家に帰った日、私はいつも通り、何よりも先にお母様の前に成績表を並べた。

「まあ、今回の呪文学は180点なのね? それに変身術は"奇跡的"! しかも…ああ、魔法薬学でも110点を取ってくるなんて! 素晴らしいわ!」

最後の10点の加点が規則破りに加担した結果のものだということは黙っておこう。

「ありがとうございます」

全ての感情をひた隠しにし、淡々とお礼を言う。
ひとまず全体の成績を見せた後、夕食を取ってから、私は改めてお母様と居間のソファに座っていた。一番綺麗で豪華なソファの前に置かれたテーブルに、返されたテストをひとつひとつ置いていく。

「毎年点を上げて来るなんて、さすがリヴィア家の子だわ。マクゴナガル先生もさぞお喜びでしょう? そろそろ校長先生からもお褒めの言葉をいただいている?」
「はい」

マクゴナガル先生はよく褒めてくれる。ダンブルドア先生と話したのは実は2年生の時のクリスマスぶりなんだけど…(しかも内容は全く成績と関係ない)、マクゴナガル先生が「ダンブルドア校長も非常にお喜びです」と言ってくれていたので、嘘ではないはずだと思って頷いた。

「そして、今後のお話なのですが」
「ええ、"来年に向けて"またポッターさんの家へ行くのかしら?」

お母様はすっかりポッター家を信頼しているらしい。これについてはフリーモントさんに感謝するほかない。聞いたところ、フリーモントさんは去年の9月1日に、マグルの郵便でこんな手紙を送ってくれていたのだそうだ。

ミセス・リヴィア
ご機嫌いかがでしょうか。
夏休み中には大切な娘さんを我が家へ預けていただき、ありがとうございました。
イリスさんはホグワーツでも大変優秀な成績を収められているとのことで、我が息子、ジェームズも非常に啓発されたようでした。
友人たちと毎日有意義な日々を送りながら、本日無事ホグワーツへとお送りしましたので、ご安心ください。
イリスさんが妻の料理を褒めてくださったものですから、妻も大変喜んでおります。非魔法使いの方の生活様式にも非常に興味を持っており、イリスさんから多くのことを学ばせていただいたと嬉しそうに話しておりました。

ぜひまた機会があれば、いつでもいらしてください。
イリスさんのように素晴らしいお子様でしたら、我が家も大歓迎です。
それでは暑い日が続きますが、どうぞご自愛ください。
フリーモント・ポッター


「ポッター家の方って本当に素晴らしい方なのね! 優秀なお友達とお付き合いができて偉いわ、イリス」

ユーフェミアさんに少しだけ愚痴ってしまった言葉が、こんな形になって返ってくるとは思っていなかった。
"大人に褒められるように育てられた"私の境遇を知り、その時の私の浮かない表情を見て、「それならこれでもかというほど褒めれば、私の家における立場も安らぐかも」と考えてくれたんだろうか。
それに、予想以上にフリーモントさんの手紙は礼儀正しかった。ポッター家がお金持ちなのは彼の事業が成功したから、という話も聞いていたし、こういった人の心を掴む言葉遣いは得意なのかもしれない。

ただ、今はその話じゃない。

今は────そう、去年からずっと温めていた、私の人生で一番大きな計画を実行する時が来たのだ。

私は"もう1枚の紙"を取り出し、お母さまの前に差し出す。

「────今後というのは、卒業した後の話です」

紙に書かれているのは、マクゴナガル先生にいただいたメモだ。

1.魔法省入省について
・OWL試験、NEWT試験において高い成績を収め、かつ適性検査を実施したのち然る訓練を行う。
国際魔法協力部は主に国外魔法界との外交部門を担う部署。かくして授業における成績のみならず、高い言語水準、コミュニケーション能力、折衝力を必要とする。

2.5年次に行われる普通魔法レベル試験(OWL)において要求される水準
・現在受講中の科目全て(10科目)において"E・期待以上"以上であること。
・特に変身術、呪文学、魔法薬学、闇の魔術に対する防衛術の成績については"O"であることを推奨。

NEWT試験の要求水準につきましては6年次、OWL試験の結果が出た上で改めて相談にいらっしゃい。
いずれにせよ、あなたの今の成績であれば十分射程圏内といえるでしょう。
M.マクゴナガル教授


