2.不幸の上塗り
あれから――――珍しく花宮と帰るなんていうことをしてしまってから、1週間ほどの時間が経過した。この1週間、一度も花宮の姿を見なかったことが偶然なのかそれとも彼の意図していることなのかは、私にはわからない。ただ少なくとも私の方は、彼には暫く会いたくないと思っていたのでちょうど良かった。
「最近、よくぼーっとしてるね。悩み事?」
そんなことを所在なく考えていたら三好君に話しかけられ、ついはっと顔を上げてしまった。根拠のないことを言われた時に虚を突かれた顔をするのは肯定の証。花宮が昔言っていたことだ。
「ううん、…うーん、強いて言えばテストのことかな」
もはや誤魔化すことや嘘をつくことはできなくなってしまったので、変な空気を残さない為に適当なことを言って意識をそちらへ持って行く。今は昼休み、誰もいない木陰で私達はお弁当をつっついているところだった。
嫌だな、花宮のことが頭から離れなくなるなんて、なんだかすごく悔しい。
何が離れないって、もちろん1週間前のこと。あの前触れも何もなかったキスのこと。
何度でも確認したいのだが 私は、私と花宮の今の関係はあくまで"中学時代からの同級生"でしかないと思っている。会えば挨拶はするし機会があれば話もする。でも、それだけ。
だから想像してみてほしい、私の認識として"ただの知り合い"でしかない相手から、突然キスをされた私の気持ちを。通報しなかっただけ優しさに溢れていたと褒めてほしい。
ここでもう少し私が大人だったのなら、「キスくらい、犬に噛まれたようなものと思って忘れる」と鼻を鳴らすこともできたのだろうか、と思う。自分の経験値の低さをこうも呪うことになろうとは思ってもいなかった。お陰様でこの数日、ずっと唇の感触を忘れられなかった。ずっと花宮の表情が忘れられなかった。ずっと…彼の言葉が、忘れられなかった。
勝手に私にキスをしておいて、やたら私と三好君の関係に口出ししてくる理由について「こういうつもり」とぺろり、舌なめずりをしてみせた花宮。そこまで言われたところで私にはどういうつもりなのか、一切何もわからず仕舞いだった。もっとこれが他の人だったら、惚れた腫れたの話にもなったのだろうが(キスってそういうものじゃないの?)、花宮に限っては絶対そんな単純な結論じゃない。だから私はとても気味の悪いものを感じていたし、その本心を問い詰めることに躊躇いさえ感じていた。
「藤枝さんは成績優秀じゃん」
おっといけない、一瞬でも気を抜くとすぐ花宮のことが頭を占める。三好君の私を褒める声で我に返り、ゆるゆると首を振った。
「いや、もーとってもとってもとっても勉強しないとあれは無理」
もちろん、そんなのはさすがに嘘だ。そこまでの勉強はしてないけど、入学してからそれなりに上位を保っている成績順位が嫌味にならないようにするにはこのくらいの保身は必要。
しかしそんな私のどうしようもない逆方向の見栄になど気づくはずもない三好君は、素直に感心したように嘆息した。
「俺は赤点回避の戦いだよ…あ、ねぇ藤枝さん、テスト前に勉強会しない?」
「え、うん、良いよ」
つい勢いで返事をしてしまったところですぐに後悔する。三好君の提案はその晴れやかな顔に見合うほど魅力的なものとは到底思えなかった。
…いやそれとも、本当の恋人同士ならつまらない勉強会のようなものでも楽しいイベントとなりえるんだろうか。
「やった! じゃあ週末、俺の家招待するよ」
