暦は11月になった。
ハロウィーンが終わった途端、生徒の話はクリスマス…ではなく、魔法界のスポーツ"クィディッチ"でもちきりになっていた。

「聞いたか? パドルミア・ユナイテッドの新チェイサー」
「あー、あれだろ。サラ・ジョーンズ」
「いやあ、おっどろいたなあ。僕はてっきりデューイ・ウォーバーが選ばれると思ってた」

談話室にリリーの姿がなかったので見回していると、隅の方でブラックとポッターが大声でよくわからない話をしているのが聞こえた。その横には、いつか魔法薬学で見たグリフィンドール生…確か名前は、ルーピンとペティグリューだったっけ…彼らもいる。最近彼らは、2人から4人で行動する機会が増えていた。
それによってリリーがこの場にいないことを半ば確信しつつ、きっと彼らも"クィディッチ"の話をしてるんだろう、と思った。

────実際、わたしはクィディッチについてほとんど何も知らなかった。

箒を使うサッカーみたいなスポーツ、というところまでは認識していたものの、観たことがあるわけでもなし、まず何よりボールの数があまりに多すぎてその時点で理解することを放棄してしまったのだ。
ああ、でもどうしよう。お母さまがどこかでクィディッチの名を耳にして、チームの名プレーヤーになれ…なんて言ってきたら…。

またそんな後ろ暗いことを考えながらぼけっと4人組を見ていたのがいけなかったんだろう。一番早く視線に気づいたポッターが、わたしを見るなり手招きしてきた。

「リヴィア、ひとり? 良かったらこっちに混ざりなよ。クィディッチは知ってるかい?」

うーん…この人、普段は本当に良い人なんだよなあ…。リリーが嫌うのも仕方ないと思う一方で、わたしはどんどんこの人たちのことを嫌いになれなくなっている自分がいることにも気づいていた。

「…ううん、知らない。箒を使ったサッカーみたいなものって聞いたけど…あ、逆にみんなの方がサッカーを知らない…のかな?」
「いや、僕の母親はマグル出身だから聞いたことがあるよ。ひとつのボールを足で奪い合ってゴールに入れるんだろう?」

答えたのはルーピンだった。わたしと直接話すのは初めてだけど、とても柔らかい声で歓迎してくれているのを感じる。とても紳士的な態度で、口調もすごく優しいんだけど、彼の顔や腕には無数の切り傷がついていた。魔法使いが"ちょっとしたケガ"をすることなんてよくあることなんだけど(それこそブラックとポッターはいつも傷だらけだったから)、彼のような…どちらかというと"わたし寄り"の生徒まで傷だらけの姿になっていることに、少しだけ違和感を覚える。
まあ、そうは言っても彼だってシリウスたちの親友。ケガをすることなんて多々あるんだろうと、あまり人の見た目についてぶしつけに考えることはやめることにした。

「リーマス・ルーピンだ、よろしく」
「よろしくね、わたし、イリス・リヴィア」
「そんでこっちのチビがピーター・ペティグリュー。んじゃああれだ、リヴィアはクィディッチをボールひとつでやるスポーツだと思ってるんだ?」

ポッターが「ボールがひとつなんてつまらない」とでも言いたげに笑った。

「ボールがいっぱいあるのは知ってるよ。で…なんだかよくわかんなくなって、それからあんまり調べてなくて」

正直に話すと、ポッターは意気込んでクィディッチのルール説明をしてくれた。ちょうど彼らの手元にはクィディッチ特集が組まれた雑誌が置かれていたので、それを見ながら聞く。彼の話は、以前図書館でチラリと"クィディッチ"という項目に目を通すよりずっとわかりやすく、そして楽しそうに聞こえた。

「へえー、じゃあシーカーってすごい役割なんだね」
「まあ花形なのは間違いないだろうな」
「でもさ、シーカーがスニッチを取ったら即試合終了なんだぞ。そこまでにいかにチェイサーが点差を広げるか…あるいは縮めておくかが一番重要だと思わない?」