「…これは一体どういうことなの?」

目の前に書いてあるものが単純に理解できなかったのか、お母様はきょとんとした顔で私を見た。持っていたワインをテーブルに置き、マクゴナガル先生からのメモに目を通す。

「────お母様」

さあ、言う時が来た。

「私は卒業後、魔法界に残ろうと思っています

この1年以上ずっと温めていた言葉を口にすると、お母様はハッと目を見開き、唇を震わせながら私を見た。

「イリス…? 魔法界に残るって、どういうこと…?」
「お知り合いの方々にはどうぞ、外国へ行ったとお伝えください。私は将来、魔法界に残り、あちらの政府機関に勤めるつもりです」

去年、マクゴナガル先生に個別の進路相談をお願いしていたのも、全てはこの日のための準備。私は先程言った通り、そして先生にわざわざ手紙という"物証"まで残してもらった通り────今ここで、お母様に"卒業後の魔法省入省"という道を認めてもらうつもりでいた。
お母様に怒る気配はない。ただひたすら、戸惑っている様子だ。

「お母様、少し長くなってしまいますが、私の話を聞いてください。私がリヴィア家のためにとった選択を」

お母様は何も言わなかった。…何も言えないようだった。
そりゃあそうだろう、この人は魔法など知らずに生きてきた人間だ。約3年前、娘が突然「魔女だ」と告げられ、「特別な才能を持っている者のための特別な訓練を受けられる」と聞いて喜んだところまでなら、まだ良かった。まだ、受け入れることもできた。
ただ、あの時からずっとお母様はこう思っているはず。────卒業後はこっち側に戻り、その特別な才能をうまく利用して、非魔法界で…それこそ魔法でも使ったのでは、と皆から驚かれるような速度で出世し、この世にリヴィア家の名を残すことが私の"新たな幸せ"になったのだと。

だって、それがお母様の知っている世界で何とか紐解ける最大の"善"だから。
だって、そういうやり方でないと、お母様にはそもそもの理解ができないから。
自分の娘がどれだけ素晴らしいのかということを、世界に知らしめられないから。

「私は、卒業後は魔法省への入省および、その中の国際魔法協力部への配属を志望しています。これは手紙にもある通り、主に国外における魔法界との外交を担う部署です。現在も世界中に魔法使いが隠れ住んでおりますが、そもそも魔法使いが非魔法使い達から身を隠しているという状況故に、魔法使い同士ではなかなか交流を深められずにおります」

お母様は、私の人生の何もかもを思い通りに決めてきた。
一番優秀な学校に通わせ、一番優秀な成績を収めさせ、一番名の知れた企業に入り、そんな優秀な私に相応しい男性と結婚し、子を産み…家庭に入れと。

それが私の"幸せ"なのだと、何度も何度も言い聞かせられてきた。

ひとまずエリートコースに乗せおいて、時が来たら家庭に入る。
それがお母様の描く私の人生。私のモデルコースだった。

「私はそんな国際交流に手を貸し、各国の魔法界の架け橋となりたいのです。当然、この部署は百か国以上の言語を操る魔法使い、人心掌握に長けた魔法使い────素養面として非常に優れた魔法使いが多数在籍しております。そういった方とのコネクションを築きながら、私は────いずれ、部長職にまでは昇り詰めたいと考えております」

そんな私が、得体の知れない世界に留まって得体の知れない部署で働こうとするなんて、到底受け入れられないことだろう。

でも、私は言葉を止めない。

「ここまでキャリアを積めば、いずれ魔法省大臣────あるいは非魔法族の官僚の方々と接する機会も増えます。非魔法族の方には一般的には伏せられていますが、魔法省務めの方の中には、こちらの世界の政府で働いている方もいらっしゃいますから。例えば…先日テレビで演説をされていた防衛大臣のダン・ドネリー氏は、魔法省の魔法事故惨事部の次官でいらっしゃいます」