失言を取り返す暇もなく三好君は楽しそうに話を進めてくる。しかも会場は家、ときたものだから私の心は余計にずん、と重くなった。
本心がどうあれ客観的には"付き合っている男女"が"自宅"という外部から遮断されたプライベートな空間に閉じ込められてみたところで、結末なんて見えているではないか。
「わかった、ありがと」
気乗りしないと思う本心と、もう2ヶ月は経っているのだからそのくらいは普通かと思う麻痺した常識感がひとしきり私の中で闘った結果、引きずり出された答えは肯定だった。まあ理由は単に恋人らしさをちゃんと経験するべきだというそもそもの目的が私の中で勝ったというだけのことなのだが。
そんな約束を簡単に取り付けた時、ちょうど昼休みの終了を告げる予鈴が鳴った。5分後には午後の授業が始まる。
「じゃあまた、帰りに」
「うん」
…いつまで私はこんなごっこ遊びを続けるんだろう、と、サンドイッチを包装していたプラスチックごみを捨てる三好君の背中を見ながら、無意識的に考えている自分がいた。ごっこ遊びであることは最初からわかっていて、それでも良いと判断したからこそ彼の申出を受けたはずだったのに、何も変わらない現状にそろそろ本能は限界を迎えているらしい。根性のない、あるいはそれほどまでに恋愛耐性のない自分に小さな溜息をつきつつも、もう先が見えないことが明らかならこの辺りで手を引かなければならないのだろう、と密かに終わりを予感する。
そんな憂鬱かつ無礼な気持ちで過ごした先で迎えた3日後の週末、私達は三好君の家の最寄駅で待ち合わせた。それなりに栄えているその駅は私以外にも待ち合わせしている人が多く、人通りそのものも多かった。
「ごめん、待たせちゃった」
私が着いた時は約束の5分前だったが、三好君は既に改札の傍で待っていてくれた。いつもの制服とは違う、爽やかでシンプルなシャツとジーンズの格好。よく似合っていて、決してお洒落なコーディネートというわけでもないのに、大人っぽい魅力を引き出していた。
「可愛いね、その服。この間買ったやつだ」
「よく覚えてるね」
「そりゃ、よく似合うと思って勧めたんだから」
そう、今日着る服として私が選んだのは、2週間前のデートで三好君が選んでくれたものだ。深い緑のワンピースは、確かに他の女子達からもよく合うと言ってもらえる雰囲気のものであり、女物にまで的確に口を出せる彼のセンスの良さを思い知ったものだった。
「じゃあ行こうか。駅から近いから、そんなに歩かないよ」
「今日、お家の方は?」
「ん? いないよ」
……………そうですか。
私達は大きなビル群とは反対方向に進み、静かな住宅街へと足を踏み入れた。そんなに歩かないと言った三好君の言葉は正しく、3分程経った頃に彼は一つの高層マンションの扉を開ける。
エレベーターに乗り、押されたのは15階のボタン。着いてから向かうのは、一番奥の部屋。
カードタイプの鍵で開錠すると、三好君はすぐさま扉を開けて私に先を譲ってくれた。
「どうぞ」
入って見えた扉は全部で6つ。トイレと洗面所の位置だけ教えられ、私はすぐ手前の部屋へと案内される。
広さは約10畳。ベッドに机、それから本棚と箪笥と雑貨の置かれている棚─────雰囲気からして、そこが三好君の部屋であることは一目瞭然だ。高校生の1人部屋にしては随分広く見えるが、まあこの豪華な家を見た瞬間に察してはいた。
「荷物、適当に置いて好きなところに座ってて。麦茶で良い?」