ポッターがそう言ったのは…告白すると、ちょっと意外だった。
だって、こういう目立ちたがり(彼が目立ちたがりなのは入学して2ヶ月も経てば嫌でもよくわかる)だったら、一番注目されやすいシーカーを褒めるとばかり思っていたのに。

「ポッターは来年、クィディッチの選抜試験を受けるんだよね?」
「そのつもりさ」
「チェイサーになりたいの?」

素直に質問すると、よくぞ訊いてくれたとばかりにポッターが胸を張る。それを見て、ルーピンはクスクスと笑い、ブラックはまたあの嘲笑とも苦笑ともとれるような笑い方をした。最初の頃はブラックは誰かれ構わず見下す人なのかと思っていたけど、どうやらそういうわけでもないらしい。彼はもう、こういう笑い方をする人なのだ。

「シーカーもすごいと思ってるよ、というか、どのポジションもイカしてると思ってる。でもさ、ただ金色の球を追いかけてキャッチして終わりになるより、空中でド派手なパフォーマンスをお披露目してミラクルシュートを決めまくるチェイサーの方がカッコイイと思わないか?」

ああ…なるほど。理由を聞いて「意外だ」と思っていた気持ちがすとんと腹に落ちる。

要は"どう目立つか"の違いなのだ。一瞬で観衆を惹きつけるシーカーか、試合中常にスタンドを沸かし続けるチェイサーか。
ポッターにとっては、チェイサーの方が"より良く目立てる"と思ったらしい。とても彼らしいと思うと同時に、そうやって"自分の意見"を自信を持って言えることが何より素晴らしいことだと思った。

「うん、どのポジションでもクールだと思うよ」
「魅力をおわかりいただけたようで何より」
「リヴィアは何も"チェイサーが一番カッコイイ"とは言ってないけどな」
「それは…その…話を聞いてたら全部甲乙つけがたいなって思って…」
「なら、週末の試合は僕たちと一緒に観に行くかい?」

ブラックの最もすぎる指摘にぎくりとすくませていると、ルーピンが優しくそう言った。

「それは良い! まずはリヴィアにクィディッチの…言葉では語り尽くせない魅力を実際に見てもらって、その上で来年────」
「君の壮大な計画はひとまず置いておこう、ジェームズ」
「ああ…ウン…。まあそうだね、せっかくこっちの世界に来たんだから、一度くらいクィディッチを見ておくことに損はない。幸い週末の試合は我がグリフィンドールとレイブンクローだ。今のうちのキャプテン…7年生のジャック・ブルーリーはすっごいぞ。名ビーターで、とにかくブラッジャーを的確かつ強烈に相手にぶっこむんだ。あれを見てるとビーターがいかに重要で素晴らしいポジションかが────」
ジェームズ、君の史上最強チェイサーへの道はどこへ行った?

ちょこちょこと入るブラックのツッコミがあまりにも的確なものだから、わたしたちはみんなで笑い声を上げた。この人たちはきっと、本当にクィディッチが好きなんだろうな。

「…でも、わたしみたいな初心者が行ったら…その、せっかく盛り上がってるのに水を差したりしないかな…?」

だから、ちょっとだけ心配になる。
専門用語ひとつでこんなに熱くなれる彼らの横に、まだクァッフルとブラッジャーの違いもよくわかっていないようなわたしがいたりしたら、彼らの気持ちが少し逸れちゃうんじゃないだろうか。

むしろ大歓迎だよ! クィディッチはみんなで観た方が面白い! それにルールなんて知らなくたって、あの猛スピードで繰り広げられる大合戦を観てるだけで心躍ること請け負いだから!」
「僕も最初はちょっと怖かったんだけど、観に行ったらすごく楽しかったよ」