知っている名前が出たからか、マクゴナガル先生からの手紙に釘付けになっていたお母様の視線が、再びこちらを向いた。

「ドネリー大臣が…魔法使い…?」
「はい。────このように、魔法使いと非魔法使いは隠密に連携を取り、両者の世界の均衡を保っています。お母様…お母様は私にずっと仰ってくださいましたね。優秀で居続け、優秀なフィールドに出た後は優秀な男性と結婚し、更に優秀な血を継ぐことこそが、私の幸せなのだと」
「ええ、ええ、そうよ。だからそんな、無理に魔法界にいなくても────」
「いえ、これが一番早いのです。ホグワーツはイギリス最高峰の魔法学校。ここから魔法省に務める生徒も多くいました。政府機関であれば優秀な魔法使いが多くいることもお察しいただけるでしょう。それに、何も結婚の相手は魔法使いでなくとも構いません。非魔法族の方との接点が持てれば、非魔法族の優秀な政府務めの方と結婚することも可能となります」

今、お母様の中には天秤がかけられているはず。
このままホグワーツを卒業して、非魔法界に戻り、普通の大学を卒業して、普通の企業に就職して、そこそこ優秀な男性と結婚する道。
これは想像しやすいだけに実現可能なもの、そしてお母様自身もその"私の幸せ"を見届けやすくなる。

ただ、もうひとつはリスクが高いだけに、成功すれば得るものが大きい。
ホグワーツを卒業した後、いきなり英国の魔法界政府最高機関に務め、諸外国やマグルとの接点を持ち、より広い世界の中から最も優秀な相手を選ぶ道。
こちらは相当想像しにくいだろう。実現可能かどうかもわからないし、お母様が魔法使いでない以上、それが本当に"私の(ということはつまりお母様の)幸せ"であるか、実感を持てない可能性もある。

「でも…あなたに、そんなことができるの? ホグワーツが正当にあなたを評価してくれるところなのはよくわかっているわ。でも、魔法界なんてそんな、本来なら存在すら知られていないような────」

私はマクゴナガル先生のメモをとんとんと叩いた。

『あなたの今の成績であれば十分射程圏内といえるでしょう。』

「お母様の教育のお陰で、私の魔法省入省は可能であるとマクゴナガル先生より評価いただいております。また、卒業生に魔法省へ務めた上級生にも知り合いがおります。魔法省との強いコネクションを持っている先生にも非常に良くしていただいているため、就職に対する援助は十分に受けられるかと」

卒業後に魔法省へ務めた上級生とは、ミラのことだ。入学した時から監督生として何かと良くしてくれていたミラは、今年の7月に卒業し、今は魔法法執行部に入るための訓練を受けているはず。
魔法省へのコネクションを持っているのは、言わずもがなスラグホーン先生だ。マルフォイもいなくなった今、スラグ・クラブに通えば一発で就職先を斡旋してくれることだろう。

「でも、私…そうよ、まず私が魔法界のことを何も知らないのよ? あなたが何をしているのかわからないなんて、心配だわ…」

昔はそれを聞く度に胃を痛めていたっけ。
ああ、お母様を心配させてしまっていると。お母様に良くない気持ちを抱かせてしまっていると。

でも、今は違う。
そんな薄っぺらい心配の情をかけられても、冷めた気持ちが余計に冷えるだけだ。

お母様が心配しているのは、私のキャリアが"自慢できるもの"であるかどうかだけ。
お母様が描いたモデルコースに、私がちゃんと沿って歩いているかどうかだけ。

「お母様、魔法の存在は紀元前1000年前より確認されております。その時から時間をかけて、今のイギリスにおける魔法界の政治体制が完成しました。3年前、お母様もご覧になったでしょう、私達魔法使いがいかに日頃巧妙に身を隠し、独自の文化を発展させてきたかを」
「え、ええ…」

お母様は気圧されている様子だ。
よし、それで良い。

「魔法界は今や、"存在を認知されていない"という点を除けば、こちらの世界となんら変わりのない社会構造を構築しています。むしろ…そうですね、例えば、"未成年の校外における魔法使用が禁止されている"ということは1年次が終わった時にお話ししたかと思いますが…つまり、魔法界は現在、自らの世界のみならず、非魔法族側の世界にも遍く目を行き届かせているのですよ」

────まあ、それはちょっと語弊があるんだけど。「未成年には独自の"におい"がついているので出所がすぐわかるだけです。さすがに全世界は監視できません」なんていう蛇足の説明まで加えてしまうのは無粋というものだ。