「ありがとう、お構いなく」
三好君はにっこり笑って部屋を出ていった。お言葉に甘えて荷物は部屋の隅に置き、ベッドから離れた壁に背中をつけて座る。
「………」
さて、今から三好君の取る行動を予想しよう。一つには純粋に勉強。あるいは、勉強などただの言い訳で、セックスのことしか考えてない。もしくは勉強するつもりだけど、あわよくばそういう流れに持ち込みたいと思っている。
こんな所までのこのこついてきて警戒も何もあったものではないが、私はまだ、覚悟を決めきれずにいた。
「お待たせ、はいこれ、お茶」
「ありがと。今日は何の科目をやりたいの?」
「初日の科目全部…」
「物理と英語と漢文だね。なら、範囲が狭い物理から始めよう」
そんなわけだから、三好君が鞄から教科書を出してくれて、内心ほっとしたことを告白しよう。
それからの数時間、私達は額を突き合わせて、それは真面目に勉強した。三好君は確かにあまり要領が良くなく、ひらめく力にも欠けていると言わざるを得なかった。しかし理論を一から教えるとするすると呑み込んで行く彼は、どちらかというと暗記より理論体系の理解の方が得意であることがわかってくる。
「あとはこの問題をやってみて。それで公式は一通り覚えたことになるから」
「じゃ、じゃあそれ終わったら休憩しても良いですか……」
完全に疲労困憊した様子の三好君に苦笑しつつ頷くと、彼はあからさまにほっとした顔を見せた。
そうして三好君が解いた最後の問題は見事正解。嬉しそうな彼の表情に私も頬を緩め、約束通り休憩を挟むことにする。
「そうだ、お土産持ってきてたんだ。お家の方もいるのかと勝手に勘違いしてちょっと多めに持って来ちゃったんだけど…日持ちはするから良かったら貰って」
「お、ありがとう。じゃあ俺たくさん食べちゃおうかな。今開けても良い?」
「どうぞ、三好君さえ良ければ」
私が持ってきたのはパウンドケーキ。甘い物が好きだと言っていたから、キャラメルの入った甘めのものを選んできた。
三好君は案の定喜んでくれ、一旦下げて切ってから持ってくる、と部屋を出て行った。
その間に私は次にやる予定の漢文の教科書を広げる。範囲はこちらも狭いのだが、物理と違って問題が予想しにくい。加えて三好君の苦手そうな暗記科目だから、どう教えるべきか正直迷っていた。
ページをぺらぺらと繰りながら考え込んでいるうちに、三好君は切り分けたパウンドケーキを持って戻ってくる。
「げ、もう次の科目?」
「どうやって勉強しようかなって思って」
「とりあえずこれ食べようよ、フォークも持ってきたよ」
「うん、ありがとう」
小皿とフォークを受け取り、パウンドケーキを食べる私達。お気に入りの洋菓子店で買ったので味は心配していなかった。うん、おいしい。
見れば三好君はとても上品に食べていた。こんなところまできちんとしているなんて、本当に育ちが良いんだなぁなんて所在なく思った。
「? 藤枝さん?」
「綺麗に食べるんだね」
「そっ、そんなことないよ! 藤枝さんの方が綺麗だよ!」
三好君は慌てたように食い気味でそんなことを言ってくれたけど、食べ方一つでそこまでむきにならなくても。それか、少し論点のずれた"美人だよ"という意味のお世辞でも吐いてくれたつもりなんだろうか。
「はは…私と三好君じゃ、比べるのも失礼だって」
だから私もどちらの意味にでも取れるようにと笑いながらそう言ったら、三好君はさっと表情を変え、若干の怒りを滲ませ睨みつけた。おお、怒った?
