけ続けないといけないんだ。
ああ、妖精さん。青いドレスの、美しい妖精さん。
デュースじゃとても頼りにならないので、どうかあなたが私の願いを叶えてください。
いつか離れなければならない日が来るというのなら、こんな頼りない人との別れがこれ以上辛くなる前に、私を一刻も早く元の世界に返してください。
だけど…。
「When you wish upon a star〜♪」
わたしが感動で泣いたと思い込んで安心したらしいデュースは、さらにわたしをあやそうとしてくれたのだろう。どこか調子っぱずれな声で────星に願いをかける歌を、歌ってくれた。
いつか帰らなきゃいけないのなら、早く帰りたい。それは本当のことだよ。
でも、だけど。
もし、現実なんて無視して、"星に願いを"かけることが許されるなら。
受け入れなければならない道理ではなく、"おとぎばなしの魔法"を信じても良いのなら。
私が誰でも関係ないというのなら、この世界にずっといさせてください。
私が欲張りすぎでないというのなら、この人の隣にいさせてください。
愛ある人に願いを届けてくれるのなら、星にかけた願いが叶うのなら────。
どうか、稲妻のようにやってきて、私のこの────あまりに傲慢な欲望を、どうか叶えてください。
私を"この世界の住人"にして、ずっとこの人の夢をそばで応援させてください。
星イベがあまりにも素敵だったので、勢いに乗せて深堀りした話でした。
監督生がいつまでもここにいてくれると(無根拠で)信じているデュースと、いつか元の世界に帰ることを常に意識している監督生。いや、どう考えても好きすぎるでしょ。公式様ありがとうございました。100年後になってもデュ監には幸せでいてほしい。
本作の距離感的にはお互い無自覚な両片想いです。ヒロインはちょっと自覚アリですね。
続編として「捧げられた歌に光を灯す」を公開中です。
むしろそっちが本命なので良かったら暇潰しにのお供に読んでください…!
最後の文章は「When you wish upon a star」のざっくり日本語訳を流用しています。
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