「ですからお母様、このリヴィア家でお父様とお母様から魔法という特別な力を与えていただいた以上、私はそれを最大限に利用したいのです。お許しをいただいた暁には、できる限り高い地位に昇り詰め、そこで我が家に相応しい方と添い遂げます。全ては、よりリヴィア家の格式を高めるために。よりリヴィア家の血を、高尚なものにするために」

お母様の指がぴくりと動いた。
特別な力で自分の家の地位を上げるという結論は、お母様の興味を十分に引いたらしい。

…なんだかスリザリンの一部の人に似てるな、と思って少し悲しくなった。

「そう…そういうこと…それなら、認める余地もあるわね…」
「はい。一度お父様にもご相談いただけますでしょうか。そして、」

そこで私はようやく────本題に入った

「────もしそのキャリアプランを認めていただけるのであれば、私はロンドンのアパートで一人暮らしをし、より魔法界との接続地点の多い部分で見識を広めるべきと考えております」
「えっ、一人暮らし?」

また、お母様の戸惑う声。こんなに私が喋ることなんてなかったから、さぞや驚いたことだろう。

でも、同時にこうとも思わなかっただろうか。

今まで「はい」としか言わなかった従順な子が、ここまで家のことを考えてくれていたなんて知らなかったわ────と。

「もちろん収入が安定した後には、そこまで援助していただいた金銭は全てお返しします。仕送りもさせてください。ここまで育てていただいたご恩を私が忘れることは、決してありませんから。ただ、就職するまでの間、私の────いえ、私達リヴィア家の最も優れたキャリアプランを実現させるために、お父様とお母様のお力を貸していただきたいのです」

ソファの上でぐっと拳を握り、お母様の揺れる瞳をまっすぐに見つめる。
そうだ、私が言いたかったのはこのことなのだ。これを言うためだけに、1年かけて下準備をしてきた。今まで収めてきた成績をフルに活用し、マクゴナガル先生の時間をもらってきたのだ。

私の第一の目的は、家を出ることだった。

もちろん、魔法省への入省に興味がないわけではない。
結婚やら何やらは残念ながら全くの出任せだけど、就職自体はできることなら実現させよう、くらいに思っている(だって今はまだやりたいことがないし、そう考えたら政府機関に勤めるというのは何かと都合が良さそうだ。結婚? そんなの、好きでもない人となんて絶対したくないよ。その時の言い訳はその時で考えよう)。

ただその前に、私はその漠然とした目標こそを"存分に利用"して、この家を離れたかった。
この家を離れて、まずは家の呪縛から────この身だけでも、解き放ちたかった。

何度も繰り返された"リヴィア家のため"という言葉に、突然の話であってもお母様が存分に魅力を感じ、揺さぶられていることがわかる。
お父様は基本的にお母様の教育方針に賛同している(というか、ほとんど投げているといった方が正しい)。お母様さえ首を縦に振ってくれれば、お父様との相談など答えの見え切った形式的なものになることだろう。

だから、今この時間こそが────私にとっての、勝負だった。

「イリス、どうか顔を上げて」

お母様は優しく言った。言われた通り、私は顔を上げる。

「あなたがそこまで家のことを考えていてくれたなんて、私、知らなかったわ。立派な大人になっているのね、イリス。あなたのキャリアコースはとても素晴らしいと思うの────ただ、その場が魔法界であることを除けば。だから、お父様とも相談しますし────マクゴナガル先生とも、少しお話をさせていただけないかしら
「えっ…」

────これは、私にとっても想定外なことだった。
お母様が、マクゴナガル先生と話したがっている?

…どうやら、魔法界への猜疑心は相当大きいらしい。私の言っていることが本当に実現可能なのか、理にかなっているのか、そしてお母様の目から見ても"リヴィア家の品格を高めるのに相応しいか"、自分で判断したいのだろう。

あーでも…私、個人面談をお願いした時、魔法省入省の希望はそこまで強く伝えてないんだよなあ…。あくまで例の一つとして教えてもらったというか、なんというか。
「私の家庭環境を鑑みて柔軟に対応してください」って言っても…うーん…マクゴナガル先生が応じてくれるかどうか…。