「そんなことない、俺は本気で……」
床にたんと手をつき、私の方へ身を乗り出す三好君。綺麗な顔がこちらに近づき、空いているもう片方の手が私の首に回る。
「…………っ」
あー、やっぱり、こうなるのね。
突き飛ばせば良かったのかもしれない。やめてと言えば良かったのかもしれない。
でもバカな私の頭は"恋人でしょ?"なんてことを問いかけてくるもので、方向性を間違った良心が抵抗を止めてしまう。
三好君は、私の方にしなだれかかりながらキスをしてきた。そのまま重力に任せ、押し倒してくる。床の冷たく固い感触が後頭部にぶつかった。
私に馬乗りになった三好君は、私の頭を撫でながら何度も何度もキスをしてくる。
慣れてるな、と思った。
彼の手は頬から離れ、私のワンピースの裾にかかった。太股を撫でられると同時にぞわりと鳥肌が立つ。
それが本能に掻き立てられた劣情なのか、それとも恐怖なのか、私はまだ知らない。
唇は、首筋に。手は、スカートの中に。もはや彼は理性を失っているのか、言葉も表情もなく、ただ本能のままに体を動かしていた。
うん、そうだよね…………三好君のことは、好きだよ…たぶん。
でもどうしてだろうか、キスをされる度、彼の顔が近づく度、私の記憶は別の人を思い出させてくる。ふわりと鼻孔を掠めるのは間違いなく三好君が纏う香水の甘い香りなのに、そんな現実の感覚より遥かに強く想起させてくるのは、優しい柔軟剤と、微かな制汗剤の残り香。
ああもうやだ、これじゃ何の為に三好君と付き合ってるんだかわかんないじゃん……。
私は――――私は――――この胸の中にいつまでも居座る残像を、追い出したいだけなのに――――。
帰り道は、三好君が駅まで送ってくれた。彼は最後まで私の体を気遣っていてくれたし、それに大丈夫だって返す私の笑顔も自然だったと思う。
でも冷静な頭の中の私は、大丈夫だよって口先で言う度に「恋愛って結局どこまでいってもこんなものなのか」って呟いていた。
電車に乗りながら考えるのは三好君のこと。好きだと思う。嫌いじゃない。でも、友達が言うような燃える感情は沸き起こらない。幸せな気持ちにも、別にならない。
これが本当に恋人というものなんだろうか。私は彼の優しさに甘え続けていて、良いんだろうか。いや――――良くはない、ということは、わかっているのだが。
考え事をしていたら、見慣れたジャージ姿の高校生がたくさん電車に乗ってきた。霧崎生ばっかり、そう思って窓越しに駅名を確認すると、そこは学校の最寄り駅。
そうか、土曜だから今日は部活の生徒が多いんだな。ということはつまり、だ。
嫌な予感を抱いてそう思って何気なく談笑する学生の輪を見ていたら、案の定、その中に花宮の姿を見つけてしまった。
あー…嫌だな、これ駅で一緒になるやつ。
ただでさえ会いたくない相手なのに。この1週間、顔を合わせずに済んでほっとしていたのに。よりによって、久しぶりに出会ってしまうタイミングがこんな気持ちの時だなんて。
せめてこのまま電車を降りるまで、向こうには気づかれずにいられますように。どうか気づくのが、私の方だけでありますように。
しかし偶然とは当たり前のように残酷な顔をして笑うもので、駅に停まる度人はどんどん減り、やがて霧崎生は花宮と私だけになってしまった。さすがにそこまで人が減ってしまっては気づかれないわけもなく、家の最寄り駅に着く直前、花宮と目が合ってしまう。
その時の、花宮の顔ったら。彼の酷い顔を通して、どれだけ私の様子は酷かったんだろうかと思ってしまった。
「…………ひどい顔してんな」
1週間ぶりに口を開いたその言葉が、これである。私の溜息は、あらゆることへの諦めのせいで、いつもより深い。
「デート帰りか?」
「…別に」
「…………………」
素っ気ない返事。いつもなら憎まれ口を叩いて来るであろう花宮は、そこでなぜか黙り込んでしまった。
「…?」
その時電車が駅に着いたので、一緒になって降りる。なぜ何も言わないのかと思っていたら、花宮は私の首元を凝視していた。
「……何か?」
不思議に思って聞いてみると、花宮が黙って差し出したのは手鏡。私も黙って覗き込んだら、そこには赤い鬱血の跡が残っていた。
「…………!」
首筋にキスをされた時だ。血の気がさっと引く。
「………あのさ」
花宮の口から出るのはなんだろう、罵倒か、それとも嘲りか。
「……もう少し自分の身、守ろうとか思わねーの」
どちらでもないその調子に、私の反応は遅れる。
「守る…って…」
