WHICH IS DEVIL?



※読了感はかなり不快
※病んでるのは黄瀬かと思いきや、



「あああああの、黄瀬くん!」
「はいはい、なんでしょう?」
「えと、すっ………す、好きです!!!」

また見ちゃった。今週で3回目。台詞はどの子も通り一遍当に「好きです」のドストレート。当の黄瀬くんが浮かべる笑顔も全く変わらない困り顔。

ああ、ユカイだ。―――とでも言えば良いのだろうか。

いやいや、実際は吐きそうでたまらないんだよ。そもそも涼太の奴が女子校に通う私を毎日迎えに来たりするのが悪いんだ。お陰で私が校門に着くより早く、外見ばかりを飾るのにお忙しいギャルどもが群がってってしゃーない。

「すいません、俺、彼女いるんで」

吐き気と闘っている間に、涼太のいつもの返事が聞こえてきた。全然すいません、なんて思ってなさそう。

状況の所為で割り込めず、校門から少し距離を取った所でそっと様子を窺ってみた。呆気なく玉砕した名も知らぬ彼女は涙を目いっぱいに浮かべている。あれ、早くどっか行かないの? 目の前で泣けば慰めてくれると思ってんの? そうしたらその期待は淡すぎる。淡すぎて反吐が出そうだ。

涼太はやっぱり彼女を慰めたりなんてしなかった。それどころか離れた所からそんな茶番を眺めていた私に気がつくと、大股で闊歩してきて校門を通過、目の前で静止。不法侵入なんて、気にしない。

「………見てたんスか?」

その笑顔は、告白劇の時とは少し違う笑顔。でもこれだって笑顔。
とっても威圧感があって、合わせた視線から刺されそうな程鋭い―――笑顔。

「……見てたよ」
「やだなぁ、言ったじゃないスか。他の女に告白されるのを彼女に見られんの、俺嫌いだからって」

私達が大切な会話をしているのにも関わらず、あっという間にギャルどもがわらわらと集まってきた。「あれモデルの黄瀬涼太じゃない?」「あっちにいるのって誰? 彼女?」「いやいやだって可愛くないし」―――そんな耳障りな声に囲まれる。
でも涼太は私の周りなんて見ていなかった。私以外の声なんて聞いていなかった。私の頬にするりと手を這わせ、虚ろな瞳で愛おしそうに撫でる。

ぞくぞくと背筋が鳥肌立つのを感じながら彼のなすがままにさせると、そのまま流れるような動作で手を滑らせながら私の手に触れ、迷う事なく指を絡ませる。そうして彼は何も言わずに私を引っ張り、黙ったまま校門を出て行った。

雑音も障害物も、もう私達の世界からはとっくに消えていた。





静かな通学路、いい加減だんまりは解除しても良いかなと、私はもっともらしい問いで沈黙を濁した。

「……見られたくないなら、学校に来るのやめたら?」
「それは嫌ッス。だってなまえっちといられない時間なんて意味がないじゃないッスか。俺の人生無駄にするつもり?」
「まさか」

そう、彼は1分1秒でも長く私を傍に起きたがる極端な"私依存症"だ。一緒に登校し、一緒に下校し、それからまた登校するまでほんの5分も離れていられない、重度の末期患者。

――――だから、あえて学校は女子校を選んだ。絶対に涼太が踏み込めない場所を。

「ほんと、なんでなまえっちは女子校なんかを選んじゃったんスかねぇ。お陰で俺は学校を何度やめようと思った事か」
「一般常識のない人は嫌いだからだめ。それに選んだんじゃなくて、入試でそこしか受からなかったんだよ」

もちろんそんなの、真っ赤な嘘。
高校受験の時は、いくつかの学校を受けると涼太に嘘をついて、今通っている女子校にだけ願書を出した。もちろんそんな事を言えば刺されかねないので黙っているが。

「そうだ。じゃあ次の休日はいっそベッドから出るのやめねッスか? 学校行ってて会えない無駄な時間を、感覚だけでも取り戻すんス」

ほら、だってまたグレードが上がったよ。先週は確か「1日中なまえっちを抱きしめながら生活したい」程度の事しか言っていなかったのに、それが今度はベッドからも出ないと。

「…いいね。楽しそう」

―――――私が女子校を選んだのは、涼太から離れる為。
でもそれは涼太から逃れる為じゃない。涼太が嫌いな訳でもない。
むしろ逆…もっと束縛してほしいから、もっと愛してほしいから、私はこうして距離を置くのであって。

「………涼太は、私といられない時間は必要ないんだよね」
「何当たり前な事言ってんスか」

そう、だからだよ。
私と会えない時間が増えれば、会える時間でもっと私を縛ろうとするでしょ?
私を自由にできない時間があると解れば、自由にできる時間でもっとしがみついてくるでしょ?

だいたい、涼太をここまで病的にしたのだって殆ど私の所為だ。元々病みがちな傾向にあったのを利用して、こんな過激な愛し方をしてもらえるようにリードしてきた。

ごめんね、私は普通に愛されるのじゃ……満足できないの。

「私に会わなければ涼太はこんなに駄目人間にはならなかったのにねー」
「なまえっちに会えないくらいなら、まともな人間性くらいいくらでも捨ててやるッスよ」

またもや背筋がぞくぞくする。最高の答えを貰えて、全身が悦びを訴えていた。
来る休日、きっと私は本当にベッドから出してもらえないだろう。朝日が昇るのも南中するのも夕日が沈むのも真夜中が来るのも全く解らずに、ただ彼の腕に包まれているんだろう。

―――――なんて、幸せ。

悪魔の手に捕まった哀れな生贄は一体どっちかな、なんて考えながら、私の唇には歪んだ微笑みが浮かんできた。

もちろんそれは、―――。



WHICH IS DEVIL
(ハッピーエンドなんてありえない。)









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