とはいえ、ここで引き下がるわけにはいかない。私はぐっと笑顔を捻り出し、頷いてみせる。

「…わかりました。おそらく7月末に、ふくろうがホグワーツから来年度の教科書リストを持ってくるはずです。その時、マクゴナガル先生にいらしていただけないか尋ねるための手紙を持たせてみます」
「ええ、よろしくお願いね」

なんとか張りつめた時間を乗り越え、居間を出ると、ちょうど私とお母様の話が終わるのを待っていた妹と会くわした。
この子と会うのも1年ぶりだ。まだこの子は4歳だけど、それでもリヴィア家の教えを叩きこまれたお陰で、5歳くらいはプラスされたような立ち振る舞いをしている。

「おひさしぶりです、おねえさま。お元気そうでうれしいです」
「久しぶり。また背が伸びたね」
「はい、おかげさまで」

おかげさまで、なんてどこの世界の4歳がそんな言葉を使うのだろう。

「…あなたが"どっちの道"を選ぶのか、楽しみにしてるからね」
「え、っと…?」

リヴィア家に従うのか、私のように逆らうのか。
どちらでも良いから、自分の意志で物事を決められるようになってくれたら嬉しい。

妹との短い会話を済ませると、私は自室に戻り、早速マクゴナガル先生にどう手紙を書こうか考え始めた。

お母様が私の進路に興味を持っているから来てほしい、と言えばそれだけで良いんだけど…。あの忙しい人に、たった1人の生徒のためにこんなところで時間を割かせてしまうのは申し訳ないんだよなあ…。

ああ、やっぱりラスボスは強かった。

迷った末、私は羊皮紙にペンを走らせた。

マクゴナガル教授
休暇をいかがお過ごしでしょうか。
大変お忙しくされていらっしゃる中、このようなお手紙を突然差し上げてしまい申し訳ありません。

先日は進路相談に乗っていただき、ありがとうございました。
国際魔法協力部はあくまで例として挙げた部署になりますが、魔法省という政府機関で、魔法界における政治・経済・外交…そういった"世界のこと"を学びながら社会に貢献したいという私の願いは、あの時から変わっておりません。

早速そのお話を私の母にいたしましたところ、多少理解に苦しむといた反応が返ってまいりました。母はマグル生まれのため、魔法界に対する理解や耐性がまだできておりません。

その結果、もし私が本気で魔法界での就職を志すのであれば、私が最も信頼しているマクゴナガル教授と直接話す機会を設けてほしい、という依頼を受けました。

このようなお願いをしてしまうことが大変な失礼にあたることは、十分に存じております。
しかし私も自分の将来のことを本気で考えたいと思っておりますため、もしお時間をいただけるようであれば、一度母と面談をしていただけませんでしょうか。
日時はいつでも構いません。母はいつでも家におります。

もちろん、校務などでお忙しくご都合がよろしくない場合は、私から再度母の説得を試みますので、その旨のご連絡をいただければ幸いです。
1人の生徒の我儘のせいで煩わせてしまい、誠に申し訳ありません。
何卒ご返事のほど、よろしくお願いいたします。
イリス・リヴィア


手紙を書き終えて一息ついた時、窓の外をコツコツと叩く小さな音がした。
ぱっとそちらを見ると、そこにいたのは…去年もこの時期にうちを訪ねてきてくれた、友人のふくろうだった。急いで窓を開け、中に呼び入れる。

「ジェームズの家の子だね。手紙を受け取りにきてくれたの?」
「ホー」

優しく鳴いて、撫でられようと私の右手の下にもぐるジェームズのふくろう。手紙や荷物は何も持っていないが、それが逆に「いつ来るんだい」という無言の圧を際立たせていた。

「まったく、せっかちだなあ」

私はもう1枚の羊皮紙に『ごめん、8月までは無理。リーマスが帰るまでには頑張る』と走り書くと、こちらはすぐふくろうに持たせた。

「今日はネズミがなくてごめんね。ジェームズによろしく」

ふくろうはジェームズと同じハシバミ色の目をぱちくりとこちらに向け、そして真っ白な雪のような羽を広げて夜空へ飛んで行った。
もう一枚の手紙は、まだ手元に。

ああ────どうか次にあのふくろうがうちを訪ねて来る時には、全てがうまくいっていますように。



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