「それがあんのにお前の顔は完全に死んでるってことは、望んでなかったことはわかる。相手、三好だろ」
「…………望んでなかったわけじゃないよ」
望んでいないとはっきりわかっていれば、あんなに軽率なことはしない。あの状況を作ったのは、私なのだから。
「…体、許したのか」
「……気になるの?」
「っ…!」
面倒だったあまり肯定も否定もせずにそんなことを問うと、花宮は、なぜかそこで怒ったような顔をした。笑うならわかる。見下すのもわかる。でも、花宮か怒る理由は、わからなかった。
わからないから、怖かった。これ以上、この話を続けたくない。花宮に三好君とのことを言及されたくない。
なんとかして話を逸らしたかった私は、この1週間、ずっとしこりのように胸の片隅で存在を主張し続けていた疑問を口にすることにした。
「それより、花宮に聞きたいことがあるんだけど」
「…何だよ」
「この間キスしたのはどうして?」
会ったところでどういう顔をしてどういう話をすれば良いのかわからなかったわけだから、少なからず顔を見ずに済んだことが私にとって幸いしたことは間違いない。しかしそれは同時に解決しない疑問がその間ずっと私の中で燻っていたということでもあり、それは非常に居心地の悪いものだったということもまた、確かな事実だった。
さて、あの花宮が素直に答えてくれるかどうかはわからないが、ひとまずどう出るか窺おうとすると――――
「………三好にその痕をつけることを許したのはなぜだ」
………素朴な疑問は、要領を得ない疑問で返されてしまう(おそらく彼にとっては全てが繋がっているのだろうが、彼の複雑すぎる思考が私に理解できるわけがない)。
本心はどうあれ客観的には付き合っている相手とキスをするのは、それこそ客観的には何らおかしいところはなく、むしろそんな相手と自分を同列に置こうとしている花宮の言い方の方が奇妙さを感じるべきことだ。単純に考えてみてほしい、「なんで花宮は私にキスしたの?」「じゃあなんでお前は三好とキスしたの?」これが会話になっていると思えっていうのは流石に無理があることがわかってもらえるだろう。
――――もちろん、彼は私が本心では三好君を特別視なんてしていないことに気づいているからこそそんな言い方になるのだろうということも、わかってはいるのだが。それに私、別に三好君に痕をつけることを許した覚えもないし。
「……好きだからだよ」
「………それは本当の気持ちか」
花宮はこのズレてゆく会話(にすらなっていない言葉の応酬)について予想以上に食い下がってくる。そのせいで、浅はかな私は早々に答えられなくなってしまった。
嘘の好きという感情が存在するなら、確かに私の好きは本当ではないかもしれない。でも、どっちにしたってそんなものは花宮には関係ないこと。ここまで追及される謂われなんてない。
というか、こんな風に言われたくないから私は花宮にどうしてキスをしたのか、って訊いたのに。どうして話がすぐに戻ってくるんだろう。質問しているのはこっちだったはずなのに、どうしてすぐに覆されてしまうんだろう。
「花宮は本当の好きって気持ち、知ってるの?」
「……………それを知ってどうするんだよ」
「私につっかかってくる理由を知る」
「なら、話はまず自分の気持ちをはっきりさせてからだ。俺がお前に教えてやることなんか何もねーよ」
花宮は結局私の問いには何一つ答えないまま、自分の言いたいことばかりを一方的に言い放ってすたすたと自分の家の方へと去ってしまった。奇しくもそこは私達それぞれの家へと離れていく分かれ道。もはや私にその背を追う気力はなかった。
疑問が晴れるどころか、こちらを見透かすだけ見透かしておいて全てを有耶無耶にされたような気分だ。どっと疲れたような気がするのは果たして三好君のせいだけなのか。
この現状の何もかもが自分の招いたこと、それがわかっているだけに誰のことも責められなくて余計に体が重い。
この茶番を見ている人がいるとしたら、きっと何がしたいのかわからないって笑われてしまうような気がする。だって当事者の私が一番そう思うんだから。
結局家に帰った後は、そのまま何も考えずに泥のように眠ってしまった。
全部起きてから考えよう。三好君とこのままずるずる付き合うのかきちんと別れるのかとか、花宮のことをこそこそ避けるのかきちんと向き合うのかとか、そういう…いわゆる、面倒くさいことを。
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