それまで口を開かなったペティグリューが、おどおどと口添えする。この子もわたしと同じ…人の顔色を窺うタイプに見えたけど、なぜかいつもブラックとポッターと一緒にいた。なかなかこの奇人と行動を合わせるのは難しいだろうに。

「まあ、行きたくない理由を僕らの士気が下がるからってことにしたいんなら、無理に来なくても良いけどな」

ブラックの声は冷たかった。ルーピンが小声で「シリウス」とたしなめるけど、ブラックにそれを聞き入れるつもりはないみたい。
────この集団の中で、この人だけ、いつもわたしのことを冷たい目で見ていた。わたしの優柔不断さが気に入らないのかもしれないけど、それにしては明確な敵意を向けてくるわけでもなし────ただ単純にわたしの生き方を見抜かれて軽蔑されているような、敵とみなす必要すらないと言われているような、そんな気持ちにいつもさせられる。

ちょっとこの人、苦手。

「ううん…そういうわけじゃないんだ。みんなが良いなら、ぜひ一緒に行きたいな」

だからわたしは、ブラックの嫌味なんて気づきませんでしたというつもりでにっこり笑った。ポッターは純粋に喜んでいるようで、ルーピンはちょっとほっとした顔をしていて、ペティグリューも「仲間が増えたね」と言ってくれた。ブラックだけが、わたしをじっと見ていた。空気を濁さないくらいの、それでもはっきりと読み取れる「それ、本心か?」とでも言いたげな表情で。

「じゃあ土曜日、10時半にまたここで!」

ポッターがそう言った時だった。

「イリス? いる?」

リリーの声が遠くから聞こえた。

彼女は彼らを避けて、先に寝室へ行っていたものだとばかり思っていたけど、どうやらそうではなかったらしい。リリーは寮の入口の穴をよじ登りながら、きょろきょろと談話室を見回していた。────そして、4人組と一緒にいるわたしを見て──── 一瞬眉をひそめる。

「リリー、ここだよ」

リリーの表情の理由はよくわかっていた。彼女はポッターとブラックを嫌っているから────その2人と一緒にいるわたしのことも、きっと良く思わなかったんだろう。

だからわたしはぱっと立ち上がり、「じゃあまたね」と言って4人の元を去った。後ろから「エバンズも良かったら────」とポッターの声が聞こえたが、「やめとけよ」とブラックの制止が入る。
また、これ。この人はまるでなんでも知ってるみたい。というかまあ、今の場合はリリーの態度を見ていながらそれでも"普通"に接せられるポッターの方がすごいと思うんだけど。

「どうかした?」
「ああ────邪魔してごめんなさいね。呪文学の課題で、あなたの意見を聞きたいところがあったから…。それより、あの人たちは良いの?」
「うん、週末のクィディッチの…」

言いかけて、呑み込む。
友達が、嫌いなやつらとクィディッチの試合を観に行くなんて言ったら、リリーはどう思うだろう。わたしも彼らと同じだって、軽蔑されちゃうかな。
でも、別にあの人たちも…スリザリンへの態度を抜きにすれば、決して軽蔑されるような人じゃないと思うんだけど…なあ。

「クィディッチの、何?」

でも、言い出してしまったものは仕方ない。リリーがわたしに続きを促すので、女子寮への螺旋階段を昇りながら、仕方なくわたしはさっきまでの会話を打ち明けることにした。

「たまたまあの4人がいるところを通りがかって、ついでだからってクィディッチのルールを教わってたんだ。面白そうだったから…つい、週末一緒に観に行く約束をしちゃって…」
「あら、良いじゃない」

リリーの反応は予想外のものだった。心から嬉しそう、というわけではないものの、目を細めて努めて優しく言おうとしてくれているのが伝わる。

「ええと…でも、リリー…は、一緒には来られないんだよね?」
「あ、わたしはパス。やっぱりポッターとブラックのことが好きになれないから、一緒には無理。でもあなたは行った方が良いわ、イリス。せっかく約束したんですもの」

