効果抜群なのです。



『ばか! どうせあんたなんて、私がいなくなったって平気なんでしょ!!』
『何言ってんだよ、平気じゃないに決まってんだろ!!』
『じゃあ私がいなくなったら探してくれるわけ!?』
『―――いや、探さない』
『ほら見なさい、私の事なんてどうでも――』
『だって、お前は帰ってきてくれるだろ? 必ず、俺の元に。俺は信じてるよ、お前の事……愛してるから。お前には俺しかいないって、思ってる。俺がお前しかいないと思っているように』

「………………」

あ、彼女泣いちゃった。

チャンネルをばちばち変えていた先のドラマだったけど、思いがけず正統派で感動的なラブストーリーだった。全く知らない俳優、女優だった割には、なかなか演技もうまい。

それにしても、探してくれるかと聞いた彼女に帰るのを信じて待つとは…うまい返しだ。よっぽど本気で男を恨んでない限り、女、帰ってきちゃうぞ。

その時私の脳裏に浮かんでいたのは、他の事は完璧なくせに、恋愛だけは妙にへたくそ過ぎる彼の顔だった。

彼なら、なんて答えるだろう。探してくれるかな。それとも待っていてくれるかな(探すのが面倒とかいう理由で)。それとも合理的にいって警察に届けるかな。それとも…切られるかな。





「赤司はさ」

という訳で翌日早速、赤司の部屋に直撃訪問を仕掛けた。別段驚いた様子もなく招き入れられ、別段何をするでもなくお互いくつろぐ私達。

そろそろ頃合いかなと思って名前を呼んでから話を切り出すと、雑誌を読んでいる赤司は顔を上げずに、耳だけをこちらに傾けた。

さて、君の恋愛における切り返しの上手度を計らせていただきますよーっと。

「いきなり私がいなくなったら探してくれる? それとも―――」

しかし、もう1つの選択肢は口にできなかった。

それとも、帰ってくるのを信じて待っていてくれる?

そう続けるつもりだった私の眼前に、一瞬にして赤司の姿が迫る。綺麗な瞳を僅かに隠す睫の1本1本が、限界まで私ににじりよる。

「………どういうつもりだ?」

低く、こんなに近くても聞き取れない程の声。掠れるように出された赤司の言葉に、絶対的な威圧感に、体が小さく震えた。

「い、いや…つもりとか…ないで…す」

思わず敬語になる私。そんな私の肩を痛いくらいに掴み、赤司は眉根をぎゅっと寄せた。

「君は、僕の、前から、いなく、なる、のか?」

全ての単語を強調しつつ、赤司は再び詰問してくる。

「ならないよ、でも―――」

ドラマでそんなシーンを見たから、赤司の答えを聞いてみたくて。

赤司はそんな言い訳さえさせてくれない。体重に押し任せて、私の体を冷たい床に倒した。

重力で事足りる筈なのに、まだ赤司は圧をかけてくる。爪なんてもう肩に食い込んでしまっていて、凄く痛い。

でも声は上げられなかった。赤司の刺すような視線がまっすぐ私の目を射抜いていて、呼吸以外の全ての生命活動が強制的に止められてしまったよう。

「ね、ねぇ、赤司…」
「君が僕の前から消えるというのなら」

鼻先が触れそうな距離。怖いのに、目を閉じる事すらできない。身を捩る事なんて、もっとできない。

私の上に馬乗りになったまま、赤司は低く攻撃的な言葉を続けた。

「今すぐ君の両手足に釘を打ち込み、ここから動けないようにしてやる。君の吐く息を全て飲み込み、流す涙を全て舐め取り、溢れる血を全て自らの地肉に変えてやる。この美しい生を犠牲にしても、君の全てを僕の手に入れてやる。その恐怖の表情すら、僕のものなんだから―――」

喉の奥が、小さな悲鳴を上げた。

鋭すぎる愛情に、私が返す言葉はない。

感じるのは恐怖? いや、何か違う―――

堂々と自由を奪うと言われたのに、私の胸中は不思議な気持ちに満ち満ちていた。

だからその時、私がどんな顔をしていたのかは解らない。ただ、赤司の顔はとても辛そうだった。刺された痛みを必死で堪えるように、唇をぎゅっと引き結んで。

私の方が、激しい言葉に刺された筈なのに。

赤司はひとつ溜息をつき、ゆっくり身を起こした。すっと、風が私達の間を抜ける。まるで体が浮くような感覚に、今までどれだけの力で硬いフローリングに私が押し付けられていたか、今更ながら後頭部や肩甲骨に痛みが走った。

「……すまない」

消え入りそうな謝罪。それが赤司の口から出た瞬間、呼応するように私の心からも感情が溢れ出した。

ああ、そうだ、これは、

恐怖なんかじゃなくて――――

立ち眩む感覚を抑え込みながら、私は急いで立ち上がった。今さっきまで抑圧されていた腕を広げ、寂しそうな赤司の体を温める。

「!」

突然私に抱きしめられた赤司は、そのぬくもりにどうして良いか解らなかったようだ。私の腰に軽く指先を置いたまま、動かない。

――――さっき、私は赤司の言葉に刺されたと感じた。

なのに、刺されたような顔をしていたのは赤司だ。

これがどういう意味を持つかなんて、考えればすぐに解るじゃないか。

赤司だって、私に刺されていたのだ。

「…………探す必要なんて、ないんだね」

いなくなったら、なんて仮定の話をしただけで、

「私が赤司の元から離れる訳、ないんだから……」

お互いの人格を壊してしまうと簡単に言い切れる程……

もちろん、釘を打ち込まれるなんて嫌だった。赤司ならやりかねないし。
でも、今私が感じていたのは、恐怖や抵抗感なんてものを簡単に凌駕してしまう、愛しさ――――

赤司の全身から力が抜けた。私の背中に彼の腕が回る。

「……解ってるなら、良い」

例えその腕が私の首を絞めようと、きっと私は赤司から逃げない。

映画のようにスマートじゃないけれど、目の前にいる彼の切り返しは、私には大いに



効果抜群なのです。
(何故いきなりそんな事を言い出したんだ)
(ドラマに同じシーンがあったの)
(…悪い影響を与える番組だな。潰しておくか)
(え、ちょ、)
(ちょっとそこの携帯を取ってくれ)
(どこに電話する気!?)









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