その声に、嫌味や軽蔑の色はなかった。本当に、「せっかくなんだから行ってらっしゃい」という親切心が見える。

「…その、リリー?」
「なあに?」
「リリーは…その、嫌じゃない? わたしが…ブラックやポッターと一緒にいるの…」

どうしよう、これで嫌われちゃったら。"セブルスをバカにする人たち"ってひとくくりにされてたら。

リリーはきょとんとした顔をしてみせ、それからからからと軽快に笑った。
もうその時には、わたしたちはお互いにベッドに入っていた。「意見を聞きたい」と言われていた呪文学のレポートだけ、枕元に引っ張り出している。

「嫌だなんて、全く思わないわ」

そうきっぱりと言われ、今度はわたしの方がビックリした顔をしてしまった。

「わたしがポッターとブラックを嫌っているのは…覚えてる? 入学式の前に、友人をけなされたからよ。それにちょっと────あの2人、というかこれは主にポッターね。ちょっとこう…鼻持ちならない態度が個人的に気に入らないの。でもそれとあなたは別よ。あなたが誰と仲良くしていようが、何を観に行こうが、わたしはわたしの好きな人を侮辱されない限り、その人のことを嫌ったりなんてしない。…だから、逆にひとつだけお願い。あの人たちと一緒にいる間、あなたまでセブルスのことを不当に悪く言うことは────」
「しないよ、絶対」

うん、それはしない。
人の悪口なんて、何を言うか考えただけで胃が重たくなる。ただ聞いていることでさえ辛いのに。

リリーの言葉を遮るように言うと、いつになくわたしが大きい声で請け合ったからか、彼女はいつもの花が咲いたような笑顔を浮かべてくれた。

「なら、わたしは何も思わないわ。スリザリンが絡まない限り、基本的にあの人たちが"悪人"じゃないことはわたしもわかってるつもりだから。何よりわたしはね、誰にでも優しいあなたが大好きなのよ、イリス」

これでこの話はおしまい、と言うように、それからリリーは呪文学のレポートの話を始めた。少しだけその耳が赤くなっているのは、ちょっとキザったらしいことを言ったとでも思ったのかもしれない。
でもたぶん…わたしの方が、顔まで真っ赤になってると思う。誰かからこんな風に、"わたし"という存在そのものを受け入れられたことなんて、今まで一度も────パトリシアを除けば────なかったから。










その週の土曜日、10時半。
わたしは時間通り、談話室の隅の方でローブを着て待っていた。
時間に5分遅れて、男子4人が現れる。

「待たせてごめんね」

最初に謝って来たのはルーピンだった。

「ピーターのやつ、ソックスがないって大騒ぎでさ」
「だって、昨日のうちにちゃんと今日の着替えをベッドに置いておいたのに────」
「そりゃ、自分の寝相の悪さをもう少し客観的に評価するべきだったな。ベッド下を見てみたらどうだって、リーマスが答えを最初に言ってたろ。それに靴下なんて、そもそも何を履こうが同じじゃないか

それから、悪びれる様子のない残り3人が現れる。5分待ったくらいではわたしもなんとも思わないので、むしろそんな3人の喧嘩を微笑ましく思いながら一緒に談話室を出た。
わたしが寝室を出た時、リリーはまだ、眠っていた。なんとなくその寝息が大きいような気はしたけど────結局何も言わず出てきた。

談話室中が今日の試合に注目しているのはすぐにわかった。わたしたちと同じように、みんなローブを着て寮を出て行く。向かう先は、もちろんクィディッチの競技場だ。

「始まる前から熱気がすごいね」

サッカーの試合すら観に行ったことのないわたしには、"スポーツ観戦"が持つ独特の空気に早くものまれていた。

「試合が始まったらこの比じゃないよ」
「気絶しそうになったら、いつでも倒れこむ場所を空けてやるからな」

優しいルーピンの言葉をかき消すように、ブラックの皮肉がわたしを刺す。でも今日ばかりはブラックも機嫌が良いのか、それはいつもみたいな嫌味な口調じゃなくて────そう、ちょっとした軽口のように聞こえた。

なんとか5人分空いている席を見つけ出し、並んで座る。そしてわたしは、改めてルールのおさらいを頭の中でしていた。実際のピッチは雑誌の切り抜きで見るよりずっと大きくて、ゴールポストはポッターが手で示すよりずっと高いところにあった。

「あんなに大きい輪をひとりで守らなきゃいけないの?」
「そうだよ、だからキーパーはチームの中で一番肝心で────」
「ジェームズ、チェイサーはどこ行った」
「どこにも行ってないさ!」
「あ、見て! 選手たちが入ってきた!」

ペティグリューの声で、わたしたち全員の意識が競技場へと戻される。彼の言葉通り、控室と思われる地上の暗がりから、深紅のユニフォームを着たグリフィンドールチームと、青いユニフォームを着たレイブンクローのチームが現れた。

「わあ…すごい、ぞくぞくする」

なんだろう、これが闘志? 今までワイワイガヤガヤと騒いでいた観衆がみんな選手に注目していた。だからといって場が静まるわけじゃないのに、どこかピンと張りつめたような空気を感じる。気温が低いせいもあるんだろうか、わたしはぶるりと身震いし、マフラーをきつく締めなおした。

やがて両チームは中央に並んだ。おそらくキャプテンと思われる選手同士が握手を交わし、フーチ先生のホイッスルで一斉に空へと舞う。

────それは、圧巻の景色だった。

すごい。スピードが段違いだ。わたしが箒を目にする機会は、週に一度の飛行訓練だけ。魔法使いともいえないようなひよっ子の集団がコロコロと箒をもてあそぶのとは、わけが違っていた。

光のように広いピッチを縦断する選手。どこへ飛ぶかもわからないクァッフルやブラッジャーを的確にコントロールし、不安定なはずの箒の上で自在にそれを操る選手。あるいは────きっとあれがシーカーなんだろう、ぐるぐるとピッチを回りながら、妨害をかわし、かといって攻撃に転じることもなく、まるで何かを探しているかのように飛び続けている選手もいる。

「ポッターがいっぱい…」

うちの学年ではまず間違いなく一番うまいであろう乗り手の名前を出すと、隣に座っていたルーピンが上品に笑った。

「後で本人に聞こえるように言ってあげると良いよ。喜ぶから」

試合には、公式の解説者と隣のルーピンから受けるダブル実況のお陰で、なんとかわたしでもついていくことができた。今のキーパーとチェイサーの間には数コンマ秒の駆け引きがあったとか、ビーターがあっちへブラッジャーを打ったのは、相手のシーカーが何か見つけたような飛び方をしたからだとか、そんなこと、とてもひとりじゃわからなかっただろう。

結局30分くらいそんな攻防が繰り広げられたあと、グリフィンドールチームのシーカーが高々と右手を突き上げたことで勝敗が決した。

「えっと、今点差ってどうなってたっけ?」
「スニッチを取る前の段階で100-70。うちが劣勢だったけど、ハービーがスニッチを取ったお陰で逆転勝利だ」

冷静なルーピンの更に隣で、ブラックとポッターが大歓声を上げていた。
────ブラックのあんな楽しそうな顔、初めて見た。ポッターも…うん、日頃からお天気な人ではあるけど、あそこまで嬉しそうにしているのは初めてかもしれない。

勝った! グリフィンドールが勝ったぞ!

がっくりと肩を落とすレイブンクロー生を気遣いつつ、わたしも心がウキウキするのを止められずにいた。

クィディッチ、面白い! あんなにスピード感があって、攻撃的で、はちゃめちゃで、でもその裏では数知れない読み合いがあって────最高!

────しかし、そこまで思った時、はたと足が止まってしまった。

今────わたしは何を考えていた?

スピード感があって、攻撃的で、はちゃめちゃ?
それを面白いって、思ったの?

自分が考えたことが信じられず、「リヴィア?」とルーピンが立ち止まってくれたのにも、うまく言葉を返せなかった。ブラックとポッターはもう、わたしのことなんて忘れているように小躍りしながら寮へ戻って行っている。ペティグリューもジタバタと…たぶん同じような動きをしようとしてるんだろうな…暴れながら、2人について行っていた。

「あ────ルーピン、その…試合中、親切にしてくれてありがとう」
「ん? うん、もちろんだよ。楽しかった?」

楽しかった?

────楽しかったよ。

でも────それは、わたしが抱いちゃいけない感情だ。

「た、たのしかった。本当にありがとう。わたし…その、試合後にマクゴナガル先生に呼ばれてたの思い出したから、ちょっと行って来るね」

それがどれだけ無理な言い訳なのかは、わかってるつもりだった。戸惑っているルーピンを置いて、わたしは寮とは別の方向へ走って行く。

だめだ、だめだ。

わたしが教えられたのはそんなことじゃない。
わたしが"面白い"と思うべきなのは、堅実で、穏やかで、綿密なことだ。

どうしてわたしが今までスポーツ観戦に連れて行ってもらったことがないのか、この時初めて気がついた。

スポーツとは────クィディッチとは、お母さまがわたしに教えてきた"正しいこと"と真逆をいくものだったのだ。どうしてクィディッチのことを知られたら「名プレーヤーになれ」って言われるなんて思ったんだろう。こんなもの知られたら、逆に「あんな野蛮なものに関わっちゃいけません」ってすぐひきはがされるに決まってる。

4人組と時間差で寮に戻り、チームの勝利を祝う人混みに紛れながら寝室へ向かう。一瞬だけ、その輪の中にいるブラックがこちらを捉えたような気がしたけど、誰にも何も言わず、わたしはまっすぐ自分のベッドに入った。

「おかえりなさい。グリフィンドール、勝ったわね」

隣のベッドでは、リリーが糖蜜パイを食べながら笑っていた。

「初めての観戦だから疲れてるんじゃないかって思って、寮のお祭り騒ぎから離れて少しだけここで様子を見ることにしてたの。案の定だったわ、ほら、これあなたの分────」
「…リリー」
「うん?」
「…わたし、クィディッチ、好きじゃない

なんとか絞り出すようにそう言うと、リリーが驚いたようにわたしの顔をまじまじと見ていた。

これは声に出せば、本当の心を抑えこめるかと思ったから言ってみた… "真っ赤な嘘"だ。

すごく面白かった。すぐ好きになってしまった。
でも、わたしはあれと関わっちゃいけないから────"優等生"になるために、ああいった勉強の時間を削られるようなものに興じちゃいけないから────なんとか必死で、さっきの試合の素晴らしさを語ろうとする口を封じようとした。

「────そう。じゃあ談話室の騒ぎはうるさいだけね。シャワーだけ浴びて来たら? わたしも昨日夜更かししちゃったから、まだ少し寝足りないの。少しお昼寝したら、大広間へ夕食をとりに行きましょう」

リリーは、深堀りしなかった。
心と体がうまくバランスをとってくれなくて、今にも泣いてしまいそうなわたしに「シャワーを浴びたら」と提案してくれたことが、とても嬉しかった。

わたしは全部リリーの言う通りにした。シャワーを浴びて、この間リリーが魔法薬学の課題で一番を取ったご褒美にといって、スラグホーン先生からもらっていた"良い夢を見られる薬"を分けてもらう。それから自然に目覚めるまで眠り続けた。

────わたしが見た夢は、全科目の試験で1位をとり、夏休みにお母さまに褒められているという内容だった。

そう、これがわたしの"幸せ"だ。いくら辛くても、縛られてると思っていても、それが────もしかしたら"正しくないかもしれない"と思っていても、わたしがリヴィア家の娘である以上、決められている"幸せ"なのだ。



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